オレが甘かったのかもしれない。
鈍いから気づくことはないと思い込んでいた。
バレるわけがないと鷹をくくっていた。
ポーカーフェイスで隠しとおせると思っていた。
守っているつもりが、守られていた。
秋の気配はあっという間に消えてなくなり、まだ11月だというのに寒い日だった。
暑かろうが寒かろうが、オレ――怪盗キッドには関係なく、厳しい寒さの中仕事をしていた。
もっとも、オレが出てくれば、自然と……
「キッド! 今日という今日は貴様を!」
と怒鳴り声を上げるオレ専任といってもいいぐらいの中森警部も仕事となる。
「こんばんは、中森警部。寒い中、ご苦労様です」
「ハッ! それも今日で終わりだ。貴様は、これから署に行くんだからな!」
「お誘いいただき誠に嬉しいのですが、辞退させていただきます。また会いましょうね」
「か、かかれ〜!!」
「……中森警部v」
POM☆
一瞬で警官に変装すると同時に、用意していたダミーを飛ばしたら、
「くそっ! 追うんだ! A班はワシについて来い! B班、C班は車で奴を追え! 今日こそ奴を捕まえるんだ! 絶対に逃がすな!」
「はっ!」
中森警部の指示の下、ドドドドとすごい音でダミーを追いかけていった。
誰もいなくなり、静かになる。
いかに、今までうるさかったのかよく分かる。
「さて、帰りますか。……っとその前に、確認確認〜」
くるりと手を返し、宝石を満月に翳すも、探している赤い光は見当たらない。
「今夜もハズレ。赤いお姫さんはどこにいるのかな〜? ま、とりあえず、この宝石は警部のトコに返して、帰るか。寒ぃし」
羽根をひろげ、寒空の下、警視庁へ向かって飛び立つ。
まさか、今追われている怪盗が警視庁にいるとは誰も思うまい。
オレのために狩り出されて出払っている二課の窓をやすやすと開け、音もなく中に侵入し、今夜の戦利品とメッセージを残し、再び羽根をひろげて早々に退散する。
長居は無用! ってね。
とはいえ、このままの格好で帰るわけにもいかないので、近くの公園で快斗に戻ることに。
てなわけで、トイレに入り、トレーナーにジャンパー、Gパンに着替え、トイレを出て……
…固まった。
「快斗、どうしたの? こんな時間に」
まっすぐとこっちを見て言う青子が立っていたから。
しかし、すぐに我に返り言い返す。
「あ、青子こそ、何やってんだよ!? お子様は寝る時間だぜ?」
すると、青子は目を伏せて言った。
「青子ね、快斗待ってたの」
「……へ?」
「だから、快斗を待ってたの!」
「それはここにいる理由になんねぇだろ?」
「……快斗の家に宿題で分かんないところがあったから見せてもらおうと思って行ったんだけど、快斗いなくて。おばさんに聞いたら『その辺ほっつき歩いてんでしょ』って言われたから、探してたの。寺井さんのとこにもいなかったから、こっちに歩いてきて……」
再び視線を上げ、まっすぐとオレを見て言った。
「歩いてきたらね、キッドがトイレに入って行ったの」
「キッドが!?」
誤魔化せるか。まさか、青子に見られてるなんて思わなかった。
今まで以上にポーカーフェイスで表情を隠さなければならない。
「何してるんだろうって思って見てたら……快斗が出てきたんだよ」
「何かの間違いじゃねぇの!? 確かに今日はキッドの予告日だけど、こんな所に来ねぇだろ」
「……快斗、もういいよ。これ以上青子に嘘つかないで? 悲しくさせないで? 青子も快斗の……ううん、キッドの力にならせて。そりゃ、今まで散々文句も言ってきたけど」
青子の目はまっすぐだった。
怒っているわけでもなく、哀れむわけでもない。決意を秘めた目だった。
限界、かな……。
それに、そんな目で見られたらねぇ?
辺りに他の人の気配が無いことを確認し、素早くキッドへと変わる。
「!! …キッド、ううん、快斗だよね?」
「えぇ。そういえば、これほど近くでお会いするのは初めてですね」
そう言いながら、青子の近くに歩いていく。
「やっぱり快斗だったんだ……」
「やっぱり、とは?」
「確証は無かったもん。だって相手は快斗だよ? 上手く誤魔化されるかもしれなかったし。それにもしかしたら、キッドが快斗に変装してたのかもしれなかったしね」
「………」
「前からね、おかしいとは思ってたんだ。快斗ってば、キッドの予告日の前後に集中して授業中に寝てるし。最初はその程度だったんだけどね。今日見て、なんか納得しちゃった」
でも、賭けだったんだよ? と笑う。
「……は、あははは……!!」
「ちょっと、どうしたの!?」
きっと、甘く見すぎていたんだ。
青子は鈍いから、なんて根拠もないのに思い込んでいたんだ。
幼なじみという位置にいるからこそ、1番に気づくだろうに。
そんなことも思いもしないで。
守っているつもりが、自分が守られていた。
こんなオチ、誰が考える? おかしすぎだろ?
「いえ、失礼しました。何でもありません。では、改めてよろしくお願いしますね……」
青子v
パチンとウインクを決めれば、真っ赤になりながら
「キザ〜」
と呟いた。
ハハ、悪かったな。“キッド”なんだよ、これが。
姿を元に戻し、
「しゃぁねぇだろ? 挨拶は大事だし」
とぶつぶつ言ってたら、
「帰ろ、快斗」
と手を出してきた。
「……おぅ!」
その手を握り、家へと歩き出す。
「あ、今思ったんだけど、これって連行?」
「は?」
「だって、お父さんもうすぐ帰って来ると思うし。快斗追うのに疲れてね!」
「オイ、まさか……」
「言っちゃおっかな〜?」
「ちょっ、青子! それはマジで勘弁して!」
「あはは、焦ってる焦ってる」
「青子ぉ〜〜」
このアマ、すげぇ性格してやがる。これからずっとこんな調子になっちまうのかよ?
オレの立場かなり危ないじゃん。
ま、簡単に認めたオレもオレだけどさ。
だって、あんな目で見られたら騙せねぇじゃん。
だが、その横で青子は真剣な表情になり、こっちを見て言った。
「大丈夫だよ。何か理由があってやってたんでしょ? 何となくだけど、それぐらい分かるよ、青子にも。快斗が言って楽になるなら聞くけど、そうじゃないなら、誰にも言わないし何にも聞かないけど、快斗が無事に帰って来るように祈ることぐらいはさせてよね?」
いつの間に、この幼なじみはこれ程までに強くなっていたのだろう。
ずっと近くにいたのに、気づきもしなかった。
青子は、オレの変化を敏感に感じ取っていたというのに。
「……参った」
「え?」
「何でもねー! ホラ、早く帰るぞ!」
「う、うん!」
これから先、何があってもきっと大丈夫。
この温かい手がオレを支えてくれるだろうから。
ずっと見守ってくれていた優しい幼なじみが隣にいるから。 |