辿り着いたそのさきへ3
どこか硝子めいた冷静な黒い瞳に居心地の悪さを感じおのれのそれを逸らしながら、レンはこの部屋に二人きり、他に説明できる者がいないことを軽く恨んだ。まともな説明などできようはずもない。
なんの力もなさそうな普通の女性であるはずの目の前の存在が、御しやすい相手ではないことはすでに感じとれた。
それでも軽い調子は崩さず続けたのは、そういう性格を装っていたのではなく、ただそういう性質だということだろう。
「俺はレン。忘れちゃった?あ、やっぱり頭打ったときかなー、記憶喪失かなー、うん。大丈夫、しばらくしたら思い出すよ、きっと」
サナエの瞳が少し翳った。
「あなたは誰?」
声の調子を変えずにサナエは問う。
「えーっと、だからレンだって。ここ俺の部屋。あ、でも安心して、変な意味でここに運んだんじゃないからね」
じっと見つめてくる視線に無意味に手を振りながら主張するレン。それでもサナエの瞳ははずされない。
「あなたは誰?」
「レン、レンです。なにこれ、いじめ?怒らないでよ。そこの階段からサナエが落ちたから運んだだけだからね?」
ここ半地下だからさー、外階段がちょっと暗いんだよねーと続けるレンをさえぎったのはやはり一本調子なサナエの声だった。
「…あなたは、誰?」
やっと思い当たったのは、ひとつの可能性。けれどそれを口にすることはためらわれた。
そんなはずはないのだ。これまでに例外なく、《観察者》との意思の疎通は可能だった。
けれど、サナエの瞳は読めない色を抱えたままこちらを見つめている。
彼ははじめてその表情に不安を浮かべてサナエの瞳を見つめ返した。
「えっと、もしかして言葉、通じてない?」
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