ゆーちゃんが家を飛び出した。
「あたしがあんなこと言ったからだわ。あたしが、あたしが・・・・・・」
「ママのせいじゃないよ。そうだとも。泣くのはおよし」
竜彦は妻を慰めるが妻は泣き止まない。
「あたしが、あたしが・・・ゆーちゃんにメッって言っちゃったから・・・・・・」
「仕方ないさ・・・雄二のやつ、ママの大事なハンドバッグの中にうんこをたくさんつめるなんて・・・・・・悪ふざけにも程がある。叱って当然さ・・・・・・」
それでも、妻はまだ自責の念にかられてる。
「ああ。ごめんなさい、ごめんなさい、あなた。あたしが、ゆーちゃんをロープで逆さ吊りにして、晩ご飯抜きにしたから、だから、だから!」
「いや、いや、違うよ。気にしないで。てるてる坊主みたいでかわいいじゃないか」
妻が台所へ向かって走り出す。ま、まさか、包丁で・・・・・・!
「あたしが、あたしが、屋根から吊るしたゆーちゃんをサウンドバックみたいに叩いてボクサーのマネをしたから・・・・・・!」
「ま、待てよ、芳江。君のせいじゃない。君のせいじゃないよ!」
竜彦は追いかけるが、いかんせん、妻は元陸上選手だから、めちゃ速い。
「ゆーちゃん、ごめん。ゆーちゃん、ごめん。ママが、ママが、調子にのって、アッパーとかカウンターとかして練習しちゃったから!」
「違う、違う。君のせいじゃない。雄二が君の大事な帽子に山ほど、うんこをつめたから!」
走る二人。
「ごめんなさい。ごめんなさい。カウンターを決めた時、ロープがちぎれて飛んでいっちゃったね。なのに、なのに、助けてあげられなくって・・・・・・!」
「気にするなよ。気にするなよ。あのあと、雄二が、家の前の川に飛び込んで流されていったとしても、それは君のせいじゃない。君のせいじゃないんだ!」
妻が走りながら振り返り、夫に問う。
「じゃー誰のせいだって言うのよ! あたしのせいよ。あたしのせいだわ! わーん」
「違うよ! 違うよ! 強いて言うなら・・・・・・君の黄金の右腕が悪いんだよ! 決して君のせいじゃない! はぁはぁはぁ。だから早まるな。待ってくれぇ!」
「いやよ! いやよ! あたし、死ぬの! ゆーちゃんのいる世界に行くの!」
妻が台所に到着し、包丁を手にとった。
や、やばい・・・・・・!
竜彦はすばやく、妻の足めがけて、スライディングをかました。
すると、びっくりした妻が包丁を落として、竜彦の頭にブサリ。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ」
竜彦が絶叫すると、妻はさらにびっくりしてひっくり返る。
そしたら、今度は、竜彦に覆いかぶさり、頭深く深く包丁が・・・・・・!
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ」
「あなたあああああああああああああああああああああああああああああ」
その頃、台所の窓から中の様子をのぞき見ていた、びしょ濡れのゆーちゃんは、入るに入れず、へーくっしょん、と大きなくしゃみをした。
かわいそうな、ゆーちゃん!
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