2章ー再会は危険の香り−1−
「どわあ!」
起きるときに大声あげたのは、たぶん初めて。
跳ね起きたのはベッドの上。俺の部屋。俺のベッド。
ただし、服は制服のまま。
疲れて帰ってきてそのままベッドに倒れ込んだのだろう。鞄が床に投げ出されている。
どこをどう帰ってきたのか全く記憶なし。
あぶない、あぶない。
最近クラブで疲れてるからなー気を付けよう。若いみそらで交通事故なんかに遭ったらやばいからな。
とぼんやり考えていたら、何かが頭に引っかかった。
そう、なんかよくわからんが跳び起きちまったのは、なんだかすごい夢を見ていたような気がする。
そう考えたとき、胸がどきどきしてきた。
怖い夢だったのか?
そんな感じでもないけれど、心臓のドキドキが収まらない。これは、不安?胸騒ぎ?それとも……
「うん?」
なにげに机の上の置き時計に目をやって、俺はベッドから飛び降りた。
やばい、遅れる。
始業開始のチャイムと共に教室にすべり込んで座った。
よかった。担任はまだきてない。
教室の窓は大きく開け放たれていて、走ってきて窓際の席に着いた俺の体に、5月の風が気持ちいい。
高校入学からようやく一月半、クラスのメンツの顔と名前が一致して、おばかな無駄話をする相手もできた頃。始業前の教室では、そこかしこで何人かづつ集まっておしゃべりの輪ができていた。
俺はなにげに教室を見回していて、ふっと違和感がわいて視線を戻した。
そこにクラスの女の子が3人ばかし集まって笑いながらなにやら話している。
座っている一人の周りを二人が囲んでいた。
俺の所から、座っている横顔しか見えないのだが、その横顔に見覚えが………なかった!
ちょっと待て、あんな女子いたか?
俺は、入学からの短い記憶を手繰ってみた。
記憶にない。ような気がする。
自然、その子を見つめるような格好になっていたが、不意に視線の先の顔がこちらを向いた。
大きめの瞳。その眼がくりっとして興味心旺盛なネコのようだ。
その瞳に、ショートカットの髪がよく似合い、全体としてとても健康的な明るさをたたえた美少女だった。
こんなかわいい子を気が付かないはずないよな。
と頭の片隅で思ったとき、少女が俺を確認してニッと笑顔を見せて、合図するかのように目を伏せた。
すごい違和感というか既視感。
自分の知らない人からいきなり挨拶されるような(まあそうなんだが)、最近似たようなことがあったような……
俺は、前の席にいるおばかな話し相手に声をかけた。
「なあ、桜井、あそこの席の女子っておまえ知ってるか?」
あん?という感じで首を振ったやつは、俺が指さす女の子を見、俺を振り返っていきなり言いやがった。
「なんか悪いもん食ったか?矢上っち。アルツハイマーにしても早過ぎるぞ」
いや、そういわれてもだな……
「おまえなー、我がクラス一の美人にして、運動神経抜群、1年にして陸上中距離のエースになってる蒼井さんを知らないとは言わせないぜ」
いや、詳しい説明ありがとう。ていうか俺の記憶にないって言うのはどゆこと?
「ちなみに俺の見立てじゃ、我が校のトップファイブにはいるかわいさだ」
いつ見立てたんだよ。ていうか他は誰だ。
「後の4人は……まず、2組の後藤さんだろ。こちらは、バトミントン部で……」
ハイハイ分かった。こいついつの間にそんなこと調べやがったんだ。まったく。
俺は、すでにやつの声を聞き流しながら、もう一度蒼井さんという女の子を見た。
周りにいたクラスメートは自分の席に帰ったようで、彼女は、まっすぐ前を見つめて座っている。
さっきの仕草はどういう意味があったんだろう。
本当に俺が今まで気づかなかっただけなのか?
そう思っていたとき、
「で、なんと言ってもすごいのは、2年の深宮さんだろうな」
「ハイ?」
思わず漏れるでかい声。クラスのあちこちでくすくす笑いが聞こえる。
えーいそんなことはどうでもいい。今、なんか引っかかった。
桜井のやつがきょとんとして俺を見つめている。
「今、なんて言った?」
「だからあ、我校トップファイブを……」
そこで、担任が入ってきた。
無駄話終了。
俺は、心の中がアップアップしていた。
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