#6・入場者券購入
黄昏のオレンジが辺り一面を焼き付くしている。
時が午後6時を回ろうとしていた頃だ。
「ありがとうございましたー」
コンビニの店員の声を背にして真九郎が出てきた。
手にはビニール袋が一つ、中身は焼肉弁当が一つとお茶が一本、どうやらこれが本日の晩御飯となるようだ。
コンビニから徒歩5分のほどの場所に学生寮がある。
しかしそこは、学生寮というのにはあまりに巨大過ぎると思う。
むしろ称するならば高層ビル、いや、超高層ビルと言うべきか。
もはや100階はあるのではないかと思われるその超高層ビルは、紛れもない『学生寮』だ。
しかし、たとえ100階建ての超高層ビルだとしても、神知学園の半端ない生徒数は収まりきれない。
そのため、この学生寮は4棟を横に並ばせているのだ。
つまり、1階に付き2部屋あるので1棟を合計すると200部屋、つまり1棟につき200人もの生徒を収めていることになる。
これを単純に4倍にして計算すれば、総合計800人もの生徒がこの、超高層ビル改め超高層マンションのような学生寮にいることになるわけだ。
まさに夢が実現したと言えよう。こんな学生寮は他にない。
真九郎は地下駐車場(客人専用の駐車場)からエレベーターを使い、自分の部屋が位置する階、20階へと向かった。
鏡のように反射するエレベーター内、真九郎は特に動作を見せることなくして、ただひたすらに到着するのを待つ。
陳腐な音は出ない。階が近づくと速度が緩くなり、静かに止まるのだ。
空気を抜いたような音が静かに鳴り、扉が開く。
眼前は広間があり、壁沿いには観葉植物が立てられている。
意外とあっさりとした雰囲気があるのだが、観葉植物に間にある、その二つの部屋の中は凄い。
真九郎はカードキーを入れて、暗証番号を打ち、指紋センサーを通して、ようやく中に入る。
セキュリティーには一段と厳しい面があるが、規模から考慮すれば相応と言えよう。
玄関を開けると、そこに映るのは大広間に続く廊下だ。
大広間に着く途中には、入って左側には順に洗面所と風呂とトイレが、右側にはキッチンのみがある。
キッチンには一応、調理器具が置いてあるのだが、真九郎に必要なのは、電子レンジと冷蔵庫だけでいい。
まさに鉄との関係を表すように、真九郎の生活はインスタント(使い捨て)で構成されていた。
大広間には場所を取るような物は置いていない。テレビとテーブル、それだけしか置いていない。
何とも虚しい光景だが、これが真九郎にとっての最低限なのだろう。
大広間の隣には襖で分けられた寝室がある。畳部屋だ。
和室も設備された学生寮なんて大抵の者は聞いたことがないと思う。
真九郎は電子レンジの前に立っていた。
レンジの中がオレンジ色に点灯しながら、焼肉弁当をグルグルと回しながらと温める。
チンッ、と音が鳴ったのを確認し、真九郎は中から焼肉弁当を取り出す。
大広間に移動する際、ピンポーン、と音が鳴った。
廊下手前の壁に設置された、客人を映し出すモニターを通じて、それを確認する。
外にいたのは――、
コンビニの袋を掲げながら笑い、昼食の時とは一変し、いつもの明るい声で言った。
「一緒にご飯食べよう!」
零華の姿だ。
真九郎は言葉を失った、のと同時に、心臓が止まりかけた。
動揺の表れ、心音、脈拍が、体中が咆哮している。
抑え込む事がやっとの衝動に息が乱れそうになりながらも、真九郎は思い出す。
昼間のことを思ってか、と。
しかし、真九郎の頭の中では、それ以上のことが妄想されていた。
零華さんも自分に気があるんじゃないか、と。
何かと自分を肯定したがる真九郎だからこその妄想だと思う。
むろん、零華はそんな感情は一切ない。
ただ、お昼のことを思って、訪れただけのことだ。
真九郎はいつもの冷静さを装いながら、一言だけ口にした。
「どうぞ」
客人用に用意されてあったスリッパを取り出す。
「お邪魔しますー」
玄関を開けながら、真九郎はこう思う。
零華が、自分の好きな人が家に来るなんて夢のようだ、と。
真九郎にとってはある意味、自分の彼女を家に呼ぶ時の同じ感覚なのだろう。
そして、零華を招き入れたのだった。
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