新しい家族−4−最終回
賑やかな夕食。
ゆうかの温かな手料理をぱくつきながら、俺も幸せな気分になる。
紗那が意外に上品に食事を取り、美音が嬉しそうにゆうかや蒼井さんに話しかける。
なんだか胸がぽかぽかした。
女性陣が美音も連れてお風呂に入って、少女の明るい笑い声が聞こえてくる。それがまた楽しそうだった。
「裕人兄さん……」
「うん?」
紗那がいつになく真剣な表情で俺を呼んだ。
「どうした?」
「……すまねえ」
紗那がおもむろに頭を下げる。
「何やってるんだ、紗那?」
俺は慌てて言った。
「俺の我が儘で、兄さんやゆうか姉さん、それに俺の姉さんにも、みんなに面倒かけた。ほんとに、申し訳ない」
「なにいってるんだよ。バカ」
俺は言った。
「おまえが謝ることなんて全然無いさ。俺たちが進んでやったことだ」
「でも……」
「それにな」
俺は紗那に笑いかけた。
「惚れた相手を助けるのは漢なら当然のことだからな」
「なっ!」
紗那の頬がいきなり染まる。
「な、なんで……」
「わからないわけ無いだろう?」
俺はちょっとにやつきながら紗那に告げる。
「俺も同じだからな」
紗那はちょっと目を見開いて、それから照れたように笑った。
その時、がちゃと音がしてリビングの扉が開いた。
風呂上がりのパジャマ姿のゆうか入ってくる。後から美音がかけてきてゆうかと手を繋いだ。
「ゆうかお姉さん、お母さんみたいな匂いがする」
「そう?」
「うん」
ゆうかはしゃがむと美音を抱き寄せる。美音の濡れた髪をタオルで優しく拭いた。美音がちょっとくすぐったそうな、でも嬉しそうな笑顔を見せる。
後ろから蒼井さんも部屋に入ってきた。
「わたし、嬉しい!」
美音が言った。
「いっぺんにお兄さんとお姉さんが出来たみたい」
「そう?」
「うん。紗那はお兄さんみたいだし、瑞穂さんはお姉さんで、ゆうか姉さんは、お母さんみたいだもの」
俺は紗那と顔を合わす。かわいそうに、おまえ、お兄さんと思われてるぞ。
紗那は軽く肩を竦めた。
「俺は?」
聞いてみた。
「う〜ん、お父さん?」
「なぜ、俺だけ、疑問系?」
「だって……」
少女は子供らしい笑顔を見せて笑った。
「えっと、あの、ゆうか……」
「はい」
俺は改めてドキドキしながらゆうかを見つめていた。
元ゆうかの部屋。これからは俺たち二人の部屋になることになった部屋の中で、二人で見つめ合っていた。
「ご、ごめんな。蒼井さんたちに押し切られて、こう言うことになっちまって……」
ゆうかが少し首を傾げる。
「裕人さんは、お嫌ですか?」
「あ、いや、違う」
俺はぶんぶんと首を横に振る。
「そうじゃなくて、その……」
「わたしは、嬉しかったです」
ドクンと心臓が音を立てた。
ゆうかの唇が綻んで花のような笑みが広がる。頬が綺麗なピンクに色付いた。
「お、俺も……」
本当はこうしたかったんだ。いつもゆうかと一緒にいたかった。でも……
「ちょっと、恥ずかしいんだ」
俺もたぶん顔が赤い。首筋から熱が上がってくる。
「わたしも……」
ゆうかも恥ずかしげに瞳を揺らす。
「ね、寝ようか?」
「はい」
俺たちは明かりを消した。
ベッドの中でゆうかの柔らかな肌の温もりを感じた。その肌からいい香りが鼻腔を擽る。
俺はさっき美音の言った言葉を思い出した。
「お母さんの匂いか……」
「うん?」
ゆうかが身じろぎする。
「ああ、さっき美音がそんなことをいってたなあと思ってさ」
「裕人さん、美音ちゃんのこと、ありがとうございます」
「なんだよ。別にゆうかにお礼を言われることなんか無いよ。俺もこれでよかったと思ってる」
「はい。……それにしても、子供はかわいいですね。まるで瑞穂や稚陽姫の幼い頃を見ているようです」
「そうなのか?」
「はい」
その嬉しそうな声に俺は何気なく言葉に出す。
「ゆうかは子供が好きなんだな」
「ええ」
「よかったな。美音のお母さん役が出来て」
「そうですね……裕人さんも子供が欲しいですか?」
「え?」
突然の質問に思考が止まる。えっと、それは、あの……
「つくりますか?」
心臓がいきなり跳ねた。
わわわわ、ちょっ、ゆうか、な、なにを言ってるんだ?
いつの間にかゆうかが俺を見つめている。
俺は焦った。
いや、子供は欲しいと思うけど、でも、しかし、まだ俺たち高校生なわけだし(厳密には俺だけか?)、だから、その、あの……
「えっと、まだ、ちょっと……早いんじゃ?」
ゆうかがクスッと笑った。
「そうですね」
その笑顔が俺の心臓を貫く。愛おしい。ゆうか。俺の伴侶。
「今は、それより……ゆうかが欲しい」
「わたしも裕人さんが欲しいです」
真っ赤に顔を染めて瞳をキラキラ輝かしてゆうかが言った。その瞳に吸い込まれそうになる。
俺はゆうかの身体を優しく抱きしめた。ゆうかの腕が首に回る。
そうして俺たちは、お互いをお互いで心ゆくまで満たした。
慌ただしくも楽しい朝のひとときの後、俺たちはそれぞれの学校へと出かけた。
どうやったか不明だが、紗那や美音もちゃんと学校に席をつくったらしい。
美音はともかく、紗那は大丈夫なんだろうな? なんだか不安だ。
俺はゆうかと蒼井さんと一緒に登校する。
蒼井さんが気を利かして一人で出ようとするところをゆうかに掴まった。
「一緒に行きましょう」
「でも、ゆうかお姉さん、お邪魔では?」
「全然大丈夫です。私たち夜も一緒でしたから」
うわ! と思った。頬が熱を持ってくる。
時々ゆうかはかなり大胆なことを平気で言うことがあるよなあ。
蒼井さんも頬を染めて目を丸くした。
呆気にとられたのか、そのままゆうかに引っ張られるように俺たちは一緒に登校した。
「じゃあ、帰りに」
ゆうかが下駄箱のところで俺たちに手を振る。別れた俺たちも自分の教室に向かった。
なんだかんだでテストの最終日。そういえば、蒼井さんは二日休みだよな。追試とか在るんじゃないのか?
「えーと、ずるしちゃいけませんか?」
蒼井さんが首を竦めながら言った。
「いや、それは、どうだろう?」
ひょっとしたらゆうかが怒るんじゃないかとも思うけど……どうだろうなあ?
そんなことを考えながら教室の入った俺は、一瞬で凍り付いた。
「は? なんで、おまえ!?」
教室の中に稚陽姫が座っていた。
蒼井さんもびっくりして目を大きくしている。
俺は急いで稚陽姫の傍まで駆けた。
「おまえ、なんでいるんだ!」
「なにか?」
稚陽姫が当然というように俺に顔を向ける。
「事件が解決したら、天上に戻るって言ってただろ! なんで、まだいるんだよ?!」
「ああ、そのことか」
稚陽姫は当たり前のように言う。
「四宝の守りにおまえでは心許ないからな。わたしも守りにつくのだ」
「なっ!」
なんだって!
いや、だって、しかし……
「おまえ禁軍の総帥なんだろう? 地上にずっといたらまずいんじゃないのかよ」
「今は、天上より地上があぶないからな」
「なにい!」
言葉が出ない俺に、稚陽姫は皮肉な笑いを浮かべていった。
「それと、おまえとの勝負の決着もちゃんと付ける」
俺は頭を抱えたくなった。
蒼井さんを見ると、彼女も呆れたように肩を竦めた。
なんだか、急にいろんなものを抱え込んだ気がして俺は前途に不安を感じた。
あー、どうなるんだろう? 俺の人生……
でもまあ、なるようになれだ。
ゆうかや蒼井さん、みんながいればこの先どんなことが起こってもそれもまた楽しいに違いない。
俺はそう思った。
「天の意志・地の理〜続〜」
おわり
これにて「天の意志・地の理」の続編完結です。
最後までお読みいただいてありがとうございました。
お話は、なんだかまだ続きそうな最後になっていますが、
作者的にはなにも考えていません。
今回同様、また、不意にお話が降りてきたりしたら、
そのうち、続々編、なんてのがひょっこり始まるかも知れません。
もしそんなことがあったら、その時は、どうぞよろしく。
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