朝の来訪者です1
いつもより長い朝の鍛錬で、ゼルセとの打ち合いが終わって、ゼルセに肉をあげて帰還させ、少し休憩していた時、遠くの方から誰かが家に向かってくるのが見えた。
こんな朝早くにこんなところに来るなんて嫌な予感しかしない……。俺はそっと近くの茂みに身を隠した。
「朝早くからすまんのう。ちとここの家主にお願いがあってきたのじゃ。敵意はないからそこに隠れてないで出てきてくれんかの?」
やってきたのは町中で会ったあの女性だった。その手には何も持っておらず、腰に差していた刀もしまっているようで、完全に丸腰であるように見えた。
今、俺と彼女との距離はだいたい60mくらいはある。それだけ離れているのにこうもあっさりと隠れたのを見抜かれるとショックだな。
「朝早くから何の用だ?」
茂みから出てきて女性の前に立つ。念のために訓練で使っていた使い捨ての剣ではなく、それなりにいいものを出しておいた。
「おお! こないだ商業ギルドの場所を教えてくれた人じゃな! あのときは世話になったのう」
「何の用だと聞いているんだが?」
「そう構えんでも大丈夫じゃ。わしはただこの先の館の家主にお願いがあってきただけなのじゃ。あ、そうじゃ。お主家主と知り合いかの? 知り合いだったら話をとおしてもらえんか?」
「お願いとは?」
「居候を頼めないかとお願いしに来たのじゃ。お主もやっていたように、わしも朝は鍛錬の時間にしておるのじゃが、宿の庭でやっていたら危ないからやめろと止められたのじゃ。それで仕方なしに広場でやろうとしたら、警備の者に、『町の外でやってくれ』と怒られての。ここ3日ほどは毎朝門から外に出てやっておったのじゃ」
それはあんたが悪い。
ついついそう言いかけたが、口には出さなかった。この町は宿がかなり多いが、その中でも庭があるような宿はかなり限られてくる。この町の宿の大半は通りに面しており、そういった宿はほぼすべて左右と裏手に他の店がある。普通の冒険者が泊まるような宿は間違いなくそのような宿で、庭があるような宿は、中心のほうにある、貴族や豪商たちの御用達のところがほとんどだ。そんな宿の庭で刀なんか振り回されたら、他の客は安全面に不安を抱くだろう。それで客が離れていってしまってはたまらないしな。
それに、広場でやると言っても、広場は大道芸人がいたり、小さな露店があったり、小さな子供やお年寄りが遊びに来たりする。朝早い時間だから人はまだいないかもしれないが、どれくらいやるのかわからないし、いつ誰が来るかわからないし、警備員が正しいだろう。
「ギルドの訓練場があるだろう? 商人ってがらでもなさそうだし、冒険者ギルドには登録してないのか?」
「登録はしておるが、あそこはいつ行っても人が大勢おるし、わしが鍛錬すると邪魔になりかねん。それに屋内で鍛錬するのはいやじゃからな」
ギルドの訓練場は町によってさまざまだが、この町の訓練場は非常に大きい。4つもダンジョンがあるし、その分人も多くなるから大きく作らないといけないのだ。そのため、冒険者ギルドは訓練場を地下に作った。地下ならば地盤沈下とかそういった問題さえクリアしていれば地上にどれだけ店が立ち並ぼうと広い空間が確保できる。ある意味では理想的だ。それでも狭くなりそうなくらいには利用者が多いらしいが。
屋内で鍛錬するのが嫌だというのは、個人的にはわからないでもない。あの館の広さがあれば、素振りくらいなら家の中でも余裕でできる。しかし、鍛錬をすれば自然と汗もかくし、地面を強く踏みしめるので床も悪くなるかもしれない。腕立てや腹筋とかの筋トレならいいけど、俺は朝はヒメたちのだれかと模擬戦が多いし、そうでない日も素振りか、スキルの試し打ちが多い。屋内では到底できそうもない。
「それについてはわかるが、なんで居候になるんだ?」
「わしが泊まっておるのは町の中心の方じゃからの。いちいち外に出るのが面倒なのじゃ。門までも遠いしの」
「それなら門から近いところに宿を借りればいいんじゃないのか? 門から近いところにも宿はあるし」
「わしももちろんいくつか見てきたのじゃが、あれじゃだめじゃ。わしも学習したからの。もう刀を奪われるのは御免じゃ」
「館に住んでいるやつらがそうしようとすることは考えなかったのか?」
「お主はそんなことはしないじゃろ?」
「……気づいてたのか?」
「もちろんじゃ。面倒のないように最初は知らない様を演じようとしたがの。やめじゃ。さすがにわしもこれから一緒に住むことになる人物のことは調べてきておる。もちろんお仲間の3人のこともの。時間がなくてこの町に来てからのことくらいしか調べられていないが」
「……家の中にきてくれ。あいつらとも相談しないといけない」
「では、お願いするかの」
俺は仕方なしに彼女を家に案内することにした。
家に帰ると、マナたちは朝飯の用意をして待っていた。俺と一緒に来た女性を見て驚いていたが、どうにも3人とも会っていたらしく汗を流してくる間は雑談でもしていることになった。
「すまん、待たせたな」
「あ、戻ってきたね。話し合いはご飯食べながらにする?」
「みんなはまだ食べてないのか?」
「メイが今日はダンジョンに行ったわけじゃなかったから、一緒に食べればいいってことになったんだ」
「……あんたはもう食べてきたか?」
露骨に話をそらした。これからもこの話題でいじられるのかな……。
「いや、まだなのじゃ。来る途中に買ってきたから一緒させてもらうのじゃ」
それから、準備を終えて朝飯を食べ始めた。
「メイも戻ってきたことじゃし、改めて自己紹介をしておくのじゃ。わしの名前はユウカ・コトブキ。ヤマト大国出身の冒険者じゃ」
「俺の名前は……あ、調べてきたんだったな。じゃあ自己紹介は必要ないか?」
「大丈夫じゃ。マナたちからいろいろ聞いたからの」
「いろいろ?」
「手を出してこないとか、一緒に寝ようとすると逃げ出すとか」
「何話してくれてんの!?」
「ユウカが聞き出すのがうまくてねー」
「そうそう。……協力してくれるって言ってるし」
とぼけるヒツギとマナが、何か小声で言っていたようだがうまく聞き取れなかった。
「話を戻すが、あんたの要求はここに居候することでいいんだよな?」
「うむ。ここならばわざわざ毎朝門から出たりせず、少し家から離れるだけですむからの」
「それで、俺たちへのメリットは? 確かに部屋は余っているが、ぶっちゃけ俺たちは四人とも訳ありな人間だ。俺らとしてはその秘密が外部に漏れてほしくはない。知ってるやつもできるだけ少ない方がいいしな」
「それについては考えておる。宿泊費とわしの分の食費は当然払う。家事などもわしも担当させてもらう。秘密を知ったとしても誰かに話そうなどとは思わん。なんなら契約魔法を使って縛ってもかまわん。あと、わしが直接お主らを鍛えてやる。お主らは冒険者じゃし、悪い話ではないはずじゃ」
「あんたに鍛えてもらわなくても鍛練はできる」
「ご主人様、一つよろしいですか?」
俺がユウカさんの提案を却下しようとしていると、キャラビーが控えめに手を挙げた。
「どうしたキャラビー?」
「ユウカ様は、Sランクの冒険者で、実力もあります。それに、女性で初めての王国騎士団訓練所の所長を務めておりますし、指導者としては十分だと思いますが……」
「正直なところ、王国騎士団がどれくらい強いのかもわからないし、そこの訓練所がどんなものかもわからないんだが」
「王国騎士団の訓練所は、王国内の全騎士たちの中から、近衛騎士候補、各町における騎士団長候補だけが集められて徹底的に訓練を行う場所として有名です。そこに行けば大きく飛躍できるともいわれています」
「そうなのか……」
よく考えてみれば、俺が直接実力をちゃんと見た騎士って一番初めに戦った人だけじゃないか? コロイドの町の騎士たちは会ってるけど戦ってるところは見てないし。
「実際はそうでもないぞ? たしかに、実力がある者は多いし、やる気のある者もちゃんとおる。じゃが、どうしようもないのももちろんおる。才能だけあってやる気のない者。才能もなく、やる気もなく、コネだけで入ってくる者。最も邪魔なのは周りにまでそれを伝染させる者じゃがな」
どこにでもそういったやつはいるんだな……。
「そうじゃ! 今からわしと鍛錬をしようではないか。それでお主が鍛錬を受けるに足ると感じたら居候を許可してくれんか?」
「……マナ、お前らは居候はいいのか?」
「私たちは許可は出してるよ。いろいろと条件は出したけど、全部受け入れてくれるって約束したし」
「条件?」
「そこはまた今度ね」
なにやらものすごい気になる。嫌な予感しかしないんだもの。
「それで、受けてくれるのかの?」
「……わかった。だけど、半端な感じだと許可はだせないからな?」
「どんとこいなのじゃ。じゃあ外に出るのじゃ」
俺たちは館の外に出た。
どうもコクトーです
『刈谷鳴』
職業
『ビギナーLvMAX(10)
格闘家 LvMAX(50)
狙撃手 LvMAX(50)
盗賊 LvMAX(50)
剣士 LvMAX(50)
戦士 LvMAX(50)
魔法使いLvMAX(50)
鬼人 LvMAX(20)
武闘家 LvMAX(60)
冒険者 Lv90/99
薬剤師 Lv42/60
聖???の勇者Lv12/??
狙撃主 Lv45/70
獣人 Lv16/20
狂人 Lv25/50
魔術師 Lv40/60
ローグ Lv21/70
重戦士 Lv21/70
剣闘士 Lv1/60
神官 Lv1/50
魔人 Lv1/20
精霊使いLv1/40
舞闘家 Lv1/70
大鬼人 Lv1/40 』
活動報告でも書きましたが、忙しくて執筆できませんでした……。
一応一区切りついたので執筆再開です!
ではまた次回