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口号抄 −月−
作:白琴


   新月


 暗い道、
 横断する犬。
 ひそひそと、
 言葉を交える、ヒトとヒト。
 ブランコは、ぎいこ、ぎいこ。
 あの世の人々は、眼をこらす。

 あの人は、いずこにや。






   三日月


 あらゆるものをふちとった手。
 深呼吸する命。
 ざわざわとこすれる葉と葉。
 けだるく、
 ぬけだしたい、
 世界。
 じっと月をみる。
 喜びの名は、あなた。






   十三夜の月

 子の手のひらに栗をのせ、
 「十三夜のお月様に御供えを」
 子はふり返る。
 母の手の平にも栗がある。
 「十三夜のお月様に御供えを」
 

 子の手のひらに栗をのせ、
 「十三夜のお月様に御供えを」
 ふりむく子をみて、おもいだす。
 「十三夜のお月様に御供えを」
 私の手のひらにある栗は、
 あのとき母がのせていたもの。
 「十三夜のお月様に御供えを」





      満月


 盗人のおびえ、
 酔っ払いの口ふえ、
 雲のながれ、
 風のふれあい、
 満月を覗く、子供たち、

 夜のかげ、項羽と虞美人。







   たちまちづき立待月


 人々のふくわらい。
 背から、そっとのぞけば、
 右手に銚子、
 左手に団扇、

 月はでるでる、
 ふくわらい。







   いまちづき居待月


 どっしり座って、胡座のかたち、
 ついでに汗をひっかきぬぐう。
 おとこもおんなも、
 おんなもおとこも、
 月をがじがじかんでるうちに、
 あれは、あれはと、
 居待月。







   ふしまちづき臥待月


 上目使いのけもの等に、
 ピストルかまえる人のおと、
 ずどん
 と鳴れば楽だろう。
 けものも、
 ひとも、
 あとの作業にいそがしい。
 ゆらり、ゆらり、
 月あかり。





   ふけまちづき更待月


 ぞろぞろと行く、へびの道、
 ならぶべきか、はずれるべきか、
 闇に巻きつかれ、
 沈黙に絡まれ、
 昨日も今日も、
 真実の姿は、月の姿があがるまで。


 ぞろぞろと続く、へびの道、
 天にとどくか、とどかぬか、
 分解された光、
 深海からの泡、
 どこからか、どこからか、
 人の道は、人の選択、
 真実の姿は、月のひかりが見えるまで。







   上弦の月、下弦の月


 出会うことのない、
 上弦と下弦。
 
 生きるための生命。
 夕の空、月に手を合わせる老女、
 明けの空、空いっぱいに満ちる魂。
 おもいでの行方と、
 永遠。
 今と、
 今。














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