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02話 女心とニートの心情
 眼下に広がるのは広大な樹海。
 大気は澄んでいて、空は鮮やかな青。
 後を振り向けば、高々と連なる黒い山脈。
 ここは、緑と水晶の国・クリスタルクラウン。
 二大大陸の一つ、ゼア大陸の最南端よりやや中央側に位置している、ゼア大陸で最も豊かな国の一つである。
 そして、その国の辺境の上空に。

「どこだ、ここ?」
「ご主人様が、座標を適当に設定したからランダムに転移されたのではないかと……」
 ダメな主人と、苦労過多な従者の姿があった。


「いやー、俺って魔界から天界には行ったことあるけど、魔界から人間界には行ったことないんだよねー……」
「……なら、ゲートの操作は私に任せて下さいよ」
「あははは、済んだことを蒸し返しても何にもならんぜ♪」
「えい♪」
 ズドンッ!
「おおおおおっ!」
 俺の体を、聖なる光が撃ち抜いた。

「やればできるもんだな、五接地○回法……」
 割と上空から落下したが、そこは、まぁ、ほら、悪魔なんで。
 バサァッ。
 頭の上から翼の音がする。
「ラファ、っとと……。エルよ、なんか前回より威力が増してなかったか?」
「気のせいですよ、ご主人様 (ニコッ)」
「そ、そうか……」

 お互い背に在った翼を消す。
 さて、まずは……
「どこかの村か町に行きましょう、まずは服装から揃えなければいけませんし」
「……先に言われた」
「何か?(ニコッ)」
「イ、イエ、ナンデモナイデス。ハイ……」
「そうですか、……あちらに人の気配がしますね。おそらく町ではないかと」
「……はい。……OKです、行きましょう」

 ……。
「じゃあ、俺は旅の傭兵で、エルは俺の従者で神官ということで」
「わかりました、しかしこの衣装で通じるでしょうか?」
 ……。
 俺は、プロテクターはおろか防具の一つも身に着けていない。
 その上、全身黒尽くめで背に大剣を一本背負っているだけ。
 エルに関しては真っ白なベーリーダンサーのような衣装だ、露出が非常に激しい。
 俺はギリギリいけなくもないが、エルは間違っても神官じゃないだろう。
 ……。
「あー、しょうがない……」
 俺の足元にある影の中に手を突っ込む。
「ご主人様、何を?」
「ちょいと、待ってな。……あった、これだ」
 影の中から、青色の外套を引っ張り出す。
「城の宝物庫から持ってきた物の一つだ。その昔、人間たちから奪った宝の一つらしい。ほらよ、これで体も隠せるだろ」
「あ、はい、……ありがとうございます」
「かまわんぜ。それより、行くぜ」
 さっさと、住居でも見つけて久しぶりのニート生活でもしたいしなー。
 ……。
 俺は、村があるだろう方向に向けて歩き出した。

「ここか」
 そろそろ、午後の三時ぐらい。
 エルに外套を渡した場所から、おおよそ六時間かけて到着したのだ。

 町には活気があり、人々の笑い声が聞こえてくる。
 大通りには多くの露店もあり、そしてそれ以上の数の店が並んでいる。
 ここは、随分と……。
「随分と豊かな町だぜ……」

 ……。
 普通の悪魔はこれらを見て、眉をひそめるだろう。
 人間の活気や陽気は悪魔にとって不快しか感じない。
 悪魔は人間に絶望と恐怖を与える者、それは悪魔の本能。
 ……。
 しかし、俺にはそれがない。
 理性で押さえつけているわけでもない。
 そもそも、人間に絶望や恐怖を与えることに興味がないのだ。
 俺はおそらく悪魔としては欠陥品なんだろう。
 だが、世の中には俺のような悪魔が一人ぐらいいてもいいんじゃないかと思う。

「ご主人様。まずは、お互いの服をそろえましょう」
「あいよ、服屋はどーこだ?」

 ……。
「お!あれじゃね?」
 町に入って三十分ぐらいしたころだろうか、それらしい店を見つけた。
「そうですね、おそらく合ってるかと思います」
「あいよ、んじゃさっさと行こうぜ。日が暮れる前には住居も見つけたいし」
 しかし。
「はい。と、言いたいところですが、ご主人様、通貨は持っていますか?魔界流に強盗は目立つから無しですよ?」
 通貨か、金銀宝石はあるが……。
「あー、そうか……、先に宝石店でも行って手持ちの金銀宝石を換金したほうがいいかな」
「そうですね、そのほうが今後のことも含めていいのではないかと」
「んじゃ、そうしようぜ」

 ……。
「HAHAHAHA、いい取引だった!」
「……お店の人、泣いてましたよ」
 エルが気の毒そうに返してくる。
「元・魔王と元・天使長の一人をだまそうとしたんだ、むしろ罰としては軽いさ」

 そう。
 宝石店の店主は俺とエルを素人だと見下して、ボろうとしたのだ。
 しかし、そこは悪魔と天使。
 店主の嘘を速攻見抜いて、散々脅しあげてやった。
 曰く、この店のことを商業ギルドに報告するぞ?とか。
 曰く、この町の警備隊に報告するぞ?とか。
 この国では、一度でも詐欺行為がばれると二度とその商売はできないらしい。その上、最悪町からの罰金で破産してしまうとのこと。
 そこで、俺は宝石店の店主から毟れるだけ毟ってやった。
 文字通り、店主が泣いて喚いても限界まで毟ってやった。
 くくく、悪魔相手に詐欺を働こうとしたんだから当然だ。

「さてと、本来の五倍の額が入ったな♪さっさと服を揃えて家でも買ってニートしたいぜ」
「働く気とかないんですね……」
 俺は力いっぱいの頷きとともに宣言する。
「当たり前だろう、俺は働かなくても食っていけるから魔王になった男だぜ」
「そうでしたねー」

 カラン、コロン
 服屋のドアを開けると、ドアベルが鳴る。
「いらっしゃい!」
 奥から恰幅のいい、おばさんが出てくる。
「こんちわー」
「おやおや、随分きれいな奥さん連れてるね」
「奥さんじゃない、奴隷だ」
「奴隷?こんなきれいな娘なのに……、お前さん貴族の子息か何かかい?」
「いや、ニートだ!」
「はぁ、……?」
 納得できないような顔をしているなぁ。
 苦笑しながら。
「とりあえず、こいつの服を何着か頼むぜ」
「はいよ」
「俺は適当にそこらの服を頼む、着れれば何でもOKだ」
「ご主人様、それは店まで来て言うセリフではありません……」
 カカカッ、と笑ってエルの突っ込みを聞き流した。

「またの、お越しをー」
 服屋を出る。
「どうだ、いい服は有ったか?」
「はい♪流石は人間界、可愛い服やきれいな服がたくさんありました♪」
 どうやら、既に青色の外套の下は一般服らしい。
「そうか。しかし、俺としてはお前が買っていた小さな布切れが気になるんだが……」
 魔界では見慣れない物だった。
 えーと、確か……。

「ぶらじゃー?しょーつ?だった」
 か?とは続かなかった。
「♪(怒)」
 ズドォンッ!
 先の二回を越える威力で、聖なる光が俺を撃ちぬいた。

 時は夕方五時過ぎ、場は傭兵ギルドの受付。
 銀髪碧眼の信じられない程の美女がズタボロの男を引きずってきた。
「すいません、この男を傭兵として登録したいのですが♪」
「ははははは、はい!」
 受付嬢は生まれてこの方味わったことがない恐怖に怯えた。
 美女は笑顔だが、目が欠片も笑っていない。
 評するなら、絶対零度の笑顔。
 ……。
 美女はエルで、男はルシファー、もといシーファだった。
 ……。

「エルよ、俺はニートになりたいのだが……」
「働け♪(ニコッ)」
「………………………………………………………………ハイ」


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