ただ あの国の乙女を愛している (II) 前編
はじめ
2008年12月24日 クリスマス・イブ
今日いつもより早く日本へ入国できた。香港から来たフィリックスは成田空港第二ターミナルの到着ロビーで立ち止り、普段も日本時間が表示されている腕時計に目をやった。「まだ余裕があるんだ。」と彼が呟いた。
確かに飛行機の着陸が予定時刻より早かったし、入国審査と税関の荷物検査が思ったより早く終わって、到着ロビーに辿り着くことができた。
この時間帯なら、午後4時3分発久里浜行きのJR快速エアポート成田の出発時刻を一生忘れられないフィリックスはスーツケースを一個宅配便サービスに頼んで、地下にある駅のホームに向けた。彼は珍しくホームのベンチに座れ、列車を待っている。
暫くぼんやりしている際、目の前に一つずつ大きなスーツケースを持っている20代くらいの女性二人が現れた。二人とも香港から来た観光者だと彼はすぐわかった。いや、観光者と言うよりも 買い物客のほうが正解だと考え直した。女性二人はこれから東京での買い物の話を広東語でワイワイしゃべっているわけだ。恐らくこの場で彼女たちの話を聞き取れる人はフィリックスでしかないかもしれない。彼は日本語と英語、そして、広東語もしゃべられる。
日本ではクリスマスの期間に休みはないが、香港のOLたちは 今年 クリスマスの四連休に恵まれる。ここ2、3日 人気の観光地である日本へ旅行に来る大勢の香港人が成田空港に殺到する。
フィリックスは 彼女たちに一瞥してから、下を向いたまま なにかを考えているようだ。途中でコートの裏ポケットにある小さい箱を引き出して、暫く見つめている。
やがて 電車がのろのろホームに入ってきた。東京方面から来た列車だ。電車の扉が開いたら、乗客が降りてきた。
扉が開けた状態で、先ほどフィリックスが目にした女性二人は列車に乗るべきかどうかを迷っているように列車に乗ろうとする。その2人はこの駅から電車で第一ターミナルに行くわけではないと思うフィリックスはペンチから立ち上がり、彼女たちのほうへ寄り始めた。
近付いたら、フィリックスは一人の女子大生らしい女性に広東語で声をかけた。「どちらへ行きますか?」と言って、彼女たちは乗車を取り止めた。
「この列車 東京駅に行くのでしょうか」女子大生らしい女性が振り向いて、丁寧に聞き返した。
「違いますよ。空港第1旅客ターミナル行きです。」フィリックスは素早く答えた。
「でも、先ほど 案内所で問い合わせをしてみたら、快速エアポート成田も東京へ行けるって」もう一人の傲慢そうな女性はちゃんと日本人の駅員と確認できたことを自慢げに言い返した。
「これが快速エアポートだけど、終点の第1旅客ターミナルへ行きます。約20分後この電車が戻って、東京へ出向きます。」フィリックスはだれよりもJR快速エアポート成田のことに詳しい。
「じゃあ、この電車はどうせ東京へ行くなら、ホームで待つより 今から乗り込めば 席が取れるじゃないか?」傲慢そうな女性は言葉でフィリックスへ攻めた。
「あなたたちは終点で降りさせられて、改札口を抜けなければいけないかもしれない。それで、只今買った東京行きの切符は無駄になるね。」フィリックスは負けず嫌いで、説教ぶりの言い方で反撃を展開した。
「そうですか、教えてもらって、ありがとうございます。」女子大生らしい女性が優しく礼の言葉を送った。やはり 最初に声をかけた女性に愛想があるとフィリックスは思った。
「いいえ、どういたしまして。」フィリックスは優しい声で言い返した。
それから、あの傲慢そうな女性と目でも合わせたくないか、フィリックスは後ろへ下がって、別の位置に移った。
彼はまた何かを考え込んでいるところ、午後4時3分発の久里浜行きのJR快速エアポート成田がようやくホームにやってきた。
「終に来たなあ!」フィリックスは右手を拳にして、一つのお願いをこめるような気持ちで列車に乗った。フィリックスは車内で席に座り込んだら、先ほどホームで案内してあげた女性二人が向こうに座っているのがわかった。あの気強い女性の目を逸らそうとしたが、突然 彼女から声をかけられた。
「あら。あなたもこの列車に乗るんですか?」
「そんな馬鹿な質問したの?」フィリックスは本音で答えたかったが「ええ。」一言で落ち着かせた。
「一人で来たんですか?」そう言われたら、フィリックスは耳が痛くなった。彼は無言で頷いた。
「クリスマスの休みに一人で日本へ遊びに来るのは寂しいじゃないですか?」
今度 フィリックスは胸が刺されたような痛みが感じられた。
「一人で来たけど、ぜんぜん 寂しくない。クリスマスに好きな人と過ごせるから。」フィリックスは一人で日本へ来るのはちゃんとした理由があると言い切った。
「そうですか。とてもロマンテックだわ!相手は日本の女性でしょうか。」愛想のある女子大生らしい女性は羨ましそうにコメントをつけた。
「日本の女の子です。」日本人の彼女のことを言及されると、フィリックスは口元に微笑みが現れる。
「今日はクリスマス・イブで、わざわざ日本へ来て、彼女と会うんですね。」女子大生らしい女性は引き続きフィリックスの機嫌をとるように言った。
「ええ、これから彼女と会いに行きます。今年のクリスマス・イブは格別です。いや、今年のクリスマス・イブは僕の人生にとって、もっとも大切なクリスマス・イブと言えるかもしれない。」フィリックスはコートの裏ポケットの所に表で手を軽く押さえながら、今日が大切な日だと宣言した。
「今日はとっても大切なクリスマス・イブって?」先ほど危うくフィリックスと口喧嘩をしている女性は知りたくなるように訊ねた。
フィリックス大きくうなずいたが、これ以上のことには口を聞かなかった。
「なんだろう?」ずっとフィリックスと相性が悪そうな女性は要領を得ないような表情を見せた。
フィリックスは終始あの女性からの質問に答えはしなかった。彼はむっつりと黙り込んだままで、雰囲気が気まずくなった。
「遠距離の恋愛をしていて、凄いね!」やがて 女子大生らしい女性は沈黙を破った。
「すごい恋愛なんかいらない。気をつけば、"恋に落ちたなあ"という気持ちが最高だ。」フィリックスは女子大生らしい女性から褒められた言葉に偉そうに反応した。
「あなたは本当に珍種の男だね!遠くにいる彼女との恋を続けられるのは。一体 彼女はどこがいいか?」フィリックスと相性の悪そうな女性はやはり根性がある。また冷やかしているようにフィリックスへ質問した。
フィリックスはすぐには怒らないが、この質問の答えに詰まった。
「人を好く具体的な理由なんて 本当はないだろう。すべて純粋な感覚だ。」自分の気持ちを簡単に他人へ訴えるわけはない彼はやっと社交辞令のような答えを口にした。
その後、四街道駅から三人の会話が途切れた。フィリックスはこれからのことを集中的に考えたいので、二人の女性がしゃべってくれないうちに目を閉じて、クールに居眠りのふりをした。
約30分後、「まもなく津田沼駅に到着します。忘れ物のないようにご注意ください。津田沼です。」到着案内放送を耳にしたフィリックスは目が覚めた。席から立ち上がって、降りる支度を始めた。真正面にある扉へ向ける際、自分の旅券よりもとてもとても大事そうな小箱がコートの裏ポケットにちゃんと入れてあるか、香港を出発してから四回目に確認しておいた。
「メリークリスマス!」フィリックスは二人の女性に一言で挨拶をした途端、列車の扉が開いた。彼は一息を深呼吸した。「行くぞ」と気合を入れて、馴染みの津田沼駅のホームへ出て行った。
第一章 愛とめぐり会う
2005年2月
1
朝日の日差しが静まりかえったワンルームの窓越しに差し込んできた。香港の2月は一年中一番寒い時期だ。夕べ 実家のカナダから帰ってきたフィリックスは まだ 暖かな布団の中で寝ている。寒さに強いし、時差ぼけなんか全然平気な彼は 今朝 ベッドから起きる気になれないようだ。
枕元に日本の女性タレントが書いた写真入りのエッセー集が置いてある。エッセー集のカーバーにタレントの大きなサインが書き込まれた。
昨日の夕方 フィリックスは成田空港でバンクバー発のJL18便から香港行きのJL735便に乗り換える時 偶然に搭乗ゲートの近くで あのタレントを発見した。彼はちょうど出発フロアーにある本屋さんであのタレントのエッセー集を買った。もしかしたら 彼は まだ 夢の中であのタレントからサインをもらった瞬間を思い続けているだろう。
フィリックスは香港生まれ、カナダ育ちで、顔つきが東洋と欧米のハフに近い童顔の31歳の独身男だ。身長は163センチあり、"アリTOキリギリス"の石井正則さんのような小柄の人だ。
彼はアニメを除き、日本のことが何でも好きだ。特に芸能界のことなら、アイドル、タンレト、女子アナ、そして、日本の女性のスポーツ選手のことに日本人も驚くほど詳しい。
彼の部屋には日本の物が疎らに溢れている。本棚から調べると、ビジネス系の雑誌―
“TRENDY”, “日経エレクトロニクス”など。アイドル系の雑誌に ”BOMB”, “アップトウボーイ” などある。そして、日本語の書籍に徳渕真利子さんが書いたエッセイ―”新幹線ガール”とか、日下公人氏の日本経済に関する著作、ビジネスマナーの本が数冊あり、写真集類の書籍には女優の相武さんの写真集、大橋アナの自筆エッセー集などある。
本棚の下にある箪笥の中にJPOPのCDと演歌のCDが合わせて50枚くらい収められる。もちろん 日本のTVドラマ、映画、アイドルのDVDも計30枚ある。
それから 部屋にある家電製品、AV機器、パソコンはひたすら総合電器メーカのH社の製品で、半分は日本で買ってきた商品だ。キッチンとバスルームにある食料品や日常用品は香港にある日系スパーで買った日本の品物が大半数を占める。またまた 日本へ行った時 入手した広告のチラシ、レストランのサービス券、配布ティッシュペーパーが散々机の上にも、引出しの中にもある。フィリックスの部屋が東京都心に住んでいる独身男性のワンルームと同じくらいだ。
時間が過ぎると外は段々明るくなってきた。壁に寄る目覚めし時計の文字盤に日本の地形を思わせる八時が示されている。その時 フィリックスはようやく目が覚めた。
仕事は9時からスタートする。会社まで バス+徒歩で20分着けるが、洗顔、歯磨き、髭剃り、朝食、着替えという朝の恒例行事は早くとも40分かかるので、フィリックスには もう ぎりぎりの起床時間だ。
「えっ!こんな時間ですか。急がなきゃく!テレビで"めざましテレビ"が放送されたら、中野アナに起こしてもらえるね。」日本の生放送の番組が見られない彼は不満そうに独り言をした。
日本でホテルに泊まる時、彼は早起き者だ。朝四時に自発的に目が覚める。それからベッドで横になったまま テレビのリモコンを弄って、各局の朝番組の看板娘をチェックする。
2
フィリックスは通勤バスの中で日本語の本や雑誌などを読んでいる。但し、今朝 慌てて家を出たせいか?バックに読み物はなかった。今日は 旧正月の休み明けから仕事に戻る。予定はそんなに多くないから、手帳をチェックする必要はないと思うフィリックスは退屈で仕方なく居眠りをすることにした。
フィリックスの働いている会社は日系の電子部品販売の商社で、本社は横浜にある。会社は3年前に設立された。新規の会社だからこそ、職員はあまりいない。社員の中に本社から派遣された日本人の社員が3人で、すでに現地に移住した日本人の社員が1人。そして、現地採用される香港人の社員が8人いる。フィリックスの国籍はカナダだが、現地採用の社員として雇われているので、地元の社員人数が9名となる。
フィリックスが会社に着いたのは9時過ぎだ。同僚に軽くあいづちをしながら、自分の机へ向けた。約五分後 フィリックスのボスである日本から派遣された総責任者の渡辺修一が会社に来た。渡辺社長は後1年で50歳になる中年の方にもかかわらず、いつも人にニコニコと迎えているから、だれにも渡辺社長のことが親切で人懐こいと思われる。
その後 フィリックスは 渡辺社長に呼ばれ、一緒に会議室に行った。
「さあ、僕 四月の中旬 恒例の本社の総会に出席するため、一時 日本へ帰ること 覚えてね。」渡辺社長は自分が4月と10月に一時帰国することをフィリックスに思い出させるように今朝の打ち合わせを始めた。
「大体 一週間 香港事務所にご不在ですね。」フィリックスはよく覚えている。
渡辺社長は留守中に本社とのやり取りをフィリックスに任せる。地元の社員の中に日本語で本社のスタッフとコミュニケションできるのはフィリックスしかいない。社長は今日話してくれるのは留守中に頼まれる仕事の話だとフィリックスが思った。
「実は 今年の四月からフィリックスを本社の総会に連れて、一緒に出席するつもりだ。」渡辺社長に言われた。フィリックスは 半信半疑のように渡辺社長の話を聞き続く。
「フィリックスは香港支社へ入社してから、2年立った。本社とのやり取りをするきっかけが増えてきたね。僕の考えでは年に2回開く総会でフィリックスが顔を出して、本社のスタッフと顔を合わせれば、いいじゃないかと木戸海外営業課長に話してみた。」
フィリックスはプライベートで年に2、3回日本へ行くが、出張で日本へ行ったことはないから、彼にとって それが朗報のはずだ。
2005年4月
1
4月15日は本社へ出張する日だ。フィリックスは香港支社の社員として初めて本社へ訪ねる。彼は前にも東京へ遊びに行った時、ついでに横浜の本社へ寄ったことがあるから、本社へ行く道が大体わかっている。
渡辺社長を含め、松岡、経理担当の磯部と営業部長の宮下の4人はすでに14日の午前に日本へ帰国した。だから、フィリックスは15日の朝 自由行動の形で日本への出発に臨む。
渡辺社長と日本人の社員たちは帰国する度に 大体 香港系のCX便を利用している。確かにCXのほうは他の航空会社より 香港発東京成田行きの便数が多いので、旅行者に使いやすい。しかし、フィリックスは日系のJL便を愛着している。日本へ旅行に行っても、カナダへ帰省に行っても、相変わらず 午前10時半頃発のJL736便で旅を立つ。数年間にわたって、貯まった飛行マイル実績のおかげで 日本の国内線の無料特典航空券はもとより、香港―東京―バンクバー間の国際線の特典航空券を二度も獲得したことがある。最近 彼はJLのエリトーメンバーカードの持ち主になったばかりだ。
午前9時までにチャックインに空港へ着かなければならないが、今朝フィリックスは5時半に起きた。家から空港までの移動所要時間は普通のバスで1時間くらいかかる。彼は8時ぐらい家を出ればいいのに、余裕の2時間半 彼は一体何をするだろう?
実は フィリックスは香港でいつも地味な格好をしている。通勤服はひたすら紺色のチェッカー風のシャツで黒いズボンだから、「渡辺社長、ちょっとフィリックスにもっと洒落な服を買えさせるように彼にベースアップしてください。」と一度 松岡に冗談半分で冷やかされた。しかし、日本へ行くなら、フィリックスは自分の容姿にとてもこだわっている。もう 30歳を過ぎたのに、原宿や渋谷で買ったファッションアイテムを出揃えって、できるだけ自分のことを20代くらい見られるようにイメージチェジをする。
今朝 イメージチェジをするから、1時間以上かかると予想するフィリックスは早く起きたわけだ。
やっと出発の時間に近づいて、フィリックスはヘアスタイル用のムーズをシュウシュウと掌に載せて、さっさと髪につけ、スタイルを作った。その後 荷物をもう一度チャックして、電気を消し、スーツの格好で家を出た。
2
飛行機は予定の3時30分より5分ほど早く成田空港の滑走路に着陸した。予定の着地時間より10分以上遅れない限り、電車に間に合うと計算しておいたフィリックスは焦らずに飛行機から降りて、日本への入国手続きにまいる。
午後3時58分フィリックスは無事に空港第2ビル駅のJR乗り場に着いた。
いつも乗っている久里浜行きのエアポート成田は午後4時02分にホームに入ってきた。待合時間はわずか4分しかなかった。
「4分の余裕を予想した。」と呟きながら、計算に自慢したフィリックスは3号車の5B番ドアによる席に乗り込んだ。彼は いつも 馬喰町駅で降りるが、今日 横浜市の桜木町にある本社へ出張するから、このまま 横浜駅まで乗ることになる
午後3時30分着のJL736便と午後4時03分発の久里浜行きのエアポート成田という移動手段がこの先も続いているに間違いはない。今まで 成田空港から馬喰町駅まで乗り換えなしで約1時間15分の乗車は移動の疲れにまだ耐えられる範囲だと思うフィリックスは 以前から カナダから来日する時に 馬喰町駅の近くのホテルを旅の休憩の場所に決めた。今日横浜までの約2時間の乗車は きっと しんどいとフィリックスが覚悟をしておいた。
しかし、長い乗車時間に一つ楽しむことがあります。香港にいる時と違って、フィリックスは日本で電車などの交通機構を利用する時、車内で本や雑誌を読まないし、居眠りもしない。乗車時間は2時間にしろ、30分にしろ、彼は車内で人間観察という習慣をつけた。彼の目玉が監視カメラのように常時四方八面に回る。その目的は もちろん かわいい子を狙っている。彼は日本の女性が大好きだから。
空港第二ビル駅から イオンモール成田までの区間の車窓から見られる外の景色はあまりオモシロくない。電車が地下のホームから地上へ上ると思うと 電車は 暫くの間 丘の中を抜いたトンネルのなかで走行する。ようやく 電車がトンネルから出て、地上で走ったら、2,3分後またトンネルに入って、外が真っ暗になる。毎回列車がこの辺を通る際 フィリックスは心の中で今までの人生が中途半端だと感じる。仕事はそこそこだが、今までの恋愛の結末は思い通りにならないことに痛感している。本来 男に対しては恋愛のことはささやかな事柄だが、フィリックスの人生には納得のいく恋愛がないと、なかなか楽しい人生とは言えない。特に彼は日本人の女性との結婚願望が誰よりも強い。現在やむ得なく香港へ撤退し、またいつか日本へ戻って、新たな彼女を探そうといつも考えている。
彼はあいうことを考え込んでいる最中、電車がJR成田駅に到着した。この時間帯にJR成田駅からたくさんの下校をする中学校、高校の生徒が列車に乗ってくる。フィリックスが乗っている3号車が見る見るうちに女子校生の姿で溢れてきた。フィリックスは制服姿の女子校生を見たら 興奮してきた。彼が日本の女性を好きになった原点はセーラー服の女子校生が好きだったことだ。別にセーラー服のマニアではないが、フィリックスの眼下では日本のセーラー服の女子校生が世界で一番可愛い女の子と認定される。
乗客の乗り降りが終わって、電車が走り出した。3号車の中で立っている女子校生もいれば、先に乗ってきて、席がとれた女子校生もいる。フィリックスは無遠慮に車内を見渡し始めた。彼の視線がレーダーのように左から右へ車内の風景を走査している。
その時 混雑の人込みの中から まるで神様が一つの穴をぬけてくれたように4号車と隣接する8A番ドアによる座席で読書中の一人の女子校生の横顔にフィリックスが目を止めた。パッと見たら、彼女から漂ってきた可愛いさがひときわ目立つ存在だった。あの女子校生は可愛いことは可愛いが、フィリックスに最も印象強いのは 少女の横顔は彼がずっと恋していた理想タイプの恋人の横顔によく似ている。彼は 前に同じく見える横顔をしている女の子に告白した。あの女の子と付き合った。今にも あの子のことしか思っていない。
フィリックスはその場で感動のあまり、一瞬 頭が真っ白になった。時々 視線を遮られても、彼は絶えずに少女が座っている4号車と隣接する8A番ドアのほうへ視線を投げかけている。
やがて 列車が大きい駅である千葉駅に着いたら、立っている乗客たちがぞくぞく降り始めた。その時 フィリックスの視界が広くなった。相変わらず 本を読んでいる少女の顔が60%くらい見えてきた。瞳が小さく見え、首が白々な肌色で清楚な和風感の特徴がはっきり浮いている。和風ルックスの中にも可愛らしさがあり、だれもが可愛がっている無邪気な子のようだ。
フィリックスは 少女の近くに寄りたかったが、彼女が面識のない人から近づくときっと驚くだろうと冷静に判断して、結局 場所を移動するのを諦めた。電車が走っている間 フィリックスは遠くに見える少女の姿から 終始 目が離せなかった。少女がいつ見えなくなるかと心配すると「まもなく津田沼駅に到着します。忘れ物のないようご注意ください。津田沼です。」という到着案内が聞こえた。フィリックスは 少女が席から立ち上がって、電車を降りた様子を見た。そして、少女の姿が乗客の乗り降りの流れの中で消えてしまった。
2005年 6月
1
香港で6月に入ると、暑くなってきた。この時期 日差しが強く照りついた屋外と冷房温度が15度に設定される事務所の屋内との気温差が激しい。したがって 風邪を引いて、病休で1、2日欠勤するスタッフが毎日ほど続出する。13日に磯部と本社からの受注事務を担当するチェリーは風邪で会社を休んだ。加えて、松岡は 今週 日本で仕事をし、渡辺社長と宮下さんが日本から来たお客さんにゴルフを接待するため、事務所に日本人の社員は一人もいないことになった。事務所で少し淋しい雰囲気が漂っている午前中だったが、午後4時頃(香港時間)一本の電話から事件が発生した。
「Wait a minute, please! (少々お待ちください)」庶務の事務員のカレンさんが送話口に英語で言って、フィリックスのところへ助けを求めに行った。
「フィリックス、電話に出てくれないか?本社からチェリー宛ての電話みたいけど。」言葉が通じなくて、困ったようなカレンが頼んだ。
「うん。僕が出るわ。」フィリックスは電話の受話器を素早く取った。
「はい、フィリックスでございます。」
「フィリックスさんですか、田畑です。お世話になっております。」向こうが本社で海外への発注業務を担当する20代後半の女性社員の田畑だ。
「こんにちは、田畑さん、この間 どうもありがとうございます。」フィリックスは直ちに親しむような口調で、田畑に礼の言葉を言った。
「いいえ、こちらこそ、お目にかかれまして嬉しいわ。」そう言われたフィリックスはドキドキしてしまった。4月の総会で会った時の美人系の田畑の容姿を思いついた。
「すみません、チェリーさんはいらっしゃいますか」田畑は訊ねた。
「今日 チェリーは風邪で休みました。どんなご用件でしょうか」
「そうですか、ちょっとチェリーさんと確認したいことがありますわ。」田畑が心配そうに言った。
「代わりに私が確認します。」フィリックスは担当以外の責任を取って、田畑の問い合わせに応えた。
「先日いただいたチェリーさんのメールでは今日の午前中にうち宛の注文品がこちらに届く予定だそうですが、今 5時になってもまだ来ていないようで、そちらからもうご発送されたかどうか確認していただきたいですが。」田畑は具体的に頼んだ。
「そうですか。商品はどんな物ですか?そちらの注文書の番号を教えてくれませんか。」真剣に調査を始めようとするフィリックスが聞き返した。
「光電工さんの商品で、」。
「光電工さんの物ですか。今朝着いたようです。倉庫へ見に行ってまいります。ちょっと待ってください」フィリックスは口を挟んで、受話器を机に置いて、大急ぎで50メートル離れる倉庫のほうへ駆け込んだ。
約30秒後 フィリックスは倉庫から電話口に戻ってきた。
「もしもし、田畑さん。光電工さんのHD―1029ACの商品があったよ。」フィリックスは息を苦しめながら、電話機にいる田畑へ話しかけた。
「はい、それです。」一先ず 安心した田畑は声を上げて、反応した。
「すみませんが、荷物が明日こちらに着くように、発送の手配をしてもらえませんか。」田畑は無理なお願いだとわかりながら、申し訳ないようにフィリックスをお願いした。
「あした、そちらに着くんですか。今 すぐ宅急便を頼んでも、恐らく、あさっての午前中になってしまうね。」田畑からの依頼を受け入れたいが、業者が明日の午後に日本で配送してくれる集荷時間がもう過ぎたので、仕方なく断った。
「そんなにお急ぎですか?」フィリックスは控えに確認した。
「あさっての朝一番 お客さんの所へ届ける約束したんです。実はこの注文は納期が大分遅れた。もうお客様のNYCさんにこれ以上遅れることを許されないわ。」田畑の声が可哀想に聞こえた。
「NYCさんからのご注文ですか?やばいね。」フィリックスは同情するように言った。そして、大事なお客さんからの注文と分かったフィリックスは
「じゃ、わたし 明日そちらへ荷物を持って行こうか」ハンドキャリーの配送の手配という案を練った。
「へえー、大丈夫ですか。」田畑はフィリックスの提案にびっくりしたように反応した。
「大きな荷物じゃないし、軽いから、バックにも収められるので、大丈夫、大丈夫!中国にいるお客さんにしょっちゅうやってるから。」田畑を安心させるようにフィリックスは自分の案を薦めた。
「でも、私 明日午後6時くらい本社に着くと思いますが、待ってくれませんか?」フィリックスは明日田畑と会えるのを楽しみにしている。
「ありがとうございます、明日 着くさえあれば、助かるわ。木戸課長へフィリックスさんが商品を届けに来るのを伝えておきます。」
「えー、田畑さんが待ってくれないですか?」フィリックスはがっかりした。
「すみません、明日 あたし 午後から休ませていただきます。午後6時でしたら、木戸課長がいらっしゃると思います。」
「そうですか・・・わかりました。では、こちらで渡辺社長にも言っておきます。」完全に落胆したフィリックスは提案を出したことにちょっと後悔した。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」田畑が最後に優しい声でフィリックスへもう一度礼を言った。
その後、フィリックスはゴルフをやっている渡辺社長へ電話をかけて、事情を説明した。渡辺社長の了承のうえ、フィリックスは緊急配達をしに 翌日 日本へ行くことに。。
2
今年に入ってから、三回目に日本へ行くことになる。今回は1泊2日の超短い旅なのに、フィリックスはいつものように午前10:30発のJL736便を利用する。第二空港ビル駅のホームに着いた午後3時30分ごろ フィリックスは 早速 4月に本社から借りてもらった日本国内専用の携帯で木戸課長にこれから本社へ移動するという連絡を入れた。木戸課長に手短に報告をして、電話を切ったら、午後4時3分発の電車が来た。フィリックスは無意識に3号車3A番ドアの席に乗り込んだ。
仕事中の出張ということで残念ながら、フィリックスは車内での“人間観察”をせずに、来週 新規顧客へ提出する予定の計画書の草案を最終チェックすることにする。草案を読むのに没頭しているうちに電車があっという間に成田駅に到着した。
前回ほど 成田駅から乗ってくる女子高校生は多くないが、印象が強かった女子高校生がこの駅から電車に乗ってきたことをフィリックスが思い出した。彼は思わず計画書の草案から目を離して、周りを見渡した。すると、向こうの4番扉の前で 二人の女子高校生が立っている。そのうち、一人はとても馴染みの女の子だ。
みつけた!4月に同じ電車でめぐり会ったあの少女だ。
フィリックスは今まで何回もこの午後4:03分発のエアポート成田に乗ったことがあるが、同じ電車で 同じ人と二度と会うのは本当に気まぐれな偶然ではないかとフィリックスが思えた。少女はフィリックスと向かっているようにフィリックスの背を向けた友達と話している。今回は少女の全体の顔つきが見られる。やはり 昔 好きだった子にそっくりだ。清楚な和風の感じで、色白な肌色でとても天然美な顔持ちの少女だ。少女が微笑む時の可愛さを両方の頬に現れたえくぼを通じて無造作に見せた。髪の毛がさらさらして、肩まで落とす。それから 少女が着ている制服も可愛らしい。上が紺色の服で胸元に赤リボンが付けられる。下が格子縞模様のミニスカートだが、スカートの丈はあと2インチで膝に届いて、履いている紺色の長い靴下がほぼ膝のところまで伸び上がるから、腿の露出度が程々だ。
フィリックスは計画書の草案を手元に握ったまま、目つきを色男のようにじろじろ少女に投げかけている。少女のすべての相槌、頷き、微笑み、瞳の動きを一秒も逃さずにカメラのシャッターを押し続けるように目玉が動いている。
「もしもし、書類が落ちたよ!」隣に座っている人がフィリックスの腕を叩きながら、フィリックスに注意した。フィリックスが起きた。彼は慌てて、落ちた書類を拾い始めた。
その時 少女は書類を拾っているフィリックスを数秒間窺った。少女は先ほどフィリックスに気味悪く見詰められたことが気になって、不機嫌そうだった。
書類を拾ったフィリックスは当惑して、再び書類を読むふりをした。偶に 少女を覗いたが凝視するのを止めた。
一方 少女はフィリックスの行動を監視し始めた。すると、お互いが津田沼駅まで40分にわたり、相手を覗い合っていた。
電車が津田沼駅に到着した。少女と彼女の友達は電車を降りる時、フィリックスの傍を通りかかった。フィリックスは振り向く勇気がなさそうだが、少女と再会できた喜びを顔に見せた。
2005年 8月
1
フィリックスにとって、香港の真夏はとてもキツイ。8月に香港で平均気温32度以上の暑い日々が続く。悪天候の場合は雨量が浸水災害まで発生するほど多い。それに 香港では7月と8月に祝日の休みは全然ない。(7月1日の中国返還記念日の一日だけ)もし有料休暇を取らなければ、7、8月の二ヶ月は働き続くお気の毒な夏の季節となる。だから、今年の夏 フィリックスは昔に住んだことがある石川県へ遊びに行きたい欲望が湧き上がった。石川県の夏が懐かしくて、どうしても、この夏 帰りたくなったフィリックスは辛うじて社長に説得してみた。結局 週末前後を挟んで12日(金)から15(月)までの夏休みができた。
2
「来週 石川に行く?」仕事の終わりにフィリックスと一緒に食事をする松岡喜太郎が訊ねた。
松岡は フィリックスより10年の年上で、40代の男だ。いつも 元気ハツラツで、仕事をバリバリとこなす。松岡は長期駐在員ではなく、出張ベースで月に3週間香港事務所に来ている。彼はフィリックスと違う部署で仕事をしているが、二人は仕事のやり取りの接点があまりないこそ、お互いに遠慮なくなんでも話せるわけだ。香港に知人一人もいない松岡にとって フィリックスが香港にいる日本人以外の仲間同士だ。
「田舎の花火大会が懐かしいなあ・・」フィリックスは石川県へ帰るのを楽しみにしている。
「あっちでいろんな思い出が残ってね。もう、君の思い出の話はいいから、やめてくれない?」松岡は飽きた口調で言って、ガラスを口元につけて、一口でビールを飲んだ。
「わかった。わかった。今日は思い出の話をするつもりはないよ。いつも前向けって言われてるね。だから 今度 再スタートをすることに決意した。」フィリックスは手をふりながら、言った。
「えー、もしかしたら 新しい恋人ができた。」松岡はフィリックスの心を読んでみた。
「恋人じゃないが新しい目標が見付かった。」フィリックスは少し照れて、松岡の視線を逸らした。
「新入社員のジャッスカーさんですか?」松岡は即座に予測をした。
「違うよ。彼女はわたしの好きなタイプじゃないし、日本の女性じゃないと・・」フィリックスはさっさと松岡の予測を否定した。
「えー、だれだろう?」しばらく考えたら、「本社の田畑さんと付き合ってる?」
最近よくフィリックスの口から耳にした女性は田畑のことを覚えた松岡は自信満々に予測をした。
「あー、惜しかった。一ヶ月前に考えたことがある。けど、彼女を諦めた。」フィリックスはその場で松岡を落胆させた。
「やはり社内恋愛はいけないと予感しているよ。同僚と恋をすると、周りが煩くなるね。それで、相手にも自分にも心理的な圧力を受ける必至だよ。しかも、上の人が社内恋愛を容認されるかどうかを懸念してる。最悪の場合 もし相手に断れたら、今後 仕事の接点があれば気まずくなっちゃうよ。いろんな角度から考えれば、やはり無理だ。」心配性のあるフィリックスは田畑のことを断念した理由を詳しく述べた。
「始まらないと、なにが起こるかわからないぞ。」松岡がフィリックスを慰めてみた。
「で、新しい目標 だれだ?」松岡は フィリックスの好きな子がだれか 聞き続いた。
それで、フィリックスは電車で二度と同じ子に偶然に会ったことを伝え始めた。
「4月に本社の総会へ行ったんですよ。行きに電車で一人の女子高生に会った。」
「女子高生?」松岡が驚いて、口元に運ばれたばかりの甘エビ刺身を噴出した。
フィリックスは松岡から噴出された甘エビ刺身を避けるように体をちょっと右に傾げた。
「松岡さんの反応が酷かった」フィリックスは呆然とした。
「ごめん、ごめん!ちょっと先 君の話に反応しすぎた。」松岡は皮肉っぽく言った。
「それで、6月に本社に商品をハンドキャリーした時、同じ電車で、同じ時間にあの女子高校生にまた会えた。それは神様から与えられた機縁かなと感じた。」フィリックスは少女との出会いは奇遇のことのように話し続けた。
「まあ、大体午後四時くらい子供たちは学校から帰る時間よ。ただの偶然ではないじゃない?本当にあの女子高校生に惚れてる?」松岡はフィリックスが女子高校生に興味があるのをまだ信じられないようだ。
「あの子は特別よ。とても印象が強かった。」あの少女を見た感想を言ったが、フィリックスはあの少女が昔好きだった子に似ていることを話さなかった。
「さすが 君はアキバー系。女子高校生とか、アイドルとか、メイド喫茶とかさ 興味があるんだ。こっちが完全に参ったなあ。」松岡が苦笑をした。
「もし、今度また会えたら、アタックをしよう!」妄想をしてきたフィリックスは少女との展開に期待しているみたい。
「マジ?」松岡は危うく笑い出すようにフィリックスの本意を確認する。
「来週 日本へ行く時、あの子と再会できると思うか?」松岡が引き続きフィリックスに聞いた。
「期待しいているよ。」フィリックスが素直に答えた。
「多分 期待外れだろう。8月 学校は夏休みだから。」松岡は大トロの刺身を口元に運んで、口の中でその大トロを噛みながら、冷やかすように言った。
「ああ、そうか!」フィリックスは冷静になって、残念そうに呟いた。
「でも、彼女は電車でどこかへ出かけるかも。」フィリックスは再び彼女と会える自信が蘇る。
「あの時間に?」それは無理だと思った松岡は再び冷やかした。
「可能性があると思うよ」フィリックスは率直に言った。
「はあ!」どうしょうもなくフィリックスが妄想するのを制することができなかった松岡が悲鳴をあげた。
「じゃ“社内恋愛”ではなく、“車内恋愛”が始まるんだ。」松岡はダジャレをしたように言って、ガラスに残ったビールを一気に飲み干した。
フィリックスは小さく笑った。
3
待ち遠しい夏休みがやっと来た。フィリックスは あの女子高校生とまた会えるのを楽しみにしながら 一つのバックを背負して、旅立った。
案の定 彼は午後4時3分発のエアポート成田に乗れた。電車の中で空席がいっぱいある。お盆の休みが始まったばかりで、海外から帰国する人は多くないはずだ。フィリックスは目を瞑って、少女が成田駅から乗ってくれる奇跡を待っている。成田駅に近付けば、近付けるほど フィリックスは息があがっていく。
9分後 電車が成田駅にたどり着いた。フィリックスは目が覚めたら、目の前に二人の中年男性しか乗ってこなかった。辺りを見渡しても、女子高生の姿も、あの少女の姿もどこにもいない。期待していた少女は今日乗ってこなかったようだ。彼女の姿が見えなかったフィリックスは扉が開いているうちにホームへ突き放した。もう乗ってくる人影は一人もいない。発車案内が聞こえた途端、彼はすぐに列車に戻った。どうやら少女は今日乗ってこないらしいと思ったフィリックスは大きく息を吐き出した。瞬間的に奇妙な虚無感が彼を惑わせた。
このまま、諦めたくないフィリックスは少女の姿を探す行動を展開し始めた。3号車、2号車、1号車という順に車内を歩きまわる。少女はどこにもいないので、また1号車から2号車、3号車に歩き戻った。4号車と5号車はグリーン車なので、少女が乗らないはずだ。そして、フィリックスは次の駅で降りて、急ぎ足で6号車へ駆け込んだ。今度6号車から7号車、8号車という順に捜査を行う。やはり 少女の姿が見つからない。最後に8号車から6号車へもう一度車内を歩き回った。
歩きに疲れたフィリックスは6号車で落ち着いて、肩を落とした。今日は少女と会えない現実を受け止めるしかない。列車の窓から外の通り過ぎていく景色をぼんやり眺めながら、少女のことが頭に浮かべた。「やっぱり夏休み中だなあ。今度十月に会おうね。」フィリックスはかすかな声で言い聞かせた。夕日の太陽の反射でフィリックスの元気なさそうな顔が窓に映った。
2005年 10月
1
香港は10月になると、住みやすくなった。特に中旬から台風シーズンが終わり、稀に青空が見られる日和の日が多くなる。このような気持ちよい気候の中 フィリックスは7日、8日、そして9日に 三日間 横浜の本社へ出張することになる。
今回の総会ではフィリックスは本社の社員たちを対象とする10分間のスピーチを頼まれた。議題は中国のお客さんへの対応についてだ。これから 本社は海外事業を強化して、中国の市場への進出を中心とする海外営業をいっそう展開する。これをきっかけに本社の社員たちに海外事情をもっと分かってもらうため、木戸課長がフィリックスに頼んだ。多少 北京語ができるフィリックスは中国のお客さんに対する窓口業務を通じて、中国のお客さんとのやり取りの経験を積んできた。にもかかわらず スピーチでもっと学術的な講義を送られるため、資料をもう少し調べなければいかないと思うフィリックスは出張の1週間前から 自宅のパソコンで資料を収集し始めた。
資料を集める3日目 フィリックスは不意にインタネットの検索ページで ”千葉県―成田市―高等学校”と検索入力の欄に入力した。少女がどこの学校に通学しているかを知りたくて、フィリックスは検索をしてみるわけだ。キーボートの入力キーを押すと、学校のホームページのリンクが数多く出ていた。どこの学校のホームページを開くべきかを迷ったフィリックスは検索条件を“JR成田駅―高校”に絞った。すると、彼女が在籍する可能性の高そうな数件の学校のホームページのリンクが現れた。
「この学校は地理的には駅に一番近いが、制服はそうじゃなかったけ?他の学校へ行ってみよう。それはどうだ?あ!高校付属の中学校だ。全然違う。これはどうだい?学校の所在地の地図を覗いてみよう。わあー!駅まで徒歩で20分か?遠いなあ。でも、彼女は駅まで自転車に乗れば、断然 平気だよね。もう一件を調べてみよう。あ!彼女の制服とぴったり。これじゃないの?学校の行事のリンクへ行ってみよう。十月に何かあるかな?10月6日、7日に運動大会の開催。僕 7日に成田にいるはず。そうか、彼女はいつも津田沼で降りるらしい。津田沼駅の周辺を調べてみよう。」フィリックスはこのように独り言をしながら、本業の仕事を完全に忘れたようだ。3時間以上 インタネットで少女の身元に関するリサーチを続けていた。
2
今回の出張 フィリックスは磯部と一緒に香港から横浜本社へ出発することになった。磯部は髪の毛がもう白くなった60歳の方。実は彼は5年前すでに退職した。その後 一人で香港に来て、現地の日系の中小企業から委託を受け、現地の経理事務を代行する会社を設立した。それで、下請け業者として故巣の香港事務所の経理事務を担当するわけだ。磯部はとても無口な人で、今までフィリックスとの会話履歴が数え切れるほどとても少ない。彼の性格は外交的な松岡と反対だ。
空港で待ち合わせた時 朝の挨拶した以来、フィリックスと磯部は機内で隣席に座ってもむっつりと黙り込んでいた。成田に着いた時、二人が本社へ移動する交通手段について食い違った。最初に磯部がリムンジバスで行くのを決めた。フィリックスは即座に落胆したが、異議を言わなかった。幸いに 午後3時50分発のバスも、次の4時零分発のバスもいっぱいだった。
「午後4:03分横浜行きの電車がありますので、電車で行きませんか?」フィリックスは電車で移動することに抵抗感がありそうな磯部に勧めた。
「しょうがない。」磯部さんは一言でフィリックスと共に電車のホームへ向けた。フィリックスは自分の案を受け入られて、一応ホットした。
電車に乗れるとは言え、フィリックスは電車の中で少女と会える予感はしない。彼女が在籍すべく学校は この二日間 運動会をやっていると四日前にわかった。しかし フィリックスは相変わらず少女と会えるのを楽しみにしている。
電車は予定とおり午後4時11分に成田駅のホームに着いた。車両の扉が開くと、無意識のうちにフィリックスの目は少女を探していた。しかし、目の前には 数人の女子高生が乗ってきたが、制服はあの少女が着ているのと全然違った。
今日も少女が会えないと意識したフィリックスが気を落とした。磯部と同行するから、他の車両へ少女を探しに行くわけには行かない。だから、その後 フィリックスは居眠りをしている磯部さんを見て、明日 総会で発表するスピーチの原稿を読み始めた。
知らずに知らずに 原稿を読んでいるフィリックスも眠たくなってきた。
しばらくして フィリックスは長い車内放送を耳にして、目が覚めた。隣に座っている磯部も居眠りから起きた。
「次の船橋駅で人が路線に飛び込んだ人身事故が発生したそうね。今の放送によると。一時 運行を見合わせるって」磯部さんが起きたフィリックスへ説明した。同じ睡眠状態で、フィリックスは放送内容を聞き逃したのに、磯部がすべて聞き取れた。
「ああ!そうですか。」フィリックスは感心したように言った。それで、窓の外を見たら、電車が津田沼駅に止まったと初めて分かった。
「いつ運行が再開されるでしょうか。」フィリックスは磯部に丁寧に聞いた。
「5分後、運行が再開される見込みだそうだ。」
その時 少し喉が渇いたフィリックスは
「すみません、ちょっとホームのキオスクでジュースを買ってきます。磯部さんはなにか要りますか」念入りに聞いた。
「いや、大丈夫です。ありがとう」磯部さんは素っ気に言った。
「では、行って来ます。」と言って、フィリックスは電車を降りた。
3,4番線のホームで降りたフィリックスは 右手を見ると、50メートルほど売店を見付けた。すると、彼は売店の方へ足を運び出した。
売店に着く寸前、フィリックスは急に歩度を止めた。向こう側の5,6番線のホームで数人の10代の女の子がわいわいと喋っている様子を見かけた。よく見ると、女の子たちのうちに今日会えないはずあの少女がいる。少女は私服を着ているが、フィリックスは少女の顔つきをしっかり覚えているから、彼女のことがすぐ分かった。三ヶ月ぶりに会ってないし、そして 予期されない場所で彼女が見えたのは完全なる奇跡じゃないだろうかとフィリックスは感無量だった。
彼はホームで立てたまま、視線をずっと友達と楽しく話しそうな少女の可愛い笑顔に投げ掛けている。その時 少女は自分を誰かに見詰められているのを意識したらしく、彼女の頭がなにかを探しているように動き始めた。ほどして、少女はフィリックスに目が止まった。少女は今までの笑顔を消し、険しい顔をしている。
フィリックスは少女がこっちを睨めるのに気が付いた。少女にこう睨められたら、自分のことが彼女の心の中に存在しているとフィリックスが思った。彼は少し勇気を出して、こっちを見ている少女に軽く会釈した。そして、少女の反応を待たずに、売店へジュースを買いに行った。
買い物が済んで、車両へ戻りにフィリックスはもう一度5,6番線のホームを覗いてみた。少女はまだホームにいるが自分を隠すように一人の友達の後ろで立っている。さぞ 彼女を少し怯えさせたかと意識して、フィリックスは彼女を見つめるのを止め、足を動かした。
2005年 12月
1
2005年はあと1ヶ月で終わる。香港では25日と26日にクリスマスの祝日の休みとなる。今年はとてもラッキーだ。もし 23日(金)の一日の休みをとれば、祝日の26日(月)までの四連休ができるはず。フィリックスは毎年のクリスマスの休みに必ず日本のどこかへ遊びに行く。8月に石川県に”帰省”したから、12月に石川県以外の所へ行くことにする。まだ 行き先が決まっていないフィリックスはクリスマスの休みの3週間前に航空券の予約に旅行会社へ足を運んだ。クリスマスの直前のせいか、フィリックスは旅行会社で30分以上待たされた。
「23日に日本へ出発し、26日に帰えるチッケトを予約したいです。」フィリックスはようやく自分の番になって、カウンターで頼んだ。
「日本のどちらへ行かれますか?」旅行会社の係員は目的地を確認する。
「東京でも、大阪でもいい。空席があれば」フィリックスは日本へ行くことが決まったけど、依然として旅先がまだはっきりしてないようだ。
「23日に大阪行きはどの航空会社も予約がいっぱいです、東京行きは格安のチケットはもうありません。25日から午後の便がありますけど。」フィリックスは係員に予約状況を告げられた。
「JL便はどうですか?」やはりJL便を予約したいフィリックスは躊躇なく聞いた。
「ありますけど、普通運賃となっています。往復で7000HKドルです。(日本円で10万相当)。税金などの諸費用は別です。」
予約が遅かったと覚悟をしておいてから、秋葉原の辺でうろうろしてもいいから、東京行きのJLチケットの予約を惜しまずに頼んだ。
「お客さんの名前をお願いします。」係員がパソコンのモリタに向かって、チケットの手配を始めた。
「姓がチャン、苗字がフィリックスです。」
「もう一人の名前をお願いします。」係員が聞き続いた。
「一人分のチケットでいい。」
「はい、わかりました。」旅行会社の係員はちょっとモリタから目を離して、フィリックスをチラリと覗いた。日本では一人旅をする人も少なくないが、香港人が一人で旅行するのはなんだか不思議だと思う。だから、旅行会社の係員がフィリックスのことを不思議に思って彼を覗いたわけだ。
最後にフィリックスがいつも乗っているJL736便の予約が取れた。フィリックスは今回 日本へ行く時、また電車の中であの少女と会えるのを全然考えない。昔 石川県の加X町の教育委員会で働いた時 学校の冬休みは大体12月23日から始まることを覚えている。だから成田に着く予定の23日には彼女はもう学校を休むだろう。
2
フィリックスは23日にエアポート成田の3号車に乗り込んだ。頭の中で休みの4日間 東京でどう過ごせばいいかを考え中だ。一日に横浜の本社を遊びに、25日に松岡と食事でもする企画をしている最中、列車が成田駅に到着した。3号車に二人の男子高校生の後に一人の制服を着ている女子高校生が入ってきた。あの女子高校生はフィリックスの向こうの席に腰をかけた。フィリックスは向こうに座っている女子高校生を見たら、女子高校生が今まで3回会ったことがあるあの少女だと分かった。それで今回少女と会ったのは4回目となった。彼は自分の目を疑って、体が一瞬震った。
少女はバックからドリルのような本を取り出そうとするところ、フィリックスのほうを向いた。フィリックスの口元に怪しそうな笑顔が見られる少女は呆気にとられている様子だった。我に返った少女は さっさと 手元に握っている本のページを開いて、読むふりをした。
少女が喜ぶか、驚くか 彼女の反応にさっぱり手がかりないフィリックスはぎこちなくバックから読み物を取り出した。取り出されたのは先ほど空港第2ビルの駅の売店で買ったビキニーの格好をしているグラビアアイドルが表紙を飾った週刊誌だ。フィリックスは表紙を見たら「まずい」と発覚して、すぐバックの中に戻した。続いて 別の読み物を引き出した。それが東京23区マップだ。彼はマップを読み始めた。
それ以来、二人とも読書に夢中しているようだ。39分を経過して、少女が読みかけの本を閉じ、バックに入れ戻した。電車が津田沼駅のホームに着いた。少女は立ちあがり、フィリックスの隣にある扉を出ようとする。電車の扉が開くまでの30秒間 少女は下を向いたまま 極力 フィリックスから目を逸らした。
扉が開いたら、少女は確認するため、一度 視線をフィリックスの方へ送った。フィリックスは少女に見られたのに気付き、顔を上げて、少女を一目した。少女はどうやらフィリックスに気味が悪く見られたと感じて、慌てて、開いた扉へ駆け込んだ。その瞬間 少女の着ている白いセーターの左側のポケットから、鍵のような物が列車の床に落ちた。少女は急ぎ足で扉を出たから、物が落ちたことに全然気付かなかった。
フィリックスがその光景を見たら、思わず「ちょっと待って。」声をかけて、少女に呼び止める。少女は聞こえなかったか?怖がっているか?フィリックスを振り向かなかった。必死にホームの階段へ走り続けた。フィリックスは素早く自分のバックを抱え、少女が落ちた鍵を拾って、車両を出た。前にいる少女がまだ走っているので、フィリックスは少女の後を追いかけようと決意した。
二人はまず3番線のホームから階段を上って、改札ホールに上がった。改札口を抜けて、左折して、北出口を出た。フィリックスは少女の後から「すみません、すみません、ちょっと待ってください」と呼び止めながらも、少女は足止まりをするつもりはなさそうで、一生懸命に走り続けている。北出口の前にある大通りに沿って、二人がまるで映画などに
もよく出ている追いかけシーンを上演した。通り過ぎた歩道者が驚くように走っている二人を振り向く。
少女は最初の交差点にぶつかた。手前の信号がまだ赤信号なので、少女は青信号になるのを待たずに、角を左に曲がって、国道60に入った。向こうに交番があったが、あまりの驚きで、少女は見逃したようだ。20メール離れるフィリックスは諦めず少女を追いかけている。少女は200メートルほど走っていると、向こう側に青果物の店がある。そこで、少女は左右に首を振って、上りと下りのラインで車が走っているかどうかを確認してから、国道を横断した。そして 小さい通りを真直ぐ走っていく。
フィリックスは同じように国道を横断して、少女が走った道へ入った。彼は普段 週末の朝にジョギングをする習慣があるが、こんなに速く走るのにそろそろ限界だ。彼は息が苦しくなってきた。幸いに小さい道の突き当りに少女が立ち止った。少女の左側に一戸建てがある。一戸建ての前で少女がセーターのポケットを探っているらしい。
フィリックスがやっと少女から8メートルのところまで追いついた。少女が探っている様子を見て、「あなたは これをお探しですか?」とフィリックスは訊ねて、少女が車内で落とした鍵を彼女のほうへ投げ掛けた。少女はフィリックスを振り向いて、目敏く上手に合掌で鍵を取れた。
「なんで、私の鍵をあなたが持ちますか」少女は何か起こったかわからないように声を立てて、フィリックスへ質問した。
「さき、電車を降りた時、あなたは鍵を落としたんだよ。それで、こっちが返そうとしたが、あなたは ずっと走り続けていた。もう息が消えたよ。」フィリックスは息を苦しみながら、冷静に彼女を追跡した理由を説明した。
そして、フィリックスは前のほうに進すもうとすると
「近づかないで、警察を呼ぶから」少女はバックから携帯を取ろうとしている。
「落ち着いて!落ち着いて!あなたに悪いことをするつもりはないから。」フィリックスは事件を巻き込まれたくないように願った。
少女はフィリックスを監視しながら、背を向けた家のドアを振向いて、戻された鍵でドアを開けようとする。“ガチャ”という声が聞こえてから、ドアが開いた。少女は迅速に家の奥へ入ろうとする。その直前に「何回かあなたと会えて嬉しいです。」フィリックスは微笑んで言った。
少女はフィリックスの言ったことの意味が分からないけど、フィリックスに軽く頷いたようだ。そして、少女は中に入って、ドアをしっかり閉めた。
フィリックスは嬉しそうに少女の家の前でしばらく立っていた。その後 軽快な足取りで 国道69に戻り、津田沼駅のほうへ歩き出した。
2006年 2月
1
毎年の旧正月の休みにフィリックスはカナダへ一時帰国する。今年も例外ではない。でも、今年 カナダへ帰る前、東京に一泊滞在することにした。フィリックスは東京で別に用はないが東京へ移動中にエアポート成田の列車でまた例の少女に会うのを期待するだけだ。もし 会えたら、勇気を出して、少女に声をかけようと決意した。
いつもの東京成田行きのJL736便で、いつもの乗っている午後4時3分発のエアポート成田で、恋が萌える予感がするフィリックスは出発の日が早めに来るように祈っている。車内で少女が見えたら、彼女へどうアプローチすればいいか?何を話したらいいか?もし、少女が自分と話すのを嫌がるなら、どう始末すればいいか?日本へ出発する数日前にフィリックスはいくつかの場面を想定して、作戦を練っておいた。
2
2月8日にフィリックスは日本に着いた。エアポート成田に乗ってから10分後 電車はいつも少女が乗ってくる成田駅に着いた。フィリックスの胸が非常にドキメキしている。
3号車の扉が一斉開くと、彼は辺りをキョロキョロ見回し始めた。すぐには見付からないが、電車が動き出したら、制服を着ているあの少女はフィリックスが座っている所より10メートルほど斜め前のシルバー席に座り込んだ。あの少女が座っている所はちょうどフィリックスが予想した場所だ。
少女の前で2人の背の高い女性が立っている。そのため、彼女はまだフィリックスのことに気が付いてない。
少女が思ったとおりに出現したのに、フィリックスは直ちに果敢な行動をとらなかった。こちらから声をかけても、少女は自分のことを覚えてくれるかを心配しるわけだ。たとえ 覚えてくれても、わざと覚えていないふりして、その場で無視されたら、どこかに隠したいほどの恥ずかしさにどうも収拾がつかないと恐れている。彼はもう少し様子を見て、行動をとろうと判断した。
時を流させたまま 電車が酒々井駅に着いた。その時 少女の前で2人の背の高い女性が降り、一人のお婆さんが列車に乗ってきた。少女は まだ フィリックスのほうを向いていない。
お婆さんは右手に重そうな荷物を持ちながら、少女のへ寄っていく。そして、少女の近くで立ち止った。
少女はお婆さんを見て、直ちに席から立ち上がった。お婆さんの腕を軽く叩いて、着席を勧めようとした。お婆さんは人懐こい笑顔で少女に一礼をして、譲られた席に腰掛けろうとする。突然 一人の中年の男性が少女の左側から入り込んで、お婆さんに譲った席を奪って、呑気に座り込んだ。少女もお婆さんも呆れた。
なにもかも見ていたフィリックスは席を奪った男の行為に見耐えなれなくて、思わずそちらへ向けた。
「すみません、先ほど この少女がお婆さんに席を譲ったんですが、どうか お立ち上がりくさい。」フィリックスは少女を一瞥して、あの無礼講な男を向いた。
少女はフィリックスが突然傍に現れたことにびっくりした様子を見せたが、彼と平行に立ち並び、席を奪ったあの男と戦う。
「あれ!彼女が降りるじゃないか?」男は席を離すつもりはなさそうだ。
「私がお婆さんに席を譲るつもりだった。席を返しください!」少女は肯定的口調に言い返した。
「いやぁー!足がちょっと痛くて、品川まで我慢できないよ。」男は理不尽な口実で席を返すことを堂々拒絶した。
「はあ!」納得いかないように少女が男を見据えた。
周りの人たちも厳しい眼差しを男に投げ掛けた。
「お婆さん、ちょっといいですか?」フィリックスはお婆さんの手元にある重そうなバックを引き取った。
「すみません、お婆さんの荷物をここに置かせてください。」フィリックスはおばさんのパックを男の人の腿の上に下ろそうとする。
「なにをやるつもりだ?君。」男はフィリックスの非常識な行動に怒ったように反応した。
「お婆さんは網棚に届かないから、荷物をここに置かせれば有難いですが、ご協力をお願いします。」フィリックスは正義感が溢れて、良識なさそうな男へ反撃した。
自分に非があったとわかり、男は参いた。そして、フィリックスの顔を怒りっぽく一見して、席から立ち上がり、2号車へ去った。
その後 フィリックスはお婆さんの荷物を綱棚に持ち上げた。少女はお婆さんに再度席を勧めた。フィリックスと少女と力を合わせて、あの男を撃退した。
「荷物は綱棚に置きますが、大丈夫ですか?」フィリックスは親切な口調でお婆さんに聞いた。
「ありがとう!大丈夫です。自分が下ろせるから。本当に ありがとう!」お婆さんはフィリックスと少女に向けて、何度もお辞儀をした。
フィリックスと少女が「いいえ、どういたしまして。」同調で言い返した。
度々の偶然に妙に感じた二人はお互いに相手の顔を見合わせた。二人ともニヤッと笑った。少女は最初に「ありがとうございます。」口にした。
「いいえ、あなたの優しさに感心すべきです。」フィリックスは少女と向かるのは少し照れている。
「この間、どうもありがとうございました。」少女は十二月の出来事に対して、フィリックスへお礼をした。
「あー!あの件ですか」フィリックスは思いついたような口ぶりに返事を返した。彼はずっと彼女からのお礼を待っていた。
「もし、鍵がなかったら、あたし 3日間ホームレースになっただろう。ちょうど両親がおばあさんを見舞いに兵庫県へ行ってしまった。あたしだけが家の留守番だ。ほんとうに助かりました。」少女は感謝の気持ちがいっぱいだった。
「そうですか。だから、最後にあなたが頷いたわけですね。」少女が自分の言った“何回かあなたと会えて嬉しいです”にうなずいたのをフィリックスは思い浮かべた。
「でも、あなたはなぜそんなに早く走っていたの?いくら呼んでも あなたを止められなかった。」フィリックスは問いかけた。
「実は あなたのことを怖がっていた。今まで二、三回 あなたに尾行されたような気がするから。」
「えっ、つまり 私のことをストーかーと思われますか?」フィリックスは単刀直入に聞いた。
「だって、本当に怖いもん!知らぬ人にじろじろ見られたのは。」少女は当時の心境を語った。
「そうですか、私は別に怖いとは思いませんよ。」フィリックスは呑気そうに言った。
「男はもちろん心配することはないが、女の子は気をつけなければ。」少女は警戒ぶりの口調で言った。
「わたし、わざわざ あなたを尾行するつもりはありません。でも、本当に奇跡だと思う。今まで何回かこの電車であなたと会えたこと。」
「わたし 大体 学校からこの電車で家に帰るね。」少女はこの電車を利用するわけを述べた。
「ということは あなたは成田駅の近くの学校に通学して、家は津田沼ですね。」フィリックスは探偵さんの口振りで少女から確認を求める。
「もっと正確に言えば、学校は下総松崎駅に一番近い。家は船橋市の前原区にある。}
フィリックスは彼女の学校がすぐ分かった。家の所在地ももちろん分かっている。
「毎日 この電車に乗りますか?」フィリックスは 彼女のことをもっと知りたくて、聞いた。
「いいえ、部活があるときは6時以降の電車に乗って、家へ帰ることもあるよ。」
「いつも、一人で電車に乗りますね。」彼女は恋人がいないかを確認したいようなニュアンスで聞いた。
「友達はみんな成田市の周辺に住んでいる。クラスの中であたしの家が一番遠い。」
「あなたは船橋市に住んでいるけど、成田市の学校に通うのはなぜですか。」
「親友と一緒にいたいから、高校を成田市の学校にした。」
「親友?」フィリックスはとても関心を持っているように声を上げた。
「多分、あなたは彼女を見たことがあるかもしれません。時時 この電車に一緒に乗るから。」
「あ!あのちょっと太めの女の子ですか。」二回目少女に会った時に背をむけた一人の女子高校生が少女と話していたことをフィリックスは思い出した。
「そうそう。幼稚園からの知り合いだ。中学校までずっと一緒だった。でも 彼女は高校に入る前に船橋市から成田市に引っ越してしまった。」
「なるほど。」フィリックスはなにか分かったようにうなずいた。
「今まで、あなたはこの電車で何回あたしに会ったの?」少女は不意に質問をした。
「そうですね、4回くらいかな。今日も含めて。一回は津田沼駅のホームであなたを見つけた。多分 あなたも覚えているだろう。私たちちょっと視線を交換したから。」フィリックスは毎回少女と出会った情景をよく覚えている。
「えつー!ちゃんと数えたんですか?」少女は信じられないような口調で聞き返した。
「大体です。」フィリックスは不意に照れた。
その後 二人はつり革をつかみながら、質問と回答を交えて、立ち話を続けていた。今までの展開において、スタートは意外だったが、後はほとんどフィリックスの思案どおりに進んでいる。
ほどなく電車が津田沼に近づける。
「あなたは 次で降りますね。」フィリックスは名残惜しいぶりの言い方をした。
「うん、あなたは?}
フィリックスは馬喰町と答えるつもりだったが、とっさに地名の読み方が分からなくなった。地名の読み方を間違えたら、大変 恥ずかしいことだ。それで 本社へ行く時に乗り換えをする横浜駅と返事した。
「わあー!遠いね。」少女はびっくりしたように言った。
「ええ。」フィリックスは相槌をうった。
もう時間はない。今更 彼女の名前さえも分からなくてはいけないと思うフィリックスは無理やりに彼女へ訊ねた。
「ちょっと、いいですか?」
「はい。」少女は素直な笑顔でフィリックスを振り向く。
「お名前はお伺いしてもいいですか?」
「あたしの名前?」少女は少し当惑したように聞き返した。
実はフィリックスは彼女の携帯番号を知りたかったが、いきなり少女に聞くと、まだストーカーと誤解される恐れがあるじゃないかと遠慮した。
「ほら、また 今度 車内であなたと会えたら、名前で呼んだほうがいいじゃかいと」フィリックスは少女の名前を聞く理由を作った。
「そうか。あたし マナミです。」と少女は無邪気に微笑んだ。
「始めまして、私は フィリックスです。」フィリックスも素早く自己紹介をした。
「フイ。。リックすって、本名ですか?」少女は耳にしたことを疑っているように訊ねた。
まだ、自分が日本人ではないと分かってくれないので、マナミを驚かせたくないと思うフィリックスは
「あー、英語の名前を付けた。フィリックス・キャットというアニメのキャラクターを知ってる?あのキャラクターから自分に英語の名前をつけたわけだ。」賢く説明したよう。
「あー、あの人間化された白黒の猫だったけ?子供の時 テレビで見た覚えがあるよ。」少女は愛嬌ぶりに子供の時の記憶を述べた。
「ええ、それです。」フィリックスは素早く認めた。
その時 電車が津田沼駅のホームに着いた。
「あたし ここで降ります。では、さようなら!フィリックスさん。」マナミは親切に別れの挨拶をした。
「また、会いましょう、マナミさん。」フィリックスはマナミが見えなくなくなるまで、手を振っていた。
彼女の連絡先を取れなかったが、またマナミと会えると信じているフィリックスは恋が萌える感じがする。
2006年 4月
1
初めて エアポート成田線でマナミと出会うのはおよそ1年前だ。マナミは今年の4月に入ってから、17歳の高校3年生となった。学校は変わらないが授業時間や部活の時間が前学年と違うかもしれない。フィリックスは 4月に出張する時 また マナミと会えるかどうか少し心配しながらも、再会を期待している。
フィリックスは マナミのことをもっと詳しく松岡に話した。松岡の考えではフィリックスはマナミより14の年差があり、日本の女子高校生との遠隔地恋愛することは まずありえないという悲観的な見方だ。味方の松岡にも高校生のマナミとの発展にはうまくいけないと厳しく言われたフィリックスは マナミのことを親にも、他の同僚にも、カナダの友達にも話はしないことにする。彼は 只今 まさに孤軍戦いの状況で、非常に寂しい。しかし 彼は必ずマナミと恋愛することができて、いつか みんなが羨ましがってくれると信じている。
2
待ちに待った出張の日がやってきた。去年の4月と同じく フィリックスは一人で日本へ出発する。飛行機に乗る前に 彼は「もし、今日 マナミに会ったら、絶対 彼女の連絡先をゲットするぞ」と誓った。
フィリックスは 予定どおり 午後4時03分 第二空港ビル駅発の電車の3号車に乗り込んだ。車内でフィリックスはいろいろ考え込んでいるようだ。うまくいくならば、マナミと一緒に津田沼駅で電車を降りて、マナミを近くの喫茶店にでも誘う企画を練ってきた。
しばらくして、電車が成田駅に到着した。フィリックスは自分が座っている4A番ドアによる席から 手前の5番の扉に目をやった。扉が開くと、4人の女子高校生が先に乗ってきた。前列のマナミと友達がしゃべりながら、フィリックスとすれ違って、右のほうへ向けている。
2ヶ月ぶり会っていないのに、高校3年生となったマナミはベッピンスクールガールと見られる。首には細い首飾りをしている。
フィリックスは桜の満開ごとく燦爛とした笑顔を口元に現した。「また、会えてよかった。」と呟いて、ガッツポーズをした。
しかし、マナミは どうも フィリックスが電車の中にいるのに気が付かなかったようだ。彼女は3人の友達と共に7番の扉のほうに移った。そこで、二人の子は席に座れたが、マナミと親友と思われる一人の子が二人の子の前で立っている。マナミは可愛い白熊ちゃんの模様が付いている黒い麻のバックを網棚に置いた。
去って行ったマナミを見たフィリックスは勇気を出して、彼女のほうへ歩み寄った。
「マナミさん、こんにちは!」フィリックスはマナミに近付いたら、声をかけた。
マナミはフィリックスを振り向いて、「あ!あの・・、フイ・リク・ス さん」危うくフィリックスの名前を忘れるほど マナミがびっくりしたように返事した。
「久しぶりです。お元気?」フィリックスは知り合いの口振りでマナミに聞いた。
「ええ、元気わよ。あら、今日は また 横浜へ出張ですか?」マナミはスーツの格好をするフィリックスに訊ねた。
「ええ。」
「お疲れ様です!」マナミは微笑みながら、言った。
「ありがとう!」フィリックスは照れくさくて、返事した。
「学校 もう 新年度が始まったでしょう。」フィリックスは日本の学校事情がよく分かった。カナダの学校の場合は新学年度が9月からだ。
「ええ、今年は高校三年生になりました。大学受験のことで大変かもしれないけど、がんばります」マナミは右手で拳にして、元気ハツラツでかんばる姿勢を見せた。
「そうですか、念願の大学に合格するように。それで、最後の一年の高校生活を楽しく過ごして下さい!」フィリックスはマナミに励ましの言葉を送った。
「ありがとう!」マナミは微笑んだ。
二人が夢中に話している際、マナミの3人の友達が代わる代わる制服を着ているマナミとスーツを着ているフィリックスを不思議に見ている。
「あー、ごめん!ちょっと 顔見知りの人に会った。」マナミがフィリックスと夢中にしゃべって、友達を無視したことに気がついて、友達に謝った。
「フィリックスさん、こちらはこの前話した友達。」マナミは左手で立っている髪が短く、少し太っている女の子をフィリックスに紹介した。
「こんにちは、フィリックスです。」フィリックスは初めて面と向かったマナミの親友に挨拶した。外見には 親友のほうがマナミより 年上のような感じがする。
「はじめまして、ヒロコです。よろしく!」ヒロコは礼儀正しくフィリックスに挨拶した。
「それから、アヤとミクです。」マナミは座っている二人の女の子も紹介した。
「はじめまして。」二人とも一般の女子高校生のようにはにかむにフィリックスへ挨拶した。
「こんにちは!」フィリックスは好都合に挨拶を返した。
その時、突然 ヒロコが「もう着いたよ。」と皆に降車を促した。
電車が佐倉駅のホームに止まった。マナミ、アヤとミクの3人がヒロコと一緒に開けた扉のほうへ迅速に駆け込んだ。
「じゃね、フィリックスさん。」マナミが慌てて、フィリックスを振り向いて、電車を降りた。
こんなに早くマナミと別れたのは想定外だった。フィリックスがその場でマナミに「さようなら」も言えずに、途方に暮れた。それから マナミのメールアドレスさえもゲットできなくて、悔しくてたまらない。
がっかりしたフィリックスは頭を上げて、網棚に目をやった。目の前にあるバックはマナミが乗車した時に置いた白熊ちゃんの模様が付いている黒い麻のバックだ。フィリックスはあのバックを網棚から取ろうとしたら、バックの中から 日記のような小さいメモ帳が落ちた。メモ帳を拾った際、フィリックスの指はメモの表紙を擦った。表紙の次のページにメモ帳の持ち主の連絡先などのデータがチラッと見えた。フィリックスは ページを開いて、ざっと見たら、名前の欄に 漢字で”西本愛”と書いてある。それから、電話番号の欄に090−8984−9873とメールアドレスの欄に manaimi-july-13-t.b@ezweb.ne.jp.と書き込まれている。 その下の住所の欄に"千葉県船橋市前原西2−XX"と記載される。
フィリックスは マナミの漢字の名前は分からないが、あのメールアドレスを見たら、このバックはマナミの忘れ物だと確信する。メールアドレスの頭に英字でmanamiと書いているから。でも、フィリックスに一番興味あるのはあのメールアドレスの構成だ。最初の部分は自分の苗字で、後につくのはなにかを意味する期日となっているメールアドレスはフィリックスの好きだった人のメールアドレスの構成と同じだ。まさかの偶然重ねた偶然だ。
その時 どうでもいいからと思うフィリックスはアイデアが閃いた。マナミへ電話で直接連絡するよりも、彼女へ忘れ物通知をメールにしてみる。彼はバックのポケットから、日本国内用の携帯を取り出して、マナミにメールを書き始めた。
“こんにち、マナミさん。電車男のフィリックスです。
先 マナミさんは電車の網棚に置き忘れたバックを拾いました。
わたし これから 佐倉駅へ戻りますので、佐倉駅へ忘れ物を取りに来てください!"
久しぶりに日本語で携帯メールをしたフィリックスは丁寧に一つ一つの文字を打った。最後に送信ボタンを押して、マナミへ初めてのメールを送った。その後 彼は次の物井駅でU−タンして、佐倉駅へ行く電車に乗り換える。
マナミは自分が忘れ物をしたことにまだ気が付いていない。彼女は今ヒロコたちと一緒に足の怪我したクラスメイトを見舞いに成東駅へ向けている最中だ。南酒々井駅に あと2分で着くところ、マナミは携帯のメールの着信音が聞こえた。彼女は頭を下げて、セーターのポケットにある携帯を取り出して、覗いてみた。知らない送信者のアドレスだが、題名が目立った。
「忘れ物?なにそれ」マナミは自問自答して、“メール見る”ボタンを押した。メールの内容を見たら、フィリックスから送ってきたメールで、自分のバックを先の電車に忘れたことわかった。
「あー!ごめん!あたし、今の電車で忘れ物をしたわよ。」マナミは傍に座っているヒロコへ口を聞いた。
「じゃあ、成東駅で係員へ連絡すれば、物を取り戻してもらおう!」ヒロコは冷静に解決策を提案した。
「いや。先ほど会ったフィリックスさんはあたしのバックを拾ったみたい。」マナミはまだ信じられないような口調だ。
「本当?なんでフィリックスさんはあなたのバックを拾ったのがわかったの?」ヒロコは半信半疑ように訊ねた。
「フィリックスさんがメールを送ってくれた。」マナミは自分の携帯をヒロコに見せた。
「えつー!彼は 今 どこいるの?」ヒロコはマナミの携帯を窺った。
「これから、佐倉駅へ戻るって。」マナミは少し考えてから「あたし次の駅で降りて、佐倉駅へバックを取り戻しに行ってくるわ。」言い続けた。
「君 一人で大丈夫?確か この間 一人の男によく尾行されるって言ったけ?もしかしたら それがストーカーのトリックかも。」ヒロコはマナミのことを心配しながら、多少フィリックスのことを疑っている。
「大丈夫!それがあたしの勘違いね。フィリックスさんはよさそうな人だ。」この前車内でお婆さんに譲った席が奪われた事件で フィリックスの力で 席を奪回された光景がマナミの頭に映っている。
「じゃ、わたしとアヤとミクが先にレイナちゃんの所へ行くよ。」ヒロコはマナミに参ったように言った。
「うん、あたし あとで 来るからね。」
マナミはすぐ携帯でフィリックスさんからのメールに“佐倉駅の改札口で待ち合わせよう”という返事をした。
「じゃね。」友達を振り向いて、マナミが次の南酒々井駅で降りて、佐倉駅へ駆けつけた。
3
マナミは 南酒々井駅で ただ3分だけ 待たされて、千葉方面行きの上り電車に乗れた。それに反して、フィリックスは 物井駅で電車を降りた時 ちょうど銚子方面行きの下り電車とすれ違ってしまった。結局 マナミより約15分遅く 佐倉駅の改札口に着いた。フィリックスは改札口で待っているマナミの姿が見えて、呼びかけた。その光景はまるでカップルが約束したデートの待ち合わせのようだ。
「すみません、マナミさん。お待たせまして。」フィリックスは微笑を湛えている。
「いいえ、また、ご迷惑をかけましてしまいました。今度は忘れ物のせいで!」マナミは丁寧に腰をかがめ、謝った。
「私からのメールが届いた?すみません、勝手にマナミさんにメールを送った。」フィリックスは謝りながら、白熊ちゃんのバックをマナミに手渡した。
「ありがとう!」マナミは礼を言ってから「もう、マナミさんを呼ばないでください。マナミっていいわよ」子供のように自分のことを呼び直す要望を出している。
「ええ。」フィリックスは軽くうなずいた。
「あたしのメモ帳から分かったの?あたしのメールアドレス。」マナミは検問する口ぶりで訊ねた。
「ええ、でも、不本意に見られた。バックを拾った時、メモ帳が中から飛び込んできた。それで、マナミさんの連絡先が書いてあるページがチラッと見えた。」フィリックスは早速マナミのメールアドレスが分かった経緯を真面目そうに説明した。
「よかったわよ。悪者に見られたら、大変だ」真面目になったフィリックスの様子を見たマナミはそっと笑った。
「悪者?ストーカーとか?」
「ええ。最初 フィリックスさんはそういう人間だと思った。」マナミはもう一度フィリックスに対する第一印象を振り返った。
「なるほど!そうね、全然知らない人に追いかけられた。」フィリックスはある程度マナミの立場になった。
「でも、もう フィリックスさんは顔見知らぬ人とは言えないわね」
数回も フィリックスと会って、マナミは段々彼のことを受け入れたようだ。
このまま、二人の会話が調子に乗ってきた。その途中で フィリックスは駅の出口周辺を見回した。
「今、ちょっと いいでしょうか?そこの茶店屋さんでゆっくりしましょうか?」フィリックスはマナミに初めての誘いを申し込んだ。
マナミは何か思いついたように発車案内の電子掲示板をチラット伺いた。
「ごめん!本当に恩を返しに何かを奢ろうと思ったが、今成東に行かなきゃ・・。友達が待ってるから。ごめんなさい!」マナミは両手を合わせて、頭を下げた。
先ほど久里浜行きの電車で会った女の子たちを思い出したフィリックスは仕方がなくマナミとの初デートの悲願を諦める。
「ええ、また 今度ね。」少し間を置いて、「これから、マナミさんにメールをしてもいいですか」フィリックスはマナミに確認してみた。
「いいわよ。メールを待ってる。」マナミはすぐにOKサインを出してくれた。
「最後に一つのお願いをしてもいいですか?」フィリックスは優しい声でねだった。
「なに?」マナミは優しくなったフィリックスを不思議に思って、目を大きくした。
「僕のことをフィリックスって呼んでもいい?」フィリックスはマナミに自分のことをもっとお馴染みのように扱われたい気持ちが湧きあがってきた。
「あ!わかりました。じゃ、私をマナミと呼んでくださいね。」愛はにこにこしながら、言った。
「はい、漢字で愛って呼びますように。」フィリックスはマナミの下の名前の漢字が気に入った。
「あれ?」マナミはフィリックスの言ったことが分からないようで、首を傾げる。
「あなたの下の名前の漢字が好きだ。」フィリックスは差指で空中に“愛”という漢字を書く。
愛はフィリックスが自分の下の名前を漢字で書いているのとわかって、目を細めた。
第二章 愛の絆になる
2006年 5月
1
本社の同僚たちや香港事務所の同僚たちは最近フィリックスがイキイキしていることが気になってきた。これまでのフィリックスは暗気な者とは言えないが、去年までのフィリックスを比べれば、彼が著しく明るくなった。彼になにか起きたかみんなが分からないくせに、噂が流れる。しばらくマネジャーに昇進されることとか、横浜の本社に移動されることとか、給料が2倍アップになることとか、本社の田畑と付き合っていることとか みんなが出鱈目に予測している。しかしフィリックスがとても元気になった理由をだれよりも正確に予測できたのは松岡だ。
「例の女子高校生との発展が佳境に入った?」週末 フィリックスに食事を誘われた松岡がその時訊ねた。
「ええ。絶対神様に与えられたチャンスだ。」フィリックスは愛と最初に出会った時から、彼女の連絡先を手に取れるまでの経緯をもう一遍松岡に言い尽くした。
「いいね。俺も一度体験してみたいよ。」2人の高校生の息子の父である松岡は羨ましそうに言った。
「正直に言って、ここまで進んできたのは本当に案外だ。」フィリックスはビールガラスを持ち上げて、ビールを一口に飲んだ。
「毎日メールとかやってるの?」
「そんなに頻繁じゃないけど、週に二、三回くらい。」
「女子高生と何をしゃべるの?」14歳年下の子と共通の話題はないだろうと思う松岡は問いかけた。
「彼女の学校生活とか、彼女の趣味とか、好きな歌手や俳優とか。僕も 大体日本で流行っているものについてるから 基本的には彼女と何でも話せるよ。」フィリックスは愛と年齢ギャプは一切ないと強調した。
「じゃ、君は外国人のことを彼女は知ってる?」松岡は 今度 フィリックスと愛の間に文化の差異があるのを持ち出した。
「まだ バレっていないけど、僕は仕事でよく海外へ行くと言ってるだけ。でも、いずれか自分のことをわかってもらえないと。。」フィリックスは危機感を感じたように言った。
「あの女子高生と付き合いを続けるつもりか?」松岡は改めて慎重な口調で聞いた。
「今 始まったばかりで、なんとも言えないよ。成り行き次第というか。こっちが本当に恋をしている気分がするね。こんな気持ちは久しぶりだよ。」松岡を振り向いて、豪快にグラスのビールを飲んだ。
「最後はどうなるかはわからないけど、フィリックスはいつも日本で彼女を探すって。実は難しいよ。遠距離恋愛は。僕は 月に三週間 単身赴任で、香港で仕事をしてるでしょう。香港にいる間 電話で奥さんと連絡をとれてるが、やはり寂しい時も多かった。」松岡がビールを飲みながら、少し寂しげに語った。
「僕は奥さんと大体同じ年で まだ 行けるが、今時の日本の女子高生は何を考えているかさっぱりわからないぞ。もしかしたら、彼女は彼氏がいるよ!」松岡はちょっと酔っ払ってきたようで、目を半分に閉じたまま、言い続けた。
「僕の勘では彼氏はいないと思う。」フィリックスは確信ありげに言った。
「彼女のことを信じるのか?」松岡は少し泥酔った状態でフィリックスを振り向いた。
「ええ、彼女は真面目な子だと思う。」いくら フィリックスはビールを飲んでも、頭がまだはっきりしているようだ。
「じゃ、俺は長い目で見守ろう。」言った途端、松岡は頭をテーブルに伏せた。
「松岡さん。しっかりしなさいよ!」松岡の肩を揺らしながら、頭の中で自分がどれだけ愛を好くかを真剣に考えている。
2006年6月
1
フィリックスは愛に会いたい気持ちが増してきた。それに まず愛に教えなければならないことがあるので、6月には休みはないのに、三連休ができるように金曜日か月曜日のいずれかに休みをとることにする。こうして 2泊3日の短期滞在ができる。
毎月 2泊3日の短期滞在が一回、4月と10月の出張が二回、12月と2月の長い休みに日本へ寄る一回ずつ 一年中愛と会うことが出来るはず。遠距離恋愛だから、仕方がないが、フィリックスは なんとかなると信じる。
2泊3日の短期滞在の場合は金曜か土曜に日本へ出発するかを愛の都合によって決められるわけだ。
予め メールで彼女の都合を確認した結果、 今月 彼女は最終の日曜日がいけそうだ。
愛が二度とフィリックスに助けてもらったことに感謝するため、彼の誘いに応えたわけだ。それで、初めての二人きりのデート場所は千葉ポートタワーと決まった。
フィリックスは土曜日に日本へ出発して、千葉駅の近くホテルに泊まる。彼にとって、女性とデートするのは2年半ぶりだ。
2
愛とデートする日の天気が晴れ、少し汗が出るくらい盛夏の気候だった。
その日の朝 フィリックスはとても忙しかった。ホテルを出る前に何度も鏡の前でヘアスタイルをやり直した。衣装もデートに合うかどうか厳しくチャックしていた。フィリックスは ファンション誌を参考にして、上が白いTシャツに 黒いジャケットに、下がジンズに薄茶色なカジュアル靴を履いている。香港では 夏の時 Tシャツと短パンで済むフィリックスは少し辛抱して、出来るだけ 自分の洒落な姿を愛に見せたいわけだ。
約束時間は午後12時だが、フィリックスは10分前に1階のホールに着いた。トキメキしながら、愛の姿がいるかどうかを確認するようにホールを見回した。5分ほどして、スポーティーなポロシャツワンピの格好をしている愛が入り口から入ってきた。ポニーテールをして、格別に活気ありそうな愛は肩に この前 電車に置き忘れた白熊ちゃんのバックがかかっている。
「あー、フィリックスさん、こんにちは!」愛は元気な声で挨拶した。
「こんにちは。」フィリックスは喜悦にうなずいた。
「大分 お待たせた?」愛は気を遣って聞いた。
「ええ、一週間待っていた。」フィリックスは悪戯げに返事を返した。
「そうか!お気の毒さまね。」愛も悪戯ぶりの口調で言い返した。
「今日の愛は可愛いね。」フィリックスは一先ず褒美の言葉を送った。
「ありがとう!私服のあたし、やっぱり 違う?」愛はフィリックスからもっと褒美の言葉を聴かせてほしい。
「私服も、制服も同じく可愛い!」
愛は無邪気に笑っている。
「では、どうしますか?先 展望台に行くか、それとも 食事にしようか?」愛はこれからの予定をフィリックスに任せた。
「そうね。先に展望台に上りませんか?お腹はまだ大丈夫だから。」フィリックスは自分のお腹を叩きながら、言った。
「じゃ、展望台に行きましょう。」活気の溢れる愛は差指で天井を指しながら、言った。
二人はチケットの販売機で展望台の切符を買って、展望台へ向かっている。展望台フロアに上がると目の前に千葉港の景色が現れる。晴天に恵まれて、展望台の西側から遠くにある東京湾の景色と富士山もチラット見ることができた。
「綺麗ね!この景色。」愛は思わず声を上げて眼下の風景を満喫した。
「今日はいい天気だから、よく見えますね。」フィリックスは満足そうに言った。
「あたし 昼間に ここ 2回来たことがあるわよ。今日の眺めが一番素敵! フィリックスさんはここ初めてですか?」愛は窓の外の景色を見渡してから、フィリックスの方へ振り向いた。
「フィリックスだけで呼んでくれない?」フィリックスは促すような口調で言った。
「あー!忘れた。フィリックスね。でも 治せないかも。フィリックスは先輩だから。」愛は意地を見せたように言い返した。
「先輩、後輩なんか関係ありません。とりあえず 私のことを友達として扱ってくれれば。。ほら、ご要望どおり、こっちがあなたのことを愛って呼んでるよ。」フィリックスは愛との距離を縮めるように再びお願いした。
「失礼だけど、おいくつですか?」フィリックスのことに関心を寄せてきた愛は聞いた。
「相手が外国人だったら、相手の年を聞くのはタブだよ。」フィリックスは微笑んで、注意したように言った、
「あなたは日本人だもん。」愛はフィリックスのことをずっと日本人だと思った。
「私は日本人じゃないよ。」フィリックスは素早く否定した。
フィリックスは自分の身分について、愛に告知すべきタイムミングになったと意識した。
「えっー うそ!あなたは外国人?」愛は怪訝そうにフィリックスを睨めている。
「実は 国籍はカナダで、今 香港に住んでいる。」
愛はさらに当惑したような顔をしている。
「私は香港生まれだけど、小さい時から、カナダに移住した。言わば、中国人系のカナダ人だね。」フィリックスは話を続けた。
「へえー」愛は不思議そうに頭をうなずいた。
「フィリックスは僕の苗字で、姓は陳です。」
「フィリックスちゃん?」愛は不意にフィリックスの姓と苗字を連結した。
「ええ、僕はフィリックスちゃんです。」フィリックスは笑った。
「日本語がお上手ね。全然気がつかなかったわよ。」愛は感心した表情で言った。
「四年前 石川県に3年間住んだことがある。その時 日本語ばかりしゃべっていた。」
愛は無言で頷きながら、フィリックスの話を聞き続ける。
「びっくりした?」フィリックスは真正面に愛の顔を向かって、聞いた。
愛)に自分が外国人であることを受け入れられるかどうか、フィリックスは少し不安だった。
「うん。」愛は大きく頭をうなずいた。
「でも、外国人の友達ができて、うれしいわ。あたし 将来外国で生活してみたいし、英語も上手になりたい。」無事に愛が事実を受け止めてくれた。
「本当?」フィリックスは愛にそう言われて、一応 ほっとした。
「君はいい人が見付かったぞ。」フィリックスは自称自賛をするように本音を吐いた。
「どういう意味?」先 フィリックスの言ったことの意味を確かめるように。愛はフィリックスを見据えた。
「いろいろ外国のことを教えられる友達ができたことね」フィリックスは素早く言い直した。
「まあね。」愛の笑顔が再び見えた。
「じゃ、昼飯に行こうか?」フィリックスは勧めた。
「ねえ!英語でしゃべってみて。」ちょっとフィリックスの英語を聞きたい愛は要求した。
「Would you like to go for lunch now?」フィリックスは即時英語に切り替えた。
「えー!何をしゃべった? 速かったよ。もっとゆっくりしゃべって。」愛は耳に生の英語がまだ慣れていない。
「OK」フィリックスは もう一遍 “昼ごはんを食べに行きませんか”のことをゆっくり英語で言った。
愛がフィリックスの言ったことを聞き取れた後、すぐに「Yes」で答えた。その後 二人は日本語と英語を交えて、いろいろな話に花を咲かせていた。
二人は ランチを食べるにポートタワーの展望室の3階にある喫茶店へ移動した。二人はとても運がよかった。ランチタイムに喫茶店でお客さんがいっぱいだったが、二人は窓際のテーブルの席につくことができた。地上109メートルから美しい景色を眺めながら、食事ができる最高の場所だ。愛は洋風のサービスランチに、フィリックスは和風の定食セットにした。
食べ物が来るのを待っている間に 愛はフィリックスのことについて、再び質問した。
「よく日本へ来るんですか」
「ええ、年に4,5回くらい。出張が2回と長い休みに必ず遊びに来る。」フィリックスにとって日本はそんなに遠くない。
「そうですか。だから、電車で スーツの格好も見たことあるし、旅行バックと私服の格好も見たことがあるね。」愛はなんとなく何かが分かったように言った。
「電車での愛は学校制服ばかりでしょう。」愛に対する第一印象と言うと、やはり制服の格好だ。
「電車の中で あたしと会う時 大体学校から 家に帰る途中だよ。」
「面白いね。電車で何回か同じ人と会えるのは」この奇跡はいつか実を結ぶだろうと思うフィリックスは重ねた偶然を強調したかった。
「あたしも不思議に感じるわ。通学する朝の列車で会った人と翌日 又 会えるのはしばしばあるけど。フィリックスと会うのは不定期だが、いつも下校の時間でしかないね。もしかしたら、フィリックスは意図的にあの電車に乗って、だれかと会わせるのを図ったよう気がする。」愛が理論的に分析している。
「あまり 考えすぎないでね。私 成田に着いたのは大体3時半。飛行機を降りてから 一番早く乗れる電車はあの電車のわけだ。」
「JRの電車にしか乗らないの?」愛はグラスの水を飲みながら、聞いた。
「私が一途です。好きになったら、ずっと好きです。」愛の顔を見つめるフィリックスの瞳が愛おしさに溢れている。
愛は恥ずかしがって、思わず その瞳から目が逸らせなくなっていた。
「よく日本に来るから、日本が好きでしょう?」愛は話題を切り出した。
「うん、好きよ!」フィリックスは素直に認めた。「今までの人生 成田空港への出入りは 100回に近いと思う。」彼は引き続き言った。
「へえー、すごいな!で、今回は仕事に来ているの?」
フィリックスはしばらく考えた。愛と会うために来るって言いたかったが、告白の兆しを愛に感じさせないように「いや、休みに来ているよ。」と考え直した。
「どのくらい滞在する予定ですか」
「3日間です。」フィリックスは呑気に答えた。
「はあ!チケットはもったいないじゃないの?」愛は目を大きく丸めにして、同情ぶりの口調で言った。
「まあ、日本が好きだから。しょうがないなあ。」フィリックスは笑いながら言った。
その時 フィリックスがわざわざ自分と会うために来ているじゃないかと愛は心の中で少し感動した。
食事のあと 二人は千葉ポートタワーの周辺を散歩した。
あっという間にデートは時間になった。初めてのデートで 愛はフィリックスと会ったのに別にドキドキしなかったが、日本人のような優しさが彼から感じられる。
一方 フィリックスにとって 自分が外国人であることを愛に受け入れられて、嬉しかった。とりあえず、今の段階では国境や年齢の差にもかかわらず 友達として愛と付き合えば、もう十分だとフィリックスは思う。
2006年 7月
1
7月13日の木曜日は通常の出勤日だ。朝6時半ごろ フィリックスはベッドから起きた。顔を洗い、歯を磨いてから、早速 自宅のパソコンの電源を入れた。ウインドウズが立ち上がると、メールプログラムを開いた。アドレス帳から愛(マナミ)の携帯メールのアドレスを探し出した。彼は何かを考え込んでいるようにしばらく愛(マナミ)のアドレスを見つめている。
「間違いはない!」フィリックスは自分に言い聞かせた。朝一番 彼は愛にメールを送る様子だ。愛のアドレスを入力してから、件名の所に"今日 お誕生日 おめでとうございます!"と打った。本文の所に英字で“Happy Birthday, Manami! From Flex”と書かれた。初めて 愛へ誕生日の祝いのメッセジーを書き終えたら、フィリックスは送信ボタンをクリックした。
10分後 愛から "ありがとうございます!どうして 今日 あたしの誕生日がわかったの?教えた覚えがないはず。じゃ、これから、二時間目の授業に入る。また今晩チャットで話しましょう。マナミ" という返信が来た。
予想より早く来た愛からの返事を見て、フィリックスは喜んでいた。
13日の夜 二人はパソコンの音声チャットで話をする。
「メッセージをありがとう!なんで フィリックスはあたしの誕生日を知ってるの?」愛は今朝の質問をもう一度持ち出した。
「うん、なんとなく、分かったよ」フィリックスは分かった理由をはっきり言いたくないみたい。
愛はフィリックスが自分の誕生日の日を知った理由がわかった。
「頭がいいね、こんな細かいことにも気が付いた。」
そうだ、愛のアドレスの構成を見ると、愛の下の名前のローマ字と“@”マークの間に“july_13”が挟んでいる。その日付から、フィリックスは愛の誕生日の日付を推定したわけだ。
「今日 いっぱいケーキを食べました?」フィリックスは愛の誕生日の話で会話を始めた。
「クラスメートにご馳走になったわよ。」
「いくつになった?」
「18歳です。」
「えつー、」フィリックスはわざと意外に思ったぶりをして声を上げた。
「その反応、どういう意味?」愛は少し怒りっぽく聞いた。
「愛は まだ子供っぽいところがたくさんあるよ、もっと年下じゃないかと思った。」
「そうなの?あと2年で20歳の成人になるわよ。今から子供っぽいところを治さなきゃ。。」愛は自覚していうようだ。
「直さなくてもいいよ、愛はそこが一番かわいいから。」フィリックスは思わずに愛(マナミ)に対する思いを漏らした、
「かわいい、きれい、どっちかというと、大人になったら、やはりきれいって褒められたくなるわね。」愛は将来どんな風に成長していくかを想像する。
その時 フィリックスはWEBカメラの電源を入れていないことに気が付いた。
「ちょっと WEBカメラを使ってもいいですか?」フィリックスは念入りに確認した。
「だめ、今 部屋着をしてるから。」愛は愛嬌な口調で言った。
「わかった。愛はもうすぐ夏休みだね?」フィリックスは次の約束への布石にするように訊ねた。
「ええ。でも、休みの期間 学校で行事がいっぱいあるわよ。」愛は気の毒に言った。
「夏休みにも学校に行く?」
「そうよ!石川県の学校もそうだったじゃないの?」愛はフィリックスに昔のことを思いさせた。
「ええ、思い出した。それでも、行事が楽しかったよ。」
「そうね、今年は高校の最後の夏休みだから、いい思い出を作くろう!」愛のテンションが上がった。
「でもね、やはりどこかへ遊びに行きたい。」愛は気分を切り替えて、話し続けた。
「海水浴にとか、花火大会にとか?」フィリックスはいくつかの案を出してみた。
花火大会そのもの フィリックスはいつも恋が萌えるきっかけだと思っている。映画やドラマなどで花火大会をよくロマンテックに描かれる。
「そうね!花火大会がいいね。」
「千葉では花火大会があるのでしょうか?」フィリックスは打診してみた。
「日本の全国 どこでもやってるよ。あたし住んでいる船橋市でも“ふなばし祭り”で花火を打ち上げる。でも、あれを2年連続見た。」
その時 フィリックスは東京の隅田川花火大会を頭の中で思いついた。あの大会は世界的にも有名だ。
「あのー、東京で開催される隅田川花火大会に行ったことがある?」フィリックスは愛に勧めてみた。
「あー!あれを見たいわ。フィリックスはどうして知ってるの?」フィリックスは日本のことなら何でも知っているような感じがした愛は質問した。
「日本を紹介する外国の雑誌であの大会に関する記事を読んだ覚えがある。」やはり フィリックスは日本のことをよく研究しているみたい。
「そうですか。あれは関東地方では人気度がNO1だ。」愛は隅田川花火大会を一押し薦めた。
フィリックスは早速別のウインドウを開いて、隅田川花火大会のスケジュールを確かめてみた。今年の開催予定日は29日だとわかった。
「もし、もし、フィリックス まだいるの?」愛はしばらくフィリックスが返事してくれないことを心配した。
「はい、いるよ!先ほど 隅田川大会の開催日時をチャックしてみた。29日らしい。見に行こうか?」フィリックスは何気なく花火を見に愛を誘った。
「行く行く!久しぶり行ってないから」愛は喜んできた。
「でも、フィリックスは日本へ来られるの?」また フィリックスを無理やりに日本へ行かせるのはすまない愛は聞いた。
「私 行くつもりだよ。大丈夫!愛は?」フィリックスはもう一度愛とデートしたい気持ちが湧いた。
「2泊3日にして?」愛は依然として遠慮しているみたい。
「平気よ。本当に私も見に行きたいから。」フィリックスは愛に説得を続ける。
「そうか。」しばらく愛は黙っていた。
フィリックスは口を挟もうとすると、「じゃ、ヒロコに聞いてみるわ。ヒロコも一緒に来ても大丈夫?」愛が再びの二人きりの約束を遠慮するようだ。
「ええ、もちろん、大丈夫よ。」フィリックスはがっかりしたが、愛と会えるならどうでもいいと思った。
「あした 連絡するわ。」愛は約束した。
「はい、メールを待ってる」フィリックスは楽しみにしている。
結局 29日にフィリックスは愛とヒロコと3人で隅田川花火大会に行くことになった。
2
愛は隅田川花火大会の経験者だから フィリックスは花火大会当日の待ち合わせ場所と時間、観賞日程、穴場スポットの探しなどを愛に任せた。
大会の前日にフィリックスは機内への持ち込みのスーツケース1個とビデオカメラ一台を日本へ持って行った。花火大会が都内で行われるから、フィリックスは馴染んだ馬喰町の近くのホテルにする。
28日 彼は成田に着いたら、早速 愛に電話をかけてみた。
「もし、もし、フィリックス?もう着いた?」向こうから愛の声が聞こえた。
「こんにちは。ええ、着いたよ。」
「今 例の電車に乗ってるかな?」
フィリックスはちょっと車内を見回した。近くには愛の姿は見えないが電話にいる愛はもっと身近に感じがする。
「ええ、ホテルへ移動中だ。明日は何時と言ったけ?」
「明日午前11:30ですよ。いいスポットを取れるため、会場には1時くらい着いたほうがいいと思う。その前に昼飯を食べて、コンビニでお菓子を買って、会場に出向く。」愛(マナミ)は翌日の予定を詳しく述べた。
「はい、了解です。」
「では、あした。」
「よろしくね!」フィリックスは電話を切った。
二人とも花火大会を楽しみにしているので、まるで高校生同士で話しているようだ。
3
花火大会の当日 フィリックスは午前11:20分 待ち合わせをする東武線の浅草駅に着いた。
約10分後 愛とヒロコが時間どおりに駅にやってきた。明るい愛は白の基調の色で乱菊の柄と濃いピンクの結び帯で飾った浴衣を着ている。ちょっと大人っぽく見えるヒロコは赤色の結び帯で、紺色で咲き誇る花輪の柄の浴衣を着ている。2人はまるで異色の日本の浴衣をフィリックスに見せたいようだ。
フィリックスは日本で浴衣の格好をする女性と夏祭りに行ったことがあるから、今日は二人の浴衣の姿を見て、格別に懐かしく感じた。
「こんにちは。」フィリックスは歩み寄ってくる二人へ声をかけた。
「こんにちは。」愛は相変わらず活気の溢れた声で返事した。
「今日 二人とも浴衣を着ているね?」フィリックスは浴衣を話しのタネにした。
「ええ、ヒロコと一緒にあたしたちの浴衣の姿を見せたいわ。浴衣はカナダでも知られるかな?」愛は自分が着ている浴衣の袖を振りながら、言った。
フィリックスはちょっとうろたえた。自分が外国人であることをまだ知らないヒロコのほうを向いた。
「フィリックスのことを全部ヒロコへ話した。ヒロコはフィリックスがカナダ人とわかったよ。」愛は当惑したフィリックスの様子を見て、彼を安心させるように言った。
「あー。そう。」フィリックスは不自然に笑った。そして「ええ、でも、着物の方がもっと知られるよ」愛の質問に答えた。
「どっちが一番きれいですか」愛はニコニコしながら、子供のような口調でフィリックスへ聞いた。
「えと。。愛は明るく見える。そして、ヒロコさんは淑やかに見える」それはもともとフィリックスはが二人に対する印象だ。
愛もヒロコも嬉しそうに顔を合わせた。
「ありがとう!」と愛は礼を言った。
三人は昼飯にラーメン屋さんで食べて、花火を見る前に食べる夕飯にコンビリでおにぎり、ポテトチップ、缶詰のフルーツ、チョコ、お茶などを購入する。昼ご飯代は各自負担だったが コンビ二―での買い物の分は社会人のフィリックスは奢ってあげた。
買い物が終わってから、 三人は愛が選んだスポットへ向ける。
フィリックスが体験した田舎の花火大会と比べると隅田川花火大会の規模がはるかに大きい。井戸の底にある蛙のフィリックスはこの隅田川花火大会は二つの会場に分かれて、開催されることを愛に教えてもらった。二つの会場で同時に花火が持ち上げられるから、両方の会場の花火を同時に見ることは難しい。打ち上げプログラムの内容を確認した愛は第二会場のほうが面白いと予感して、三人は 第二会場の場所にある駒形橋と廐橋の間で、川に近いスポットを占拠した。そこに到着したら、フィリックス、愛とヒロコが左から順番に地上に腰を下ろした。
「まだ早いけど、人ごみは凄いね。」フィリックスはびっくりしたように言った。
「早く来て よかったわ。もうちょっとしばらくしたら、絶対 人ごみを抜けられない。」愛は自慢そうに言った。
「今まで何回?この花火大会。」フィリックスは無意識に愛に訊ねた。
フィリックスの質問に答えるまで、愛は間を置いた。
「今回を入れて、3回目よ。前回もヒロコと一緒に来たわね。」愛はヒロコを振り向いた。
「そう。で、一回目は誰と?」フィリックスは悪戯げに訊ねた。
「秘密です。」愛はそっと フィリックスを振り向いてから、空を見上げた。
その後 会話が途切れ、気詰まりな沈黙が訪ねた。
やはり 花火大会は人々によって、それぞれの思い出や物語があるわけだ。愛にも フィリックスにも 各自 他人に教えられない事情がありそうだ。
花火が打ち上げる30分間前に フィリックスは少し何かを食べたくなった。そして、左手に置いたコンビ二の袋にフルーツの缶詰を探し当たった。
「フルーツを食べませんか」フィリックスは右手に座っている愛へ聞いた。
「どうぞ。あたしは大丈夫です。ヒロコは食べる?」愛はフィリックスからヒロコのほうを振り向いた。真ん中に挟んでいる愛は 終日 首を左右に回している。
「私もいいです。食べてください。」ヒロコも遠慮した。
すると、フィリックスはコンビ二袋から缶詰フルーツを取り出した。缶詰の蓋の上にあるリングを右手で引っ張ると、左手の親指が鋭い金属性の蓋の縁に接触された。その場で親指から少し血が出た。フィリックスは 身回りに拭き物はないから、愛へ声をかけた。
「すみません、愛 ティッシュ ありますか?」
愛はフィリックスを振り向いた。
「あら、血が出たよ。」愛はフィリックスが怪我しているのに気づいた。
ヒロコもフィリックスを見た。
愛は白熊ちゃんのバックからティッシュを取り出して、一枚のティッシュでフィリックスが怪我した親指に念入りに押し当たった。
「大丈夫ですか?」愛は優しい声で聞いた。
「大丈夫!指がちょっと缶詰の蓋に切られた。ほら、今 止まったよ!」フィリックスは愛を安心させるように言った。愛にティッシュで押しされた瞬間が一番幸せだ。
フィリックスの指が大丈夫そうに見えて、愛は彼の親指から血が染まられたティッシュを連れ去った。奇しくも 愛はフィリックスの親指を押し当てた時 別にためらわなかった。自ずとフィリックスの親指に触った。
「そうね、日本人は血液型にとても関心がありますね。」フィリックスは自分が怪我をしていることを愛に心配させないように話題を切り上げた。
「まあね、日本で血液型による占いがはやってるから。ちなみにフィリックスの血液型は?」
「A型かな?」フィリックスは不確定に答えた。
「えつー!自分の血液型さえ分からないの?」愛は怪訝そうに聞いた。
「ふーん、実は一度も献血したことはない。でも、去年 健康検査を受けた時、報告書に血液型がAと書かれたのを覚えている。」
「なるほど!」愛は多少まだ納得していないような表情を見せた。
「愛は?」フィリックスは聞き返した。
「あたしもA型わよ」
「A型の人は几帳面だそう。仕事にも、恋愛にも真面目な方。」ヒロコは学者のような口調で口を挟んだ。
「そうですか!」フィリックスは戦々恐々とヒロコにうなずいた。
午後6時になったころ、花火が予定とおりに持ち上げられた。愛は興奮してきたように立ち上がった。
「ほら、フィリックス、始まったわよ。」愛(マナミ)は携帯を取り出して、空中に持ち上げられた花火を狙い、花火の撮影を開始した。「わあ!」と嘆いて、愛とヒロコは花火の観賞に次第に夢中してきた。
フィリックスも持ってきたビデオカメラを手元に取って、撮り始めた。彼は花火にビデオを撮っている最中、喜んでいる愛の様子を横目で覗いた。目を細めて、笑顔をみせた愛の姿が一番愛らしい。その時 フィリックスは思わず昔の好きだった人並みの可愛らしさを思えた。
「ちょっと 君たちにとってもいい?」フィリックスは愛とヒロコに撮影要望を出した。
花火の爆発の音のせいか 周りの人込みの声のせいか 二人は聞き取れなさそうだ。
「愛、ビデオをとってもいい?」フィリックスはもう一度大声で聞いた。
「私たちに?」愛は振り向いて、鼻のあたりを指差しながら、言った。
「ええ、花火を見て、喜んでいる君たちの様子を記憶に残しておきたいよ。」
「君の勝手だわ。」愛が素早く認めた。
フィリックスは空で持ち上がられた花火を捨てて、愛を中心に彼女の喜ぶ姿をビデオに収録した。
2006年 10月
1
7月末の花火大会以来、フィリックスは8月と9月に日本へ行けなかった。仕事上のトラブルが発生したので、二日ごとに5時間で生産を委託した製造会社の中国の生産工場と香港事務所の間に通っていた。時には現場の近くのビジネスホテルに泊まることもある。フィリックスは その合間に愛とインタネットでしか連絡をとれなかった。だが、愛と連絡する度にフィリックスは仕事のストレスから癒された。彼は愛のことを既に恋人のように感じるようになった。
2
10月中旬 本社へ出張する時、愛と会うことを楽しみにしていたフィリックスは渡辺社長に最悪の予定を組んでもらった。出張の3日間で 出発から香港への帰りまで渡辺社長と一緒に行動することになった。にもかかわらず、フィリックスは自分が今月日本へ行く予定を愛にチャットで告げた。
「そうですか。残念だわ。」フィリックスの来日スケジュールを知らされた愛は残念そうに言った。
「私、13日にいつもの電車に乗りますが、愛も乗るでしょう?」フィリックスは唯一の再会チャンスを狙う。
「13日ですか?あー。だめだわ。その日に部活に特別な行事が行われる。何時帰られるかわからない。」愛は部屋の壁にかけてあるスケジュール表を見ている。
「あー!そうですか。私 15日の日曜にお客さんと付き合うことになるよね。月曜に社長と一緒に香港へ帰ることに。。」フィリックスはがっかりしたように口を聞いた。
「あたしも15日にヒロコと先約があるわよ。うん。。 今回 多分フィリックスと会えないね。」愛も少しがっかりするように言った。
「仕方がないね。まあ!最悪でも12月のクリスマスに来るから、その時 また 連絡しよう。」一先ず フィリックスは12月のクリスマスに愛と予約を入れておいた。
「ええ、ぜひご連絡ください」愛は喜んでフィリックスの予約を受け入れた。
3
13日にフィリックスは無事に日本へ到着、翌日の14日本社の総会へ出た。夕方から始まる会社パーティーと二次会、そして 三次会を本社の社員たちと遅い時間まで楽しんでいた。
15日の朝7時ごろ フィリックスの携帯が鳴った。目が覚めたフィリックスは電話に出た。それが渡辺社長からの電話だ。
「おはようございます!“ウオァー”、社長。」フィリックスはうかっりして、あくびの声を電話の受話器に漏らした。
「おはよう。大丈夫?夕べ たくさん飲んだ?」渡辺社長も夕べの宴会で飲みすぎたせいか 声のトーンが低い。
「すみません、大丈夫です。」眠りを払って、元気な口調で返事した。
「あのね、今日 お客さんとの約束を中止する。先 先方から都合が悪くなったという連絡が入ってきたから。」
「そうですか。分かりました。」フィリックスは少し嬉しげに言った。
「それでね、俺は明日帰るまでに今日一日家族と一緒に過ごすつもりだ。フィリックスもゆっくり休んでください。明日6時半 YCAT(横浜シティエアターミナル)からリムジンバスで成田へ行きましょう。」渡辺社長は予定の変更を告げた。
思いがけない休みをもらったものの、フィリックスはどう過ごすか悩んでいる。先約のある愛に連絡をしても、多分 彼女は予定を変更してくれないし、仲良しの松岡は今日の午前の10時に香港へ帰る。戸惑ったフィリックスは 今日一日 一人で横浜を散策ことにした。
ホテルに連泊するから、彼は午後1時くらいホテルを出て、近くのマックでハンバーガを食べた。海を見るのが好きだから、ホテルより6分離れる桜木町駅から海岸のほうへ出発した。最初の目的地は赤レンガ倉庫に決めた。
フィリックスは 横浜へ何度も来たことがあるが、ゆっくり街中を歩くのが初めてだ。観光案内所で手に入った街のマップを参考しながら、目的地まで進んで行く。彼は桜木町駅の北口から汽車道に入り、ワールドポーターズに当たる。そこを左折して、手前の大通りに沿って、下りの方向へ行けば、赤レンガにたどり着くルートを選んだ。歩き出してから、約20分後 赤レンガが見える交差点に着いた。そこで 信号の変わりを待っている。
その時の出来事だ。フィリックスは赤レンガ方面から信号へ歩んできている一人の女の子に目をやった。まさか あの女の子が愛じゃなかいと思うと、女の子はフィリックスのほうを向いた。
信号が青になったら、「愛?」フィリックスは驚いたように声をかけて、女の子のほうへ駆け出した。間違いなくあの子は愛だ。彼女は信号の所でフィリックスを待っているように立ち止った。
二人がぶつかると、「えー、フィリックス?」愛は同じくびっくりした。
「今日は何で横浜へ来たか?」フィリックスはまだ信じられないように問いかけた。
「うん、もともと ヒロコと買い物に来るつもりだったが、家から行く途中で、ヒロコから電話があった。もう 家に帰らなけきゃくって。その時 電車がもう品川まで着いちゃった、せっかくだから、このまま 横浜へ流されたわよ。」愛はヒロコにふられたわけだ。
「ヒロコと一緒に千葉から出なかったですか?」いつも一緒に行動する二人だと思うフィリックスは聞いた。
「いや、彼女は午前中にお母さんと一緒で、あたしは午後から彼女と合流することになるわけ。」ヒロコの予定を説明した愛は少し寂しそうな表情を見せた。
「なるほど。今 一人で横浜を散策中?」フィリックスは慎重な口調で言った。
「ええ、横浜に彼氏はいないから。一人でぶらぶらしているところ」愛は笑った。
愛に“彼氏はいないって”言われたフィリックスは心の中で喜んでいるのだ。
「フィリックスは 今日 お客さんと一緒じゃないですか?」愛はフィリックスの予定を思いついて、聞き返した。
「トタンキャンで 一日フリーとなった。」フィリックスの喜びは顔にまで表れてきた。
「すごいね、トタンキャンという言葉も知ってる。」
「社長からよく耳にしたんだよ。」
「もしかして、社長によく約束をふられたかな?」愛は思わず一笑いをした。
「いいえ。今 どちらへ行くつもり?」フィリックスは愛の今後の予定を聞いた。
「先、赤レンガに行った。今から 山下公園へ行こうと思った」愛も日程を組んでいるらしい。
「私もそうだ。一緒でもいい?」神様に与えられたチャンスを見逃せずに、赤レンガへ行くのをやめた。愛と一緒にいれば、どこでもいいと思うフィリックスはすぐ行き先を変えた。
「いいわよ。道は分かる?」愛は快諾をしたが、フィリックスへ難問を投げ掛けた。
「えと。。」どうにも 道が分からないようなフィリックスは脇に挟んでいるマップを広げて、道を確認しようとする。
「あたしが案内するわ」愛はフィリックスから広げられたたマップを取って、畳み始めた。
それで フィリックスと愛の間で約束されないデートがそっと始まった。二人は赤レンガ倉庫の近くの交差点から山下公園まで歩いて、公園を散歩した。途中で英語と日本語を交えて、会話をしながら、散策を楽しんでいた。午後4時半になって、愛は少しお腹がすいたので、中華街で点心を食べに行った。
一人で過ごすと時間の流れが遅く感じられるかもしれないが、二人で一緒に横浜の半日を楽しむと、あっという間に日が沈み、空は暗くなってきた。横浜の素敵な夜景が目の前に見えてきた。
フィリックスと愛は中華街から横浜駅行きの市営バスに乗った。車窓から夜の横浜の街の風景を観ている。しばらくして バスは桜木町駅前を通った。その時 愛は車窓からイルミネーションが点灯している大観覧車『コスモクロック21』が近く見えた。
「フィリックス、それ 知ってる?」愛は窓越しに大観覧車のほうを指差して、訊ねた。
「知ってるよ。横浜で有名な大観覧車『コスモクロック21』ですよ。現物は本当に綺麗。」フィリックスは返事した。
その瞬間 フィリックスは愛のほうを振り向いた。「乗ってみませんか?」彼は思いがけなく愛を誘った。
愛は目つきを暫くフィリックスに投げかけていた。二人は目が合って、息を整えた。そして、愛は赤ちゃんがプレゼントされたように無言でうなずいた。フィリックスは柱にあるベルを鳴らした途端、バスの運転手が急ブレーキをかけ、もうすぐ通りかかる紅葉坂バス停に止めてくれた。フィリックスは迅速に立ち上がって、不意に愛の手を取った。
バスの中が凄く込み合っている。二人は手を繋いだ状態で、人ごみを押し付けて、バスを降りた。下車したら、フィリックスは愛の手を繋いでいることにやっと気がついた。
「ごめん!」フィリックスが照れた。
フィリックスは 愛の手を離そうとすると、
「いいわよ。デートの気分で観覧車に乗ろう!」愛は愛嬌ぶりに言って、フィリックスの手をしっかり掴めた。フィリックスは愛の笑顔に惚れてしまった。
「行こうか?」愛は動けなくなさそうなフィリックスへ催促した。
「ええ、行きましょう。」フィリックスも歩き出した。二人は『コスモクロック21』のほうへ向いた。
観覧車のイルミネーションの光が変わるにつれ、愛が携帯のメモリにも気をせずに片手で携帯のカメラのシャターを押し続けた。フィリックスも写真を撮りたかった。携帯はジャケットの左のポケットにある。右手は愛の手を繋いでいるので、携帯を引き出せないと悔しいけど、愛の手から感じられる暖かみで どうしても 彼女の手を離したくない。その時がフィリックスにとって至福の時だ。
愛も まだ フィリックスから手を離す気になれないみたい。二人はずっと手を繋ぎながら、観覧車の下でイルミネーションの変化を観賞していた。フィリックスはいつもまでもずっと手を繋いで、一緒にいるのを妄想していた。しかし、二人が観覧車のコンドルに乗り込む時、コンドルの中で面と向かって座るから、フィリックスは遂に名残惜しく 愛の手を離した。
夜空が澄み切って、点点の星らが空にピカピカと輝いている。観覧車が最高点に到達すると、愛は横浜の夜景に感動してしまった。
「ほら、あそこ 東京のレインボーウビリッジじゃない?」愛は遠くにある東京のお台場のほうを指差した。
「そうね。お台場ですね。」少し 気を落としたフィリックスは返事した。
「先 失礼しました。勝手に愛の手を取ってしまって。」突然フィリックスは申し訳なさそうに言った。
「いいえ。もし、手を繋いでくれなかったら、あたし バスに残されちゃうよ。」意外に愛は有難げに言った。
「私が愛の手を取った時、なんで 私の手を離さなかったの?」愛が自分のことをどう思うのかフィリックスは直接に問いかけた。
「うん。。フィリックスのことをもう恐れないから」愛は少し考えてから 答えた。
そう言われたフィリックスは喜ぶか失望するか分からないが、とりあえず愛に信用されて、嬉しいはずだ。
「先ね、とても緊迫な状況で バスを止めるのは間に合えないと思った。慌てて 愛を連れ去って、バスを降りるつもりだった。」フィリックスは愛の手を取った行動を正当化するように愛へ説明した。
「いつも、電車に忘れ物をしてるあたしは フィリックスから見習いことがあるかな?ちゃんと身の回り品に気をつけてるからね。」愛はニコニコしながら、皮肉っぽく口にしているようだが、フィリックスは褒められたように聞こえた。
観覧車が一周回って、二人が観覧車から降りたのは午後6時半を過ぎた。愛は7時半に家に帰ると約束したそうで、二人は横浜駅までタクシーで急いだ。
横浜駅から愛は総武線快速に乗って、津田沼の家に帰る。フィリックスは下りの列車で桜木町駅に戻る。もちろん 彼は愛を見送りに総武線のホームへ行った。千葉方面行きの電車が到着するまでまだ3分あった。
「今日は、有難うございました。楽しかったです」愛はフィリックスに礼を言った。フィリックスは日本の女性の優しさが改まって感じた。
「礼を言うのは僕のほうからだよ。こんなに遅くまで引き止めてしまって、」謙遜に言い返した。
「また 十二月に日本へ来る?」
「ええ、プライベートで。クリスマスのあたり 三日間の祝日があるから。」
「あたしたち また、どこかで偶然に会えるかもね?」愛は今までフィリックスと何回か先約なしでの出会いに気づいたように言った。
「いや、今度 ちゃんと連絡するよ。」フィリックスは次回の出会いに敷地を置いておく。
愛はふと笑った。
その時 電車が来た。愛が乗車した。フィリックスは電車が動き出すまで、じっと愛を見守っていた。短い“デート”だったけど、二人の距離が縮んできたことには間違いないだ。
3
翌日の月曜日 愛が昨日横浜でフィリックスと会ったことを昼休みの間に親友のヒロコをすべて語った。
「へえー、横浜でフィリックスさんと偶然に会ったの?」ヒロコが驚いたように聞いた。
「予想外だったわ。なんか お客さんとの約束がトタンキャンされちゃたって。彼と山下公園、中華街、コスモクロック21へ行った。」愛は昨日フィリックスと一緒に歩き回った場所を思いついた。
「えあー。」ヒロコは羨ましそうな表情を見せた。
「あのね、コスモクロック21に行く時、バスで降りろとしたところ、彼に手を引っ張られた。」
「わあー!」大声を出したヒロコは周囲のクリスメートを驚かせて、注意された。
「彼にやられちゃったの?」ヒロコはずっとフィリックスのことに不信感をもっているようだ。「すぐ離したの?」ヒロコは引き続き問いかけた。
「いや、なんか 彼は自然にあたしの手を取ったような気がして、彼を許した。」愛はフィリックスに手を取られた心境を語った。
「それ以上の行動はあったの?」ヒロコは愛のお母さんみたいに心配な口調で聞き続けた。
「ないよ!彼は色男だと思ったの?」愛は聞き返した。
「でも、二、三回しか会ったことがないのにあいつはすぐあんたの体に触ったのは。」ヒロコはフィリックスの行為は不適切だと指摘した。
「そう思わないわ。バスを降りたら、彼からあたしの手を離す気配がしたが、逆にあたしのほうが彼の手を放したくなかった。その瞬間 ロマンチックな気分になっちゃたわ。」窓の外を見ながら、その時の気持ちを述べた。
「あんたの気持ちをその場で彼に伝えた?」多分愛はフィリックスのことに恋しちゃったと思ったヒロコは聞いた。
「いや、何とかして 自分を落ち着かせたわよ。」一般の若い子よりも愛はしっかりしている。
愛のことを理解するのに苦労したヒロコは不完全燃焼のような顔をしている。
愛は再びヒロコのほうを振り向いた。
「当分 だれかと恋に落ちるつもりはないわけ。それよりも 大学受験が一番だよ。志望大学に入学できるようにがんばらなきゃく。」先ほど 恋愛のことばかりを考えているような愛はもう一度目標をはっきりして、ゴールまでがんばろうと気合を入れた。
「愛は正に天気屋ね!」ヒロコは愛にむっつりと視線を投げ掛けた。
愛はヒロコのコメントに反応しなかった。
「彼はいつまた日本へ来るの?」ヒロコは関心するように訊ねた。
「12月に」愛からの手短な答えだ。
「また、彼とデートする?彼に誘われたら。」ヒロコは フィリックスが愛のことに興味があるのを想定して、再び 愛を誘う可能性があると思う。
「そうね。。分からないわ!」答えるのに少し躊躇した愛は口にした。
「でも。その時、きっとヒロコも誘うわ。」再びフィリックスとの二人きりでの約束は自粛するように宣言した。
「まだ ふられなくて、よかったね。」ヒロコは苦笑をした。
2006年12月―2007年12月
2006年10月以降 フィリックスは愛と友達以上、恋人未満の形で遠距離の付き合いを続ける。12月のクリスマスにヒロコが来てもらって、三人は東京のTSLへ遊びに行き、07年2月にフィリックスがカナダへ帰国する前、三人で東京の渋谷へ買い物に行った。4月にフィリックスは本社へ出張する翌日の日曜に高校卒業を祝いに里見公園(市川市)で愛の元高校のクラスメートと一緒に花見を楽しんだ。4月に愛は念願の東京にある上智大学にめでたく入学が出来た。祝大学への入学という理由でフィリックスは愛とヒロコに銀座で高級なフランス料理の晩酌をご馳走した。
フィリックスは時間やお金を惜しまず、いろいろ愛と会えるような企画を練った。彼の考えでは いつも手軽に好きな人と会えるよりも、少し努力して、会えるようにすれば、相手のことをもっと大切にすることだ。あくまでも 愛は同感してくれたようだ。フィリックスの存在感が心の中に段々大きくなった。時にはフィリックスと二人だけでゆっくり過ごしたくなった。
5,6月にフィリックスは2泊3日で愛を会いに日本へ行った。7月13日 愛の19歳の誕生日の夕方 彼は日本に来て、すぐ 愛と待ち合わせる津田沼駅の近くのレストランに直行した。翌日の14日に新しい大学生の友達と共に稲毛海浜公園でバーベキューを楽しめた。
10月に2月ぶりフィリックスは愛とヒロコを横浜へ遊びに誘った。夜の食事に仲良しの松岡が合流して、初めて フィリックスの噂の高校生の恋人の愛に会った。
12月のクリスマス・イブに松岡に設定してもらって、フィリックスは松岡の東塚区の自宅でのホームパテイーに愛を誘った。
フィリックスはこうして 過去の一年間 平均的に月ごとに第三者が介在する形で 日本で愛と会えた。毎日 会えないのに、二人の進展がなんとなくうまく行った。当初 フィリックスが高校生の愛との付き合いに対して、眉を顰めた松岡もようやく受け入れたようで、ヒロコもフィリックスの根気に感心して、彼のことを見直した。フィリックスと愛はお互いに相互理解を深め、フィリックスは愛との関係を前向きに考え始めた。
つづき