夕日の中の鬼
「浩太ってどこに消えたの?」
達也が尋ねる。
通学路は夕やけ色に染まり、蜩の声もまた、アスファルトに染み込んでいく。
彼らは我が家を心待ちにしていながらも友人たちと別れることへの憂鬱も混在している。
彼らは実感はしていないものの、夕やけの美しさに心を奪われている。それは美しさへの感嘆なのか、美しすぎる物への恐怖心なのか、はっきりとしない。
それほど夕やけは美しかった。
浩太は達也とその友人たちが所属する五年一組の男の子である。人並み以上に友人がいる彼は、元気が自慢だった。しかし、彼は消えた。月曜日には元気に登校していたのにである。その翌日の彼の机にはポッカリとまぬけな空間ができていた。達也たちは大人たちが揺らいでいるのを敏感に察知していた。子供というのは時折大人より頭が切れる。
達也の改めての疑念は友人たちに少々の沈黙を与えた。空からは変わらず優しげ光。しかしこの優しげ光は表裏一体である影という存在をも彼らに突きつける。夕方とはそんな時間だ。達也にぴったりとくっついて離れない彼の妹の舞桜は不安げな表情で達也を見上げる。舞桜は浩太について一切知らないが夕やけは影だけでなく気持ちさえも際立たせる。
しばらくすると小柄だが丈夫な体の持ち主である武徳が切り出した。
「月曜にさ、浩太と一緒に帰ったってやつが何人かいるんだよ。」武徳は同級生の名前を何人か挙げる。「そいつらがさ、武徳と寄り道をしたらしいぜ。そこは不気味な場所でさ、少ししたら帰ったらしいよ。だけどさ、浩太は意地張って残ったんだって。あいつらが帰るときは笑い声を聞いたり、赤い人影を見たりしたんだって。」
武徳は一歩一歩その先が安全なのか確かめるよう慎重だ。達也は耐えかねて尋ねる。
「それで、どこに寄り道したんだよ。」
「衣川神社」
衣川神社とは彼らが通う小学校から歩いて10分もかからないところに位置する神社だ。またその神社は今、彼らの右前方にあった。
この神社、まわりに竹などが生い茂る、小学生の噂になってもおかしくないような怪しい神社だが、学校から10分弱という微妙な立地からか何故かあまり知られないでいた。彼らもこの神社が気になっているのだが、なぜか、なぜか、なぜか今まで一度も行ったことがなかった。またこの神社はまったくイベントを行っているという話を聞かない。
そんな神社になぜ浩太が寄り道したのだろう。そしてそのことと浩太の消失には関連性があるのだろうか。
達也たちは神社への階段の前にたどり着き、誰からともなく神社の方向を見ている。
「あ」
異様に赤いものが長い階段のてっぺんで見えたかと思ったらすぐ消えていった。心なしか笑い声も聞こえた。
武徳の横顔は恐怖に覆われている。しかし、達也は彼の横顔に少しながら興奮が混じっているのも視認していた。武徳は階段へ足を踏み出す。
「行くの?」
ひょろひょろな体に眼鏡の色白という見た目から神経質で、本当は見た目よりもっと神経質な彼、純が言った。
武徳が純に振り返るまでにはもう恐怖より興奮のほうが圧倒的に勝っていた。
「あたりまえだろ! お前は浩太を見捨てるのかよ。いまなら助けられるぜ。」
どこからそんなことがわかるのか知れないが、もはや武徳は止められない。
舞桜はさらに達也に引っ付き、服の裾を握りしめている。時折「いかないよね」と確認するように達也を見る。
達也は階段を真っ直ぐ見据えた。
武徳は階段を上り始める。
純は死刑を宣告された罪人のような様。彼らと離れるのは嫌なようだ。
達也もまた階段を上り始める。舞桜はさらに引っ付く。純もどうにでもなれといったように上り始める。
階段は周りの木によってトンネルのようになっている。これは明らかにイキモノの手で整えられていた。木のトンネルはあれだけ強かった夕やけを殆ど通さない。
かなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかななかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかな
蜩はひたすら鳴く
いつの間にか階段は終焉し、何十もあるかと思われる鳥居をくぐる。
こうして幾多もの鳥居をくぐった先は木のドームのようになっていた。その中央には巨大なお社がある。
お社の階段には子供が三人か四人いや、五人ほどが立っている。そこは夕やけが唯一注がれている場所で、陽だまりになっていた。彼らは一様に夕やけで赤くなっていて恐ろしかった。かと思うと、いつの間にか彼らはお社の中に入っていく。
「オイデオイデ」
その中の誰かが呼びかける。
達也たちには今まで経験したことのない恐怖が圧し掛かっていた。同時に彼らは恍惚にも近い感情にとらわれていた。「彼らを追いかけたい」この思いが頭を支配する。彼らは、決して走らず、しかし足取り軽くお社の奥へともぐりこんだ。
いつの間にか蜩の声は聞こえなくなっていた。
お社の中にはいろいろのものが置いてあったが中でも際立つのが、この場に不釣り合いの血のように真っ赤なドアであった。彼らは引き寄せられドアを開ける。
赤い風車が回っている。赤い紙風船が漂っている、赤い折り鶴が吊らされている。周り一面がこれらの赤いものだった。カラカラと風車の音が彼らの不安を一層濃くする。進んでいくと、ぽっとドアが出現する。足裏に感覚、鶴をひとつ潰していた。気にせずドアを開ける。
今度は公園だった。夕日が痛い。
先に言っていた子供たちはこの公園で遊んでいた。ブランコに揺られ、回転遊具に回され、オニゴッコで思い切り走り。彼らの笑い声は遠い世界のものだった。子供たちがこちらに気付くと皆くすくすと笑い、すぐに走り去っていった。
「オイデオイデオイデ」
達也たちは彼らのことだけしか考えない。少し歩くと再び赤いドアを見つける。引く。
今度は最初の赤だらけの部屋に似ていたが置かれている物は人形の残骸だった。人形の頭や、腕や、足、胴などがそこらじゅうに落ちていて、さらに悪趣味なことに赤の絵具で着色されている箇所もある。人形たちを踏んでしまう。「イタイ、イタイ」と叫びが聞こえる気がする。
前を見るとドアがあり、既に開け放されていた。夕日が差し込む。子供たちがその付近にいた。やはりすぐいなくなってしまう。
「オイデオイデオイデオイデオイデオイデ」
達也たちはもう走り出していた。「彼らのところへ行きたい!」と。達也は人形の顔を踏みつけ、この部屋を出る。ギロリと人形の目が動いたが、達也は気づかない。
ドアの向こうについた時、もう空はかなり暗くなっていた。影がここを覆い尽くしつつある。まわりは大量の樹木。彼らの背後には大きな建物があったので、ここはお社の裏側かもしれない。
逃げていた子供たちはもう静止している。彼らがいる方向へはさらに道が続いていて、その先にはまた戸らしきものがある。これはこれまでのとは違い、引き戸であった。
子供たちは笑っているのだが笑い声は一切ない。大きく口を開けて笑っているのにもかかわらず。
影の世界はますます拡大する。
達也たちが通ったドアの横10メートルほどのところにあった電燈が点灯した。
赤かった
真っ赤だった
逃げていた笑っている子供たちの顔はみな一様に血を塗ったかの如き、赤
達也の胸が凍てつく。達也は「鬼」を連想した。
「鬼」は音を立てることなく笑いながらこちらへ近づく。達也たちはもう動けない。「鬼」の眼球は達也たちが動くことを許さなかった。どの眼も自分に向いているように錯覚する。
「鬼」は迫る。手を差し伸べ奥へ案内するのだろうか。
達也の左手には強い感触。一瞬ヤツかと思ったが違う。それは妹の腕だった。達也はこれまで全く妹へ目が向いていなかった。妹の腕は達也の腕へ全くの隙間を見せず絡まっていた。腕は恐怖を伝えてくるが、達也への絶対の信頼もまた感じられた。妹が堪らなくなったのかこちらを見上げる。
「おにいちゃん、おうちに帰ろうよ」
その声を聴いた達也は妹に向かい微笑んだ
「うん、そろそろ帰ろっか。おなかぺこぺこだし。」
妹はすこし弱弱しいながらも微笑む。「鬼」はもう目の前にいる。達也は大きく息を吸い、吐く。深呼吸だ。
「帰ろう!」
この言葉で両隣にいた純と武徳が我を取り戻す
「帰ろうか」
武徳が言う
「うん」
短くも、強い意志が分かる純の応答
電燈が点滅する。示し合わせたかのように達也たちは一斉に後ろを振り向き走り出す。舞桜は少し遅れてしまうので達也が引っ張る。
人形部屋に入ると、人形の残骸に足を取られそうになってしまう。見ると部屋は少し変化している。残骸が一部くっつき人形擬きができあがっていて、これらは達也たちにしがみついてくる。達也たちは焦る。後ろには「鬼」の気配と声が確かにあった。
「オイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデ」
舞桜が転んでしまう。舞桜は泣かずに立ち上がろうとするが人形擬きに妨害される。達也は怒りにかられ人形を蹴飛ばし、なんとか救出する。鬼はもうそこだよ達也君。
走る、走る、走る、走る、走る
ついにドアを通る
鬼の手が達也の目の前にあった
追いつかれた
残念だったね、達也君。君のいままでの健闘には賛美の言葉よりほかないよ。
達也は重いもの同士がぶつかる音がすぐ近くで聞いた。見ると、野球部員である武徳が公園に落ちていた石を鬼の頭へ投げつけたようであった。どうやら達也君は今少し延命したようである。
鬼は衝撃で速度を減少させるが、痛みで怯む様子はない。すぐ速度を取り戻し追ってくる。
公園のジャングルジムは巨大で達也は怖かった。光の世界では全くそんなことは思いもしない。
ドアを通る。赤い折り鶴や風車、紙風船は闇に沈むこの鬱屈さはいつもならとても耐えられるものではない。
とたん鬼が達也たちの行く手を遮る。手には棒状の野球のバットにも似たものが握られている。黒光りし、岩のように凹凸があるそれは金棒なのだと達也は自然に理解する。達也たちと同じくらいの子供だったが、鬼はもはや身長二メートルを優に超えている。鬼の口元からは吐息が漏れ出し獣の匂いがあたりに充満していた。鬼は咆哮する。それと同時なのか部屋が徐々に炎上していく。とても暑い。
「わたし、帰りたい」
妹がふたたび呟き、達也の服の裾を堅く握る。彼女は涙目だがしっかりと気は保っている。
達也は再度覚悟を決める。鬼を精一杯睨む。なんとこの少年、鬼に刃向かう気でいるらしい。彼は勢いをつけ鬼に拳を衝きたてる。その肉体はびくともしなかった。達也の腕には激痛が走っている。しかし、彼は諦めない。腕で、足で彼は精一杯の反抗を見せる。
拳を衝きたてる、暖簾に腕押し、次は蹴りだ、豆腐に鎹、今度は頭突き、糠に釘、今度は拳を幾度も振るう、石に灸、肘に体重を乗せ攻撃する、沢庵のおもしに茶袋、彼がいくら慟哭しようとこの事実は動くことはない。やがて武徳や純も鬼へ刃向かうが、その刃はあの名刀に比べればなまくらだ。
鬼は少し足を動かすと達也たちはボールのように軽々と飛んでいく。達也は頭を打ち付ける。信じられないほど痛い。鬼は蠅叩きでも使うかのように、さも当たり前のように金棒を持ち上げ達也を狙う。
達也の体はもう動かない。彼は人生とはここまで一瞬で終わるものなのかと感心していた。いま鳴き声の聞こえる蜩のような儚い一生だ。
かなかなかなかなかなかなかなかなかな
鳴き声もこんなに儚げだ。
かなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかな
彼の頭の中で蜩の鳴き声が反芻している。
かなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかな。かなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかな
どんどん蜩の鳴き声が大きくなっていくように錯覚する。羽音まで聞こえてくるかのようだ。
かなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかな
いやに現実的な錯覚だ。
かなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかな
これは、錯覚なんかじゃない。
かなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかな
実際に
かなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかな
実際に蜩が近くにいて、こちらに向かってきているのだ!
そう達也が気付くころには社全体が揺れに揺れ、地震のようになっていた。ごうごうという音は蜩の羽が起こす強風。炎も風で吹き飛んだ。さすがに鬼も動揺しているようで金棒を振り上げたまま静止している。
かなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかなかな
蜩が社の奥から飛んでくる。その数はまさに無数。
蜩はまっすぐと社の出口へ向かい、鬼に激突した。蜩の激流を真下から見ていた達也たちから見ればそれはもはや黒い龍であった。
鬼は暫くこの黒龍に耐え、金棒を振るうがこれこそ暖簾に腕押しである。幾ら蜩を潰してもきりがない。とうとう鬼は蜩急流によって飛ばされた。
これが好機と達也たちはなんとか姿勢を低くし、社から脱出した。が、鬼はまだ追ってくる。
鬼は蜩におよそ100メートルも飛ばされ森の木々を粉砕しながら大木に当たりやっと止まった。しかし、鬼はぬくっと立ち上がり咆哮する。
達也たちはたまらず逃げ出す。鬼は神のごときの加速を見せる。顔はよく把握できないが鬼は激怒しているようだ。が、おにごっこもこれまで。達也たちが階段を下り始めると鬼はそこから先がいけないのか、諦めた。
なんだかよくわからんものを見てしまったと達也は震える。ついさっき炎で熱せられていたのに今は凍えるほどだ。
他の奴らも見ると皆が皆同じような状況だ。妹は達也を見ると同時に泣き出した。おかしなやつだと達也は思ったが自分もまた泣いていることに気付く。
「帰ろう! 帰ろう!」
達也は空を仰ぎ見、元気いっぱい声を張りあげる。空には蜩の黒龍が勇ましく天を泳いでいた。達也は思わず声に出る。
「なんだどこが儚いものか。こいつあと120年は生きる気満々だぞ。」