ブラックサイドワルツ〜祭宴の契約〜(12/50)PDFで表示縦書き表示RDF


ブラックサイドワルツ〜祭宴の契約〜
作:俺とキルマシーン



#12・ハートは林檎のように赤くて


(儂の物になるって……)

 悪魔は満面の笑みを浮かべていた。当たり前のことを当たり前のように口にしたようにも見える。
 だが、真九郎には当たり前とは思えない。いや、そういう考えにも至ってないのかもしれない。
 悪魔は真九郎の釈然としない態度を不思議そうに見つめている。

「人間は理解力が乏しい生き物だと聞いてはいたが……、まあよい、お主にも解るよう言ってやろう」

 つまり――、と悪魔は言い、

「お主が、完全に人間でなくなる、ということじゃ」

 そう、口にする。
 それが意味することは、復讐が終えた時に真九郎の体は悪魔の物になる、つまり、真九郎は『人間』から『悪魔』に転身する、そういうことだった。
 真九郎は、ようやく自分の立場を理解した。自分は今、この悪魔(らしい)と交渉しているのだと。
 真九郎はしばし悩む……、と、いくつか質問が思い浮かんだので、悪魔に聞いてみることにした。
 質問内容を想像する。

(その力に制限みたいなのはあるの? たとえば一日三回までとか)

 悪魔は上機嫌のまま、こう返答した。

「特にそういう縛りみたいなのはないのう。一日何人何十人殺そうが、お主の自由じゃ」

 真九郎は数知れぬ者達からイジメを受けていたため、殺す殺さないは別として、“多くの人間“に恨みを抱いていた。
 真九郎の中で次々と質問内容が浮かび上がっていた。興味があるから質問が浮かぶのだろう。
 人を自由に殺せる力、に。

(もう一つ、殺された死体の処理はどうなるの? 警察とかに見つかるんだったら、この交渉は無しだよ)

「ハハハハハハ!!」

 悪魔は大笑いした。
 腹の底から笑っているようだ。

(…………)

 真九郎は少しだけ苛立ちを覚えるのと同時に、恐怖を感じた。
 笑いが収まり、一息ついてから、悪魔は口を開く。

「お主はなかなかの心配者よのう。安心せい、力によって殺された人間はその存在の全てが消されるんじゃ」

(存在の全てが消えるってことは、その人間と少しでも関わりの持った、人間の記憶からも消されるってこと?)

 悪魔は上機嫌で返事をする。

「そういうことじゃ、まあそもそも警察とやらに見つかったら、“それも殺してしまえばいいだけ“の話なんじゃがな」

(いや、むやみやたらに人を殺すのはよくないからね)

 悪魔は『ふーん』と退屈そうに頷いていた。
 真九郎は楽しそうだったが、悪魔はどこか、つまらなそうに見える。

「で、結局、お主は儂と契約を結ぶのか?」

 真九郎は何の躊躇いのない、元気な声を想像した。

(当たり前だよ。僕が鉄を倒すんだ)

「まるで“正義の味方“じゃのう。人を殺すというのに」

 人間と悪魔が軽く笑い合う。
 人殺しをつまみに、化物が笑っている。

(それを言うなよ。――ところで、君の名前は何て言うんだい? ちなみに僕は、天峰真九郎)

 真九郎がそう聞くと、悪魔は誇らしげな声で発した。

「マオウ! 儂の名はマオウじゃ!」

(“魔王“か、何だか凄く強そうな名前だね。頼もしいよ)

「まあ、お主は儂のことを下僕なり何なりと好きに呼ぶがよい。儂はお主を御主人様(マスター)と呼ぶから」

 真九郎は、自分は危ない関係にいるのでは、と思った。実際に危ない関係ではあるのだが、そういう危なさではなく大人(アダルト)な感じだ。
 改めて魔王のことを見ると、まるでグラビアアイドルのように映える体をしていた。
 真九郎は少し熱くなっていた、が、魔王にはそれが気付かれていたらしい。
 魔王は、人をおちょくるような声でこう言った。

「儂を異性として見るのはやめておくことじゃ」

(よ、余計なお世話だよ!)

 悪魔は鼻で軽く笑い、さて――、と口にする。

「そろそろこの画にも飽きた頃じゃろう、“御主人様“?」

 それは何とも愉快で、まるでこの先の出来事をゲームのように思っているみたいだった。
 しかし、この先に出る死体は、MP消費で魔法を唱えて蘇生する、そんな死体ではない。

「そうだね、魔王。――じゃあ、僕に“光“を見せてくれよ」

 真九郎は自嘲する。
 とても愉快に自嘲していた。
 それは、魔王も同じで、まさに一心同体のようだ。
 そして、魔王は最後にこう言い残し、

「“光“? “闇“の勘違いじゃろ?」

 天峰真九郎を、ブラックサイドへ導いた。
 それはまるで、眼前に出口が見える洞窟のように小さく光っているのだろう。
 けれど、出口から出ることはできない。
 たとえ、手の届きそうな場所に、出口があったとしてもだ。
 真九郎は、力を手にした。
 まるで、林檎を握り潰すようにして地球を握り潰すことのできる、そんな存亡を弄ぶことができる力を。
 全ては、握力24の手の中に、あったのだった。












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