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REGAIN HEROES ―本当に世界を救うRPG― 作者:本堂ゆうき

AREA 1 今、そこにある危機

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stage 15 見つけたもの 戦うべき理由

 その場を取り繕うように連れ立って家を出ること数分。
 我が家が建つ住宅街から少し離れた場所にバスターミナルを中心とした地域がある。ここからさらに少し歩けば通っている学校も目の前だ。取り立てて高校を選ぶ理由の無かった俺は、家から通えて学力的にも無理なく狙える範囲の高校を受験したのである。
 この辺りはショッピングモールや専門店も建ち並ぶ商業区と呼んでも差し支えない街並みで、既に日が落ちた夕方でもそこそこの人通りがある。ロータリーを中心に客待ちのタクシーが並ぶなど、別方向の繁華街へ向かう客を拾おうとしたりと、連日連夜結構な賑わいでもあるのだ。
 お陰で割と唐突に外食になりかねない俺の食糧事情はさほど選択肢に困らない。
 有名チェーン店の牛丼屋を始め、深夜営業で著名なファミレスから弁当屋、果ては店主が拘りを持って営業するラーメン屋など、チェーン店から独自店まで取り揃えた飲食店が建ち並ぶエリアも遠くない。
 とりあえず皆で相談しながら入る店を決めるかと適当に歩きながら雑談を交す中、和奈の視線はあちこちへと忙しなく移っている。

「和奈はこういうところ歩くの初めてなのか?」
「はい、移動は大体送迎車つきですし、外で食事と言っても会食のようなものが殆どで……」

 わお、セレブ。
 などと思いそうになったが、よくよく考えると和奈はこれで一組織の支部の顔役だ。俺とさして変わらぬ歳で大人と腹の探り合いなんてのも少なくは無いのだろう。そう考えると、高級飲食店やら料亭やらで会合って言われても素直に羨ましいとは思えないな。

「そういうのは肩凝るだろ。飯の味とかもわかんなくねえ?」
「柏谷さんの言うとおりです。特にわたしの場合は外見と年齢の事もあって下に見られがちなので食事を楽しむ余裕なんてとてもないですね」
「普段はこうだけど、部下や秘書を立たせて威圧感を演出して得意の話術で相手を畳み掛ける姿は別人に見えるわよ」
「や、八千代っ、そういうのは言わなくていいんです! 外向けのあくまで作っているわたしなんですからっ」

 などとからかい半分の高峰に食って掛かる和奈だが、別に恥ずかしがらんでもいいのではなかろうか。

「と、飛び級で外国の大学を出たとは言っても、何も知らない普通の人からすればわたしのような若輩が会社の代表などと言っても軽んじられるのは仕方ないですし!」
「まあ、そういう話の分からなさそうなところとは取引はしてないのだけど、一応『表』の仕事でも業績を上げておかないと資金回りが大変だから、ってこの娘は積極的に活動するのよねえ」
「何処の支部も色々お仕事を受け持ってますので当然ですよ」

 和奈達の支部の表の仕事、それはゲーム開発を主だったエンターテイメント系の事業だという。
 俺のような一般人でも知っているメーカーの裏の仕事がまさかこんな仕事だとは思いもしなかったが、他にも日本支部、世界各国に存在する支部は様々な方法で裏の仕事で得た技術を利用した事業で活動資金を捻出しているそうだ。

「俺と瞬は人知れず世界を守るための資金を提供していたんだなあ……」
「結構長いよな、和奈ちゃんとこのゲーム遊んでるの。タケなんか初代のセカンドライフファンタジーの頃からのファンじゃなかったか?」
「そうなんですかっ、それはありがとうございます!」
「いやいや、お礼を言われるようなことじゃないから」

 セカンドライフファンタジーは今でいう異世界転生物をベースにしたファンタジーアクションだった。
 よくある理由で死んだ主人公はこれまたよくある理由でファンタジー系の異世界で転生し、これまたよくある理由で魔王を倒して来いとか言われるという捻りのないド直球の作品である。
 だがそんな間口の広い設定で放り込まれた世界は絶妙な難易度のアクションゲー。
 REGAIN HEROESもこの派生作だと思われているが、初代の作品はまだまだ育成の幅がそれほど広くなかったが、アバター製作の自由度の高さはそこらのゲームの中でも群を抜いていた事と、ゲームとしての面白さもあって徐々に評価されたという歴史がある。特にアバターに関しては、今でも和奈のところのメーカー以上に精密かつ微細な調整が出来るキャラメイクシステムは生まれていない。それでいて、素人でも直感的にそこそこ好みの外見を作れるという敷居の低さなのだ。ゲームの売り上げとしては初動こそ鈍かったものの、キャラのスクリーンショットをプレイヤーがこぞってネット上にアップしたことで話題になり、ゲームそのものも骨太のARPGだという評価も知れ渡ってジワ売れしたという歴史を持つのである。
 そんなメーカーのファンだった俺がいまやそのメーカーの裏の事情まで知ってるのだから世の中と言うのは本当にどう転んでいくか分からないものだ。
 雑談をしつつも、そろそろ普通に腹が減ったので入る店を決めようと言う段階になった。
 うーむ、デート経験皆無の俺には当たり障りのない選択をするしかないような。
 ラーメンやパスタはダメだな。二人の服が汚れる可能性が高いので前者は却下、そんなお洒落な店に入れるほど俺の精神が保たないという点で後者も却下。
 ここで牛丼屋などを選べるほど俺の神経は図太くない。それでいて学生らしく気楽に入れそうな店、というと、ファーストフード系かファミレスに限られてくる。
 ここで変にウケ狙いに走る必要もないだろう。値段も味もそこそこ、メニューも豊富で利用しやすいいつものファミレスが無難と判断し、俺がそう提案すると全員から賛同を得られたので移動する事になった。

「いらっしゃいませぇ~、四名様ですか~」
「はい、そうです」

 少し明るめの黄色を基調とした制服に身を包み、少し間延びした声の女性のウェイトレスに案内されて、俺達は丁度店の角のボックス席に案内された。敷居として薄い暖簾のようなものが下げられており、適度に騒がしくも周囲の声が気にならない、そんな配慮がされているので、俺はお一人様でもこの店をよく利用する。

「ふわぁ、色んなメニューがありますねー」
「ここのファミレスはどれ食ってもハズレがないからいいよな。その分、ちょっと他の店より高いけど、バイト帰りとかでも寄りやすいからオレも結構使ってるな」
「高峰は外での食事に気を使う方か?」
「ううん、別に。栄養には多少気を使っているけど、友人との外食で細かい事をいちいち気にするのはナンセンスでしょう」

 食べられる味であれば問題ない、と高峰は割とバッサリと切って捨てた。どうやら味を拘るべきか、雰囲気を楽しむべきか、そういう空気を読む柔軟性は持っているようだ。本当、そこ等の女子より親しみやすい感性の持ち主である。
 しかしこのメニューを見ながらあれやこれやと話しながら選ぶ楽しさってのは、女子を交えるとまた違うな。男とは目の着けどころが色々違うし、自分も普段よりも相手に気を使うメニューを選択してしまいそうだ。それでも俺はチーズハンバーグのセット、瞬はサイコロステーキのセットと肉に落ち着いたが。

「八千代、八千代、わたしのビーフシチューオムライスを少し分けますから八千代のグラタンととのトレードを希望しますっ」
「全くもう、仕方の無い子。そうやっていつも決めあぐねて半分ずつなんて」
「だって、どっちも食べてみたいじゃないですかっ。でも両方は多すぎます」
「分かる、分かるぞ和奈。食べるもの決めていざ店に入っても、あー、こっちも食いたいなー、けどなー、みたいなのはあるよなー」
「ですよね、ですよねっ。ほら、聞いてください八千代、沢木さんだって同じだって言ってます」
「あら、沢木君、その話にはオチがありそうな気がするんだけど……気のせいかしら?」

 流石は高峰、良い勘をしておられる。

「ああ、その通り。だから俺はそういう時は――両方食べる!」
「ええっ? そんな、無理して食べたらお腹壊します」
「いやいや、そこはほらハーフメニューがある店とか例外がある。男同士でシェアするもんでもないしな」

 それを分けるなんてとんでもない。
 そんなフレーズが浮かぶくらい、この年頃のハラヘリ男子の食欲は凄まじいのだ。腹を満たす代わりに財布が飢えを訴えるのだが。

「ううっ、沢木さんも同士だと思ったのにっ。裏切られました!」
「いやー、和奈はからかいがいがあって楽しいな」
「気持ちは分かるけど、臍を曲げた和奈は手強いわよ沢木君? 貴方にこの子のご機嫌が取れるかしら?」
「……こ、高校生の財力でどうにかなる方法で一つ」
「そういえばウチの研究室で生きのいいモルモットを探してたわね。一回数百人くらいの諭吉さんを提供しなきゃならないような実験の」
「和奈のご機嫌って超高いな……」
「してませんよ!? してませんよっ!? そんな非人道的な事は一切してませんし、そもそもわたしは沢木さんにどんな謝罪を要求するつもりだと思われてるんですかーっ」

 頬を膨らませて怒っていたかと思えば、俺と高峰の悪ノリであたふたしだす和奈。その表情の変わりようはまさしく歳相応の少女の姿で、初めて出会った時とはまるで別人だ。
 これらの顔は最初に会った頃には絶対に見せなかった表情だよな。すっかり四人組のこの雰囲気に馴染んだ感がある。それだけでも――いや、むしろこれこそが命を張った甲斐があると俺の心を満たしているような。

 ああ、なんだ、結局は俺も男の子だったってだけか。

 死にたくない、未来が閉ざされてほしくは無い、やれるのが俺達だけだから。これらの理由も嘘ではないし軽いとも思わない。必死にその手を伸ばそうとするだけの理由に足る。正義の味方、なんて自己満足を抱きはしないが、誰しもが経験できる事ではない戦場の中で命のやり取りの果てに力を身に付けていくのは否定しきれない充足感がある。
 特別な、と称されるに相応しい生活を人知れず送っているという優越感も無くはない。それらを使命のためだ、世界のためだから当然だ、と切り捨てられるほど俺は人間が出来ちゃいない。目先のご褒美に釣られて走る馬のような、そんな浅ましい人間だ。

「それじゃあ仕方ないな、高峰。いい宝石店と臓器の買い手を知らないかな?」
「沢木さん、その前後が明らかに繋がってなく、繋がってはいけない組み合わせはなんですかっ!?」
「そうね、相場よりも安い値段でいい装飾品を作れる店と、少し危ない橋を渡るけど相場よりいい値段で買うブローカーなら知っているわよ」
「八千代も何を言ってるんですかーっ。ダメです、ダメなのです! 一時のお金の為にそのような非合法な手段に手を染めるのはーっ」
「和奈も冷静になれよ冗談だって冗談。高峰があんまりいい返しをしてくれるもんだからつい、な、つい」
「わたしに謝りたいのか、からかいたいのかどっちなんですかーっ」
「そりゃ……両方? 和奈のリアクションのキレが良すぎるのがいけない」
「ええええええっ」

 ほら、責任の重さに潰されそうにも見えた少女の凛とした表情はもう無くなった。
 からかわれていると知るや怒り、かといって俺の冗談を冗談と流せなかった時には本気で困る。
 俺の一挙一動に一つ一つ反応を返す少女の姿に俺は――瞬の言葉に流されたように放った表向きの戦う理由よりも強い俺自身の原動力となる理由に辿り着く。

 この子の力になろう。
 この子の笑顔を守ろう。
 この子が広げてくれた、仲間たちと歩むこの日常と世界を――守ろう。

 ああ、何て単純。
 本当に馬鹿馬鹿しく、もっと崇高な理由を掲げる者ならば一笑に付すだろう人間の男の欲望に直結した単純明快すぎる理由。
 何のことは無い。俺は和奈が大切だと感じたのだ。
 乙女チックに言うなら一目惚れか。あのか細い肩に想像もつかぬ重荷を背負う少女の為に――何かをしてやりたいというもっとも分かりやすく、もっとも恥ずかしい理由を俺は様々な建前で誤魔化した。
 たった数週間の付き合いで、それは――簡単に恋慕のそれに変わった。
 純粋な――想いではないだろう。本来であれば隣に立つことすらありえぬ少女との偶然の出会いの果て、今はずる賢くも彼女に相応しい人間になるにはどうすればいいのか、と考える醜い自分だっている。
 それを誇ろうとは思わない。それが叶わぬとも、最後まで戦いぬく決意も覚悟もある。だが――

「もうっ、沢木さん、ちゃんと聞いてるんですか? わたしこれでもちょっとは怒ってますよっ」

 この可愛らしい少女と共に歩む未来。それが欲しいから戦うのだ、胸を張れるように、彼女との絆が途切れてしまわぬようにちょっとだけ頑張ろうとするのは十分な理由だと思うのだ。

 だから――俺はこの戦いも恋も頑張ろう。
 あくまでも自分は自分だと、その歩みに間違いはないとそれだけは間違わぬために。
正しくボーイミーツガール。

現代物に複数のヒロインも、当て馬ヒロインもいらぬ。
メインのヒロインへの真っ直ぐな想いさえあればよい(断言
+注意+
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