物書きさんに50のお題:8
8,閉ざされた瞳
暖かい日だった。
生徒会室の扉を開けると、1つ年下の少女が会長の席に陣取って座っていた。少女の背後では両開きの窓が完全に開かれていて、心地よい風が流れている。
「……ちょっと来てくれ」
少女を呼ぶ。
少し前に会長から、至急この少女を連れてこいという御用達を受けたからだった。
「ふん、ふん、ふーん」
しかし少女は、珍しくヘッドフォンを両耳に当てており、音楽を聞き入っているのであろう、瞳を閉じてご機嫌そうに鼻歌を歌っていた。
反応がないところを見ると、どうやらこちらの声は聞こえていないらしい。
「おい」
さっきよりもやや大きな声で呼んでみる。しかし少女の体はピクリとも反応しない。
よほど遮音性の高いヘッドフォンなようだ。少女に話を通すには、まずあのヘッドフォンを取らなければならないらしい。
しかたなく少女のもとへ向かう。
少女はヘッドフォンに軽く手を当てて、体をリズミカルに揺らせていた。
「少しいいか?」
ヘッドフォンの片側を引っ張り少女の耳を露出させた後に少女へ告げた。
「——きゃ!」
音楽に魅入っていた少女は、肩を跳ねさせ、小さな悲鳴を上げる。
「せ、先輩! 脅かさないでくださいよ! でもどうして、こんなところに? い、いえ。別に私はさぼっていたわけではなくてですね! 仕事が終わっちゃいまして、ちょっと休憩をしてただけなんですよ!」
この少女は自分の役割を超えて、多くの仕事を率先して行なってくれている。妥協はするものの最低限、時間内に出来ることはしてくれるため信頼している。
だいたい少女が今している仕事も、少女に与えられた仕事ではなく、本来なら生徒会長が行うでき仕事をしているのだ。
そんな必死に説明をしなくても、少女がさぼっていたとは初めから思っていない。
「分かっている」
「いえ! 違います! 本当なんですよ! 本当の本当に、私はたったいま、ちょうど音楽を聞き始めたばっかりで——」
どうも少女は信頼されていないと思ったらしい、必死に言葉を繋いだ。
「その席は居心地が良いか?」
少し疑問になったことを口にする。少女が座っているのは会長の席である。おそらく背中に窓があるのだから風通しは良いだろうが、それ意外は普通のパイプ椅子である。好き好んで座る意味もないように思えた。
「え? わぁー! ごめんなさい! 今すぐ退きますね!」
机に置かれていた資料を慌ててかき集め一塊にすると、少女は書類の縁すらそろえずに立ち上がろうとする。
しかし——
「え? きゃぁー!!」
あわてた調子に椅子に足がもつれかかり、少女はゴンと凄い音を立てて床に倒れた。手にしていた書類が虚空に投げられて、ひらひらと舞う。
「……大丈夫か?」
後頭部を激しく強打した少女。さすがに心配になり眉をしかめた。
「……」
少女から返事は返って来なかった。
少女は辛うじて腕に残った数枚の書類を抱いたまま、重たく瞳を閉じていた。
「……」
生徒会室はしばらく静寂に包まれていた。
会長に至急、この少女を連れてこいと言われていたことを思い出す。
「……連れて行くか」
少女の背中と両膝の裏に腕を回し、そのまま担ぎ上げた。
がくりと意識を失っている少女は、まったく反応をしなかった。
2人はそのまま部屋を後にする。
後に残されたのは、紙吹雪のようにばらまかれた書類の山だけだった。
閉ざされた瞳です。ストーリーが始まって直ぐに「あぁー閉ざされてあ瞳ね」って分かる内容でしたので、天邪鬼的にもう一度完全に閉ざされてみました♪
なんとなく副会長が出てくるのは久々なきがしますが、どうでしょうね……。