挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
REGAIN HEROES ―本当に世界を救うRPG― 作者:本堂ゆうき

AREA 1 今、そこにある危機

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

7/173

stage 6 急場を凌ぐために

 衝撃的な出会いと事実を知った日から明けて翌日。
 例え非日常が間近に迫っていると知っても現実がそれを考慮してくれるわけは無く、考える事が山積みながらも俺は真面目に登校をせざるを得なかった。
 昨日の晩、熟練度稼ぎのプレイがてら明らかになった情報を思い浮かべながら、ぼんやりと板書を写しながら俺はその事を考えていた。

 現在、この世界は危機に瀕している。

 世界大戦が始まるとか、資源の枯渇、大災害といった常識の範疇ではない。俺達の現実そのものを脅かす脅威が世界を侵食しているのだという。
 それらが重なり合う直前の境界線。俺達のよく知る光景が地獄の様に変化したソウルフォームでの戦いの場こそが、二つの現実を隔てる防衛線なのだ。
 迫り来る侵略者の僕を撃退できなければ少しずつ防衛線に綻びが生じ、維持できなくなったが最後、俺達の現実は侵略者によって瞬く間に塗り替えられるのだ。
 その防衛線を守るのに適した地は現在世界中のあちこちに点在しているらしい。幸か不幸か、俺達の住む日守市は日本の防衛線の一つであり、その為に和奈たちは動いたものの圧倒的人手不足から戦闘員は現地調達という苦難を余儀なくされた。
 準備期間はそれなりに長かったらしいが、高峰が呆れたとおり、能力と人格が一致しなかったために想像以上に戦力は集まらず、戦いが間近に迫った中、俺たちはたった三人での戦いを強いられる事となった。

 どこぞのフィクションの地球防衛軍並みに酷い扱いだな。絶望感はあっちの方が上だけども。

 ピンチもピンチだが、高峰や瞬はまだいい。明確な方針でキャラを育成していたし相応の強さがある。
 問題は俺の半端なステータスだ。二人はこれから装備の向上も兼ねた訓練を始めるようだが、俺に至ってはまず実用的なスキルを身につけるかレベルを上げるかしなければならない。
 REGAIN HEROESではキャラクターの生命線ともいえるHPと、各種スキルを使用する為に必要なTPに関しては少々変わった計算式を用いている。
 ステータスは攻撃力に関する筋力、命中率に関わる技量、防御力に関する体力、回避力や移動速度に関係する敏捷、魔法攻撃や一部の付与魔法や補助魔法の性能を左右する魔力、魔法防御ややはり一部の付与魔法や補助魔法に関わる精神、そして総合力に影響する反応と七つの項目が存在する。
 これらの大まかな適用ルールはソウルフォームでも変わらない。
 問題なのは前半四つのステータスの総合でHPの最大値が、後半三つのステータスの総合でTPの最大値が決まるという方式だ。
 他にはスキルボーナスで最大値が変化する以外にはこの数値を伸ばす手段は無い。とりあえずステータスを上げればどちらかの最大値が上がるわけだが、狙って最大値を伸ばすにはある程度ステータスが限定されるというデメリットがある。
 ただ、これはゲームならではのデメリットであり、ソウルフォームになっては、どちらも感覚で判断する他はない。実際、スキルの使用感に関しては「このスキルなら最大三回くらい使えるな」というのがなんとなくで分かってしまう。HPに関しては考えるのをやめた。イチとゼロで生死を判断する境界線を具体的に知ろうと思うのが土台無理の様に思えたのだ。
 で、このHPとTPの総合だが、これが現状俺が一番高い。
 戦士型の構成である二人は反応以外にTPに関するステータスを上げておらず、瞬に至っては高峰より精神の値も低い。あいつにとって攻撃魔法とは直撃を許してはならぬ脅威の攻撃なのだ。
 一方の俺は全体的にステータスが伸びている分HPはかろうじて他の二人より高く、魔力も精神も上がっているのでTPが高い。単純に均一に近い状態なので二人よりも攻撃力に反映されていないだけで、実は耐久や持久力に関しては俺がメンバーの中で一番だったりする。

 だがそのせいで数少ないレベルアップ時の成長を何に振るか悩むハメになった。

 物理か魔法、どちらかに偏らせる方がいいだろうとは思う。
 いや、メンバーの能力を考えれば間違いなく後方支援の為に各種魔法の性能を伸ばすべきだろう。前衛は既に二人いるのだ、ここで俺が前衛を張る必要は皆無である。
 しかし、全体的に装備に関わるステータスが若干足りてない為に今より少しランクの高い装備が揃わないというのも大きなマイナスではないだろうか?
 なまじ戦士系寄りのクラスである俺の武器は現状では筋力や技量のステータスを要求される。これが魔法職ならば、そちらが下がる代わりに魔力や精神を要求されるという状況だったのだが、よもやここにきてクラスの性能が足を引っ張ろうとは!
 スペルナイト、つくづく大器晩成(希望)なクラスだぜ!
 後々の方針は後で決めるにしても、現状迫ったボス戦に有効なのはどちらだろうか。
 昼休みの間にでも和奈に連絡して現状判明している情報を貰ってから考えた方がいいだろう。
 近接戦闘能力を強化するか。
 攻撃魔法を取得するか。
 それとも付与や補助魔法を伸ばすべきか。
 ボスや雑魚の特徴に合わせて最適なものを選択すべきだろう。ある意味、一番臨機応変に対策を取れるのは俺なのだ。下地が中途半端だからこそ――どんな道でも選べるのだから。
 うんうん、そうしようそうしよう。後で和奈に連絡しなければ。

「では、この地域の産業が伸びた理由だが、沢木。答えてみろ?」
「は、い?」

 思わず返事をして黒板を見たが、そもそもどんな授業をやっていたのか、板書を写してはいても中身は全く頭に入っていない状況ではそもそも質問の意図も理解出来ない。
 教師の視線が呆れからやがて怒りへと変わり、俺に出来る事はただ頭を下げること。
 俺の目の前に問題は山積み過ぎた。そんな事を痛感した午前の授業だった。


 ◆


『沢木さん、授業は真面目に受けなくてはだめですよ』
「いや、本当その通りです、ゴメンナサイ」

 昼休み、購買で買ったパンをかじりながら俺は中庭の休憩所で和奈に電話をかけていたのだが、後ろから瞬が「よう、授業中ぼーっとしててどうしたよ?」などと言ったものだから、耳ざとくそれを耳にした和奈に今日の授業の失敗をあらいざらい吐く羽目になった。おのれ、瞬。
 だけど、年下の娘に怒られるという行為に妙な背徳感と快感を感じなくもない。やだ、これって恋? 違うか。

『では、沢木さんは次の「防衛戦」を乗り切る事を前提にステータスを調整したいということですか?』
「ああ、その先々の事はとりあえず目の前の事を乗り越えてからだ」
『……そうですね、特にスペルナイトは数あるクラスの中でも特に前半が大変なクラスですから……』
「和奈、その情報は聞きたくなかった」
『ああああああ、ごめんなさいですっ!』

 何かスマホの向こうで必死にペコペコ頭を下げる小動物的な和奈の姿が思い浮かんで和んだものの、どうやら俺の置かれた状況は俺の想像以上にイバラの道らしい。

「大変だなぁ、タケ。それに比べてオレは考える事ねーな。いつも通り筋力と体力に交互に振って伸ばすだけだ」

 殴りたい、あの笑顔。
 いや、アイツに悪気は無いんだが。というかコイツもコイツで大変な育成方針の筈なのだが、方向性が単純なだけにそこまで厳しくは無いようだ。

『ですけど、お二人とも「エアムーブ」のスキルを取得するのは確定ですよね?』
「高峰のあの動きを見たらなあ……それに今後空中戦があるかもしれないと考えると取らないのはマズイと思う」

 エアムーブ。
 いわゆる空中アクション系のスキルに派生するパッシブスキルの基礎である。
 ゲーム内では各キャラクターがジャンプ時や滞空時におけるアクションの幅を広げるスキルだったが、ソウルフォームではこれがそのまま空中戦の機動力に繋がる。
 スキルがあるのと無いのとではとにかく動きに制限がかかる……というよりはエアムーブ派生のスキルがあると物理法則を徐々に無視できる補正がかかっているという感じだ。
 空中で同じように剣を振るだけなのに、俺はかなり難儀したが高峰はアクション俳優というかワイヤーアクションも真っ青の華麗な動きでこなしてみせたのである。移動や行動に関するスキルは、ソウルフォームでの立ち回りに大きく影響する可能性があると俺達に思い知らさせた一件だった。
 理屈では分かっていても身体が動かせないが、スキルがあれば理屈の方から勝手に頭に入ってくる、そんな感じなのだ。パッシブスキル、マジ重要。

『そこから更にスキルを絞って強化ですか……沢木さんは特に大変ですね』
「そんな訳で少しでも有利にする為に、今度の侵食に関する情報が欲しいんだ」
『わかりましたっ。まずですね……』

 聞こえてくる和奈の声に従って瞬にスマホのメモ帳に内容をまとめさせておく。後で転送してもらえばいいからな。電話切ってメールで送ってもらえばいいだろう、というのは言わぬが花である。
 情報は実に的確で細かな点までまとめられている。ボスの特徴、予測される行動から弱点に至るまで。どうやら過去の戦いでも確認された種類であるからこそ対策が練りやすいようだが、俺の顔は徐々に険しくなる。

「……予想される攻撃に対する耐性に偏りは無く、もっともスタンダードな番人のタイプである人間系のボス、か」
「敵領域の広さの範囲もそれなり、今までにも対戦のデータがあるので行動パターンを構築しやすい、か。これって、急なボス戦になったけどオレらにとっちゃ対策がしやすいって事だよな、和奈ちゃん」
『はい、準備期間の短さ、人数の少なさなど、わたし達には不利な状況ばかりでしたが、これは朗報だと思っています』
「けどこれだと――俺の育成の方向性を決める決め手には全くならないんだよな」
『あ』

 そう、ボスに有効な育成方針という事で情報をもらったのに、突出した能力や個性を持たないボスが相手という事は――もっとも得意な能力や技術に特化した瞬や高峰のような育成方法が一番効果的という事だ。現状の能力やスキルを考慮して、ボスに有効なものを選んで取得する、という俺の目論みはあっさりと消えうせたという事だ。

「くっそう……まさか余計に頭を悩ませる事になるとは思わなかった。いや、近接タイプのボスみたいだし、前衛を二人に任せるスタンスで今回は支援や遠距離攻撃を伸ばす方針を取ればいいってことか?」
「でも半端な攻撃魔法を後ろからチマチマ撃つくらいだったら、付与魔法で必要な属性付与したり、補助魔法で強化や弱体化させたりして三人でフルボッコしてもいいんじゃねーの?」
『三人とも回復魔法の適性がある人がいないですし、沢木さんが二人のダメージを減らすように立ち回るという事も考慮に入れられると思うんですけど……』
「ほらー、やっぱりまとまんねぇー!」

 どれを取ってもいい、それはすなわちどれにするかというのを悩むのに他ならない。
 ああ、思えば俺は選択を強いられたからこそ常々いいとこ取りを狙ってしまう傾向があるのだ。

「タケはやれる事があると全部やりたくなっちまう派だからなー」
『そ、そうなんですか?』
「昔っから二択や三択を迫られるとあれこれ考えに考えてから選ぶんだよ。選べないのを優柔不断って言うん……だったか? そういうのとは違うんだけど、だからこそ切り捨てなくていい時は欲しいだけ欲しいって取っちゃうやつなんだよ」

 そうだ、瞬の言うとおりだ。選べと言われれば苦渋の決断を下せるが、その必要が無ければ俺は欲しいだけ欲しい。
 中学の頃、少ない小遣いを貯めてどちらのゲームを買うか悩んだ経験。
 某国民的ゲームの嫁選びで一時間近く悩んだ経験。
 腹が減ってどっちの料理屋に入るか悩んだ経験。
 ああ、かくも世界は選択を強いられる事に満ちている。だからこそ俺は、俺は、REGAIN HEROESでは取れるだけのスキルを選んできたというのに。

「……自分の命がかかってるんだ。妥協は許されない……だが、俺がこの先生き残るためには何を選び、何を捨てるべきかのか?」
『さ、沢木さん? 電話越しだからでしょうか、少し声のトーンがおかしいようですが、大丈夫なのでしょうか?』
「ふ、ふふふ、心配するな和奈。俺は大丈夫だ、大丈夫だよ」
『ぜ、全然大丈夫に聞こえないですぅー!? 柏谷さん! 柏谷さーん!』
「あー、心配すんなって和奈ちゃん。なんだかんだで頭を使うだけ使ったら元に戻るから」
「こんなスキルで大丈夫か? 大丈夫じゃない、問題だ」
『沢木さーん!?』

 心配そうな和奈の声が酷く遠くに聞こえる。
 この娘を不安にさせないためにも、俺は万難を排した慎重なスキル選びを進めるしかない。

「……防具代わりのシールドリングは何故キャラの能力を防御力に換算する、みたいな設定なのだろうか。何故武器は普通に重量に見合った筋力や扱いに必要な技量を求められるのか。どっちにしても能力が高くないといい装備が出来ないというのは現実でもゲームでも当たり前だが、そうなるとスキルボーナスによる成長を計算に入れてなおかつ有力なスキルの組み合わせを検討すべきで――」

 俺にはもう、外の声は聞こえない。
 ただただ黙考に没するのみ。

 答えは何処だ。
何でも出来るが故に、何にも出来ないのが勇者。

とは、とある冒険活劇漫画の大魔道士のコメントですが、
まさにそんな状況の武彦なのでありましたw
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ