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REGAIN HEROES ―本当に世界を救うRPG― 作者:本堂ゆうき

AREA 1 今、そこにある危機

17/31

interlude 1 前日の二人

 エックスデー前日。
 武彦の家に訪れる予定の前の日。その肩に軽くない責務を負う少女である和奈もその日の夜ばかりは普通の少女へと戻っていた。
 バタバタと騒々しい音が隣の部屋から聞こえ、何事かと覗き込んだ八千代が見たのは両手に衣服を抱えて右往左往する和奈の姿であった。

「ええとっ、ええとっ、この服だとちょっと派手でしょうか」
「派手というか……貴女、何処に行くつもりなの? 友達の家に行くのに礼装着込んでどうするのよ」

 同居人である八千代がドレッサーとクローゼットを前にあたふたと悩む和奈に呆れたトーンで呟いた。
 何せ和奈が持っていたのは時折参加を余儀なくされるパーティ向けのドレスである。こればかりは八千代でなくても突っ込んだ事だろう。
 3LDKのマンションは少女二人が暮らすには少々広いように思えるが、和奈も八千代も仕事とプライベートは分ける主義なので仕事用の部屋を専用に用意し、自身のプライベートルームは充実させる事を選んだ。そんな和奈の部屋の衣装関連はあまり着飾らない主義な割には部屋のスペースを随分取っている。その理由は八千代が指摘したようにパーティ用の礼装などがかさばっているからだ。それ故に和奈は迷っているようだが、八千代からすればそもそもの選択基準が間違っていると言わざるを得なかった。
 だが当の本人は至って真面目なようで。

「ですが、親しき仲にも礼儀ありといいますしっ」
「……言うけど、それはどちらかというと態度の問題であって服装の問題は別よ。TPOを弁えなさい」
「その弁えるための前例がないから困ってるんじゃないですかーっ」

 言われて見ればその通りだ。
 これは自分のほうが悪かったと八千代は反省する。
 何せ十六の身で異界からの侵攻防衛を担う国守の組織である「フツヌシ」の支部長を務め、さらにはその支部の表向きの企業の社長まで兼任しているのだ。
 立場上、何かと行動が制限されてきた少女にこうした「普通の」イベントに対する準備を経験からはじき出せというのはいささか酷だろう。八千代とて和奈の護衛の為に様々な護身術をはじめ、教養や礼儀作法を叩き込まれた身だが、もう一人の護衛のお陰であくまで一般人と同じ生活を送れた経緯がある。
 だから和奈の突拍子もない行動も無理はないのでは、と思い始めたが周囲に散らばる装飾品の数々を見てその考えを少々改めた。いくらなんでも装飾用の小物まで持ち出すことはないだろう。この娘は一体何処に行くつもりだ、と。

「とりあえず、この煌びやかなアクセサリーの類は仕舞いなさい。それともう少し服のグレードも落として。気軽に遊びにいくって雰囲気が出ないでしょ」
「あれ? でも、八千代のおでかけの時の服装の基準を参考にしたんですけど?」
「……それは参考にならないわよ。今はまだ」

 その辺を深く追求されるといらないボロを出しそうだと判断した八千代は早々に会話を切り上げた。
 とりあえず八千代はベッドの上に広げられた余所行きの服を丁寧にしまい、もう少し無難な――極々普通の家庭に遊びに行くという前提で普段着より多少お洒落に見える種類のものを幾つか選別し、後は和奈の選択に任せることにした。
 服を選ぶのにあれこれ悩んでいる和奈ではあったが、その表情はずっと生き生きしているように見える。友人として接している時にしか見ない数少ない表情であったが、これを見れば支部内の和奈の保護者(自称)達も感涙にむせび泣くのではないだろうかとすら思う。
 それくらい、和奈は職務に対しては真摯に、真剣に、歳相応の少女にすら見えぬほどにこなしてきた。
 書類整理は言うに及ばず、引っ込み思案ながらも意見は積極的に口にし、自分の倍以上の歳の人間に対しても、注意や叱責は躊躇せずに行う。望んで得た立場ではないが、だからこそしっかりと任務をこなそうという強い意思の表れがそこにあった。しかし、だからこそ、多くの人間が和奈の内心を心配していた。
 このままではこの少女は自ら背負った荷に潰されはしないか、と。
 それが過剰なまでの和奈に対する過保護として現れる組織の人員は少なくない。末端から上層部に至るまで、和奈に対する悪意を感じるものはほぼ皆無と言っていいだろう。彼女の外見からくるギャップによるものもあるが、根底にあるのは小さな身体で背負える以上の物を顔色一つ変えずに背負おうとしているその姿――人によっては小動物が頑張っている健気な姿とも――と、冷徹な決断を下しつつも他者を軽んじず自身を犠牲にする事を厭わぬその精神性に多くの人間が惹かれている事もある。
 故に八千代は武彦の今後が心配であった。
 自分の知る限り、和奈は武彦や瞬の前では素を出せるようになりつつある。この付き合いの短さでこれを為し遂げたのは組織の中には八千代の知る限りはいない。中には本気で和奈にアピールしていた層もいたが、和奈は誰に対しても首を縦には振らなかった。
 それが今回の武彦の誘いに対しては、

『よし、和奈。今度の休みはウチでパーティゲームしながら祝勝会するぞ、俺達四人で』
『しゅ、祝勝会ですかっ。し、しかも沢木さんのお家で!?』
『オレは寮生だから部屋狭いし、男二人が逆に女の家にお邪魔すんのは色々問題あるだろ?』
『そうね、特に私と和奈の二人暮らしだし』
『ということで、その日は両親が留守で一軒屋でゲーム機が一通り揃っている俺の家が適任という事になった。どうだ? 和奈や高峰のゲームの腕前がどれ程か、俺も瞬もちょっとは楽しみにしてるんだけど』
『は、はいっ、是非に! あ、あの、菓子折りなどは必要でしょうかっ。祝勝会と言うからにはやはりシャンパンなども――』
『いやいやいや! 普通にそこらの店で売ってるお菓子とジュースでいいから! というかそこまで肩肘張らなくていいから! 手ぶらでいいから!』

 などというやり取りの末に即座に承諾した。武彦や瞬は気づかなかったが、その時の和奈の嬉しそうな表情は久方ぶりに見たものだ、と八千代も思わず表情が緩んだものである。
 だが、決まったら決まったでその日が来るまでの和奈の方が見物であった。
 何せ書類仕事はいつもの数倍の早さ。普段以上に仕事の管理を徹底し、間違っても自分の仕事のせいで当日の予定が潰れぬようスケジュールの管理すらも事細かに行っていた。無論、八千代も学業の合間にそれを手伝っていたのだが、その鬼気迫る表情は未だかつて見たことの無いものであった。
 それだけに彼女の内心が八千代には気になった。初めてづくしの彼女に一体どのような変化が起こっているのだろうかと。

「それにしても……随分と真剣に悩むのね、和奈。前にどうしても断りきれなかったから、と何処かのボンボンとのデートの時とはまるで別ね」
「当然じゃないですかっ。何故よく知りもしない男の人の為に悩まないといけないのです」

 それは裏を返せば、武彦達は違うと断言したようなものだ。
 八千代は口元に浮かぶ笑みを堪えつつも、さらに彼女の心理を探っていく。
 とはいえ答えは出ているようなものだ。普段の会話、態度などを考慮すれば自ずと和奈が意識しているのはどちらかなど一目瞭然である。

「そんなに沢木君には着飾った姿を見せたかったとは意外に和奈もそういう気持ちは持っていたのね」

 ガン、と派手な音を立てて和奈がクローゼットに前のめりに突っ込んだ。
 分かりやすい動揺、というか少々リアクションが大袈裟すぎやしないかと、その原因を作った八千代の方が気にしてしまうくらい見事なものだった。

「な、な、なななっ、何故、そこでっ、沢木さんが出るのですかっ、八千代。柏谷さんも一緒じゃないですか」
「何でも何も見たままでしょう。貴女、思っている以上に彼を気にかけているじゃない」
「……そうでしょうか、自分ではあまり違いが分からないのですが」

 明らかに武彦と瞬で表情が違うのだが。
 と言っても、瞬に対して悪感情がある、という意味合いではなく武彦の方に対してプラスが強すぎるという表現の方が正しいが。凡百の男と比べれば瞬に対する和奈の対応もそれはそれで友人に対する飾っていない姿なのであるが、時折武彦の前で見せる表情と比べれば別格である。
 僅かな間に随分と武彦も和奈の心に踏み込んだものだと八千代は逆に感心した。普段の態度から女慣れしていないのは明らかだったが、共通の趣味があることで話題が尽きない事や、彼自身お人好しの性格をしているからか和奈の性格と相性が良かったのもあるだろうが。

(ま、お互いがお互いを好意的に見ているのは確定なのよね)

 目の前でもじもじと頬を赤らめながら必死に理由を探す和奈と、和奈相手だと微妙に態度が変化している武彦。
 自分にも気さくに友人の様に接するから最初は女の扱いに慣れているのかと武彦の事を勘違いしかけたが、どうやら同じくゲーマーである事が彼にとっては親しみやすい相手という認識に変わったらしい。
 実際の所、八千代もそういう割り切った関係は嫌いではない。むしろ武彦も瞬もあからさまにこちらを女として意識している節がない為、その点は八千代に関しては()()が良かった。
 お陰で何の問題も無く特等席で友人の一喜一憂を眺められるのだ。長年の付き合いのある身としては、これほど大きな友人の変化を間近で楽しめるのだから。

「そうねぇ……手っ取り早くその理由を知りたいなら、こっちのドレスでも着ていく? これで沢木君が野獣と化したらもう答えは出たようなものでしょ」
「そ、そ、そんな大きく胸元の開いたドレスなんて着れません! というか、それは皆が悪ノリして用意した昨年のクリスマスパーティ用のドレスじゃないですか! 何で残してあるんですかぁー!」
「うーん、和奈の身長が伸びなければ来年使う機会があるかも、って言ってたわね」
「うう、わたしの服飾スタッフたちは皆、遊びが過ぎますぅ。どうして、こんな恥ずかしいデザインばっかり……」
「小柄だけど意外と着こなせるメリハリの利いた身体つきをしているからじゃないかしらね」
「八千代ーっ!」

 うーっうーっ、唸りながら和奈は腕を振り回して抗議し、八千代はそれを笑って受け流す。
 こんな和奈の姿が見られるようになったのも、重荷を少しばかり肩代わりしてくれたあの変わり者の男二人のお陰だろう。

(案外、沢木君も和奈とおんなじように今頃ドタバタしている気がするんだけど……それは言わぬが花かしら)

 性格もスタンスも全く同じではないのに何故か相性は良さそうな親友の和奈と戦友の武彦。
 この二人がどんな形でどんな関係を築いてくのか。その先により良い未来が見えて八千代は思わず微笑んだ。


 ◆


「母さーん! この戸棚の菓子は全部貰うぞ! 後、○ァブリー○どこだっけ!?」
「あらあら、今度の買い物で買い足さないといけないわねえ。○ァブリー○は、そっちの奥に仕舞ってあるわよー」
「何だ、武彦。随分とあわただしいな。彼女でも連れ込むのか? ん?」
「ニヤニヤ笑いながら違うと分かってて聞くんじゃねえよ、クソ親父! 友達が来るんだよ!」
「何だ、瞬君が来るのか? それなら別に慌てて用意をしなくてもいいだろうに」
「女友達も一緒なんだよ! ちょっと訳ありの子だから準備は入念に――」
「聞いたか、母さん! 遂に女っ気の無かった馬鹿息子に春が!」
「あらあらー、それじゃ今日はご馳走にしないとー」
「要らないよ! 普通でいいから!」
「父さんがお前くらいの歳にはとっくに母さんとイチャイチャラブラブしてたのに、お前と来たら手が遅いにも程があるぞ」
「万年新婚夫婦の父さんたちを基準にするなよ!? 世の高校生男子は誰も彼もがそこまで手早くないわ!」
「武彦~、ステーキとトンカツとどっちがいい?」
「本当にマイペースだな、母さんは!? あ、出来れば母さん特製ソースのトンカツでお願いします」
「そこで、ちゃっかりと自分の要望を言える辺りはお前も母さんの事言えないだろう……」
「二人の性格を半々で受け継いだらこうなって当然だよ!」

 八千代の予想は正しかったらしい、どこかの少年の家の夕方の一幕であった。

和奈と八千代の話……と思わせて、似た者夫婦の二人の幕間、というオチ。
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