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第一話「冒険者を目指して」

 〈始まりの村・アルシュ〉


 俺は魔法都市ザラスからほど近い田舎の村に住んでいる十七歳のレオン・シュタインだ。

 貧しい農村に住んでいる俺は、昔から冒険者になるのが夢だった。

 数ある職業の中でも、俺はパーティーを守る戦士になりたいと思っている。

 戦士として冒険の旅に出て世界中を見て回りたい。

 十七歳の俺には、畑と家しかないこの村は狭すぎる。


 俺の両親は、父が元冒険者で、母は農民だ。

 父は冒険者時代、魔術師として様々なパーティーで前衛職をサポートしていたらしい。

 父は俺が「戦士になりたい」と言う度に必ず反対をする。

「レオン、魔術師はいいぞ! 魔術師は攻撃も防御も出来る最強の職業だ!」これが父の口癖だ。

 母親は俺が戦士を目指す事を応援してくれている。

 父から許可を貰えば、俺はすぐにでも戦士を目指すための冒険の旅に出るつもりだ。


「父さん、いつになったら冒険の旅に出て良いんだい? 俺はもう十七歳だよ。俺は立派な戦士になりたいんだ。冒険者になって父さんみたいにこの世界を旅したいんだよ」

「レオン、俺が冒険者になったのは十五歳の誕生日の日だった。そうか、レオンはもう十七歳か。今まではレオンの冒険者デビューに反対してきたが……そろそろ許可するとしよう」

「え? 本当? 俺、冒険者になってもいいの? 冒険の旅に出て良いの?」

「ああ、良いだろう。ただし、俺がこれから出すクエストをクリア出来ればの話だ」

「クエスト?」

「俺からのクエストの内容は……」


 父が提示したクエストは、『魔物を一匹手懐けて連れてくる事』だった。


「そんなに簡単な事で良いの? 魔物を連れてきたら良いんだね?」

「簡単な事か……勿論良いだろう! レオンが魔物を連れて来られたら、冒険の旅に出る事を許可する」

「分かったよ! 俺、すぐに魔物を連れて戻ってくる!」


 俺はすぐに自分の部屋に戻り、ブロードソードを腰に差してから、小さな鞄を肩に掛けて家を飛び出した。

 魔物を連れて来るだけで、父さんは俺が冒険者になる事を許可してくれるんだ。

 すぐに魔物を手懐けてこよう。 


 俺が住んでいるアルシュ村の近くには魔物が巣食う森があり、時々、森の中で道に迷った魔物なんかがアルシュ村を襲う事があるが、俺の父や、元冒険者だった村人達がいとも簡単に魔物を退治する。

 近くの森には強力な魔物は居ないらしく、森に住む魔物のランクは全て『魔獣』だと聞いた。

 魔物にはランクがあり、ゴブリンやスライムの様な、知能も魔力も低い『魔獣』、低級の魔獣の頂点に立つ『幻獣』、最上級の『聖獣』。

 幻獣を倒すには熟練の冒険者が十人束になって挑まなければならない程の強力な魔物だという説明を、以前本で読んだ事がある。

 聖獣は人間以上の魔力と身体能力を生まれながらにして持ち、一匹で国を一つ滅ぼす力を持つと言われている。


 兎に角、魔物を手懐けて連れてくれば良いんだ。

 森に入って魔物を探そう。



 〈魔物の森〉


 魔物探しを始めた俺は、村の近くの魔物が湧く森の中に入った。

 この森の名前は『魔物の森』だ。

 魔獣クラスの魔物が多く湧く森で、剣か魔法の心得が無い村人の立ち入りは禁止されている。


 森に入ると、俺は腰に差していた剣を抜いて右手で構えた。

 この剣は二年前に戦士を目指すと心に決めた日、村の武器屋で買った鉄のブロードソードだ。

 剣の柄には魔力を高めるための『魔石』が(はま)っている。

 ルビーの様に赤く輝く宝石の様な魔石は、俺の体の中の火属性の力を高めてくれる。

 俺はこの剣を手に入れた時から、父から魔法の手ほどきを受け、火属性魔法の中でも最も簡単な、『ファイア』を覚えた。

 どうやら他の属性より、俺には火の属性が合うらしく、小さな火を発生させて操る事など朝飯前だ。


「しかし……魔物なんてどうやって手懐けたら良いんだ?」


 俺の父は魔物を手懐けて連れてくる事を、俺の冒険者デビューの条件として提示した。

 魔物を手懐けるなんて、よく考えてみたらかなり難しいんじゃないのか?

 魔獣クラスの魔物は知能が低いから、基本的に人間を見つければ逃げ出すか襲ってくるかどちらかだ。

 とても手懐ける事なんて不可能なように思える。


 世の中に存在する無数の種族の中には、人間とは敵対していない種族もおり、精霊の種族は基本的には人間と共存しながらこの地に暮らしている。

 精霊は人間の言葉を理解する知力を持ち、人間よりも強い魔力を持って生まれる。

 身体能力は人間の方が高いと言われているが、精霊は人間に劣る身体能力をカバーするために、魔法の訓練を積んでいる者が多いらしい。

 だが、精霊は魔物ではない訳だから、精霊の仲間が増えても父が提示した条件はクリアできない。


 どんな仲間を見つければ冒険者としてこの世界で成り上がれるだろうか……。

 俺は出来もしない自分の成り上がり人生を妄想しながら、深い森を慎重に進んだ。


 しばらく歩き続けていると、いつの間にか廃村に辿り着いた。

 ここはゴブリンやスケルトンが湧く魔物の巣になっている。

 かつては立派な村だったと父から聞いた事があるが、今では建物は朽ち果てており、低級の魔物の住処になっている。


「ゴブリンにスケルトンか、仲間にするには魅力的じゃないな……」


 どんな魔物だとしても、連れて帰ってくれば、父は俺の冒険者デビューを認めてくれるだろう。 

 だが、ゴブリンの首に無理やり首輪をつけて家まで引っ張って行ったとしても、それは魔物を手懐けた事にはならない……。

 父が提示した条件は『魔物を手懐けて連れてくる事』だ。


「廃村で狩りでもするか。ゴブリンやスケルトン以外の魔物も居るかもしれないしな」


 俺は右手で剣を持ち、左手には火属性の魔力を込めた。

 攻撃魔法をあらかじめ準備しておくためだ。

 武器だけの攻撃よりも、俺は武器と魔法を使い分ける戦い方が好きだ。

 普段は、右手で剣を使った攻撃を、左手で魔法攻撃を撃つスタイルで魔物と戦っている。


 廃村の中に入ると、案の定ゴブリンの群れが居た。

 背が低く、緑色の皮膚。

 長く伸びた気味の悪い耳と鼻。

 薄暗い森の中に好んで暮らす種族。


 ゴブリン達は何やら気味の悪いスープを作っている最中だった。

 大きな鍋に、見た事もない魔物の肉を入れて楽しそうにかき混ぜている。

 ゴブリンの知能は低いが、武器を使って魔物を殺し、料理をして食べる。


 奴らは人間を殺して武器を奪ったり、人間の村を襲って食料を奪ったりする悪質な魔物だ。 

 俺が殺さなければならないな。

 俺の様に、魔物を倒す力を持つ者がやらなければならない。

 この地に住む他の人間を守るためだ。


 俺はゴブリン達が料理をしている場所のすぐ近くの茂みに身を隠した。

 父さんから教わった魔法で蹴散らしてやる……。

 炎の球を作り上げ、対象に向けて飛ばし、爆発させる。

 ファイアボールだ。


 右手をゴブリンの群れに向けて体中から火の魔力を掻き集める。

 借りるぞ……父さんの魔法!


『ファイアボール!』


 魔法を叫ぶと、右手に集まっていた火の魔力は大きな球体に変化し、炎の球は一直線にゴブリン群れに目がけて飛んで行った。

 突然の俺の攻撃に驚いたゴブリン達は、戦う事を選ばずに、大急ぎで廃村から出て行った。

 逃げられたか……。


 魔物を倒すと、所持品や魔物の素材を得る事が出来る。

 ゴブリンの爪や耳は高価ではないが、持ち帰れば村の道具屋で買い取ってくれる。

 買い取られた素材は、武器や防具を作るために使われる。


 それから俺は廃村の中の廃屋を一軒ずつ見て回った。

 どの廃屋の中もゴブリンに荒らされており、お金になりそうな物は見つからなかった。

 やれやれ……。

 せっかく廃村まで来たのに、収穫は無しか。

 珍しい魔物でも居ればどうにかして手懐けたのにな……。


 廃村の中を見て回っていると、一際立派な建物を見つけた。

 どうやらここは教会みたいだな。

 木造の教会は長い間放置されていたのか、屋根は落ち、扉も外れている。

 教会の様な神聖な場所なら、高位の魔物が住み着いているかもしれない……。


 魔物は基本的に、自分の魔力に合った場所を求めて移動する。

 火属性の魔物は、火の魔力が強い火山の近くに生息している事が多く、水属性の魔物は水場の近くに生息している場合が多い。

 どんな場所にも魔力の場がある。


 ちなみに俺の村は土属性の魔力が強い。

 農業が盛んな村には、土が豊富にあり、村には土属性を得意とする魔術師も多い。

 土属性の魔法は便利で、土の壁なんかを一瞬で作る事も出来れば、土のゴーレムを作る事も出来る。

 勿論、俺は土属性の魔法は使えない。

 今のところ俺が自由に扱える属性は、火属性だけだ。


 さて、早速教会の中に入ってみるか。

 俺は朽ち果てた教会の中に入ってみる事にした。

 教会に入ってみると、不思議と体の中に魔力が満ちる感覚を覚えた。

 この建物自体が持つ魔力が、俺の体に力を与えている様だ。

 この魔力の感覚は、聖属性に間違いないだろう。

 もしかしたらこの場所には、聖属性の魔物が近寄ってくるかもしれない。

 ここで野生の魔物を待ち伏せするのも良いかもしれないな。

 聖属性の魔物は、基本的には人間と共存して生きている。

 代表的な魔物は、ユニコーンやペガサス等だ。

 人間と共に悪質なモンスターを狩り、同じ土地で暮らす。

 聖属性の魔物は、回復魔法に特化している場合が多い。

 俺も回復魔法を使えたら良いのだが、まだ聖属性の魔法を練習した事も無い。


 俺は装備していた剣を教会の床に置いて座り込んだ。

 魔物を連れて帰れば、俺は冒険者になれるんだ。

 この広い世界を、魔物や人間以外の種族が生息する世界を。

 ダンジョンや迷宮なんかを見て回れるんだ。

 俺は絶対に冒険者になってやるんだ。

 

 俺は剣を抜いて布で拭く事にした。

 こうして定期的に汚れを取るのが好きだ。

 身に着ける武器はいつも綺麗にしておきたいからな。

 俺が剣を拭いていると、ふと異変に気が付いた。

 視線を感じる……。

 もしかしてこの教会には敵が潜んで居るのか?


 だが、教会の中からは悪意を持つ魔物の魔力は感じない。

 この空間で感じる魔力は、教会が放つ心地の良い聖属性の魔力だけだ。


 しかし、確実に視線を感じる……。

 一体何が潜んで居るんだ?


 俺は恐る恐る、薄暗い教会の中を照らすために、小さな炎の球を作り上げて辺りを照らした。

 炎の球を左手で浮かせて、右手で剣を構えた。

 慎重に教会の中を進むと、そこには幼い少女が力なく横たわっていた。


 どうしてこんな場所に少女が?

 迷い込んでしまった村人だろうか。

 急いで少女に駆け寄ると、人間とは明らかに違う魔力を感じた。

 少女の体からは、聖属性の魔力が流れている。


 随分と弱り切っている様だ。

 少女は、銀髪で肌は透き通るように白く、背は低い。

 果たしてこの少女は人間なのだろうか。

 もしかして精霊か?

 本で読んだ精霊の容姿にそっくりだ。

 体から感じる魔力も、人間よりも強力で、どことなく魔物の様な雰囲気がある。

 どこか体が痛いのだろうか、少女は辛そうな表情を浮かべている。


「大丈夫かい?」

「……」


 声を掛けてみたが返事はない。

 俺を襲ってこないという事は、人間とは敵対していない種族に違いないだろう。

 兎に角、弱り切った少女をここに放っておく訳にもいかないだろう。

 少女は顔もやつれていて服もボロボロだ。

 手には古びた本が握られている。

 魔導書か何かだろうか。

 彼女に何があったのかは知らないが、このまま見過ごして教会を出る訳にはいかないな。


「俺に手伝えることはあるかい? 具合、悪いんだろう?」

「水……飲みたい……」


 少女は顔をあげて俺を見つめると、小さな声で呟いた。

 水が飲みたいのか。

 俺はすぐに鞄を開けて、水が入った水筒を取り出した。

 俺は魔物と戦う日には、必ず水と一週間分の食料を持つ事にしている。

 これは俺の父の教えだ。

 ちなみに鞄の中には、調味料を小分けしたパック、乾燥肉、蜂蜜、瓶に詰めたナッツ、堅焼きパン等が入っている。

 俺は水筒を彼女の口に当てると、彼女は嬉しそうに水をゴクゴクと飲み始めた。

 少し気分が良くなったのか、口元に笑みを浮かべている。


「お腹すいた……」


 今度は食べ物か……。

 単純に食べ物を与えれば彼女は回復するのだろうか?

 体からは随分多くの魔力が流れている気がする。


 俺は鞄の中から、乾燥肉と小さな鍋を取り出して簡単に料理をする事にした。

 料理と言っても、鍋に水を入れてその中に乾燥肉をぶち込む。

 鍋をファイアの魔法で加熱し、持ってきた調味料を適当に入れると、ちょっとしたスープになる。

 俺は作ったスープを彼女に差し出すと、驚いたような顔をして俺を見つめた。


「良かったら食べないか?」

「良いの……?」

「ああ。しっかり食べて元気になるんだよ」


 彼女はスプーンでスープを掬って、口に含むと、嬉しそうに微笑んだ。


「美味しい……」

「ゆっくり食べるんだよ」

「うん……」


 余程お腹が空いていたのか、スープを全て飲み干すと、更に食料を要求した。

 堅焼きパンを割いて渡すと、嬉しそうに微笑みながら小さな手で受け取って大事そうに食べ始めた。

 気分もかなり良くなったようだな。


「もう大丈夫かい? 少しは元気になったかな?」

「うん……ありがとう」

「どうしてこんなところに一人で居たんだい? 魔物も沢山居るのに、危ないじゃないか」


 俺は注意する口調で、なるべく優しく彼女に質問した。

 彼女は答えたくないのか、堅焼きパンを見つめたまま、俯いて俺の質問には答えなかった。

 誰だって答えたくない事はあるよな……。

 話題を変えよう。


「俺の名前はレオンだよ。君は?」

「レオン……私は精霊のリーシア」

「精霊?」

「うん、私は精霊なの」


 やはり人間ではなかったか。

 リーシアの体から感じる魔力は、どこか人間とは違うような気がする。

 それに、こんなに美しい人間の少女を見た事が無い。

 上手く説明は出来ないが、人間ではない事は確かだ。


 彼女は少し気分が良くなったようだが、まだ完璧に元気になったとは言えない。

 俺はもう少し彼女の面倒を見る事にした。

 時間なら沢山ある……。

 早く魔物を連れ帰って冒険の旅に出たいが、今はこの子を回復させてあげたい。

 こうして俺はひょんなことから精霊のリーシアと出会ったのであった……。

※完結済みの小説『召喚物語』と同じ世界、別の時代の主人公の物語です。

どちらから読んでも物語には影響ありません。

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