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学校の七不思議シリーズ

ほーむわーくいずみー

作者:空伏空人
 小学校のなにがきらいって、そりゃあ当然のように毎日出される宿題だ。
 しかも、ていしゅつ日は次の日だったりするのに、国語と算数と社会と色んな教科の宿題を一気に出してくるものだから、放課後に遊ぶことすらできない。
 宿題なんてやらなければいい。なんて言って遊んでいる友達もいるけれども、『宿題をやらない』ことが当然で、もはやあきれられておこられることのないお前とちがって、今まで中途半端ちゅうとはんぱにマジメにしてきたせいで、宿題をわすれたらふつうにおこられてしまうぼくは、それがいやで宿題をしないといけないんだ。
どんなことだって、ちゅうとはんぱはダメなんだなって理かいしてしまう。
きちんと不真面目だったら宿題やらなくても問題はないし、きちんと真面目だったら宿題をやることも苦ではないだろう。
ちゅうとはんぱだから宿題をやることが苦であるくせに、投げ出すことができないんだ。
そんなわけで、放課後。
ぼくはランドセルをせおって、図書室に向かった。
最近、図書室で宿題をするようにしているのだ。
家はさわがしいし、宿題やったの? とやっている最中のぼくに対してたずねてくる母親がいてうるさいからだ。
学校で宿題を終わらせる。という習かんをつければ、少しは宿題をやるのも楽になるのではないか。という考えで始めた習かんではあるけれども、しかしどうも、静かすぎる。というのも集中できないようで、そろそろやめようかな。と思いつつある。
まどの外に見える校庭で宿題をやらずに遊んでいる友達のすがたを見ると、自分のしているこういがすごく無意味に思えてくるしね。

「あれ」
 いつもすわっている席に、先客がいた。
 図書室はいつも静かだ。だれも使っていない。席はじょう時全席空席なのだけれども、今日はめずらしくすわっているやつがいた。それも、いつもぼくがすわっている場所だ。
 すわる位置はいつも同じ場所にすると決めていた。
 それもまた、習かんづけるための要その一つだったのだけど。今日はそれをあきらめるべきなのかもしれない。ぼくは、てきとうな席にすわる。丁度、顔をあげれば先客のすがたが見える位置だ。
 つくえの上に宿題をならべる。まずするべきなのは、漢字の書き取りだろう。同じ漢字を何度も何度も、十回ぐらい書き写すのだ。

 失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失失
 変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変変
 無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無

同じ文字を何度も書き続ける作業というのは宿題では定番なのだけれども、しかし、これで漢字を覚えることができるのだろうか?
今だって、漢字を覚えながらやっているというより、同じがらを、何十こも続けて書き続けているような感覚におちいる。
少なくとも、覚えれるような作業ではないだろう。
それでも、かさばるページ数を見れば勉強をした感じはあるから、きっとこのムダな労力はこれからも終わらないだろう。

「……ん」
 ページをめくる時に集中力がとだえる。
 だれかが見ているような気がして、顔をあげた。
 先客がぼくのことをじっと見ていた。
 ぼくが顔をあげたことに気づいた先客は、にこりと笑うと。
「宿題ですか?」
 と聞いてきた。
 やわらかな、やさしい声だった。
「ああ、うん」
 ぼくはどう返事したらいいのか分からず、とりあえずてきとうに答えた。
 先客はにこにこと笑ったまま。
「もしよければ、手伝いましょうか?」
 とたずねてきた。
 手伝う? 宿題を?
 そんな物好きがこの世にそんざいするのか?
「なにかあとでおごるとかはできないぞ。ぼくのサイフはいつだってすっからかんなんだから」
「いやいや、別に。きんせんは要求しませんとも。ただ、たんじゅんに宿題をやるのが好きなんです」
「やっぱり物好きだ」
「どんなものでも好きな人がいるというだけの話でしょう」
 すくっと先客は立ち上がると、ぼくがすわっている席のとなりにすわった。
「それで、どうします?」
「……もう一度言うけど、なにもおごらないからな」
 ぼくは先客に算数のドリルをわたした。
「毎度」

***

 一人分の宿題を二人でこなせば、たんじゅん計算で半分の速度で終わる。
 しかも、先客はぼくよりもかなり頭がいいようで、いつもよりも半分以上の速度で宿題が終わった。
 次の日。
 宿題はまた出た。
 昨日と同じように、漢字の書き写しと計算ドリル。それとなんの意味があるのかさっぱり分からないが、日本地図のも写だった。
 本当になんの意味があるんだ。せなかに石川県がにょきっと生えていることが分かるぐらいだろうに。
 ぶつくさぶつくさ言いながら、ぼくはまた図書室に向かう。もはやその動きも習かん化してきて、なにも考えていなくても図書室に向かうようになっていた。
 とびらを開けて図書室の中に入ると、今日もまた先客はいた。
 先客は入り口に立っているぼくを見つけるとにこりと笑った。
 先客は黒いかみをしている。目にかからないぐらいの短め。にこりと笑っている目は、少しつっている。

「よう」
 ぼくはかた手をあげる。すると、先客の方もかた手をあげて、少し横にいどうした。
 となりにすわれ。ということだろうか。無言のさいそくに、ぼくはため息をついてから、先客のとなりにすわった。

「それで」
 すわった直後、先客はうきうきした口調でこう切り出してきた。
「今日の宿題は?」
「また手伝ってくれるのか?」
「もちろん」
 あきれた。こんなにうれしそうに宿題をやろうとするやつを初めて見た。しかも自分の宿題ではない。他人の宿題である。こいつ、実はバカなんじゃあないだろうか。

「じゃあ、この社会の宿題をたのむよ。日本地図をかくっていう宿題なんだけど」
 まあ、してくれるのなら、遠りょなくお願いするんだけど。
 しかも、一番めんどうくさいやつ。
 しかし、先客はいやな顔一つせずに、地図をかく用の方がん紙を手に取った。
 立ち上がり、図書室のおくの方に消えた。まさかあれだけ言っておきながらにげたのかと思ったけれども、先客はすぐにもどってきた。
手には世界地図の本。
どうやらし料を取りに行っていたらしい。先客はとなりの席にすわりなおすと、世界地図の本から日本が大きくのっているページを開いて、えんぴつでガリガリ日本地図を書き始めた。
一発書きで一筆書き。しかもどうやら、海岸線の形までこだわりたいタイプらしく、えらくぐちゃぐちゃとした線だ。
これではきみょうな日本地図が出来上がるのは目に見えている。どうやらこの先客は絵が下手らしい。
ぼくと同じだ。
むしろ、そっちの方がだれかに代わりに書いてもらったとうたがわれることもないので、安心してまかせれるかもしれない。
ぼくはそんな先客をはた目に、漢字のられつ作業を始めた。
今日も宿題はすぐに終わって、ぼくは校庭にいる友達のもとに向かった。
宿題はやらないタイプである友達は、どうしてぼくがこんなにも早く宿題を終わらせて遊びに来れているのか不思議で仕方ないような表じょうをしていた。

***

それからというもの、図書室に行くと必ず先客はいて、宿題を手伝ってくれることが当然となりつつあった。
初めの方は申しわけないな。と思いながら宿題をわたしていたのだけれども、本当に楽しそうに宿題をやっているところを見ると、だんだんと申しわけなく思うのもバカらしいなと思うようになった。
相手がしたがっているのだから、ぼくはそれをわたしてあげるだけである。
ぼくは楽できるし、相手は楽しめる。どちらも楽しくてどちらもだんだんをしているのだから、いいではないか。
とはいえ、気になることはある。どうして先客は宿題をするのが好きなのだろうか。

「自分でやるものだからです」
 先客はそう答えた。
 理科の、かん電池のつなぎ方の問題をといている。
 直列と、へい列。
 それぐらいならぼくにも分かる。

「自分でやることだからいいんです。楽しいんです。自分でやるから宿題なんです。宿題をやるから自分なんです」
 耳がいたかった。人にやってもらっている自分が悪いように聞こえる。
しかし、それならぼくから宿題を取っているお前はどうなんだ。といういちゃもんをつけてみる。
じっさい、先客は説教をしておきながら、笑顔でぼくに向けて両手をつき出すのだった。

「漢字書き取りの宿題。それもぼくがやりますよ?」
 こいつ、いちにんしょうがぼくだったのか。ぼくといっしょだな。
 ぼくは漢字の宿題にしせんを下ろす。
 すでにぼくがしている宿題はこれだけになっていた。
 これを先客にわたすと、とうとうぼくは自分の宿題をひとつもしないことになる。
さすがにそれはどうだろうか。と思って、これだけは自分でやっていたのだけど、先客はどうも、宿題を全部やりたくて仕方ない。と言った感じだった。
静かな図書室に、宿題もせずに外で遊んでいるクラスメイトたちの声と、バットがボールを打つ音が聞こえる。

「宿題はぜんぶやりますよ。宿題をやるから自分がなりますよ。あなたは友達と遊んできたらどうですか?」
 少し考える。そしてすぐに、ぼくは先客に漢字の宿題を手わたした。
 やりたい。というやつがいるのなら、それをわたすのも別におかしくはないだろう。
 ぼくは友達と遊びたくて、先客は宿題をしたい。だったら、宿題をかれにわたすのも、なにも、おかしくはない。
 かれ?
 そういえば、先客は男子だったようだ。
 今まで全然気にしたことがなかったし、そもそも、考えたこともなかったけど。
 しかもどうやら、名札を見ると同じ学年――四年生のようだった。どうして今まで気づかなかったのだろうか。
 名札に書かれた名前は同乃おなじの高太こうた。おお、みょうじと名前までいっしょだったんだ……え?
 ぼくは先客の顔を見た。
 短めの黒かみで、つり目で、どこかで見たことある顔で、歯みがきをするときじっと見る顔で、鏡にうつっている顔で、自分の顔だった。

「え?」
「自分でやるから宿題なんです。宿題をやるから自分なんです」
 目の前にいるぼくは、さっき言っていたことをもう一度言った。
「あなたは自分をわたしました。ぼくに全部わたしました。今日からぼくがぼくです」
 今日からここが、あなたの席。とぼくは立ち上がった。
 図書室のいつもの席。そこにぼくは、なんのためらいもなくすわった。

***

 図書室はいつも静かだ。
 びっくりするぐらい、だれも来ない。
 静かに静かに、ぼくはいつもの席にすわって、図書室の外を歩いている生徒をながめている。
 宿題をしない友達と、いっしょに話しているぼくが図書室の前を通りすぎた。楽しそうだった。
 続いて、黒いかみの女子が通りすぎた。足を止めて、こっちを見た。にまぁ。とせいかくの悪そうな笑みをうかべている。

「次はあなたの番。次の子が来るまで、そこでずっとすわってて」
 言って、女子は去っていった。同じクラスの女子だったような気がするけど、名前は思いだせない。
 あれ、そもそもぼくのクラスってどこだったっけ。
 ぼくの名前はなんだっけ。
 ぼくって男だったっけ。女だったっけ。
 ぼくはだれだっけ?
 じぶんはなんだっけ?
 わからない。おもいだせない。
 でもやらないといけないことはしっかりわかる。それだけしかわからない。
 つぎはしっかりと宿題をやらなくちゃ。
 宿題をやるのがじぶんなんだから。

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