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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

とある放浪軍師の旅日誌

作者:悪一
 自由気ままに世界を旅し、そして行く先々で事件を解決して少しずつ世界を平和にしていく。
 それが旅人であり冒険者であり、時に勇者と呼ばれる。

 そんな存在にあこがれて、俺は軍を退役して旅人になった。

 そして1ヶ月で後悔した。

「お願いします軍師様! 今この町は危機に瀕しているのです! どうか、どうかお助け下さい!」

 与えられたレールから外れると、高確率で面倒事に巻き込まれる。
 それが旅をして得た教訓である。



---



 北大陸中央部、火山の近くにあるカルーアという街についた時、その町はお祭り騒ぎだった。お祭り騒ぎと言う割に、悲壮感が漂っていたが。
 俺には関係ないとばかりに宿の在り処を聞いたところで運が尽きた。
 宿の主人が「取っておいたって奪われるだけだから」と言って格安の値段で放出したワインを飲み、酔った勢いで「隣国で軍師をやっていた。今は退役して放浪中」なんて言ってしまった。

 その情報は小さな町を一気に駆け抜け、翌朝には二日酔いで頭を痛ませる俺の下に町長が土下座しに来ていた。

 酒は人類の友である。
 そして友というのは時に自分を裏切り自分を売り渡すものである。
 例の宿の酒も、敵に飲まれるくらいならと考え、俺と言う存在を売ったにちがいない。

 そんでもって、町長と町民全員の哀願を前にして断れなかったことにもイライラするのであった。

「……戦うの嫌?」

 俺の隣でそう呟いたのは、あどけなさが残る――と言うよりは、あどけなさしか残らない少女である。傍から見れば親子のように見えるだろうが、血のつながりはない。かと言って何か悪いことをしたわけではない。

 まぁ、言うなれば仔犬を拾って捨てられなくなった子供のような性格が俺にもあると言うことだ。まったく嘆かわしい。

「戦うのは嫌じゃないけど、負けるとわかっている戦いは嫌だ」
「でも、引き受けた」
「……高い酒の料金と考えておこう」

 溜め息を吐くしかない現状に頭を抱える。
 でもまぁ、旅人としては町の1つや2つを救ってみせようじゃないか。



 町にいた数少ない警備隊の偵察によると、カルーアに近づくのは総数5000の軍勢。この国の地方軍閥の略奪部隊だそうで。カルーア到着予想日時は3日後。

「奴らは敵対する軍閥の町を襲い、物資食糧、さらには町民を奴隷として攫うような連中です! 実際、隣の領地のミルヒエという町は悉く破壊され、町民も残らず虐殺されるか攫われたかしたようで……」
「ふーん。だとすると、ミルヒエの惨状は誰が伝えたんだろうな」

 まぁ、敵に対する情報なんてそんなものだ。意図的に敵対心を煽るために味方が流した情報と言うのもあり得る話だ。そんなあやふやな情報はどうでもいい。
 確定的なのは「カルーアはやばい」ということだけ。

「軍師様、我々をお救い下さい」
「断る」
「……ハァ!?」

 町長は驚くが、なぜそこまで驚くかは俺にはわからん。あれか、お前一度仕事受けただろ、なんで拒否するんだと憤っているのだろうか。
 だとすれば、こいつは戦争を知らない素人だ。

「俺は町を救わない。町を救うために略奪部隊とやらと戦うのは兵の役割だ。俺はそれに助言をするだけだよ。そこを勘違いしては困る」

 軍師は戦うことが仕事じゃないから。
 あと俺はヤバくなったら逃げるよ。この町と心中する気はさらさらないし、そこまでしてやる義理もないはずだ。

「というわけだ、今はとにもかくにも現状を把握することが最優先。そんでもって少しでも生き残る確率を挙げたいなら俺の言うことは聞け。以上」




 現況把握は意外と早く終わる。なにせそれだけ絶望的だから。

 敵戦力は5000。
 対する友軍戦力は300。

 彼我の戦力比は――あぁいや、考えるのはやめよう。悲しくなる。

 いくらカルーアが城塞都市とは言え、この戦力差は逃げたくなる。
 なら逃げればいいって? 1人の男と1人の幼女だけならまだしも、3日で町民全員が逃げられるかと言ったらそうじゃない。それに逃げたところでどこへ逃げるんだと言う問題もあるし、逃げても敵が追いつく可能性の方が高い。

「まぁ、やるだけのことはやろうじゃないか」

 俺が呟くと、いつも俺の傍にいる幼女が答えてくれる。旅の唯一の癒しである。

「……勝てるの?」
「まさか」

 頑張ったところでこの戦力差だ。勝算は0に近い。でも、

「でも、負けないことに徹するのであれば……まだ可能性はあるかな?」
「どれくらい?」
「2割くらい」

 2割あるだけマシだな。

 とりあえずは準備だ。
 まず第一に、カルーアを統治している(ことになってる)領主へ緊急の連絡。それ自体は既になされているらしい。
 しかし来援の可能性は低い。町長曰く「領主は現在後継者問題で忙しいから」だそうで。
 でも、カルーアを救うためには来援は必須だ。戦力300で勝てるわけない。

 だから重ねて領主に連絡。
 ただし文面は変える。

 次にやることは、防城戦の準備である。

「……カルーアに引き籠るのですか?」
「それ以外に何がある」
「野戦で敵軍を撃滅して……」
「無茶言うな」

 野戦で敵軍を撃滅する? 寝言を言うな。戦力差を考えてくれ。陣地構築がされているならまだしも、なにもない平原しかない場所でどう戦えと言うんだ。
 それこそ、敵が1人が1人を打ち倒していけば、カルーア側の戦力を悉く殲滅した上で戦力4700が残るのだ。野戦で包囲撃滅陣を敷かれて戦果僅少で負ける可能性の方が高いが。

 その状況を打開するには、高度に構築された陣地を中心にして徹底的に敵を疲弊させるしかない。そして高度に構築された陣地と言うのは、もう目の前にある。つまり、城塞都市カルーアだ。

「城塞都市外にある物資食糧の類は全て都市内部に引き上げろ。持ち運べない分については焼き払え」

 有用な物資をわざわざ敵に使わせてやることはない。
 が、ここで町長は反論する。

「な、なぜですか。そんなことをしてしまえば冬を越せなくなります!」
「そうだな。敵に負ければ冬を越すどころか来年の作付けに頭を悩ます必要がなくなるよな?」
「……」

 勝った。

「まぁ、万が一勝てれば領主様が救ってくれるかもしれない。だから安心して町を焼け」
「……はい」

 まぁ、町長には気の毒だがやってもらうしかない。町を救いたいのなら、あらゆるリスクを受容しなければならない。綺麗な戦術なんてものはないんだよ。

 んでもって次にやることは、城塞都市カルーアの防城戦兵器の確認である。
 それは都市外の物資回収作業と並行して行った。幼女が。幼女ということで不安もあるだろうが、あれはあれで戦闘以外のことはそつなくこなす幼女なのだ。

「……バリスタ、カタパルトはある」
「城門は?」
「機能してる」
「よし、合格点だ」

 設備だけはちゃんとあるらしい。なぜそこまであって人がいないんだ。

 非戦闘員も根こそぎ動員するかな。城門内の陣地構築くらい出来るだろう。
 都市内部にある物も最大限使う。外縁部にある建物は壊して、それを材料にしてバリケードやら陣地を構築。敵も破城鎚や攻城塔等の攻城兵器を使う可能性もあるから、それの対策もしておこう。

 ……うーんでも、戦力差以上に時間的余裕がないのは問題だな。これを2,3日で出来るはずもない。

「あ、良い事思いついた」
「……なに?」
「うん? まぁ子供騙しの手だよ」

 成功したらめっけもんと言う手だが、この際なんでもいい。

「都市内にあるシーツやら衣服やらを集めて都市外部、敵の予想侵攻ルート上から見える場所に天幕をありったけ張ってほしい。篝火と旗も必要だな」
「……?」
「わからないか? こっちの戦力を誤認させて、敵の動きを鈍らせるんだよ」

 軍人も人間である。寝たいし食べたいし女も侍らせたい。しかしそれを完全に野外でやるのは無理だし、じゃあ建物を使って、となると今度は建物が足りない。野戦であれば尚更。そこで使われるのが天幕だ。んでもって敵部隊を偵察するとき、天幕や旗、そして洗濯物の数から敵軍の総数を推定することはままあることである。

 と言うわけで、突貫工事で天幕を作らせる。1万くらいに見えるように。ほら、町を守りたいならキリキリ働け町民共。

「鬼軍師……」
「誰が鬼だ、誰が」

 しかし効果はあったようである。
 2日後、敵の軍勢が城塞から見える位置まで近づいたのだが、そこからパタリと動かなくなった。どうやら都市外部に林立する天幕と旗と洗濯物の数を見てビビったらしく、慎重に軍を動かしている様子が見て取れる。
 それで諦めてくれればいいのだが。



 結論から言えば、無理でした。
 うん、普通に無理。
 天幕群に対して敵軍は威力偵察を実施し、そこが無人であると断定したのだ。まぁ元々突貫工事で作った囮だ。バレるのは仕方ない。

 ただし時間稼ぎには成功。稼いだ時間で敵軍に関する情報は多く得られた。此方側の防御態勢も整えられた。焦土作戦もバッチリ。
 失った天幕群も別に敵に使われたところで大差ない。どうせ同じような奴敵も持ってるだろうし。

「じゃあ、やるとしますかね」
「頼みます、軍師様! ここで負けたら」
「わかってるわかってる。町長はとりあえず、勝った後のことを考えておいてくれ」
「……はい!」

 まぁ、たぶん勝てないだろうけど。

 ちなみに役立たずの領主様から返信はなかった。町長自体にも「開城許可」権限は渡されていない。要するに、領主様はここを捨て駒にする気満々らしい。


 1日目。

 敵の戦力は変わらず5000。
 ほぼ正方形の城塞都市カルーアの東側に主力置き、そこからいくつかの部隊を動かしカルーアを包囲する動きを見せる。包囲戦は攻城戦の基本。こちら補給路を断つつもりだ。

 それに対してこちらの動きは……

「軍師殿、支持を!」
「何もするな」

 特になし。
 いや何をしろと。

 防御のみを考えるように。

 そして包囲はその日のうちに成立し、翌2日目には敵が攻城戦を開始。
 攻城兵器カタパルトを中心とした遠距離攻撃でこちらの防備を削ろうという意図だろう。まぁ、それを黙って見てるわけにもいかない。

「東門カタパルト、全基攻撃開始!」

 敵の予想侵攻ルート上には、事前にカタパルトの射程を調整するための観測点を準備しておいた。カタパルトは、錘や手で石なんかを遠くに投げ飛ばす兵器。そして種類や大きさによって射程が異なる。
 そのための観測点を城壁の上から監視し、敵がどの部隊を過ぎたのかを報告、それに合わせてカタパルトの飛距離を合わせる、という戦法で効率よく防備するのである。

「初弾、敵先鋒に命中!」
「次弾装填!」
「装填よし!」
「放て!」

 この遠距離戦で敵の戦力を如何に削れるかが鍵だ。最優先目標は敵の攻城兵器、カタパルトやバリスタ、破城鎚。しかし狙い撃ちできるはずもないので当たることを神に祈る。

 そして当然だが敵もカタパルトを使う。城壁には敵軍のものと思われる石弾がビシビシと当たり、たまに城壁を飛び越えた弾が近くに落下する。

「……晴れ時々石弾か」

 そして俺はのんびり幼女の淹れてくれた紅茶を飲む。
 うむ、うまい。



 そうは言ってもこの戦力差。
 城壁自体はカタパルトの攻撃に耐えているが、如何せんこの戦力差だ。人の波には抗えない。数日ほど遠距離戦をして、敵が攻撃に移ろうとしたところで集中射撃という感じで時間を稼いでいた。しかし1週間経ってさすがにこちら側の手が少なくなった。
 現在、既に攻城兵器ではなく弓兵やバリスタによる射撃戦が開始できるほどにまで距離が縮まっている。

「諦めればいいのに。ここまで頑固に防備してる都市から何を奪うと言うのだ」
「……たべもの?」
「奴らに食わせるだけの量が残るかな?」

 だいぶ焼いたからな。

「軍師様! 何をのんびり茶を飲んでいるんですか!」
「いかんか?」

 町長は何やらお怒りのようだがこういう時こそ平常心をだな……、
 と言おうとしたところで、紅茶カップに矢が刺さった。

「…………」
「…………」
「…………お気に入りだったんだがなぁ」

 まったくもってけしからん。
 私のお気に入りのカップを割ろうなどと。

「手段を選んでる場合じゃないな!」
「最初から選んでなかったような……」
「そんなことはどうでもいい。すぐに準備だ」

 久々に城壁に上って敵情を確認してみると、敵先鋒は既に城壁に取りつきつつある。攻城塔があり、破城鎚もあり、さらに遠くにカタパルトが見える。カルーア如きに攻城兵器勢揃いとは恐れ入る。

「最優先は目前の攻城塔と、下の破城鎚だけど、ここは時間稼ぎに徹するべき……。味方カタパルトは後続の歩兵を削るとして……やっぱりここは容赦なくいくかな。――伝令! 藁とアレのを準備しろと各隊に伝えろ!」
「は、はい!」

 まずは藁の束を用意します。
 そしてその藁に熱で溶かしたアレを染み込ませます。
 城壁の上からその藁の束をたらして、敵の頭上で停めます。
 あとは敵が来るのを待って、適当な頃合いで藁に火を付け燃やします。

 そうすると――、

「ゴホッゲホッ」
「な、なんだこれは……!」
「目が、目がぁあああ!」

 城壁の下から敵兵の断末魔が聞こえます。紅茶カップの恨み、晴らさせてもらう。誰がやったか知らないから無差別で行くぞ。

「ご主人ご主人」
「ん、どうした?」

 そして城壁の上にまでついてきた幼女が興味深そうに、藁から出てくる煙を見ながら聞いてきた。

「あれ、なに?」
「ん? 煙だよ。ちょっと変わった奴だけど」

 煙は普通上に上がるが、藁に染み込ませたアレは燃やすと煙は下に行くのである。しかもちょっと黄色い。
 あれは硫黄である。
 硫黄を燃やした時に出る煙は、呼吸するのが嫌になるほど咳が止まらなくなる。要は毒ガスだな。今回はあまり量を調達できなかったから、これ以上の煙焚きはできないが、城壁に近づけばどうなるかな……? と敵に教えているということだ。時間稼ぎにはなるだろう。

「……鬼軍師」
「鬼じゃない」

 とりあえず、幼女に対する教育も必要だな。



 敵の戦力がどれくらい削れたかなんてどうでもいい。とりあえず戦力差は圧倒的。そして敵は、先日の硫黄攻撃に怯んで後退したもののまた攻勢に出た。しかも人海戦術に出たようである。つまり何も考えずひたすら突撃である。

 カタパルトの攻撃にも、バリスタの攻撃にも、火矢にも怯まず、攻城塔と破城鎚を伴って敵は前進する。毒ガスを出すふりもしてみたが効果なし。
 敵がカルーア近くまで来てから既に2週間程経っており、そろそろこちらの食糧も危うくなってきた。士気の低下が著しい。

「もうだめだ……おしまいだ……」

 そして町長は諦めていた。
 思っていても口に出さないでほしい、士気が下がるだろ。

 まぁ、時間稼ぎしているだけだからな。敵野戦軍にはほとんど損害を与えていない。ここで援軍が来なかったら俺たちは負ける。
 そうなったら、俺は敵に媚びて赦しを請おう。せめて幼女だけは生きていてほしい。
 が、敵に幼女がいいようにされるのは腸が煮え返るような気持ちになるので断固阻止する。

「敵攻城塔が城壁に取りつきます!」
「出待ちしろ。攻城塔の扉が開いたら、そこに一斉に油壺を投げ込んで火を付けろ!」

 やることは単純。時間稼ぎ、嫌がらせ。でも攻城塔がある限り、出待ちには限界がある。だからこそ、事前に準備していた対策が光るのだ。

 敵攻城塔の殆どが城壁に取りつくことに成功。
 破城鎚も城門近くまで来ている。

 破城鎚には油で対処するからいいとして、問題は攻城塔だ。

「対攻城塔作戦を開始するぞ。城壁上のバリスタは事前に言っておいた通り攻城塔を狙うんだ!」

 バリスタは、槍を発射する兵器である。据え置き型の弩とも言う。
 そして今回発射する槍は特別仕様。狩猟につかう銛のような形の槍先を持ち、柄にはロープを付けている。しかも強度のある髪の毛入りである。おかげで男衆の頭は禿げ上がったが頭髪と引き換えに町が護れるのだ。我慢しろ。

「バリスタ、攻撃開始! 目標、敵攻城塔!」

 俺の合図と共に、各バリスタは攻城塔を攻撃。槍は勢いよく飛び出して攻城塔に突き刺さる。無論、突き刺さるだけだ。ただしロープ付き。
 そしてロープの反対側には、城壁の一部を切り取った錘がある。

 この錘を重力に委ねて、ロープを引っ張る。攻城塔は引っ張られ、当然傾く。そして一度傾けば、それが攻城塔自身の重みと合わさってさらに傾斜が増す。ロープは途中で強度が足りずちぎれてしまったが、攻城塔はそのまま傾斜し続け、ついに倒れた。

 そして同じような出来事が、各所で起きた。

「まさか上手くいくとは……」

 近くで見ていた兵がそう呟いた。まぁ気持ちはわかるよ。

「俺も上手くいくとは思わなかったよ」
「えっ」

 成功すればいいなって思ってたから。
 そしてその間、破城鎚は上から油かけて燃やして焼却処分しておいた。

 攻城塔を失い、破城鎚を失い、攻城兵器が少なくなった敵軍の攻勢意欲は弱まる。しかし包囲は継続しており、物資は困窮する一方だった。
 だがそれを逆転させる事態が2日後に起きた。

「軍師様、軍師様!」
「どうした町長」
「援軍です、援軍が来ました!」

 どうやら、その時が来たようだ。



---



 援軍部隊を率いていたのは、領主の次男だった。
 当初その男はカルーアの危機に際して、敵がカルーアを落とした後のことだけを考えていた。カルーアは固守するだけの価値はないと言う考えだった。
 しかしカルーアから届いた二度目の手紙が、彼の考えを改めさせる。

「カルーアは危機にあり。しかし我が方戦意高く、最期の一兵まで抵抗する所存である。それを見捨てる度量ある者は、領主の椅子から我らの戦いぶりを括目せよ」

 と。

 とんでもない皮肉だった。そしてそれ以上に、そこまで罵倒された次男は黙ってはいられなかった。
 彼はすぐさま軍を編成し、カルーアへ向けて馬の腹を蹴った。

 20日経って、ようやく彼はカルーアに到着。そして彼はそこで、包囲されても果敢に戦うカルーアの警備軍を見た。

「臆病者の誹りを受けたことは甘んじて受け入れよう。なぜなら、彼らの方が勇敢であるから」

 彼はそう呟き、敵軍のさらに外側へと軍を布陣させた。
 攻城戦にあって、敵軍は疲弊していた。あたりが焼け野原と化しており、焦土戦術を取られて物資の現地調達がままならないことが見て取れた。

 つまりカルーアは危機にあったのではない。むしろ、兵站が崩壊した敵軍を突破できる好機にあったのだ。暫く待てば、もしかしたらカルーア単独で敵を蹴散らすことができただろう。

 だがその可能性は低い。
 だからこそ、彼は命じた。

「カルーアを包囲する敵軍のさらに外側から包囲、攻撃せよ!」

 それは包囲殲滅陣の完成と、敵軍の敗北を知らせる鬨の声だった。


 こうして、カルーア攻防戦は幕を閉じた。
 敵軍はあっという間に瓦解して撤退。カルーアの包囲は解かれ、そして物資の困窮した都市に、次男は快く部隊の物資を解放した。
 その最中、彼はこの包囲戦における最大の功労者、防衛戦の指揮者に会おうとした。彼は、その指揮官になんでも褒美を与えるつもりでいた。

「町長、指揮官に会いたいのだが……」

 しかし、町長の顔は暗かった。まさか戦死したのかと彼は思ったが、そうではなかった。

「実は軍師様は包囲が解かれた頃より、姿が見えず……。おそらく、町を出たのかと」


 結局、町長や市民、そして領主次男がその軍師と会うことは無かった。
 しかし彼の存在は伝説となり、後世にまで語り継がれることとなる。



---



「……どうして町を出たの?」

 気の遠くなる地味な戦いを終えて、俺らは逃げるようにカルーアを去った。無論幼女付きで。

「簡単な話だよ。領主の息子に喧嘩売ったんだ。ただじゃ済まないだろう?」
「そうかな……?」
「そうだよ」

 たぶんね。

「それに俺は旅がしたいの。世界を救うような冒険者になりたいの」
「……知ってる」
「そして美女を侍らせて後世を静かに暮らしたい」
「それは駄目……」

 頬を膨らませる幼女。なぜだめだ。美女を侍らせたいのは全男子が望んでいることだぞたぶん。

「…………まぁいいか。次はどこへ行こうか」
「ご主人の好きな場所に行って……?」

 じゃあ次は、平和な町が良いなって。



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