姫御子の望み−3−
「風伯!」
見慣れた髭面が、すっと目を細め、腰から剣を引き抜いた。
「おまえとは縁があるという事かな?」
男の剣が陽炎のように揺らいで見える。いや、あれは空気の揺らぎか?
蒼井さんが小声で俺にいう。
「次の間、たぶん、ゆうかさんが……」
俺はうなずいた。
蒼井さんがいきなり跳躍する。天上近くを顔は男に向けたまま、緩やかに一回転したように見えた。
男が剣をしたから振り上げようとする。
俺は、前に出た。
俺ののばした剣が、男の剣を遮る。剣は、反発し合うように弾けた。
男がそのままの勢いで剣を薙ぐ。刀身から小さな渦。
避けようとしたときには、体が取り込まれている。
強烈な風圧。それが渦を巻いて俺に襲いかかる。体がねじ切られそうだ。
気を静め手のひらに集中する。強烈な風圧の中で、どうにか動かせる。
一瞬の気合いで剣を縦に振った。
竜巻が飛び散った。
剣が光で2倍の幅に見える。
男の顔に、ちょっと驚きの表情が浮かぶ。
この間、ほんの一瞬だったのか?
男の後ろに着地した蒼井さんが次の間を開け放った。
そこに……ゆうかがいた。
鈍く光る球体状の結界。その中で、ぐったりと肩を落として座っている。高校の制服がひどく場違いだ。
「ゆうかー!」
俺は叫んだ。彼女がハッとして顔を上げる。いつもより白い生気のない顔。だが、やさしく微笑んだ。
「今、助ける。すぐ助けるから」
蒼井さんが球体に歩み寄るのが見えた。
俺も行こうと駆け出す。だが、男が立ちはだかった。
「通すわけにはいかんな」
男の斬撃。また、渦が飛び出す。
今度は逃げずに初めから剣をふった。渦が両断される。
ちっ!男が舌打ちする。
続けて剣がふられる。今度は普通の攻撃。俺には、こっちの方が厳しい。
次第に受け止められなくなる。こちらから剣をふる余裕がない。
くそー、どうにか……
その時、目の前を何かが横切った。
瞬間、まばゆい閃光。
俺は、誰かに腕を捕まれ、跳び下がった。
爆風が戸を吹き飛ばす。天井からがれきが落ちる。
俺が顔を上げると、髭の男が部屋の反対側で膝をついている。苦しそうな表情。
俺の横手には、紗那が同じようにうつぶせに伏せていた。
「なんてことするの!紗那!裕人さんは?」
蒼井さんの叫び。俺はハッとしてそちらを見る。
蒼井さんはカプセルのそばで伏せている。ゆうかの結界は傷一つ付いてなかった。
「あ、俺は大丈夫。……ありがとう。助かった」
紗那が照れたように笑う。
「お兄さん。あいつは任せて。ゆうか姉さんの所に」
紗那が向こうで立ち上がった髭の男を見て、にやりとした。
俺は、ちょっと逡巡。その間に紗那がすかさず男にダッシュしていた。
キイーンと金属がふれあう音。紗那の背中が男を押している。
俺は、ゆうかの所に向かった。
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