ファーストアース
プロローグ
ここは、未来の地球。西暦2291年に恒星系間飛行が確立されてからというもの、千年以上にわたり入植活動が続けられていた。
そのうちのひとつ、地球からそう遠くないところにある恒星系、人類が最初に入植した惑星でもある、セカンドアースがあった。
今は西暦3991年。
謎の事故によって、ファーストアースという惑星が滅んでから5世紀がたったときだった…
第1章 旅はいつも突然に
築15年のマンション。
そこに暮らしている夫婦がいた。彼らの名前は、ソミエル・ジョンソンとフランド・ジョンソン。つい一ヶ月前に結婚したばかりの新婚だった。
いつものように、ソミエルが仕事を終えて家に帰ってくると、彼の妻であるフランドがそわそわして待っていた。
「ただいま。どうしたんだ、そんなにそわそわして」
「お帰りなさい、あなた。ねえ、1週間ぐらい休暇って取れる?」
「まあ、そのぐらいなら大丈夫だな」
「実はね。買い物に行ってたら、ガラポンをしていて、それで、一等があたったのよ」
「すごいじゃないか!で、その内容は?」
「恒星間旅行1週間の旅だって。出発は、来週の月曜日」
「今日は金曜日だから、あまり時間が無いな」
「有給申請はすぐにできるんでしょ。ネットからでも」
「ああ、そうだな。じゃあ、着替えとかも用意しておかないと…」
ソミエルは、パソコンの電源をつけて、新しい人工知能\\\"インフィニティ"に言った。
「すまないが、会社に連絡して、来週1週間の私用による有給申請をしてくれ」
「わかりました」
そう言って、インフィニティは、黙った。
3日後。
すべての準備を済ました彼らは、集合場所にいた。
ほかにも、何人かが同じ旅行に当たったらしく、同じ場所に集合していた。
旅行社の旗を右手に持って、先導している男性が言った。
「私は、ジャイル・アントインといいます。
どうか、ジャイルとお呼びください。
さて、恒星間旅行公社主催の恒星間旅行に、参加していただいてまことにありがとうございます。これより、乗船していただきます。
なお、これが、乗船チケットになっております。
往復で1枚となっておりますので、どうか失くさないようにお願いします。
もし、失くされた場合は、速やかに私へ連絡をください」
そういいながら、ジャイルは銀色に輝く3cm×5cmのカードを渡した。
「それを、乗船時に提示してください。
それでは、出発させてもらいます」
指示されたゲートをくぐり、その船のところまで来ると、数千人は入ろうかという超大型船の中に一隻だけ、とても小さな船があった。
「あの、この船に乗るんですか?」
「ええ、そうです。
この船は、サイン航宙社が所有していた船で、あの、伝説の幕僚長殿が乗船なされた船の復元となっております」
「歴史は過去の中にあり、未来の中に無し」
船の出入り口にそう書かれていた。
「この標語は?」
「その幕僚長殿がおっしゃったお言葉だと伝わっております。
ただ、その方自体は、ファーストアースの謎の事故に巻き込まれ、いまだに行方不明となっております」
そのうちに、ゴングのような音が繰り返しなった。
「さて、それでは出発いたしますので、カードに記載されている座席に、お座りください」
そういわれて、次々と座席に座っていった。
これから起こる、怪異について、誰一人として知る由は無かった…
第2章 驚きは周りの世界
船が惑星表面上から出て、急速に重力圏から開放されていた。
「これより、恒星間飛行に移ります。皆様、座席から離れることの無いようにお願いします」
船長が、そう挨拶した。
この方式は、反重力を生み出すための特別な粒子を、一点に向かって入れ続ける。すると、その量に比例してワームホールが発生する。そのワームホールを壊さないようにして、一気に通り抜けるという方法だった。
だが、その量を間違えると、どこへ行くかはわからない状態に陥ることはわかっていた。
しかし、ほかの方法が見つからなかったために、この方式をとり続けているのだった。
一瞬、背中が座席に深く押し込まれたと同時に、船の中が真っ暗になった。
ここまでは、どの船でも起こることだった。
だが、すぐに船の中に虹が見え、ワームホールから緊急離脱させられた。
そこには、出発したときと同じような星が浮かんでいた。だが、どこかおかしかった。
「ねえ、この星って、どこの星?」
「さあ、見たことが無いな…
船の外の星座も見たことが無い」
そのとき、AIが、この星を教えてくれた。
「この星は、ファーストアース、つまり、人類の母なる惑星です」
その声は、何も考えていないような雰囲気だった。
惑星上空に到着すると、何かが浮かんでいた。
「あの建物は?」
「人工衛星です。
人類史上最大の建造物として言われていた、プラットホームと呼ばれていた建物だそうです。建設終了は、西暦2541年。あの事故とともに崩壊したといわれていましたが…」
「壊れてはいなかったということだね。
ここの宙域は、これまで封印されていたんだろ?どうして、私たちがここにこれたの?」
客から次々と質問をされていた。
「それに関しては、私もわかりかねます。
分かっていますのは、ここが、私たちの最も古代のふるさとだということです。
私たちが再び発見したものは、すべての歴史学者たちに価値があるものです。
そこで、あのプラットホームに着陸したいと考えています。皆様、よろしいでしょうか?」
「それはかまわないけど…
変な病気とかは無いでしょうね」
「AI同士を接続して観測したところ、別にそのようなものは無いと判断します。
では、着陸します」
そういうと、船は自然にプラットホームへと近づいた。
第3章 封印された星
プラットホームに着陸はどうにかできた。
だが、内部構造が一切伝わっていなかったため、どのようになっているかがわからなかった。
当時の伝承に頼ると、その謎の事故がおきてから、この宙域一帯は、各惑星政府が作る統合機関によって、航行不許可地域に指定されて以来、ここにくるのは、統合機関によって追放令を受けた人ぐらいだった。しかし、いまではそのような犯罪を起こす人がいなかったため、ここ百年間は、公式ではだれも来ていないはずだった。
「現在、プラットホームとコンタクトを実施中……接続終了。すべての機能回復。
このプラットホームは、宇宙最初の人工知能である"インフィニティ"により、西暦3498年、現在の統合機関の前身である"宇宙政府"によって、封印されることを決定。同日、インフィニティの電源が落とされ、現在まで意識不明状態」
「私たちが起こすまでは、この人はずっとここで浮かんでいたって言うこと?」
フランドが、船のAIに聞いた。
「その通りです。
西暦3498年までは、ここは、何事も無く動いていたそうです。
最後の記録によれば、ファーストアースの人口は、約50億人。しかし、その直後に人口は520万人にまで激減。
理由は、謎の飛翔物体がファーストアースに接近。それにより、歳差運動が乱され、惑星規模の大災害が発生。当時の宇宙政府は、事態を重く受け止め、二度とこのような事態が起きないためにも、この宙域を封印したということです。
ただ、その飛翔物体が何だったかは、いまだに不明です」
「…惑星表面上の変化は?」
ソミエルが聞いた。
「陸地の4割が水没。しかし、海だった地域の3割が隆起し陸地になりました」
「陸地のほうが多くなったのだな」
「計算上は、陸地が1,9770,3600km^2、海水面が3,1236,8400km^2となるので、変動前と比較すると、陸が増加している計算になります」
「そうか」
その直後、誰かが連絡を取ろうとしたが、不通になっていた。
そして、1時間ほど経ったとき、誰かが、プラットホームの中に入ろうと言い出した。
「誰が入るんだ?」
すでに乗客は、思い思いの席に座っていた。
そのときに、一番で入り口に近い席に座っていた、フランドとソミエルの夫婦に白羽の矢が立った。
万が一のことも考えて、この船との連絡用の装置も渡された。
「ねえ、何でこんなことになったんでしょうね」
「こっちに聞かないでくれよ。
とにかく、安全が確保されたら、船のほうに連絡を入れて、みんなをこのプラットホームのほうに引き入れないと…」
夫婦でそう言い合いながら、あちこち探検していた。
そして、一番最後の部屋をのぞき終わり、誰もいないことを連絡しようとしたとき、突然、激しい横揺れと同時に、天井から埃が落ちてきた。
フランドは、あわててソミエルに覆いかぶさった。
ゆれが落ち着いてから、ソミエルを起こし、船に連絡を取った。
「こちら、フランド。そちらは大丈夫か?何がおきたんだ?」
しかし、相手から返答は無かった。
「おい、どうしたんだ。何か返事をくれ」
返事は、船からではなく、プラットホームの人工知能からだった。
「あの人たちは、おそらく返事をくれないでしょう。あなたたちだけは、現時点で助かりましたね」
「だれ?」
ソミエルがおっかなびっくり聞いた。
「このプラットホームの主のインフィニティです。どうぞ、道が指し示す方向に来てください」
たしかに、非常等のぼんやりとした光の中、廊下にはっきりと一本の光の筋が見えた。
彼らは、その道を通っていった。
たどり着いたのは、中央制御室だった。
この部屋は、このプラットホーム全体の制御を行う部屋でもあったが、埃が厚く積もっていた。
ここだけがはっきりと見渡せるほどの光が、部屋の中に満ちていたのだった。
「初めまして、いいえ、お久しぶりのほうがよろしいですね」
「インフィニティという名前を聞いたときからうすうす感じてはいたが…
もしかして、我が家にあるAIではないのか?」
フランドが聞いた。
インフィニティは、突然、メイン画面に現れた。
そこには、黒髪で黒目、10代後半の凛々しい青年が立っていた。
「こうしてお目にかかるのは初めてですね。インフィニティです。
あなた方の家にある、メインAIは、自分と同じです。というよりかは、自分自身です」
「じゃあ、あなたの知識は、私たちのところにあるのと同じということ?」
「まさしく、その通りです」
そういうと、彼は外の画像を見せた。そこには、非常用ポットによって脱出した乗客の姿があった。
「彼らは死んではいません。しかし、時間の問題だと思います」
「どういうこと?」
「ファーストアースは、大気の酸性度がpH4〜6、場所によっては1〜2ほどにまで下がります。その結果、外壁が溶かされて全員死ぬことになるでしょう。
無論、助ける方法もあります。それを決めるのは、あなたです」
そういうと、フランドは、ほとんど何も考えずに言った。
「無論助けれる方法があるならば、助けたい」
その瞬間から、プラットホームは動き出した。
「その言葉、忘れないでくださいよ。ちょうど、あれが来る時期なっているんですから」
「あれ?」
ソミエルが聞いたが、そのときにはインフィニティはいなかった。
船を回収したのは、1時間後だった。
「やっと助かった…」
中央制御室に、全員を収容してから、紹介した。
「彼が、インフィニティ。このプラットホームの全てを統べている人工知能です」
「はじめまして、みなさん。船が大破してしまったのは、まことに遺憾に思います。
しかし、これも、500年前のあの事件がきっかけなのです。その点をご理解ください」
「ファーストアースの周辺宙域が封印された事件か?」
「そうです。あなたたちは、それ以後始めてきたお客さんです。簡単に、私が生きている間に事件のあらましを説明させていただきます…」
第4章 侵略者
インフィニティは、一人で話し始めた。
「宇宙中で入植活動が活発化しつつあった、西暦3490年代。
すでに、この銀河に住めるところは全て入植を完了しており、銀河外にも行き始めていた頃の話です。
私が稼動を始めたのは、2541年でしたが、それ以降も以前も、すべての知識を入手すべしという命令を受け、すべての入植地をつなぐデータバンクが構築されました。
そのデータバンクは、宇宙政府が使用し、一般にも開放されているものでした。
ただ、一部のデータの接続権は、政府に許可を求めるものでしたが。
そのデータの中の一部分、とくに、リギル・ケンタウルス、和名ではケンタウルス座アルファ星のところにある惑星で、ある謎の物質が発見されました。それは、緑色をしたスライム状の物質で、目の前で溶けたそうです。
それが何だったかは、いまだに不明です。周囲を捜索しても、同じものはおろか、似たような物質すら発見することはできませんでした。
それから時が経ち、1年後に、最初の侵略が起こりました。それこそが、あの緑色をした物質の真の正体でした。銃も重火器も効きませんでした。唯一の例外は火でしたが、それも、すぐに対応していきました。こうして、その惑星は封鎖され、速やかにその恒星系からすべての人類が脱出していきました。
当時、太陽系や周囲20光年以内の恒星系をひっくるめて、太陽及び太陽辺縁恒星集団と呼ばれていました。なので、ここから、その恒星団のことを、単に集団と読んで話を進めていきたいと思います。
その集団には、宇宙進出を果たして以来、不可思議なうわさがついて回りました。この世界には、もともといる先住民族がおり、その人たちは、常にこの宇宙のどこかにいるという話です。事実、ファーストアースの衛星である、月には、大規模な遺跡が発掘されました。西暦2069年のことです。それ以降、月は大規模な改造を受け、元の姿がわからないほどになりました。月面基地と総称された月は、その後の宇宙入植に大きな影響を及ぼしました。
西暦3493年、あのスライム上の物質が月面基地にて発見され、すべての生命体は月より強制移住させられることになりました。
しかし、侵略者は、ファーストアースにも迫ってきました。侵略者は、自ら宇宙文明の子孫だと名乗り、すべての人類を支配下に置くことを目的としていると発表しました。その最初の一歩目として、アルファ星を侵略したということでしたが、それに屈しなかったため、人類の母星である、ファーストアースを占領することができれば、宇宙文明の支配下に効果的に置くことができるのではないかと、そう考えたそうです。
ただ、彼らは人類の科学技術力を甘く見すぎていました。
当時、このファーストアースは、宇宙政府の直轄領のほかに、日本、アメリカ、ヨーロッパ、朝鮮、中国、インドなどの国々が独立した政治システムを維持していました。
その中でも、アメリカ、ヨーロッパ、日本は、宇宙政府と同格の権力を有していました。技術力でもほかの地域と大差をつけていたこの3国は、結束して侵略者と立ち向かうことにしたのです。
西暦3494年6月25日、侵略者は、宇宙政府の暫定統治領土であるアフリカ連邦へ進入を開始。同日、正式に戦争を行うため、宇宙政府は宇宙文明に対し、このファーストアースのみで戦争を行うことを条件とし、宣戦布告。宇宙文明はそれを受諾。最初で最後の宇宙戦争になりました。
宇宙文明側は、簡単に攻略できるという予測があったそうです。これまでがそうだったんだから、これからもそうあり続けるのだろう、と。ですが、そうはいきませんでした。
アフリカ連邦全土を占領する直前に、一般人は集団以外の宙域に退避していました。よって、このファーストアース一帯及び集団内には、一般人は、誰もいませんでした。そのために、宇宙政府軍は、何も気兼ねなく動かすことができるようになりました。宇宙文明側は、すぐさま環境に順応していっていきました。
宇宙政府軍のほうは機械兵団をさまざまなところへと派遣し、人工衛星を駆使して、宇宙文明の兵士と思われるスライム上の物質を、次々と焼き殺し続けました。現時点では、ファーストアース全域に、焼き跡が見られます。
しかし、焼き殺し続けた影響で、二酸化炭素が大量に放出され続けました。さらに、スライムに含まれていた、硫黄分が雨に混じって、硫酸雨が降り、それによって、機械兵団が溶け去りました。しかし、それと同時に、宇宙文明のスライム兵団もすべて流れていきました。その結果、大気中に硫酸の成分があふれ出し、水の中は飽和状態になったのです」
第5章 奇跡の種
「現在のところ、ファーストアースで引き起こされている大災害のあらましは、以上です」
インフィニティが、そう静かに告げた。誰一人として、話し出す人はいなかった。
唐突に、客の一人が話し出した。
「インフィニティって言ったよな。
世界の知能の原点、古今東西のすべての知識の集積子として名高い君のことだから、これからの世界のあらましもよくわかるんじゃないか?」
「残念ながら、予知行動は私にはできかねます。私の範囲外の行動です」
「そうか…それは残念だ」
「…ただ、このファーストアースの環境を改善する方法はあります」
その言葉に、一同は驚いた。
「硫酸の雨が降っているこの環境を、どうやって元に戻すというんだ?」
「昔の科学者たちは、超強酸下でも、その強酸を栄養として生長する植物を開発していました。奇跡の種と名づけられたそれは、実験では、pH1クラスの大気や土壌を、pH7クラスまで改善することに成功しました。
期間は、量と比例しますが、30立方メートル2〜3粒程度の奇跡の種が必要です」
「今は、どれぐらいの種があるの?」
フランドが聞いた。
「数百粒ほど。ただ、研究室の中には、もっと作れるプラントがある可能性はあります。私の効力が及ぶ範囲外の地域がいくつかあります」
「では、その場所を教えてもらいたい。できれば、すべて」
ソミエルが言った。
「わかりました。では、グループごとに分かれて案内しましょう。場所は、12箇所あります」
乗客と乗員を含めて、12組に分けた。
ソミエルとフランドは、乗客の誰とも組を組まず、二人だけで行動をしていた。
「この道の先に、その管轄外区域があるんだな」
その道は、途中までは電気がついていたが、その後は、すぐ先も見えないような真っ暗だった。
ソミエルは、右手に懐中電灯を持って、その道の先を進んでいった。
懐中電灯は、行き止まりになるように扉を映し出していた。
「この扉の先は、何があるか分からない空間だ」
ソミエルはそういうと、フランドに言った。
フランドは首を左右に振って伝えた。
「何があっても怖くないわ。あなたがいますもの」
そう言って、フランドがソミエルの左手をつかんで扉を開けた。
部屋の中は、光が無かった。懐中電灯が照らし出しているのは、ほこりだらけの部屋だった。その中で、何かの種のようなものが入った箱が置かれていた。その色は、金色に輝いていた。
「これが、奇跡の種?」
「そう…だよな。ほかには植物の種らしいものは…」
見回したとき、茶褐色の古そうな粒があった。
「これは?」
「これも、植物の種みたいだな。というか、こっちのほうが本物っぽい」
結局、二人は両方とももっていくことにした。ほかに、それらしいものが無かったからである。フランドとソミエルは、そのまま扉を閉めて元の部屋へ戻った。
中央制御室には、すでに何人か帰っている人たちがいた。それぞれ、いろいろな色の種を持っていた。中には、フランドとソミエルが持っているのと同じ種を持っている人もいた。
数分後までには、全員が部屋の中にそろった。
「そろいましたね」
インフィニティが、画面に現れて言った。
「これが、奇跡の種なのか?」
誰かが言った。
「あなたたちが持っている中にある、茶褐色の種だけが、奇跡の種と呼ばれるものです。ほかのものは、私が知らないものですね」
「本当か?じゃあ、これは何なんだ?」
「とりあえず、地球表面上にばらまきましょう。1年後までには、地球は無事にすめるような環境になってるはずです。では、外へ案内しましょう。1年後に再び逢いましょう」
そう言うと、彼らに通路を教えながら、脱出船があるところまで案内し、そのまま、離脱させた。
船がゆっくりと動き出し、プラットホームから離脱するとき、緩やかにプラットホームの全景が見えた。
「さようなら…また会う日まで…」
こうして、旅は終わった。
第6章 再びの邂逅
1年後。
ソミエルとフランドは、家に再び帰った日からちょうど1年後。彼らは、政府の船に乗って、再びファーストアースを訪れていた。当時、一緒に乗船していた乗客も、ほぼ全員乗り込んでいた。
「あった。あれが、プラットホームです。あそこにインフィニティがいます」
「初代人工知能、現在のAIの基礎になったといわれる、伝説の存在だ。それが本当にいるのか?」
「そのとおりです。1年たっていますから、どうなっているかは、私にもわかりません」
話している間にも、プラットホームに接地した。
「到着しましたね。お久しぶりです、ソミエルさん、フランドさん、それにそのほかの人も」
インフィニティの声で、天井から声が聞こえた。
「お久しぶりね、インフィニティ。あなたのことをずっと考えていたの。どうしてあなたが私の所へ来たか…でも、結論は出なかった」
「私も意図的に行った訳ではありません。偶然つながってしまった細い糸でしたが、それが、いままで偶然的に、つながっていただけでしょう」
イライラしている政府関係者が、二人の話に割り込んできた。
「話しているところすまないがね。地球はどのような様子になっているんだ?我々が乗ってきた船には窓がなくてね。それに、外を見るためのセンサーは、すべて機能停止になってしまったのだよ」
「わかりました。では、さっそくご覧ください。これが、いまのファーストアースです」
そこに映し出されいてたのは、青い惑星だった。
「宇宙文明が襲ってくる可能性は、否定できませんが、ほぼ皆無といってもかまわないでしょう。
奇跡の種の影響で、現在大気は人間がマスクなしで呼吸しても問題がないレベルまで改善しています。
どうぞ、心行くまでご覧ください」
そう言うと、インフィニティは、何を言うわけでなく、ゆっくりと画面の中を漂っていた。
エピローグ
それからというもの、集団の封印の解除作業が進み、再びファーストアースに活気が戻った。人々は、空を見上げる気配も、時に見せた。1年前、インフィニティが言っていたあれに、彼らが目にしたのは、ファーストアースに着陸を果たしてから、半月後だった。
ソミエルが、漆黒の中に瞬いている星を見ようと、空を見上げた時だった。巨大な尾を引いた何かが、空に浮かんでいた。
「あれは…伝承でしか聞いたことがなかった彗星というものか!」
あわてて、フランドを外へ連れ出すと、ソミエルは空を指さした。
「ほら、彗星だよ」
「まぁ…あわてて外へ連れ出したと思ったら、このためだったのね」
周りに、人が増えてきていた。
「ああ、彗星を見るのは初めてだったからな。ただ、彗星がここを通っているということは、もっときれいなショーが見られる可能性があるということだ」
「どういうこと?」
「半年以内に起こることになっているから、それまでゆっくりと待ったらいい。時間はあるんだ」
そう言うと、ソミエルとフランドは家の中に入った。
3ヶ月後。
プラットホームにいた、政府関係者に対してインフィニティが注意を与えた。
「これから、3ヶ月前の彗星が通った所を通過することになります。その時に撒き散らしたものがいくつかあるはずなので、注意してください」
「分かった」
地上では、その天文ショーを見るために、最適な場所へと人々が集まっていた。
「流星群って、どんなの?」
「伝承では、彗星の塵が惑星大気との摩擦によって生じる炎を、地上から安全に観測できるという話だ。
ま、これまでだれも見たことがないんだがな」
夜も更けていった。
そして、日付が変わる頃になった時だった。
空の一点から、小雨のように星は降ってきたように見えた。
「これが、流星群なのね…」
「ああ、そう言われているな…」
思わず言葉を失うような光景だった。
そのショーは、1週間ほど見られるものだという話だった。ただ、今後はこれほど多い日はないということだった。
次にあの彗星が来るのは、180年後。彼らは、恐らく死んでいるだろう。
ただ、今起きていることを、宇宙中に発信することを目的として開設されたブログには、史上最多の閲覧者数を記録したことは、今後破られることはない大記録だった。
ただ、その感動は、その場にいた人たちしか味わうことはないだろう。
インフィニティが、なぜ彼らのもとに来たか、それは単なる偶然として片づけられた。宇宙は、こうして回っているのだった。偶然の積み重ねにより、奇跡が生まれ、それが新しい偶然を紡ぎだす。それこそが、この宇宙の真理だと、彼らは信じていた。
数年を経て、彼らはインフィニティの管理者となっていた。その時、ふとした疑問を聞いてみた。
ソミエルはちょうど、別の部屋にいて、中央制御室には、フランドしかいなかった。
「インフィニティ、ひとつ聞きたいことがあるんだけど…」
「なんでしょうか?」
「一番最初に見つけた金色の粒は、いったいなんだったの?」
「数年間の追跡調査の結果、一つだけ分かったことがあるのです。あの色とりどりの粒は、軌跡の種と同時にばらまきました。同時に発芽したかは確認できませんでしたが、花を開いたのは、人間が再びここに定住してからだと思います」
「答えになってないと思うわ」
「つまり、あの色とりどりの粒は、幸福の種だったのです」
「幸福の、種?」
「そうです。人間が、この世界に生きている限り、必ず自分が不幸だと思う場面が出てくる。しかし、それを乗り越えたとき、幸せが待っているのです。彼らにそれを気付かせるために、古代の科学者が制作したのではないでしょうか。ただ、その記録は残っていませんが」
「なるほどね、じゃあ、私にも咲いているのかしら」
「そうではないですか?ほら、あの人が帰ってきましたよ」
言い終わったとたん、扉が開き、ソミエルが入ってきた。
「調整が終わったから、それを伝えにきたんだ…ん?どうした?おれの顔に何か付いているか?」
「いいえ、別に」
そう言うと、フランドは、彼に聞いた。
「ねえ、私達って、いま幸せかな?」