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カテゴリ【戦国もの】

帝ですが意味不明な連中に慕われ過ぎてつらい

作者:寛喜堂秀介
 時は戦国乱世。
 あまたの戦国大名たちが天下に覇を競いし大乱の時代。
 そこには鉄血で彩られた綺羅星きらほしのごとき英雄たちの物語が数多く存在する。

 ある者は老いて後志を立て、下剋上を成しげた。
 ある者は一領主から破格の智謀で地方の覇者となった。
 おたがい覇者の資質を持ちながら、等しき才持つライバルの存在ゆえ、天下に覇を唱えること叶わなかった者たちもいた。

 そして、尾張統一より昇竜の勢いで畿内を平らげ、天下を手にした戦国の覇者、織田信長。
 信長の死後、後継者争いに乗じてその勢力を呑みこみ、天下を完全に統一した奇跡の出世人、豊臣秀吉。
 信長に、秀吉に、律儀の人として仕えて過たず、勢力を拡大し続け、最後に天下を手にした天下大平の立役者、徳川家康。

 そんな、戦国の英雄たちの偉業を台無しにするように――ヤツらは現れた。







 臥所ふしどより朝の日をながめながら、憂鬱ゆううつにため息をつく。
 みかど、と呼ばれる地位にあってそう長くはないが、最近はつとに朝を迎えるのが億劫おっくうだ。


「それもこれも、あの男たちが悪い」


 小声でつぶやく。
 あの男たちが、自ら皇軍を名乗る彼らが、自分の生活を一変させたのだ。

 ほんの数年前までは、こうではなかった。
 たび重なる戦に京の都は焼け、税収も満足に入って来ない。
 貧しすぎて即位の儀式もできない。情けなさにそでを涙で濡らしたことも一度ではない。

 そこに、彼らが現れた。
 皇軍を名乗る、異様ながら統一された装いの、謎の集団が。
 その数三万を優に超える集団は、見たこともないような巨大な鉄舟で商業都市・堺に上陸、これを制圧すると、当時の天下人三好長慶みよしながよしを始め、その敵手畠山高政はたけやまたかまさ、近隣諸勢力、はては本願寺をはじめとした寺社勢力まで奇麗に更地さらちにしながら京に上洛を果たした。

 そして公家たちを脅し上げ、昇殿の資格を無理やりもぎ取ると、警戒する自分の前に、彼らは競うように膝つき頭をち付け、言ったのだ。


「おそれ多くも御前ごぜんにまかり越しました! 陛下!」

「ご尊顔を拝したてまつり恐悦至極!」

「我ら卑しくも四百年先の世の帝より皇軍を預かりし者!」

「突然の嵐に飲まれ、過去の世に彷徨さまよい出でし者!」

「現状を把握はあくし、急ぎ祖国へまかり越したれば、御所ごしょのかようなありさまに、胸が締めつけられる思いでございます!」

「皇国にありながら、帝を帝とも思わぬ者どもが跳梁跋扈ちょうりょうばっこするありさま、悲憤ひふん胸を破る思いでございます!」

「だが、ご安心いただきたい! 我ら皇国陸軍ありまする限りは、皇国たちどころに平定して見せましょうぞ!」

「その通り! 我ら皇国海軍ある限り、皇国のすべてを帝の手に取り戻して見せましょうぞ!」


 わけがわからなかった。
 日ノ本の人間とも思えぬ異様な装いの、聞いたこともない名の人間が、自分の苦境を我がことのように悲しみ、怒り、そして助けようというのだ。

 怪しいなんてものじゃなかった。
 とはいえ、彼らの背後にある武力には逆らえない。


「よろしく助けてほしい」


 声をかけると、彼らは感極まった様子で、目に涙まで溜めながら喜び勇んだものだ。

 もう、なにがなんだかわからない。
 帝として名目上は日ノ本を治めているが、実態などない。
 近づく大名たちは誰もかれも自分を利用しようというやからばかりだ。
 だが、彼らの忠義の心も自分を慕う気持ちも、間違いなく本物だ。しかもかなり過剰かじょう

 全数万、上から下まで自分を意味不明なまでに慕う彼らはまたたく間に日ノ本を平定し、その一切を帝に献上し、そればかりか海を越えた南の島々、果ては東の果ての大陸までをも平定して日ノ本に空前の版図はんとをもたらした。自分は一切そんなことを望んでいないのに。

 また、彼らは恐るべき知識を備えている。
 田畑でんばたや作物の改良、意味不明な鉄のからくりの数々をつくりあげ、ここ数年で日ノ本中がわけがわからないくらい豊かになった。
 我が世の春よと喜ぶ者も多いが、なにか恐ろしい手妻てじなを仕掛けられている気がして、とてもではないが素直に喜ぶ気になれない。
 なにより、国が根底から変わりすぎて、実務にあたれる人間が彼ら皇軍のほかに居なくなってしまったというのも、なにやら空恐ろしい。


 ――やつらは我を傀儡かいらいにしたいのか、それとも他に狙いがあるのか。


 怪しみながらも、帝は無力だ。
 今日も今日とて、皇国を運営する御前会議に向かう。
 御簾みすの向こうには、皇国の政務を司る皇軍の両大将を筆頭に、その部下たちがずらりと並んでいる。

 会議の開始を伝えさせると、左手、皇国陸軍大将、牟田口連也斎むたぐちれんやさいが発言を求めた。


「議事に入る前に、ひとつ」

「こちらにも、ひとつ、言うべきことがある」


 と、対抗するように発言したのは、右手、皇国海軍大将、山口多門天やまぐちたもんてん
 ふたりは目をき、正面に居るおたがいを仇のようににらみ上げながら、強い口調で宣言した。


「陸軍としては、海軍の意見に反対であるっ!!」

「海軍としては、陸軍の意見に反対であるっ!!」


 ――だめだこいつら。


 ため息を落とす。
 ああ、今日も今日とて、会議は進まない。




 おしまい
あくまでフィクションです。
登場人物および時代は架空のものと思って笑い流していただければ幸いです。

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