いつもの様に、私の前にはあの三人。いつもの様に、私の隣には彼。そしていつもの様に見慣れた通学路を歩く。
「オイッコナン! この後公園でサッカーしようぜっ!」
小嶋くんが、私の隣にいる、頭の後ろで手を組みながら歩く工藤君に話しかけた。
「あぁ、いいぜ……」
不貞腐れたように返事をしても、どこか楽しそうな彼の顔は、『ガキに交じってお遊びなんか……』と普段は文句を言っていても、何だかんだ言って楽しんでいる……という彼の素直でない性格を綺麗に物語っている。
授業を終え、放課後の予定を話しながら帰るこの光景もいつもと同じ。
こんなにも平和な“いつも”に、私は慣れ親しんでしまった。私は、そんな事が許される人間ではない。自分がただ平和になっただけならまだいい。今の状況は、自分が平和になった事で周りの人間が不幸になっているという状況。……探偵団のみんなが笑っている。私はその無邪気な笑顔を壊すきっかけとなる、死神のような人間。
壊したくない、その笑顔。でも既に壊してしまった彼の人生。ここから私が消える事が、彼らにとっての一番の幸せ。そんなのは分かっている。…………でも、私の心の隙間を少しずつうめてくれるパズルのピースのような彼らの言動が、心の隅にある『ずっとこのままでいたい』というわがままが心の中を占める駒となる。
「私って本当に自己中ね……」
思っていたことをおもわず口に出してしまった。自分ではほんの小さな声で呟いたつもりだったのに。
「えっ?」
四人が一斉にこちらを向いてきた。聞こえていたのね……。
「なぁに言ってんだオメェ?」
隣からの呆れたような視線。
「哀ちゃんは全然自己中じゃないよっ!」
前からの必死な表情。
「そうですよっ灰原さんは寧ろ大人ですよっ!」
本物の小学一年生にしては本当に頭がいい、円谷君からのフォロー。
「……自己中ってなんだ?」
こっちが呆れるような同じく前からの発言。
そんな風に優しくされればされる程、私はどんどん自己中心的になる。あなたたちは知りもしないでしょうね、私のこんな気持ち。
「ありがとう。ちょっと言ってみたくなっただけ。……それと小嶋君、自己中の意味だけど……自分で調べなさい」
そう言って、私達は純粋な小学一年生三人と別れた。
二人で歩いていた私達は、暫し無言だった。彼には、私の心の内は見えたのだろうか。だから探偵は怖い。……そんな事を考えていると、私の目に鮮やかな黄色が映った。
「…………タンポポね」
広場に広がるタンポポの花。綺麗だ。本当に太陽のようで、何だか私には眩しすぎた。そのパワーを私にも少し分けてもらおうかと、タンポポの集団の中に躊躇いがちにそっと手をさし入れた。
「…………やめたっ」
「へっ?」
隣で私の様子を見ていた彼は間抜けな声を出す。私はタンポポを摘むのをやめた。たくさんの仲間の中で輝いている一人のタンポポの平和を、自分の手で壊すのが躊躇われた。これ以上他人の幸せを壊したくなかった。
タンポポの平和なんて……と人は思うかもしれない。でも私は思う、道端に咲く花にだって、ただ育っているように見える草にだって、人生はある。平和はある。他人の平和を壊した私だからこそ、こういう事に敏感になっているのかしら。
「……さ、いきましょ? 工藤君」
「あ、あぁ」
さっき間抜けな声を出していた彼は、今度は戸惑いがちに返事をした。いくらあなたでも、今の私の気持ちまでは読めないでしょ? そう思い、僅かに笑みを浮かべ工藤君をちらと見れば、彼は私とは正反対に、首を傾げ不思議そうな顔をしていた。
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