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REGAIN HEROES ―本当に世界を救うRPG― 作者:本堂ゆうき

AREA 2 願いは きっとそこに

20/110

stage 18 紳士の助言

「……も、もう身体が動かねぇ……」
「後……三十分くらいはソウルフォームでいられそうだけど……俺ももう力が入らない……」
「……恭二さんの全盛期がここまで……とはね……」

 四時間後。
 随分と延びたソウルフォームの維持時間が十分に余っているにも関わらず、俺達は疲労困憊で訓練用ホールの床に寝そべっていた。大の字で転がる瞬とは違うが、普段はクールな高峰ですら柱に寄りかかって座り込んでいる。

「いやはや、技術の進歩とは大したものだ。この感触、紛れもなく往年の頃の力ですな。いまや自力で領域体を作る事も叶わなくなり迫る危機に対して歯噛みするしかない身を嘆いておりましたが、私もまだお嬢様方に貢献する事が出来そうです」
「改めて坂本達の時代……二十数年前の戦いの激しさを目の当たりにした気がします。わたし達は本当にまだまだなのですね……」
「いえいえ、私とて戦い始めた頃からこの強さを身につけた訳ではありません。むしろ、その当時だけを比較するなら沢木様達はよく修練を重ねていらっしゃる。お嬢様の考案した『過去の英雄たちの力をなぞる事で短期間で強さを身につける』という目的であるREGAIN HEROESは成功と言えるでしょう。今の世代が抱える問題を解決する十分な一手でございますぞ」

 一方で坂本さんは息一つ切らしていない。
 初戦から数えて都合数十回は複数戦をこなしたはずなのだが、一体どんな体力だ。ステータス値が振り切れてんじゃないの? 主に物理面で。
 しかも坂本さん、細剣が主体なのは分かるが他にも様々なスキルを取得していてとにかく手数が豊富だ。基本的に、行動速度が段違いで攻撃回数が多いから俺達は何度挑もうが防戦一方。最初こそ人相手に武器を向ける事に対する躊躇みたいなのも感じていたが、何度も倒され底冷えのする殺気を向けられ続けるうちにそんなもんは完全に麻痺した。

 俺が剣を振るより先に細剣の刺突が貫き。
 瞬の構える堅牢な鉄壁であり迫る壁でもある盾を潜り抜け。
 高峰の高速の連続攻撃を上回る体捌きは無数の残像を生んだ。

 そんな常識外の相手を前に今まで培った常識が吹っ飛ぶのは道理なのだろう。

 戦わねば生き残れない。

 そんなフレーズが思い浮かぶくらいに頭の中がはっきりと切り替わった。姿形に惑わされるな、っていうのを伝えようとする坂本さんの凄まじいまでの闘志が、いつしか俺達の中の認識を強引に変えたようだ。

「これ以上の訓練は無意味かもしれませんな。肉体同様、領域体……いや、沢木様達はソウルフォームと呼称しておりましたか。この状態で身体を酷使しても良い経験には繋がりませぬ」
「それは……正直助かります……」

 実戦で坂本さんと同等の使い手が現れたら敗北確定という事実を感じつつも、俺は素直に限界を認めた。ここで、まだやれます、と立ち上がるのは構わないがその無茶が次に繋がらない状況では意地を張る意味はないだろう。
 それに思わぬ形で見つかった問題についても考えておく必要がある。

「和奈、灰色の沈思黙考(シャープタクティック)の再使用可能までのクールタイム、どれくらいだった?」
「計測しましたところ、およそ三分ほどではないかと」

 三分かー、結構長いな。
 いや、性能を考えればむしろ破格か? 時間を止められるのは一分だけとか、一度使うと二十四時間は再使用不可能とかに比べれば。
 他にも上位のスキルを手にしていけばこうしたデメリットも存在するだろう。強い力に浮かれて細かい仕様の確認を知識ではなく身体で理解するのを忘れていた事は大いに反省すべき点だ。
 そんな事を考えている俺の後ろの方では、坂本さんが瞬と高峰にアドバイスを送っているところだった。

「柏谷様はそのまま長所を伸ばす形で力をつけるのがよろしいでしょう。ですが、私と同じように体術の技を幾つか身につけてもよろしいかもしれませぬな。特に体術の技の中には身のこなしに関する技術がいくつかございますので」
「あ、そっか。武器を持たなきゃ俺のスキルって発動するんだもんな」
「ええ、己の肉体のみを武器にする体術はもっとも単純にしてもっとも奥深い。故にREGAIN HEROESの中でも容易に極める事は出来ませんが、あらゆる武術の基礎でもある為に戦闘技術の底上げには大きく有用であると言えましょう」

 そんな坂本さんの説明に俺はREGAIN HEROESの画面での体術スキルの仕様を思い出していた。
 マスタリーから分岐するカテゴリーが随分と細かかったように思えた。手を使うスキルと足を使うスキルに枝分かれするに始まって、その両方が必要な複合型のスキルに派生し、体術マスタリーさえ身につけていれば身体ステータスを補強するだけのパッシブスキルがあったりとメインに据えて鍛えるとかなりの時間がかかりそうだが、身体能力面で足りないものを補ったり坂本さんのようにサブスキルとして使うには便利な能力が多かった。

「八千代はもう少し腕力を伸ばしてもいいでしょう。ただ、刀術スキルの中にある回避系の技ももう少し会得してもよいのではないかな? 今のままでは次善の策が足りないように見える」
「……時間が無かったから、攻撃技にのみ集中してたんです」
「気持ちは分かるが、それでは戦場に送り出す私の心が穏やかではない。もう少し、防御や回避についても学ぶと良い」
「……分かりました」

 口調こそ若干厳しかったが、坂本さんの声はまさしく愛する者を心配するそれのように聞こえた。
 高峰も素直に頷いてるし、あの二人の関係って本当理想的な恋人関係だよな。
 甘すぎず、厳しすぎず、しっかりと言うべきことは言う坂本さんの姿勢もそうだし、素直にそれを聞き入れる高峰も立派なもんだ。相手を慮るが故に言わなければならない事をしっかりと伝えるってのは、同時に相手の不興を買う事を恐れて口に出来ない事もある。だが、そうしたから大事な時に間に合わない、そんな事だって起こりうる。
 優しいだけ、厳しいだけじゃ相手には伝わらない。バランスが大事だし、お互いが相手を思っていて、なおかつ相手に寄りかかるだけではなく、時に支え、時に支えられる覚悟が出来ているからこその関係。

 うーむ、大人だ。想像以上に。高峰のあの落ち着きようも分かるというものだ。

「さて沢木様ですが……私としましても少々判断に悩みますな」
「中途半端な方向性でどうもすみません」

 ぼけっと考え込んでいたら、突然向いてきた矛先に俺は思わず頭を下げた。
 うん、我ながら本当中途半端ですからね、このステータス。
 結局、ナイトパペットとの戦いに合わせてどうにか装備品の要求ステータスにはこぎつけたものの、俺のステータスは依然として突出した数値の無い平均的なステータスになっていた。無論、各種スキルのボーナスによる補正を含めてである。弱点が無いと言えば聞こえはいいが、問題は俺の能力、技量、スキルの全てがそれを生かせるほどの万能性を有していない事だ。
 近接戦闘をすれば一歩劣り、足りない属性攻撃を補うには威力が微妙。特化型と比べるなとは思うが、臨機応変に様々な状況で効果的に戦える、と称するには俺の能力は足りない物ばかりなのである。

「ああ、勘違いをさせたのならばすみません。私が言いたいのは――どちらから伸ばしていくべきか、その判断に困っただけなのですよ」
「どちらから、とは?」

 どういう意味だ? 一体坂本さんは何を天秤にかけて悩んでいるのか。

「無論、万能型の魔法剣士としての完成を目指す為の方向性ですよ。沢木様の筋は悪くない。特に目の前の戦況に対応しつつも常に思考を働かせる冷静さ、一番初めの手合わせの時のように最初の一歩を踏み出せる胆力、固有の能力の汎用性といい、素養は十分に持っていらっしゃる」

 おお、何たるべた褒めか。俺ってそんなに適性持ってたの? お世辞じゃなく?
 少なからず浮かれる俺に、しかし坂本さんは冷や水を浴びせるように言葉を告げた。

「しかしながら、現状ではそのどちらも原石に過ぎません。戦闘に貢献できる要素で言うならば、柏谷様や八千代の方が数段上でしょう。そして二人よりも会得しなければならぬ事が多い分、戦士としての完成は随分先になる茨の道です」
「ですよねー……」

 分かっちゃいたけど、歴戦の戦士に断言されると若干へこむ。
 いや、だからこそ苦労の先にある俺の理想像は凄いものになると信じたい。
 だが、そうなると坂本さんの言う「どちらから」というのはもしかして。

「坂本さんは、俺の『物理』系の能力と『魔法』系の能力、どちらを先に伸ばすべきかを困っているって事ですか?」
「ええ、その通りです。どちらも交互に伸ばし、技を会得していく事で沢木様の能力は全体的に伸びるでしょうが、だからこそ次の成長は近接戦闘技術か魔法技術を伸ばすかを決めかねるところでして」

 近接と魔法、両方やらなきゃならないからな俺。
 というよりも単独での生存能力こそが必須だろう。強化魔法込みでもある程度敵からの猛攻を凌ぎ、隙あらば味方へのフォローを行い、敵によって物理か魔法か有効な手段を選び戦う。
 幸い、特化型の二人は各々の得意分野のスキルのレベルアップに必要な経験値がそろそろ大きくなり成長が鈍化するが、広く浅く取得しつつ成長させている俺は手札を増やすという点だけならば二人より有利。そしてステータスへのボーナスが優秀なスキルから伸ばすという手法を取れば、能力値だけならばあらゆる状況に対処できる戦士になれるという訳だが。
 坂本さんとの手合わせから考える。
 どうスキルを取得すべきかを。
 仲間、能力、そのどちらも足りないパーティが当面の安定を手にするには、俺が何を手にするべきなのかを。

「……敢えてどちらかに絞らない、というのはありですかね、坂本さん?」
「ほう、沢木様の考えをお聞かせ願えますかな?」

 疑問に思った、というよりは俺が何を言うのかを楽しみにしているかのように僅かに微笑んだ坂本さんに俺は言葉を続けた。

「とりあえず連休が明けたら仲間探しをしますし、そのメンバーによっては俺達のパーティに足りない要素は大きく補強されます。俺が現状足りないものを補うためにスキルを絞り込むのは早計だと思いまして」
「確かに仲間が増えるか否か、その判断が出来ぬ内に沢木様の方向性を決めるには時期尚早と」
「なので、俺はこのまま全体的にスキルを伸ばそうと思います。いつでも――その時々で足りないものを補えるように」

 いわゆる臨機応変に成長可能な幅を取っておくことで、重要なタイミングで即座に欲しい手札を手にする育成法だ。常にスキルポイントを余分に残しておくとか、レベルアップ時のステ振りポイントなんかをプレイヤーの好きなタイミングで振れるゲームなんかで使う手法。
 このREGAIN HEROESではそれが可能だ。何せゲームを起動してポイントを振るだけだからな、ステータスもスキルの成長も。緊急時と言っても準備をする余裕はあるから、即時対応も可能。現状では仲間の二人が特化した成長をするならば、俺は一歩引いて選べる選択の幅を広げておくべきだろう。
 そんな俺の答えに坂本さんは満足そうに頷いた。

「沢木様がそうはっきりと決めたのならばそれが最良の答えとなるでしょう。何、私の意見などあくまで前任の戦士であった経験則からのものです。REGAIN HEROESという単なる修行とは違う方法で強くなれる貴方達には貴方達なりの最善があるはずですから」
「ありがとうございます。でも、細かな方向性についてはまたご相談しても構いませんよね?」
「勿論ですとも」

 それならば大丈夫だ。右も左も分からない戦闘の素人なりの意見を、プロが判断してくれるというのならばこれ程ありがたい意見もないのだから。

「私達の時代には自分にどのような技術が最適なのか、自分は一体どんな才能を秘めているのか。それを明確に知ることは出来ませんでしたが、REGAIN HEROESは違う。得手不得手がはっきりと理解でき、また己の弱点を知る事も埋める事も多少の努力で可能となる。ならばこそ、沢木様達は己の思うままに力を手にし強さを伸ばしていくべきです。それこそが強くなるための最短距離だという指標があるのですから」

 それは強くなる事も一苦労であった時代を生き抜いた戦士の重く、しかしとてもありがたい助言となって俺の胸に響いたのだった。
トレーニングは効率よく行うべきですね。
しかし、スキルレベルを上げるトレーニングは
死の追体験と引き換えとか過酷ですねえ(ゲス顔

※ 1月7日の更新は休みます。
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