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REGAIN HEROES ―本当に世界を救うRPG― 作者:本堂ゆうき

AREA 2 願いは きっとそこに

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stage 23 後衛職の存在(いるといないとじゃ大違い)

虚界接続(コネクト)

 四人目の仲間(予定)である水篠先輩を加えての初の戦闘訓練。
 だが、今回の相手は坂本さんではなく領域の魔物、すなわちインベーダーが相手だ。定期的に現れるインベーダーをこちらが用意した領域に閉じ込め顕在化させ、こちらに有利なフィールドで戦う実戦さながらのバトルである。
 周囲の風景は更地になった住宅街という感じだな。焼け落ちた家とか、壊れた塀などがところどころに残ってはいるが遮蔽物が殆ど無い廃墟に近い。
 そんな風景にはある意味似つかわしいといえようか、俺達の目の前には犬型のインベーダーが群れを成していた。もっともどいつもこいつも凶悪な面構えでとても近寄りたいと思える雰囲気ではなかったが。

『敵は犬型のインベーダーのマーダードッグです。集団での戦闘、というよりも狩りを好む好戦的なインベーダーで、亜種には強力な毒を持った個体もいます。小型種なので戦闘能力は並ですが、数が多い場合は注意が必要な種類に分類されます』
「犬なら犬らしく別の獣を狩ればいいのに、何で殺人犬なんて名付けられてるんだ」

 それくらい人を襲ったからなのだろうか。それともイメージ優先なのだろうか。インベーダーの命名はどうにもインパクトや印象優先という気がしてならないが、未知の敵に対する名付けってのは大体そんな感じで直感的な名前を付けられる事が多いよな。
 実際、集団でウロウロしながらもこちらを獰猛な目で睨みつけている犬は穏やかな犬種というよりは凶暴化した野犬に近い印象がある。遠目だからまだお互いに様子をうかがい合っているような状況だが、何かの切っ掛けで一斉に襲い掛かってきそうな危険な雰囲気がプンプンしていた。赤く光っている目がなんとも不気味である。不気味じゃないインベーダーもそういないが。

「センパイ、いきなり実戦で大丈夫っスか?」
「うん、平気平気。自分で戦うのは初めてって言ってもコネクト自体は二度目だしね。それに……」

 少しだけ周囲に目を見回すと先輩はちょっとだけ苦笑いしてこう言った。

「こんな風景が現実に起こるかもしれないって、こうして見ちゃうとねー。怖がってる場合じゃないよね」

 別に先輩がやらなければならない訳でも無いのに、この崩壊した風景を現実として受け止められる先輩の度量に感嘆する。それとも既に身内が毒牙にかかっているから、この光景を他人事と思えないのか。
 どちらにせよ、先輩の眼差しからは怯えのようなものは一切感じられない。恐怖を感じているのだとしてもそれを強い意思で押さえ込んでいるとしら、それはもう俺達と共に肩を並べる仲間として申し分ない。

「よし、まずは瞬を前面に押し出して仕掛けよう。相手がどういう行動に出るか読みにくいからな」
「普通に盾としての仕事をすればいいのか」
「というかお前はその間合いで獣系相手に仕掛けるのは厳しいだろ」

 とにかく直線的な攻撃が多い瞬じゃ敏捷性に優れた獣を相手にするのは不向きだろう。
 盾は所詮正面からの攻撃に対してのみ強い。回り込まれてしまえば終わりなのだ。

「俺や高峰が攻撃を仕掛けつつ、水篠先輩が後方から狙いやすそうなヤツラに魔法を撃ち込む。とりあえずこういう戦闘が可能かどうか試しましょう。難しかったら別の作戦を考えなきゃいけないしな」
「それでいいわ、幸い相手はそこまで強いインベーダーじゃないし、あいつ等が水篠さんに向かうようなら私がカバーする」
「足手まといにならないように頑張るね」

 いや、レベル1なんだし足引っ張ってもそれは仕方ないと思う。この一戦を終えれば一気に上がるとは思うけど。

「うっし! それじゃ一番乗りは頂くぜ! うりゃあああ!」

 ドン、と力強く地を蹴って瞬が盾を構えたまま突進する。相変わらず瞬間的な速さだけは我がパーティで一番の男だ。後からゆっくり追随する俺達より少し離れて瞬は敵陣の真っ只中に飛び込んだ。
 真っ只中!?
 あの馬鹿、何で群れの前の方の敵に突っ込まなかったんだよ! それじゃ囲まれてフルボッコにされるだろうが!

「やば、あいつ前に飛び出しすぎたのか!? くそ、すぐに助けに――」
「あ、うん、沢木クン、多分大丈夫じゃないかな? 何か私、この光景見覚えがあるんだけど」
「いやいや、初の戦闘の先輩が見覚えって……ん?」

 よく見ると、瞬はその場で足を止めつつも、四方八方から群がるマーダードッグの猛攻から的確に盾を合わせて攻撃を防いでいた。鼻先をど突いたり、牙ごと盾で打ち据えたりと確かに打ち合わせ通りに敵を惹きつけ「盾」としての仕事をしている。

「つまり柏谷クンは私のお膳立てをしてくれたって事かな。行くよー!」

 先輩は何かを悟ったらしく短剣を抜く。
 殺傷力よりも儀礼的な意味を持たせた直刃の短剣。近接攻撃力は高くないが、各種魔法の効果に少しだけプラス補正が働く追加効果のついた短剣である。

「ファイアボルト!」

 攻撃魔法のお約束。
 先輩が広げた左の手の平から放たれるのはサッカーボールくらいの火球。
 狙った箇所目掛けて高速で火球を放つ初歩カテゴリーの攻撃魔法。
 基礎中の基礎であり、誰もがイメージしやすい攻撃魔法だが、それだけに効果は単純。速度も威力も初級魔法の中ではそこそこでSP消費も極めて少ない。チャージタイムもリキャストタイムも無く連発が可能な魔法だが、発射後の操作は不可能なので、

「あ、惜しい!」

 動きの素早いインベーダーにはそこそこの確率で避けられるだろう。まして対人相手では常人ならいざ知らず、REGAIN HEROESによって鍛えられている俺でも発射の瞬間さえ見ていれば避けられる、という速度だった。
 のだが、

「ファイアボルト! とアイスボルト!」

 その一瞬で獣の動きを見切ったのか、先輩はファイアボルトを避けさせた上で――その位置を先読みしてアイスボルトを直撃させていた。
 アイスボルトは氷塊を撃ち出す魔法だが、着弾時に炸裂し着弾箇所から氷漬けにしていくという追加効果がある。というかただ氷をぶつけるだけなら物理魔法だ。生物ならば全般的に効果のある低温攻撃こそがアイスボルトの真骨頂だが、発動のためにはやはり氷塊を当てる必要がある。中級クラスの魔法にならないと、これぞ魔法! という感じの攻撃魔法はあまりないのだ。
 先輩の攻撃魔法による援護射撃によって、瞬の防御はますます冴え渡る。あいつ背中に目でもついてるのか、という陳腐な感想が浮かびそうなくらい盾を持ったまま複数の獣相手に無傷で立ち回っている。だが、そんな攻防が続けば一部のマーダードッグがこちらに流れてくるのは必然。

「やっぱり全部を瞬で引きつけるのは無理か」
「迎撃するわよ、沢木君」
「二人とも援護するよー」

 どうやって? と聞き返す暇は無かった。
 俺達の後ろから火球と氷塊が次々に飛来し、しかも俺達の進軍を阻む事無くマーダードッグの足だけを的確に止めていた。この精密な魔法攻撃は、単純に狙いが優れているだけではなくマーダードッグの行動をある程度先読みできているからこその賜物だ。

「っこの!」

 いかに素早い獣であってもその足が止まっていればいい的だ。俺の剣が素早く下から振り上げられ、マーダードッグの首を飛ばす。
 この連携で俺も思い出した。これは前に狩りゲーをやってた時の連携だ。
 瞬が重装備の盾キャラで見事な防御テクで攻撃を防ぎつつチクチクと槍で敵を突き、俺が雑魚の相手を引き受けているうちに、先輩のキャラが高火力の弓で狙い撃つというプレイをした時の事を。
 まさかそれをリアルでやる日が来るとは思わなかったが、瞬が果たしてそれを覚えていたのかどうか。ただ単に「盾の仕事」という部分に反応して思わず飛び出しただけのような気がしなくもないが。

「沢木君、そっちに三体向かったわよ!」
「何っ!?」

 マズイ、一体は俺のサンダーボルトで、もう一体は剣でどうにか出来ても残りはどうする!?
 俺が抜けられたら後ろには先輩が!

「あ、それは想定済み。沢木クンは一体だけお願いね~」

 反射的に動こうとした俺を水篠先輩はやんわりと制止した。
 え、マジで? まさか本当にやる気なのか、あの魔法を?
 だが、もう遅い。俺の攻撃範囲で止められそうなのは一体だけだ。仕方なく、俺は噛み付こうとしたマーダードッグを蹴り飛ばし、そこから確実に胴体を切り裂いてトドメを差した。

「アイスボルト、ファイアボルト、マジックボルト!」

 時間差をつけて各種攻撃魔法を立て続けに撃ち込む先輩。
 マジックボルトは魔力そのものを塊にして撃ち出すという、これまた攻撃魔法の初歩の初歩。
 物理衝撃を与える魔法でありながら、威力を減衰させるには魔法防御による判定になるため物理的に固いだけのインベーダーには有効という使い勝手のいい魔法だが、水篠先輩の見せ場はこの魔法ではない。
 炎と氷が弾ける地面に、マーダードッグは足を止める。その後も素早く反転して動こうとするも、既に二手、三手と先読みして放たれる魔法がそれを許さない。
 そう、先輩は俺とは質の違う頭の使い方をする。
 俺が事前に作戦を組み立てゴールまでを想定しつつ戦略を練るなら、先輩は常に状況を見てから判断するタイプだ。
 簡単に言うなら場に混ざるのが圧倒的に上手い。ゲームでも仕事でも人付き合いでもそう。自分を殺している、という意味ではなくこの場で自分に何が求められているのか、自分が何をした方がいいのか、それを感覚で理解して動くという、ある種の天才肌の人間の動きに近いのだ。
 事実、先程の瞬の奇妙な行動に対して俺が戸惑ったのに対し、先輩は即座に最適な行動を導き出して見せた。それもレベル1で魔法職という今の自分で出来る最適な行動を。
 だから、だろうか。先輩の現在の手札を知っていたのもあるが、レベル1の先輩を危機に晒しかねないというのに、任せろという声に不安よりも安心を感じてしまったのは。

「フォースブレイド!」

 先輩の声に応じるかのように先輩の右手から青い魔力の光が迸る。
 いや、正確には右手に握っていた短剣を核にして巨大な魔力の剣が形成されていた。
 そして容赦なく振るわれる断罪の一閃。
 前に飛び出していた俺達には届かず、しかし敵は確実にその刃の内にという間合いにまで伸びた魔力の大剣はあっさりとマーダードッグを寸断すると同時に消失していた。
 先輩が習得していたのはこの魔法。そして俺が習得しなかったちょっと特殊な攻撃魔法。

 フォースブレイド。

 瞬間的に魔力を放出して刃を形成し、魔力の大剣で一刀両断するという物理か魔法か良く分からぬ攻撃魔法。そう、攻撃魔法なのだ、付与魔法ではない。なぜならばこの魔法は持続型ではなく、一太刀浴びせる程度の時間の間だけ剣の形を保っていられる放出型の魔法だからだ。
 使い捨てかつ延長可能な○イトセーバーの極太版と言い換えてもいい。
 魔力で形成している為に物理抵抗だけでは威力を殺せず、魔力で形成しているため殆ど重さを感じさせず扱いやすいというまさしく魔法使いの隠し札。遠距離が主体の魔法使いを追い詰めたと思ったら抜き放たれるのは必殺の魔力の剣というどんでん返し。これが素人の技ならばまだ回避も出来るだろうが、そこはどっこい先輩は短剣マスタリーを習得している。その剣閃の鋭さは少なくとも素人ではない。
 この性能だけを見れば俺が習得しても十分活用できそうなのだが、この魔法、威力計算が純粋にステータスの魔力しか参照せず装備品による補正が利かないので、純魔法職ではない俺だと威力が微妙なのだ。それこそ付与魔法で属性を付与した普通の攻撃の方が強いんじゃないかというくらいに。
 それに強力ではあるが、この魔法はそもそも紙装甲が当たり前の遠距離職である魔法職が使うにはハイリスクハイリターンな性質だ。接近された時の切り札、と言えば聞こえはいいが一発限りの上に消費するSPも多い初歩魔法の中では確実に隙が大きめの大技に位置する魔法を使いたがる者が果たしてどれだけいるだろうか。
 自ら敵を足止めし、確実に当たるという状況を作り出し、なおかつそれを初陣で試すこの水篠先輩は俺の想像以上にタフな女性だったのかもしれない。

「うんうん、狙い通り! これなら十分範囲魔法としても期待できるね」
「いや、これが範囲魔法として活用出来るような位置にたくさん敵を抱え込まないで欲しいんですが」

 訂正しよう、タフな女性だった。
 上手くいった事を安堵する所では無く、こんなリスキーな魔法で敵を一掃しようなんて考えている時点でこの人の心臓は並ではない事がよくわかる。
 どちらにせよ、俺達は頼もしい味方を得られたのかもしれない。そう考えながら、俺は未だに敵の攻撃に耐え続けている瞬の援護に向かう。
 その背中を託すことが出来るという安心感を感じながら。
後衛火力職の存在は偉大です(断言

なおフォースブレイド、元ネタはREGAIN HEROESの基本にもなっている
某シリーズのあの理術です。対人でアレをまともに当てられるプレイヤーを
作者は尊敬します。

※ 一月十三日の更新は休みます。

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