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エッセイ

作家・北杜夫が死んだ件について

作者: fumia

 今日、PC上でのメールの遣り取りと、専門関係の資料を漁りに大学の図書館に行った。

 用件を済ませてその帰り際、ふと思い立って入り口近くの新聞コーナーに寄った俺は、何気なく普段愛読している朝日新聞を手に取った。その瞬間俺の目に信じられない文字が飛び込んで来た。


『北杜夫氏、逝去』


「嘘だろ……!」

 昼休みの最中で周りには多くの学生や職員がいたにも関わらず、俺は大声を上げてしまった。


 初めて、彼の著作を俺が手にしたのは、丁度小学3年生か4年生の時だった。

『船乗りクプクプの冒険』、表紙に大海原と飛び上がる海豚、そしてターバンをまいたアラブっぽい小さな少年の絵が表紙にほっこりと描いてある、新潮社発行の薄い文庫本だった。その親に買って貰った文庫本が、それまで『ズッコケ三人組』のような簡単な児童書しか読んだ事のない俺にとって、初めてのある程度の分量がある本だった。

 腹が捩れる位笑った。作者がエタって商業本なのに文章は最初の5ページだけで残りはただの自由帳に化している本が登場する冒頭や、その本の世界の主人公にトリップした主人公の少年。何故か作者の北杜夫とそれを追いかける鬼編集長が出てきたり、元の世界に戻る為に続きを書いてと頼んだり……。今読み返せば何処かで読んだテンプレ臭がそこはかとなくするが、当時は新鮮で、幼い俺にとって凄く面白かった。たぶん、初めて読んだ文庫本がああ云うのだったから、その後本好きになって色んな小説を読み漁り、今はこんな駄文をネットに投稿して一人悦に入るまでになっているのだと思う。


 その後も、俺は『楡家の人びと』や『幽霊』、『怪盗ジバコ』から『どくとるマンボウシリーズ』まで、何作か彼の著作を読破した。下劣で単純な、手放しで大笑いできるある種低俗で大衆に迎合した笑い話から、それと全く対極な位置をとるシリアスで深慮な、純粋に文学らしい作品まで創り上げる不思議な作家……、北杜夫は俺の中でそんな印象を持たせる小説家になった。何方の作風にしろ、絶妙な間合いと散見される機知な言葉に満ちた文体は、素晴らしかったと記憶している。

 本人は斎藤茂吉の実子である事にコンプレックスを持ち、卑下するコメントを生前多く残したらしいが、そんな事は無かったと俺は思う。事実北杜夫は、同時代の遠藤周作、星新一……等日本の文壇を引っ張ってきた偉大な作家の一人として、十分その地位を確立していた。実際、多くの文学少年に少なからず影響を与えていた筈だ。


 だからこそ、彼の訃報は、少なくとも俺にとって非常にショッキングな出来事だった。文壇を代表する御大だという事を別にしても、多くの影響を受けた好きな作家が鬼籍に名を連ねたという事実を突き付けられる事は、ファンにとってとても悲しい事だ。


 北杜夫先生、丁重にお悔やみを申し上げます。今まで素晴らしい作品を、本当にありがとう御座いました。どうか天国で、お父様の斎藤茂吉氏と共に安らかにお眠り下さい。一人の本好き、いえ日本人として、あなたが我が国の文学界に居た事を誇りに思い、またあなたの数々の著作に出会えた事を本当に光栄に感じます。

 さようなら。


(黙祷)

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― 新着の感想 ―
[一言] 今日、ブックオフで「マンボウ遺言状」を立ち読みしました。いきなりすごい。最初の挨拶めんどくさい。いらん。死にたい。と来たもんだ。いきなり、死にたいて斬新過ぎる。 んで腰が痛い死ぬと妻に何回も…
2011/10/27 22:34 退会済み
管理
[一言] 知らんかった……。 「父っちゃんは大変人」が好きでした。 あと、さびしいシリーズの鬼のような前書きは圧巻。 気になってまだ読んでないのは、くぷくぷと、大日本帝国スーパーマン。
2011/10/27 18:55 退会済み
管理
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