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REGAIN HEROES ―本当に世界を救うRPG― 作者:本堂ゆうき

AREA 1 今、そこにある危機

8/110

stage 7 楔

 悶々とした(別に不健全な思考に耽っていたわけではない)午後を過ごし、放課後になるや真っ先に家へと帰宅すると、着替えもそこそこにREGAIN HEROESを起動した。夕飯までは時間があるし、メールによれば瞬も高峰も和奈もこの時間の方が今日は集まりやすいだろうという内容だったのである。現実世界では一瞬の事とはいえ、集まるタイミングというのは重要だからな。

「結局考えはまとまらなかったけど、とりあえず上げられるだけレベルは上げないと」

 ステータスそのものを伸ばすだけならばスキルの熟練度を上げるのでもいいが、ステータスの総和で決まるHPとTPの最大値の割合はレベルに依存する。
 レベルが低いままスキルだけ上げてステータスを伸ばすよりも、高レベルの方が耐久力も持久力も伸びるのである。特に俺の場合、今よりも一つ上の装備に切り替えるのにステータスが全体的に足りないという問題も抱えている。レベルと習得済みのスキルを育てる訓練、両方とも疎かに出来ないのだ。
 タイトル画面にある項目の中から、通常のプレイ用のコンティニューではなくリゲインと呼ばれる項目を選択する。

 リゲイン。

 最初の日にスマホから聞こえてきたこの単語は、俺達の肉体をソウルフォームへと構成するための言葉であったらしい。
 あの時は自分に何が起こったのか理解すら出来なかった。
 しかし、原理はともかく自身に起こる変化を知覚した今は僅かな高揚感と全能感と共に、沢木武彦という人間を構成する要素の一つ一つが粒子にまで分解され、全く別の高次元の存在に再構成されていく感覚を肌で感じられていた。

 落ちるような、昇っていくような。
 吸い込まれるような、吐き出されるような。
 沈んでいるのか、浮かび上がっていくのか。

 言葉に出来そうで出来ない浮遊感に身を任せるのも束の間、俺の眼前には今ではすっかり見慣れた廃墟のホテルのロビーの景色が広がっていた。
 装備品もしっかりと顕現されている。
 着慣れた普段の学生服、鎧代わりのバリアを発生させる腕輪を左手首に、右手には金属製のロングソードをしっかりと持っている。鍔や柄が少し近未来なデザインである以外は、よくある西洋剣と全く同種の武器である。呼び出すのも装備を切り替えるのもイメージ一つで済むのは、ゲーム内でインベントリから装備をボタン一つで切り替えるような手軽さをそのまま再現しているそうだ。
 アイテムに至っても持ち歩く必要は無く、これを使う、というイメージを抱くだけで即座に現れるという便利さ。だが、これは和奈の能力によるバックアップである為、ストックの数だけ使えるわけではないのが難点だ。
 しかし、そんな不便さを差し引いてもゲーム中で確立させた、装備の切り替えが可能だという事を基準にした戦術に影響が出なかったのはありがたい。特に瞬は全身を覆い隠せるようなタワーシールドと片手で扱える盾を細かく使い分けるし。
 けれどもゲームと同じなのはそこまで。手から伝わる質感、腕にかかる重量、何より命を殺める武器を持っているという感触はあまりにもリアルである。質感や重量はステータスの筋力が伸びればいずれ軽く感じるのかもしれないが。
 軽く素振りをしながら待っていると、高峰がリゲインし、瞬が続き、そして高峰の隣に俺たちとは違って半透明の和奈が立って――いる!?

「って和奈がなんで!?」
「やった、八千代、八千代、やっぱり沢木さん、驚いてくれましたよ!」
「そりゃね、そんな幽霊みたいな姿で現れたら驚くでしょうよ」

 目を白黒させる俺に対して、事前に知っていたらしい高峰はやや呆れ顔、和奈はあどけない笑顔を浮かべている。瞬は二人の前にリゲインしたので見ていなかったのだろう。俺が何に驚いているのかに首をかしげて後ろを振り返ってようやく気づいたくらいだ。

「実は、和奈がきちんと肩を並べて一緒に戦いたいって言い出してね。貴方の力は稀有な『天眼』を用いた情報管理と戦況把握が第一なんだから現場に出る必要は無いでしょって説得したんだけど」
「確かに俯瞰で皆さんの戦いは見ることが出来ますし、感覚はその凄まじさを感じ取ってはいます。でも、だからといって自分だけその場に居ないというのは……」
「それで、じゃあ自分のイメージ体だけでも一緒に来る? って言ったらこの有様なのよ」

 なるほど、俺達のソウルフォームと違って実体が無いようなものなのか。

「その身体に何かされても和奈本人には影響は何もない?」
「もしかしたら、このイメージを消失させる事はできるかもしれませんが、わたし本体と繋がっているようで繋がっているわけではないですし、このイメージを通してわたしをどうこうすることは出来ません。また、仮にこのイメージを消されたとしてもわたしの仕事はきちんと出来ます」
「ならまあ……和奈がそれで納得するって言うんならいいんじゃないかな。俺達が守る必要があるとか言われたら即座に帰るように言うところだけど」

 それでなくても不得手な戦いの最中に、さらに非戦闘員を守りながらとか無理ゲーすぎる。
 君は俺が守る、とかそういうのは言ってみたくはあるが現実は言う程簡単じゃない。まして範囲魔法や高速で飛来する飛び道具、さらには獣や化物とこちらに対する脅威はあまりに強大すぎる。

「はいっ、沢木さんたちのお手は煩わせません! わたしの自己満足のようなものですから!」
「いいじゃん、タケ。頭ん中で和奈ちゃんの声が聞こえるのも、後ろから応援されるのもどっちにしても気合入るだろお前なら」
「それはそうだけど、高峰みたいな護衛がついてるって事は和奈って一応組織のVIPだろ? 何か起こらないか心配にもなるじゃないか」

 詳しい話は聞いてないけど、和奈がそういう立ち位置に居そうなのは見れば分かる。
 ま、だからこそ高峰がオーケーを出したのならば俺がそれ以上心配する事などないのかもしれないが。

「気づかいはありがたいけど、あんまり構えた扱いはしないで上げて頂戴。それでなくても、日守市の支部ではお姫様扱いで疲れてるみたいだから、この娘」
「み、皆さん持ち上げすぎなんですっ」
「そうよねえ、特に年配の人とかには孫か親戚の姪でも来たのかしらってくらい可愛がられてるものね」
「わ、わたし一応支部の代表なんですけどーっ!」

 ああ、うん。なんかすごいイメージできた。このちっさい身体で責任に押し潰されないように背伸びして頑張ってるんだろうけど、この小動物的な和奈が奮起すればするほど微笑ましい視線が集まりそうな風景が目に浮かぶ。

「と、とにかくですねっ。今日は訓練用のフィールドではなく、『尖兵』の存在が確認されましたので迎撃戦に向かいますよ」
「尖兵……ボスの前に雑魚って事か?」
「はい、放っておくと街のあちこちに被害が出てしまいます。尖兵による世界の侵食が進みますと、現実とこちらの世界の境界が曖昧になります。そうなるとこちらの世界の風景が現実に顕現してしまいますので」
「……ということはこっちの世界の風景って」
「……放っておくと現実の世界がこうなる、という一種の未来予想図なのです」

 それでREGAIN HEROESの世界観は崩壊しかかった現代世界で、というコンセプトになっていたのか。

「この廃ホテルだけ毎回同じ風景なのは侵略者の領域に合わせてわたし達が打ち込んだ楔だからです。敵の尖兵を誘い寄せ、その世界を実体化させて攻め込むために用意した拠点でもあり、世界に対して即座にアクセスするためのブックマークでもあるといいましょうか」
「ああ、それで尖兵が実際に攻め込んでいるであろう現実の場所に直接行ったりする必要が無いのか」
「はい、だからこそスマホに必要なアプリをインストールしてさえいれば、いつでも戦士の皆さんを招聘できるという利点もあります。もっとも、この技術と古い術式を融合するまでに物凄い時間を要しましたが……」

 その間にも科学はどんどん進歩しただろうからな。和奈の説明だと割と簡単に出来そうな印象を請けるけど、実際にここまで迅速に対応するための手順を整える為に先人達がどれ程の準備を進めてきたかは想像すら出来なかった。
 その集大成が一つのゲームというのは何とも言い難いが。
 話もそこそこに俺達は軽く打ち合わせを済ませて薄暗いロビーを出た。
 相変わらず外には夕焼けのような赤い空が広がっているが、眼前の風景は昨日とは違う。
 見覚えのある街並みではないが、ひび割れたアスファルトと道路、そして無人の店が建ち並び、ガラスの割れたアーチが続くこの通りは歩行者天国の商店街を思わせる。

「影響の出る現実世界に存在する要素をランダムで取得した結果作り上げられる世界なので、まるっきり同じ風景ではないかもしれません」
「あー……だとすっと、あそこかな、タケ? 駅前からちょっと歩いたとこにあるアーケードの」
「そうかもしれないな」

 ということは放っておくとあの街並みがこんな見るも無残な風景に変わるという事か。
 そして、こうなるのは建物だけじゃ勿論あるまい。いずれ人の犠牲も出るだろう。どんな形でこの風景が現実になるかは知りたくもないが、気分のいいもんじゃない。
 義憤、と呼べるほどの強い感情は無いがそれでも生まれ育った街だ、相応に愛着も郷土心もある。やれる限りのことはやってやろうじゃないか。

「前方に敵影発見です。今回の尖兵は集団タイプですので、囲まれないように注意してくださいねっ」
「てことは雑魚がワラワラ湧いてくるようなタイプかな!?」
「はいっ、無双系ゲームほどではありませんが」
「滅茶苦茶わかりやすい説明ありがとう、和奈!」

 ゲーマーなら割と一発で通じるであろう説明通り、地面から黒い影のようなものが立ち上ったかと思ったら、あっという間に形を為して群れとなる。
 頭から顔まで全面を覆うアーメットタイプの兜にいかにもな西洋の鎧に身を包み、剣やら槍やら盾やらを持った人影がガシャガシャと金属音を立ててこちらに向かってくる。
 足並みは揃っておらず、動きも鈍い。なるほど、regain heroesの序盤のエリアでよく見かけた雑魚モブに良く似ている。動きは緩慢だが攻撃のパターンが多彩でただ防いだり斬ったりするだけでは数の暴力に押し潰されるというゲームの基礎を学ばせるようなモブだった。
 だが、そんな事よりも俺が思うのは。

「ゲームよろしく最初は練習ね、みたいなモンスターが出るのは何とも都合がいいな」
「私達が生まれる少し前くらいに起こった侵食から今回のはつい最近だからだそうよ。あまり、大きな力を持つ尖兵や侵略者――インベーダー達は世界の『壁』を通り抜けられないらしいわ。もっとも放置しすぎたり、私達が防衛に失敗して境界線が弱まってくればその限りではないけど」

 高峰の説明を補足するように和奈も静かに語る。

「逆にわたし達はそうして時間を稼ぎつつもこちらの世界に潜んでいる侵略者を探し出し討伐する事で少しずつ世界の危機を遠ざけていかなければなりません」

 そうして綱引きの様に勢力を引いたり引かれたりしながらも、最終的には必ず「根幹」となる侵略者の親玉を討伐してきたのが和奈達の組織という事か。
 人手が足りなかったり準備不足が目立つのはもしかすると、この周期が今回は異様に短かったり、逆に発生した範囲が広すぎるとかそういうのもあるのではないか。
 っと、ともかくそんな細かい事情はまたでいいだろう。今は、とりあえず目の前のこの兵士モドキの雑魚を倒さねば――っとその前に。

「瞬、ちょっとちょっと」
「お? 何だよ」
「試したい事がある。敵が近づく前にちょっと盾をこっちに」

 言われるまま片手で扱うカイトシールドをこちらに向けた。状況に応じて取り回しのいい盾と重厚な盾を使い分けるのが瞬のスタイルである。ただ、弾くようなパリングならともかく振り回すようにして敵を殴るような使い方をするのはコイツだけだろうが。

「サンダーウェポン!」

 属性付与の魔法、これはその雷属性バージョンだ。人型のボスと予想されているので金属製装備をまとっているのではと予想した俺は付与魔法のカテゴリーからこれを習得しておいたのだ。
 瞬の盾マスタリーがユニークスキル化した事と解説から一つの仮説を立ててみたのだ。
 ウェポン系魔法の説明には装備している武器に属性を一定時間付与する、とある。
 そう、武器だ。それ故に俺はこの魔法を盾にかけてみる、という発想をしなかった。他にもきちんと盾に対して付与する魔法を覚えていただけにそんな事は考えもしなかった。

 だが、今の瞬はユニークスキルによって盾の防御力がしっかりと攻撃力としても計算されている。
 すなわち――武器だ。

「お、おお? 何か俺の盾に雷が付与されたんだけど?」
「おお、やった成功だ! よし、瞬、その状態で何か盾スキルの攻撃スキルを試して来い!」
「なんかよくわからんけどやってくるわ!」

 興奮を隠し切れないまままくし立てた俺の言葉を疑う事無く、瞬は猛然と走り出し、

「シールドブーメラン!」

 思い切りカイトシールドを水平にぶん投げた。
 それはもうフリスビーでも投げるかのように迷い無く。
 確か説明では闘気によって自身と盾を繋ぐ鎖のようなものを生み出す事でヨーヨーのように投げたシールドを回収できる盾スキルの一つだったはず。
 ガン、と高い金属音が盾と相手の兜がぶつかった事を示し、そして兵士に対して派手に光る雷光が発生したのを俺は確かに目撃し自分の予想が間違っていなかったことを確信した。

 ルールに縛られない発想は――武器になる、と。


 
その自由な発想こそが武器になる。

武彦、現状打破なるか。
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