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28話 月下の舞踏会
「ルナ大公国の今日という日に、乾杯!!」
「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」
 大公グリードが乾杯の音頭を取り、臣下たちがそれに唱和する。
 どうやら、戦勝パーティーに俺たちを招いてくれたようだ。
 ……。
 尤も。
「はぐはぐっ!」
 ……。
「うまうま!」
 ……。
「お!この肉絶品!」
 俺は、乾杯の音頭や戦勝の祝いより、目の前の料理の方が重要だったので無視したが。
 周囲の臣下達が冷たい目で見ているが、国を救った英雄に文句をつけるような真似はしないようだ。


 ――♪。
 緩やかな音楽が流れる。
 ホールの中央では紳士淑女の皆様がダンスに興じている。
 ちなみに俺は、ダンスよりも食欲のほうが遥かに重要なため、壁際のテーブルで料理を貪っている。
 周囲にはエルとスターシャ、それにミレイが居る。
 そのため、四人(+二匹)は揃って壁の花だ。

 女性三人は以前俺がプレゼントしたドレスで着飾っている。
 エルは静かな群青のドレス、スターシャは艶やかな漆黒ドレス、ミレイは可愛らしいピンクのドレスである。
 エルの曇りのない銀の長髪と深い碧眼がドレスと合って、神秘的な雰囲気。
 スターシャの漆黒のドレスが真白の長髪と真紅の瞳を引き立て、妖艶な感じである。
 ミレイは金髪と碧眼に加えて、ピンクのドレスで是非ともお持ち帰りしてしまいそうな可愛らしさだ。
 ……ふむ。
 んぐんぐ、ごっくん。
 口に含んでいた料理を飲み干すと、女性陣に聞く。
「お前らは、踊らないのか?」
 先程から、紳士の皆様がエルとスターシャに目をつけている。
 悪魔は人間より遥かに聴力が良い。
 そのため。
「おい、あそこの信じられないほどの美女は誰だ」とか。
「あんな、美女と一晩を供にしてみてぇ」とか。
「このパーティーが終わるまでに落として見せる!」とか。
 いろいろと聞こえてきているのだ。

「私はご主人様のものなので」
 とは、エルの談。
「私は身も心も捧げていますので。それにダンスはちょっと……」
 とはスターシャの談だ。
 ミレイは先程からケーキ等の甘い物に夢中である。
 ……。
「くけけけ、世の男どもに恨まれそうだぜ♪」
 などと言うが、気分はいい。
 これほどいい女達を独り占めに出来るのだ。
 月夜の晩に襲われることぐらいは、甘んじて受け入れよう!
 まぁ、千倍返しで返り討ちにしてやるが。
 ……。
 とはいえ、美女を見たら声を掛けてしまうのは男の悲しい性である。

「そこの美しいお嬢さん私と一曲、踊って頂けないでしょうか?」
 壮年よりは遥かに若く、青年よりは年上の男性だ。
 エルに手を差し出して、一礼する。
 なかなかきまっている。普通の淑女、婦人なら心揺らぐだろう。
 だが。
「申し訳ありません、私は既にご主人様のもの。他の方と踊るのは不貞となるのでお受けできません」
 瞬間で撃墜されていた。

「ご婦人、よろしければ一曲どうかな?」
 今度はスターシャだ。
 こちらは好々爺とした老紳士だ。
 尤も。
「申し訳ございません。私は主に全てを捧げたので、他の方とは……」
 取り付く島もなかった。


 青年から老紳士まで、このパーティーだけで二人の撃墜数は合わせて百は行きそうな勢いだ。
 と。
「楽しんでいるかね?」
 お?
 気づくと、目の前に大公グリードが居た。

「……まぁな」
「それは、よかった」
「なんか用かい?」
 俺は、どうにも権力者という人種が好きになれない。
 目の前の人物が嫌いな訳ではない、生理的に受け付けないのだ。
「ああ、うむ……」
「?」
「シーファ君だったかね」
「……」
「君は傭兵という事だが、よかったら我が国に仕えないかね?それなりの……」
「却下」
「地位を……。早いな」
 グリードがなんとも言いがたい顔をした。

「働くのは嫌いでね」
 特に、誰かに仕えるのだけは死んでも嫌だ。
「俺は日がな一日、寝て、食って、遊びながらのんびり過ごしたいと思っている」
 偽らざる本音……。
「だから、却下だ」
 ……。
 グリードは嘆息すると。
「意志は固そうだな……。最悪、君の侍女の二人のどちらかを譲ってもらおうと思ったのだが……」
 多くの人間が撃墜されている所を見て、再び嘆息する。
「それも、無理そうだな……」
 ため息一つ。
「残念だ」
 と苦笑した。


 グリードが去って、再び壁の花になって料理を貪っていると。
「一曲踊っていただけませんか?」
「ん?」
 エルでもスターシャでもない。
 俺のようなやつにお誘いをかけた物好きは誰かと思えば。
「リーナか……」
 ルナ大公国の双子姫の姉だった。
「俺は食うのに忙しい。別の奴と踊ってこい」
 とりあえず、拒否ってみた。
 しかし。
 悪戯っぽく微笑むと。
「ほら」
「あっ、おい」
 強引にホールの中央に引っ張り出されてしまった。
「ここまで、来たのに壁に戻ったら、女性に失礼ってものよ」
「あー、もー」
 ……しかたねぇなぁ。

 ――♪。
「割と踊れるんですね」
「一応な……」
 踊るのは初めてだが、周りの人間の動きを再現しているのだ。
 元々運動神経は悪くない、直ぐに人並みには踊れるようになる。
 ――♪。
 曲にのって優雅に踊る。
 しかし……。
「なんか、周りの視線が痛いぜ」
 周囲の視線、特に男性紳士諸君の視線が絶対零度だ。
 リーナは、くすりと微笑むと。
「それは、シーファ様がエル様とスータシャ様のお二人を独占しているのにもかかわらず、私と踊っているからですよ」
「お前さんが、強引に誘ったんだろうが……」
「ふふ。この後で、お二人をダンスに誘ってあげなくちゃダメですよ」
「……」
 ……チッ。
 まぁ、食うことは後でも出来るからな。
「りょーかい」
 その曲が終わるまでリーナと踊り続けた。

 リーナと踊り終えた後二人の下に向かった、が。
 ……。
 いきなり。
「おい!おまえ!」
 突然、ぐいっと肩を掴まれた。
 一瞬、消し飛ばしてやろうかと思ったが、流石に自重した。
「………………なんだ?」
 振り向くと、そこには遊び人風の青年がいた。
「おまえ、あそこの二人の主人なんだって?」
 エルとスターシャを指す。
 コクリッ、と頷く。
 正直、この手の輩とは口も聞きたくない。
「そうか、よしよし」
 肩から、腕を放すと。
「なぁ、言い値を出すから、あの女たちを一晩貸してくれないか?」
 信じられないことを言ってきた。

 ……。
(ご主人様!)
(主!)
 念話で二人の叫び声が届く。
 !
 正直、二人が呼びかけなければ、エラトステネスはおろか、ルナ大公国そのものが地図から消滅していたかも知れない。
 いつのまにか、俺の手の中に信じられないほどの強大な魔力が集束していた。
 ……。
 大きく深呼吸する。
 同時に、魔王としての圧力を、完全に解放した。

「今……、なんて言った?」
「あ、あ」
「一晩貸して欲しい、だと?」
「……あ」
「貴様、……………………死ぬか?」
 地獄の底から響くような声で告げた。

 その声は、まぎれもなく魔王・ルシファーのものであり。
 ……たかが人間一匹が逆らうには、余りにも脆弱すぎた。
 一瞬で精神を粉微塵に破壊される。
 バタンッ、ジョロロロロ~。
 遊び人風の青年は白目を剥いて気絶すると、失禁してしまった。

 周囲の視線が集まっている。
 しかし、俺の圧力に恐怖して、物音一つしない。
 いつの間にか楽団も演奏をやめてしまっていた。
 ……。
「大公グリード」
「な、なんだね?」
「気分が優れない、俺は抜けさせてもらう」
「う、うむ」
 ……。
「行こう」
 ミレイを抱き上げ、エルとスターシャの二人を連れるとパーティーのホールを後にした。


 今は、身内以外とは会いたくなかったのでエラトステネスの上空に方舟を浮かべ、そのデッキの上に座り込んでいた。
 ……。
 満点の夜空、満月が絶景だ。
 ……。
「ご主人様」
「……」
「公共の場での態度として、あれは失格です」
「……」
「……ただ」
「……」
「ありがとうございました」
「……」
「私もスターシャも嬉しかったですよ」
 エルとスターシャの二人が優しく微笑ながら、手を握ってくれた。
「……そうか」

 立ち上がる。
「リーナに言われたよ。お前らをダンスに誘えって……」
 影の異空間から、一つの薄い桃色をした水晶を取り出す。
「それは……」
 エルが何かに気づいたように声を上げる。
「そう。以前に、お前の歌声を録音した水晶だよ」
 水晶を魔術で加工し、音を刻み込んだのだ。
 こうすると、魔力を込めれば刻み込んだ音を再生する、一種の蓄音機となる。

 ブゥンッ。
 魔力を込める、すると。

 ――♪
 鮮やかな旋律が、月下の夜空を舞った。
 人間には到底奏でられない、天使の歌声。
 ミレイとアポロン、アルテミスが曲に合わせて体を揺らしている。
 舞踏会の曲に天使の歌。
 ……なんとも、豪華だな。

 二人に近づくと、出来る限りの笑顔で。
「俺と一曲、踊って頂けませんか?」
 手を差し出した。
 二人の返事は当然。


「「喜んで」」
ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。

祝・ルナ大公国編、終了~!


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