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REGAIN HEROES ―本当に世界を救うRPG― 作者:本堂ゆうき

AREA 1 今、そこにある危機

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stage 1 REGAIN HEROES

※ 三話まで同時公開しています。閲覧順にご注意ください。
 あまりの出来事に思考が働かない。
 夢だとか、現実じゃないとか、眼前の光景を疑う事が出来ない。
 何故、だとか、どうして、だとかそんな疑問を抱くよりも先に俺の耳が同じような声を捉えたからだ。

虚装転現(リゲイン)

 またしてもどこからか聞こえた先程と同じ機械音声が聞こえたかと思うと、俺の右手に――REGAIN HEROESの中のプレイヤーが使っている片手剣が握られていた。
 程よい重量感と質感。まるで手に馴染むように扱えると確信出来る――戦う為の武器がそこにある。

「ちょ、これって俺のプレイヤーの装備そのまんまじゃん!」
「オレもだわ……何これ? オレらってもしかしてラノベとかアニメとかでお約束っぽい事態に巻き込まれたんか?」
「とりあえず、瞬の外見はそのままだから異世界転生とかじゃないだろ……そして、周りの風景が風景だから『その日、世界は崩壊した』系かなって思うけども……」

 普通なら取り乱しそうな出来事を前に、俺達は暢気に現状についての感想を言い合う。
 単に想像出来る範囲内での出来事だからだろうか、それともとっくに正常な思考が麻痺しているからなのか。いや、違う。多分俺達は――分かってしまっているのだろう。
 こんな世界を目にした時から、剣なんて物騒なモノがこの手に現れた時から、何故か頭の中にこれはこういう事なんだと、納得してしまえ、と頭が告げている。動揺しない為のフォローが「何かの力によって」されているという事は、この事態はきっと偶然に偶然が重なって起きたことではないのだろう。

「……ま、グダグダ考えても仕方ねえ。タケ、死にたくはないよな?」
「そりゃ当然だろ」
「ゲームの中だから死んでも大丈夫、なんて考えてねえよな?」
「残念ながら、頭のどっかで納得させられてるんだよねえ……非常識だけどこれは現実だってさ」

 昨日、あのミノタウロスに挑んだ時は瞬の操作するプレイヤーが押しきられた瞬間、防御力の足りなかった俺は一撃で瀕死に追い込まれた。挑んだ時よりレベルは上がっており相応の能力を持っているという事を理解()()られているが、それは死に対する不安を払拭する理由にはならない。
 あのミノタウロスは昨日のボスと同じかもしれない。けれど、まるっきり同じだと思うと痛い目を見る。いわゆる再生ボスとして考えよう。行動パターンを弄ったりして慣れたプレイヤーを翻弄してくる系のボスだ。ゲームの中では色々と試したが、今はガチでやる。ハメ殺す勢いで倒して――生き残ってやるぞ。
 周囲の耳を打ったような静けさのせいで、隠しきれずに激しく動悸する心臓の音すら耳が拾うような極度の緊張感。
 ゲームのようだけどゲームじゃない。あの馬鹿でかい斧は俺達なんて簡単に殺せる凶器そのもの。それを巨大な牛男が構えているのだ。ビビらない方がどうかしてる。

「瞬、盾、やれる?」

 けれどもそんな相手にこんな提案をする俺の方がどうかしてるだろう。
 一発当たっただけでミンチになりそうなあのキワモノを相手に盾役を提案だ。非情だとは思うが、これも作戦の一つと割り切るしかない。防御力、という点では俺の方がはるかに劣るのだから。
 普通なら文句が出て当然のはずの瞬は、

「いやあ、まさかガチで盾の仕事をやるとは思わなかったけどよ――やるしかねえだろ」

 状況が分かってるのか分かっていないのか、あっさりと了承した。
 いや、多分前者なのだろう。この状況は四の五の言えるものじゃないと、瞬も頭のどこかで理解しているのかもしれない。

「俺の支援魔法の効果は現状三分。光が消えたら効果が切れたと思ってくれ。かけ直しは……アイツの動きが鈍くても二人だけじゃ厳しいな」
「もう一人、タゲ取り出来ればいいんだけどな。しゃあねえ、やるしかないか!」

 気合を入れて叫ぶと瞬の左手に全身を覆うほどの大きさのタワーシールドが現れた。頑丈な金属製大盾の質感がゲーム以上にリアルに再現されている。それだけに――扱いには慎重にならねばならないだろう。

「自分の視界、気をつけろよ」
「へへ、心配すんな。オレはあのゲーム、一人称視点でやってんだぜ」
「え、お前そんな縛りプレイしてたの?」

 盾を扱いながら三人称視点でプレイしないとか殆ど目隠しプレイみたいなもんじゃないだろうか。
 コイツはつくづく縛りプレイもどきが好きだな。

「折角だから徹底的にロールプレイってやつをしようと思ってさ。筋力も最初から高いウォリアーだったし、装備制限もそれほど気にならなかったし」
「いや、確か大盾って結構な筋力要求しなかったか?」

 REGAIN HEROESでは装備品は要求するステータスが足りていないと装備すら出来ないタイプだった。
 特に左手で扱う事をイメージしているからか、武器に比べて盾は同ランクその装備品で比較すると全般的に筋力の要求値は高かった気がする。俺は盾スキルまで取ってる余裕がなかったのであまり詳しくは見ていないのだが……。

「盾スキルが高くなると装備時の要求筋力が下がるボーナスがあるんだよ。マスタリー系スキルの効果の一つだな」
「……つくづく色んなスキルを取ってみたくなるなあ」

 そんな性能もあったのか。剣スキルとか武器スキルにはそういうボーナスなかったから気づかなかったよ。その武器を使ったスキルの前提になっているのと、その武器を使った場合にのみ攻撃力にプラスの補正がかかるってだけだったからな。
 そんな会話をしつつも俺達は徐々に相手との距離を詰める。
 ひび割れたアスファルトの交差点の中央に陣取るミノタウロスは不動のまま。
 崩壊した現代の風景にファンタジーの魔物。普通ならば違和感しか感じない組み合わせも、数多くのフィクションの世界の一つと思えば不思議と馴染む。
 こっちから仕掛けるまでは動かない、って事だろうか。それならとにかく出来る限り付与と補助魔法で強化しまくって攻めるしかない。

「……HPゲージもTPゲージもないからなあ」
「まあ、当たったら終わりって考え動くしかねーだろ。そもそも、回復アイテムとか使えそうか?」
「いや、装備品しか手元に無いと思う。制服のポケットとかにもそれらしいの無いし」

 一番肝心な情報が目に見えないというのは何とも怖いものだが、仮に見えたとしても危機を打開する手段が無いのでは意味は無い。

「よくあるラノベみたいだよね、本当」
「言っとくけど、死ぬつもりないからなオレ。何でかわからないけどスキルの使い方も分かるし、抵抗できないって訳じゃ無さそうだし、やろうと思えばやれる気がすんぞ」
「俺も育てたキャラが覚えてたスキルは大体使えるって感覚がある。というわけで行くぞ?」

 何を? と怪訝そうな顔をした瞬に向かって、俺は手をかざして唱える。
 魔法の発動、そのキーとなる名を。

「シールドブレッシング!」

 装備している盾を魔力で保護、受ける衝撃を緩和させ防御力も高める付与魔法。

「ゲインストレングス!」

 次は瞬の身体に向けて強化魔法を放つ。筋力にプラス補正をかけて攻撃力を上げる魔法。
 当然自分にもかけておく。

「アクセラレーション!」

 反応速度を上げ、身のこなしを鋭敏化し、全体的な動作を機敏にする魔法。ゲームでは操作キャラの行動速度が全般的に向上する魔法で利便性が高かった。ステータスの一つである敏捷を伸ばす魔法とはまた別扱いらしい。
 これまた自分にもかけておく。

「ファイアウェポン!」

 そしてこれが取っておき。昨日のボスと同系統ならば、獣系のモンスターは大抵火属性の通りがいい。
 瞬は盾で守り盾で殴るので、斧は飾りだからいいが、俺は剣で斬りつける事もある。武器に属性を付与する付与系魔法の効果はきっと絶大なはずだ。

「うお、こうしてリアルで見るとかっけぇーなエンチャント系魔法!」
「だろ? あんまり有効じゃないゲームも多いけど、属性を変化させる魔法ってやっぱりロマンだよな」

 古来から、ヒーローは炎の剣で戦ったり、ライバルキャラが氷の剣を振ったり、強力なボスが雷の斧を振り回したりと、自然現象と武芸の一体化は男心に憧れるものがあるのだ。
 しかし、感動してる場合ではない。俺のキャラの性能そのままだとしたら、これらの補助魔法や付与魔法の効果はそれぞれ違うだろうが、さっきも言ったとおり体感で恐らく三分が限度。

「瞬、三分経ったら魔法が切れるからな! 同じように相手が出来るとは考えるなよ!」
「その前に倒すとは言わないんだな、タケ!」
「倒せる可能性の方が低いからな!」

 殆ど勢いに任せるように叫んだのは恐怖を誤魔化すためだ。瞬もきっと似たようなモノだろう。でなければあんな、

「うおおおおおおお! 喰らえ、パワーチャージ!!」

 大盾スキルの一つ、盾を構えたまま猛突進しそのまま体当たりするようなスキルをデカブツ相手に使おうとは思わない。
 あのスキルは性能の一つに、突進距離が長ければ長いほど威力が増す、というのがあった。恐らく瞬は、相手が動いておらず、なおかつ長い助走距離を取れるのが、後にも先にもこのタイミングしかないと判断したからこそ繰り出したのだろう。
 このスキルで相手にどれ程の効果があるか。今後の攻め方を見切る上でもこれを試金石にするつもりなのだ――自分の命を懸けて。
 それはさながら優れた重騎士の突進にすら見えた。

「ブモオオオオオオ!!」

 外見どおり牛のような雄叫びをあげてミノタウロスが反応した。俺も瞬に遅れる形でついていっている。もしも速攻で決めるとしたら瞬が引き付けて俺がその間に斬りまくる、それしかないのだから。
 ゴオン、とまるでトラック同士がぶつかったかのような轟音が耳に届き、発生した衝撃が頬を撫でていった。瞬の攻撃は果たしてどうなった?

「いよっしゃあ、流石は俺の盾!」

 なんと驚いた事にあの全長三メートルはあろうかというミノタウロスを思いっきり交差点の中央から吹き飛ばしていた。数十メートルは余裕で吹っ飛んでる。その吹き飛ばした距離や威力も去ることながら、ミノタウロスの身体はビクビクと跳ねておりまだ体勢を立て直せていないようだ。完全に行動不能に陥らせるほどの威力を出したってことなのか? 盾、侮れぬ。
 だがそれなら好都合。俺は思いっきり大回りをしてミノタウロスの頭がある方へと走る。
 まるで自分の身体では無いように感じるほどに瞬時に景色が流れ、瞬く間にミノタウロスの近くまで肉薄した。自転車に乗った時とも、車の窓から流れる景色を見たとも違う自身の肌で感じた速度に驚くよりも先に俺はすかさず攻撃に転じる。
 起き上がったら頭部を攻撃できるチャンスなんてきっとこの後にはもうないだろう、今の内に――!

「まずは目!」

 斬るのと焼くのとの同時攻撃で、相手の視界を奪う。まるで金属の塊でも斬りつけたかのような感触に思わず手から剣を零しそうになるが必死に我慢。何度も何度も滅多切りにして、

「ブギャアアアアアアアア!!」

 相手があげる苦悶の悲鳴も必死で堪え、剣を乱暴に叩きつける。
 次に出来れば首をと思ったが、やはりミノタウロスの反応は早く、両腕を振り回しながら起き上がって暴れたため、俺は慌てて距離を取った。だが、立ち上がってもなおミノタウロスの目は閉じられたまま――というか完全に潰れている。あれならば落とした斧も拾えないはずだ。

「瞬、暴れまわってるからな気をつけろよ!」
「おうよ!」

 そこからはもう必死だった。
 瞬は必死に足を何度も何度も大盾で強打し、俺はそこへさらに斬撃を重ね相手にダメージを重ねていく。
 相手はデカブツだ。だからこそ、どちらかの足を折ってしまえば、後はもうやれることは限られるはず。鉄の塊か、コンクリートの塊かと思うようなミノタウロスの拳を掻い潜り、もう一度地面に引き摺り倒したミノタウロスの頭に俺と瞬はもう必死で武器を叩き付けた。
 HPゲージのない事が俺達に焦りを生ませたのかもしれない。
 これ程早く、相手に倒れろ倒れろと願いながらただ俺達は無造作に武器を振り下ろす。
 優雅さも華麗さもない。ただただ相手を打倒せんとばかりにがむしゃらに武器を叩き付けるだけの無様な戦闘。
 そんな不恰好な戦いでもやがて決着はつく。
 俺の炎の剣の魔法が切れると同時に、俺の剣はヤツの胴体から頭を切り離した。瞬が執拗に足を攻めてくれたお陰でミノタウロスをもう一度転倒させる事に成功したからだ。
 断末魔の叫びはない。俺達に勝ったという感慨が生まれるでもなく。
 作戦が上手くハマったからか、当たったら死ぬ、と分かる攻撃を喰らうような場面もなく俺達はあっさりと勝利を手にしていた。あまりにもあっさり過ぎて現実味がないほどに。それはきっと、まるで景色の中に吸い込まれるようにミノタウロスの身体が消滅していったせいもあるのだろう。

「はぁ……はぁ……やっべ、すんげー心臓ドキドキしてる。今頃手も震えてきてるし」
「オレもだ……マジで勝てたのかオレら」

 けれども感じた手応えと、気だるさにも似た疲労感がこれは本当の事だと教えてくれているかのようだ。無茶をした反動なのか、目の前が眩むような眩暈を感じて、俺は思わず額に手を当てる。
 ぐにゃりと周囲の景色が歪んだかと思うと、まるで今まで目の前にあった風景は地面に溶けて消えるように染みこみ、その下から現れたのは――何時もの見慣れた風景。
 穏やかな風と聞きなれた自動車の音に、俺達はいつの間にか元の場所に戻っていた事をようやく自覚する。

 あまりにもあっさりすぎる現実への帰還。

 慌ててスマホを確認するも、時間は殆ど経っておらず隣に立つ瞬も訝しげな顔をしてこっちを見ていた。

「……白昼夢?」
「……だったらいいけどな。でも、現実だぜ、タケ」

 時計を見たときに表示を見たのだろう。そこには受信したばかりのメールが開かれており、

『クエストの達成を確認しました。今から、こちらが指定する場所にてお待ちください。説明と突然の非礼に対するお詫びを申し上げたいと思います』

 送信者は不明。送信元も不明の奇妙なメール。
 まるで今起こった事を見ていたかのような内容のメールが、俺のスマホにも届いていた。

「ここまでお約束を踏襲されるとな。逃げても無駄感が凄くね?」
「そりゃな、いつの間に俺らのメールアドレスを知ったんだ、何処で見ていたんだとか、考えるだけ無駄って言うかなぁ」

 そういう意味では俺達はファンタジーな出来事に対してあまりにも抵抗が無さすぎるのだろう。
 これだけフィクションに様々な創作が混じっていれば、ああ、あれと似たようなもんかみたいな判断が出来てしまう、というかそうしてしまう。
 別に今の現実に不満は無い。両親は健在だし、バイトは楽しいし、学校生活もまあ順調だ。彼女だけはいないけど。
 だから、死にたいとか叫んでトラックの前に飛び出したりはしないし、教室でボケっとしてたらこのまま異世界に飛んでかないかな、などと妄想した事もない。そんなトラブルがもしも起こるんなら、そういうのを望んでいるやつにやってくれと正直に言えるくらいだけど。

「行こうか、瞬。REGAIN HEROESも含めて、きっとこのメールの差出人の筋書き通りだろうから」
「だな。それにこの場所、すぐそこの市民公園だ。木陰とかもあるし、ベンチのある場所なら静かだから、それっぽい話をするにはもってこいだろ」

 ますますお約束っぽいな。
 そんな事を思いながら、俺は家へ帰る道ではなく、その公園へと向かう道を歩くのだった。
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