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REGAIN HEROES ―本当に世界を救うRPG― 作者:本堂ゆうき

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stage 16 連休のある日 衝撃のファーストコンタクト

 衝撃の事実を知り、衝撃の戦いに参加し、衝撃の脅威に立ち向かうという衝撃がゲシュタルト崩壊しそうな出来事に見舞われた四月は過ぎ、五月。
 GW(ゴールデンウィーク)という新人と言う肩書きを多くの人が身につけるであろう四月を生き抜いた人々への僅かなご褒美とも言える連休の最中、俺が何をしているかと言えば――

「うーむ、やっぱ和奈のところのスタッフはゲームってもんを分かってるな」

 無償提供された和奈の会社の新作ゲームソフトをプレイしていたりする。この作品は最近ではあまり数を見なくなった高低差のあるマップでユニットを操作して戦うタクティカル系のSRPGである。この手の名作は初代SP機にまで遡らないと見つからないとまで言われるほど廃れてしまったジャンルなのだ。
 時折、時代のセンスやブームに逆行した作品も出す事で有名な和奈のメーカーだが、こんなチャレンジャースピリッツで経営は大丈夫なんだろうかと、素人なりに心配になってしまう。そもそも利益の一部が和奈達の組織運用の資金にもなっているのだから、無難な作品作りで堅実に作品を提供していくべきではないだろうかとも思うのだが、その辺このメーカーは一切の妥協が無い。職人魂を宿したスタッフが集結しているのか、それとも世代継承が正しく行われているのか。
 その精巧さを示すかのように大半の作品がプレイアビリティの高さには定評がある。特に本当にディスク作品なのか、と言われるほどに挟まれないロード時間の短さは絶賛されていて、およそテンポの面に関しては否の評価を貰わぬほどに快適なのだ。それだけ認められれば固定ファンも当然つく。サービスに妥協していないからこそ、どんな作品であっても手に取られ、そして売れるという事なのかもしれないな。

 などと考えながらも自軍が徐々に追い込まれ始め、慌てて戦況を立て直そうとした時、スマホがメールの着信を告げた。
 誰だろう、瞬かな? 暇だから遊ぼうぜ、みたいな用事だろうか。
 しかし、そんな考えは送信者の名前が和奈であった事から吹っ飛んだ。
 何だろう、休日にメールとか、こ、これはもしかするとワンチャンあるのか? この程度でちょっと緊張するとか俺は中学生か。今時、女子とちょっとメールのやり取りするくらい当たり前だろ。一応、アドレスにもクラスメイトの女子の名前くらいあるわ。滅多にメールも電話も来ないけど!
 そんな悲しい日々にサヨナラ、さてさてどんな用事かな、と。

『本日の訓練は、新しいシステムを導入しましたので開始時間を少々遅らせることになりました。準備が整いましたら連絡しますので、虚界接続(コネクト)はそれまで待っていただけるようにお願いいたします』

 ただの業務連絡でした。ですよねー。そんな色気のある話なんてそうそう向こうから舞い込んでくるわけないよなー。ははは、あれ、何か笑いが乾いてるな。何か飲むか。

「……重症だな、俺」

 ここまで一人の女の子に入れ込んで、メール一つに一喜一憂するとか情けない。一応、世界各地で同じように戦ってる他の人達同様に、俺の肩にもちょっとだけ世界の命運が背負わされてんだぞ。そこんところ忘れないようにしないと。
 一応その先にあるであろう、和奈の笑顔が何よりのご褒美かも知れんけど。
 うん、だからそういう邪な考えがよくないのであってとセルフツッコミを入れておく。別に頑固一徹に世界平和に貢献、ってつもりはないんだけど、でも気を抜いていい時とそうでない時のメリハリくらいはつけておかないとな。
 連休明けには仲間探しの事もある。数少ない原石からよさげな宝石を探し当てないといけないくらい大変な仕事だが、これも俺達の命がかかっている大事な仕事だ。
 うん、そうだな。世界の為にも真面目に頑張らねば。ということでコーラでも取ってきてゲームの続きを――と思ったらまたスマホがメールの着信を告げている。
 も、もしかしてさっきの業務連絡的メールを気にして和奈が別のメールを送ってきたとか? 真面目系美少女あるあるだよな、この展開! どれどれ送信者はっと……?

『和奈ちゃんとこの新作やってる? このマップの敵強すぎて進めないんでアドバイスくれよ』

 俺はそっとベッドの上にスマホを投げ捨てた。


 ◆


 夕食を終えて風呂にでも入ろうかと思った時にそのメールは来た。
 幸い、訓練時はどれ程時間をかけようが現実の世界での時間は一瞬だ。REGAIN HEROESを起動し、いつもの廃ホテルに辿り着く。独特の浮遊感にもようやく慣れたな、と思っていると目の前に見慣れぬ扉がある。
 いや、正確には元々このホテルのロビーにあった大広間への扉であったのだが、つい昨日までは崩れた瓦礫によって塞がれておりどけようとも思わなかったのだが。
 和奈の言っていた新しいシステムとやらに関係があるのだろうか。そんな事を考えているうちに、周囲に続々とコネクトしたらしい瞬や高峰が光の柱の中から現れた。

「いよっす、タケ。早いな」
「早いな、ってアクセスしたらすぐなんだからちょっとの差だろ」

 訓練時間は俺達のソウルフォームの維持可能限界の幅が延びるほど長くなるとはいえ、無駄な時間の浪費を避けたい事からコネクト自体は出来る限りタイミングを合わせているのだ。若干のタイムラグなど誤差の内にもならない。

「お待たせ二人とも。新しいシステムの調整にちょっと手間取ってね」
「ですが、これまで以上に画期的なシステムですよ!」

 ほら、僅かなズレで高峰達も到着した。高峰の隣でちょっとだけ胸を張っている和奈だが、今回実装したというシステムはそんなに自信作なのだろうか。直接戦う事のできない彼女だけに、こうした形での貢献は何より嬉しいのだろうが、それはさておき。

「それも気になるが、もう一つ気になる事があるんだが、和奈」
「はい、なんでしょう?」
「和奈って学校には通ってないんだよな? 確か飛び級で外国の大学を卒業したとかで」
「そうですよ、本当は日本の高校にも通ってみたかったんですが、お仕事の片手間に通うにはちょっと……」

 困ったように笑う和奈だが、そこには僅かに寂しさのようなニュアンスを感じ取れた。
 そりゃそうだよな、こうして同年代の俺達がいるとはいえ彼女は組織内では高峰くらいしか親しい友人がいないとも聞く。普通に学校に通ってみたいという想いを抱いても当然であるが、彼女はそれを組織のため、使命のためと諦めるだけの決断力がある。
 そんな彼女に聞くのは少々躊躇われるのだが。

「じゃあ、和奈がいつも着ているその制服は自前のデザインなのか? それともどっかの高校の?」
「い、今、それって関係ある話なのでしょうかー!?」

 あれ、何か思った以上に動揺しているような。
 何故か隣でクスクスと笑う高峰。あれは理由を知っている顔だな。

「ひ、秘密で――」
「私の学校(ところ)の制服でもよかったんだけど、組織(ウチ)で装備品のデザインをしているスタッフの何人かがノリノリで和奈専用の制服を作っちゃったのよねえ」
「八千代ー! 喋ってはだめですぅー!」
「確かに、このカーディガンと紺色のセーラー服の絶妙な混じり具合は筆舌に尽くしがたい……まるで誂えたように似合ってるとは思ったが、本当に和奈専用制服だったのか。そう考えると少しカーディガンの袖が余ってるのも和奈の可愛らしさを助長しているな」

 俺には分かるぞ。このデザイン、着る人間の魅力を最大限に引き出すためだけに存在している。
 今後の成長を見据えて少し大きめの制服に身を包み、だぼっとしているがだらしないイメージは無く微笑ましさや可愛らしさの方が先立つサイズ。
 うむ、これこそまさしく職人芸。和奈のところのスタッフは優秀だな。

「きょ、今日のメインはわたしではありません! さあさあ、早速正面の扉から専用のルームに入ってください!」
「逃げたわね」
「これは和奈ちゃんの逃げだよなあ」
「追い詰めたくなる背中だな」
「三人とも本気で怒りますよぅ!?」

 よし、今日も和奈を可愛らしく怒らせることに成功。こうでもしないとコミュニケーションが取れぬ、シャイな俺。思わぬ話題を提供してくれた高峰には感謝しかない。
 ……もしかしてバレてんのかな。女子ってそういう勘が鋭いって言うし、側仕えの高峰なら俺みたいな女性経験ゼロの新兵童貞の微妙な振る舞いなんざ見抜かれてるかもしれない。
 和奈が開いた扉を潜ると、薄い空気の層を通り抜けたような感覚があった。
 もしかして物理的に繋がっているわけじゃなく、別の空間に抜けたのか? そんな事を考えていると周囲の景色が一変した。
 だだっ広い白いホール。柱が等間隔に並び、円形のフィールドのようにも思えるが見上げても天井が見えない。まるでとてつもなく長い円柱の中にでも入ったかのような場所だった。

「沢木さん達には人材不足の説明はしたかと思いますが、その原因は主に新しい世代であるわたし達の世代に、インベーダーの領域で戦う為の力の適性の不足が問題でした」
「だな、世界的に急激に減少したんだっけ」
「はい、ですが逆を言うならば――旧世代の方には、まだ現役で戦える方もいるという事です。もっとも、ソウルフォームに自力でなる以上、その能力の衰えは肉体年齢以上に早く、前線で戦えるという方は僅かな上に、そんな方々も貴重な戦力として戦地に向かっているので……」

 人材不足を補うために、引退した戦士まで戦っているという現実に和奈は胸を痛めているようだ。
 しかし、それと目の前の場所との関係は一体?

「しかし、重ねた経験がそのまま成長へと繋げられるREGAIN HEROESの機能、その拡張機能として限定的な空間であるこの中でだけ全盛期の強さを旧世代の方々が発揮できるトレーニングシステムの開発に、遂に成功したのです!」
「ということは、この空間は……」
「はい、わたし達よりも数倍の数の戦場を経験したベテランの猛者の方々と手合わせ形式で訓練が可能なトレーニングルームです。主だったインベーダーが見つからない場合は、効率よく経験を積むためにもこちらでの特訓も視野に入れようというのが今回の主題なんですよ」

 なるほど、それは確かに面白そうだ。
 何より今後インベーダーがどんな姿のヤツか分からない。
 生きている、知性ある者に武器を向けるという感覚。それを知っていて覚悟するのと、土壇場で覚悟を決めるのとでは大きく差があるだろう。

「早速連絡したのですぐにコネクトなさると思います。後、この空間はトレーニングルームですから、セーフティが働いています。例え致死に至るダメージを負っても肉体に反映される前にシステム側の介入がありますので、変な遠慮は無用ですよ」
「というか、単純に俺達よりも数倍レベルが上の人とやるようなもんだろ? 安全面に関してはイベント戦闘みたいなものじゃないか」
「それも『敗北イベント』と名付けられるような、ね」

 シナリオの都合でどうやってもプレイヤーが勝たないように設定されているイベントだ。
 中には工夫次第、強くてニューゲームなどの方法で勝てるようになっていてその場合の専用イベントなどが仕込まれているゲームもあるが、大半は強制的に負けるのが目に見えるくらい敵の強さがインフレしているのが殆どである。
 そうプレイヤーに思わせておいて、まさかの普通のボス戦、などというゲームも中にはあるがな。
 負けイベントだと思ったら画面にはゲームオーバーが出ていた。何を言っているかうんぬんというやつだ。俺も何度か苦い経験を味わった事がある。

「あ、いらしたようですね」

 和奈の言葉に俺達は視線を出現した光の柱に向ける。
 中から現れたのは――どこかで見覚えのある中年の男性だった。
 中年と言ってもそこらにいるようなオッサンという単語が似合うような男性ではない。
 整ったスーツ姿に隙の無い佇まい、腰から下げているのは中世の貴族が使うような細剣――レイピアなどと呼ばれる細身の剣だ。
 少し蓄えた髭などは無造作に伸ばしているのではなく整っておりの、ダンディと呼ぶに相応しいだろう。

「え、え? ど、どうして恭二さんが?」
「ふふふー、八千代はやっぱり驚きましたね」
「それは当然でしょうお嬢様。私とて再び剣を取る時が来るとは思っておりませんでしたからな」

 やだ、何て紳士。声から和奈に対する気遣いまで完璧すぎる。だが、この恭二? さんを見た高峰の反応が随分とらしくないな。何か狼狽してるし、知り合いか……ってああ!

「あ、そうか、どっかで見覚えあると思ったらこの間の運転手の人か」
「おや、遠目に会釈しただけの私を覚えておいでですか」
「すいません、運転手というか執事然とした人を見たのも初めてだったので印象に残ってました」

 それはそうでしょうな、とにこやかに笑みを見せる恭二さん。
 改めて挨拶を、と前置きして見事な姿勢で頭を下げる。あらゆる動作が絵になる人だ。

「和奈お嬢様専属の世話役の坂本恭二と申します。沢木様、柏谷様、以後お見知りおきを」
「沢木武彦です、こちらこそよろしくお願いします」
「柏谷瞬っす。坂本さんがオレらの相手をしてくれるんすか?」
「ええ、前線を退いてから久しいですがお嬢様の計らいで若者の礎となり導くくらいは出来そうですからな」
「そんな謙遜しなくても」
「そうっすよ、坂本さん、滅茶苦茶強そうじゃないっすか」
「ははは、努力を怠らなければ既に現役を退いた私などすぐに超えられますとも」

 そうだろうか。少なくとも能力、という点では不可能でないにしてもこの人間的に出来すぎている恭二さんを超えるのは、それこそ同じだけの年月と経験を積み重ねなければ不可能に思えるんだが。

「にしても、高峰は随分と驚いてたみたいだな? 坂本さんが戦えるの知らなかったとか?」
「それはですね、柏谷さん。坂本は八千代の婚約者だからですよー、ね、八千代?」
「「え?」」

 婚約者?
 え、このナイスミドルが? いや、不釣合いとは思わないし、ありっちゃありかもしれないけど、え?
 驚く俺達の視線を、高峰は照れながら目線を逸らし、そんな彼女の姿を穏やかな笑顔で恭二さんは見つめるばかり。

 新しいシステムよりもこちらの事実の方が驚いた俺達なのであった。
一応、あの後武彦はざっくりと瞬にアドバイスを送っています(フォロー
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