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REGAIN HEROES ―本当に世界を救うRPG― 作者:本堂ゆうき

AREA 1 今、そこにある危機

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stage 13 反省会

 ゆっくりと風景が溶けていくように消えていき、意識を喪失したのも束の間の事。
 全身から感じる倦怠感にうっすらと目を開けると先程まで座っていたシートに腰掛けている自分に気がついた。
 ああ、どうやら無事に戻ってこられたらしい。身体を起こして周囲を見渡すと、他の面々も順次似たような感じになりながら目を覚ましていた。

「……おお……生きてるー」
「第一声がそれかよ、瞬」

 気持ちはよく分かるだけに俺は苦笑交じりにそう言った。
 本当、今までの訓練や散発的な侵攻も決して緩かったとは思わないが「防衛戦」と名付けられたこの戦闘は確かに格が違った。
 漂う空気の濃さが、貫くような殺気に満ちた視線、綱渡りのような命のやり取り、他にも言葉に出来ない何かが、あらゆる面で今までとは違う一戦であったのだと。
 手応えを感じた、などと自惚れた感想は無い。
 結果として無傷で済んだのは単なる偶然だ。僅か数分にも満たない戦闘で俺たちはこれだけ疲弊しきっている。瞬も高峰も怪我こそないが、隠しきれない疲労が滲み出ている。
 勿論一番の原因はこれまでにない激戦であった事は言うまでもないが、精神的疲労が大きい理由は大一番の戦闘だったから――だけではない。

 一撃の被弾も許されず、常に安全な回避を要求される闘いというものがこれ程過酷だという現実を知ったからだろう。

 当たらなければいい、なんてシューティングゲーム染みた理由で片付けられるほど、この負担は小さくない。何せ俺たちには残機はない。死ねばそれまででコンティニューもないのだ。相手の攻撃力がいかに凄まじいかが分かるのにそれに耐えられるかどうか、ゲームなら容易に立てられるダメージ予測が現実には存在しないのだ。
 即効性のポーションを始めとした和奈達の組織が用意してくれた保険はいくつかある。だが、それは命あればこそ、それを使うことが出来ればこそのもの。如何なる程のダメージか分からぬものを安易にこれくらいなら大丈夫だと受けられないのは知らず知らずの内に俺達の行動の重石となっていたのだから。

「……疲れているところを申し訳ありませんが、沢木さん、柏谷さん、もうしばらくお付き合い願えますか? 今、他の戦場の情報も収集していますので。八千代、皆さんに何か飲み物を」
「分かった、すぐに用意するわ。二人とも何か希望はある? 大抵の物は用意できるけど」

 支援役の和奈も高峰も疲れているだろうに凛とした態度でてきぱきと動いていた。
 俺達と同じように戦っていたはずなのにすぐ動けるとは驚きだ。
 これがプロとアマチュアの覚悟の違いとでも言うのだろうか。正直このままベッドにでも転がれば即座に眠ってしまいそうな俺はまだまだだという事だな。

「……場を和ますために何かボケたいところだけど、思いつかないんで……アイスコーヒー」
「オレ、コーラな」
「喫茶店のような注文が簡単に出る辺り、随分と図太いとは思うけど……ちょっと待って頂戴」

 そう言うと、高峰は室内の机の上にある備え付けの電話であれこれと飲み物を頼んでいた。どうやら他のスタッフに指示を出しているようだ。和奈は俺達の街を担当する支部の長だと言っていたが、その護衛の高峰もそれなりの地位があるって事なんだろうか。
 手持ち無沙汰になった俺達はシートに座りなおすと目の前のモニターに目を向けた。
 見た事のある世界地図が映し出され、大小様々な赤い円が一部の地域に重ねられている。俺たちの住む守峰市もその一つだが、和奈が情報を更新すると次々とその円が灰色に塗り潰されていく。

「……よかった、どうやら今回の防衛戦は何処も負けてはいないようです」
「まずは初戦は勝利で飾れたって事か?」
「はい、一度や二度の敗戦が即座に滅亡に繋がるわけではありませんが……」

 和奈の表情は暗い。まあ、俺達が勝てたとしても他の何処かが撤退、或いは敗北を喫した場合は俺達の世界に何らかのペナルティはあるのだろう。
 その逆も然り。他が勝てても俺達の負けが続けば結局は――という事態も十分にありえるのだ。

「いずれ、わたし達の置かれた状況の詳しい事は沢木さん達にも説明いたします。今は素直に今回の勝利を喜びましょう」
「うーん、和奈ちゃんの気遣いは嬉しいけど、実際そこまで悠長に構えてはいられないだろ、タケ?」
「瞬も何かしら思うところあるか、今回のボス戦」
「おう、オレは頭ワリィから上手く言えないから結論だけばっと言っちまうけど――このままじゃ俺達必ずどっかで死ぬんじゃね?」

 誰もそのあんまりな結論を笑う事も怒る事も無かった。
 瞬はその理由や状況の一切を省いたが、俺も同じ結論には達していたし、和奈や高峰も同様だろう。
 どうやら瞬は結論だけを言って満足したらしく、それ以上を上手く説明しようと言う気もなさそうなので、俺が代わりに問題点を上げていく事にしよう。適材適所、ってな。

「和奈、今後インベーダー達のボスが絡む『防衛戦』の規模は徐々に大きくなっていくよな?」
「……はい、過去の記録からいずれも徐々に敵の戦力の充実、戦場の規模の拡大が認められています。これは、防衛戦に勝利し続けていても変わらぬ事実だと残されています」
「負ければ相手側の規模の拡大の早さはどうなる?」
「……相手の世界の侵攻を防ぐ役割を果たす世界と世界の『境界壁』と呼ばれる存在の穴が大きくなっているため、普通よりも早まる、と」

 やっぱり俺達には想像もつかないような力を巡っての戦いであるのは間違いなかったか。
 だけど、ゲームよろしくどんなに完璧な防衛を行っても敵の戦力が強化されていくのはどういう事なのだろうか。

「こう言っちゃなんだけどよ、何でインベーダーはご丁寧に弱いヤツから順番にこっちに攻め込ませてるわけ? 有名RPGの魔王様じゃあるめーしよ。オレらが勇者的役割だって言うなら最初っから強いヤツに任せりゃいいじゃん」

 瞬、RPGの聞いてはいけないお約束を例にして言うが、俺も同意見だ。
 それが出来ない理由、後々にそれが出来るようになるのはどういうカラクリなんだろう。

「わたし達が相手の世界の侵攻に難儀しているように、向こうもまた過去の侵攻のノウハウを生かせないらしいのです。色々と各国の支部でも研究はされていますが、有力視されているのは新たに生みだされたインベーダー達が境界壁を越える為に徐々に適応してくるからこそ、後になればなるほど敵が強く、多くなっているのではないかという説です」
「そして私達も相手の侵攻を利用して相手の侵攻の大本であるインベーダーの主、貴方達の言葉で言うならラスボス、かしらね。そこへ辿り着くまでには今回の侵攻を元にその存在がいるであろう領域を探り出さなければならない」
「お互いに最強の戦力を相手の懐に送り込んで電撃戦! って訳にはいかないなりの理由があるって事か」

 その流れが結果としてRPGのようなものになっているのが何とも可笑しいものであるが。
 事実は小説より奇なりとはよく言うが、敵も味方もゲーム的な理屈に引っ張られているとはね。
 しかし、それならば尚の事、瞬の辿り着いた俺達の全滅が約束されたものであるという事実は揺るがなくなる。

「それを踏まえると、俺達のチームは人員不足なんてもんじゃないな。普通のRPGでも最低は四人、今後の事を考えると五人か六人でパーティを組んでなきゃ、絶対に押しきられる」
「そうそう、特に今回のナイトパペットだったか? アイツの攻撃、多分、タケと高峰は一撃で瀕死まで持ってかれたと思うぞ。オレも万全に動けるって状態なら二撃までが限度だ」
「ちょ、おま、瞬!? 何でそんな具体的に分かるんだよ!? 俺は『あ、ダメだこれ。当たったら死ぬヤツだ』くらいにしか見抜けなかったぞ?」
「何でって言われても……勘?」

 勘で相手の攻撃力を正確に把握すんな。
 ただまあ、問題はそういう事だ。現状、俺達のパーティは回復を中心とした支援役、後方からの援護射撃や攻撃魔法が欠けている。それゆえ、常に最大限で戦闘力を発揮し即座に戦闘を終わらせるという先手必勝の戦術しか取れず、相手側に持久戦を強いられた場合、それを打開できるだけの多彩なカードを用意できないのだ。
 敵とて馬鹿ではない。
 今回の敵は、瞬の初手があまりにも異様だった為に動揺し即座に陣形を乱しボスを守るための雑魚と言う仕事を果たせなかったが――それは逆に相応の知恵があり、戦術を戦闘に持ち込める戦略と言う概念がきちんと存在するという事だ。
 基本的に大人数を揃えられない俺達人類側は、一騎当千の少数精鋭によるパーティによる戦闘が基本。
 そのパーティ自体が取れる戦術の数が少ない、というのは簡単に対応されいずれは殲滅される運命にあることが目に見えている。

「具体的に次の防衛戦がいつになるかは分からないんだよな?」
「はい、世界に対する歪みというものがインベーダー達が動く時には必ず発生するのですが、予測の精度はその日が近づくに連れて上がるというものですから……」
「天気予報よりは確実よ。少なくとも近日中、という段階にまで来れば日時は正確に出せる。逆を言うと、その歪みの予兆が無いうちは小さい侵攻は散発しても、ボス格が行う侵略戦は無いと思ってもらって構わないわ」
「ふむ、じゃあやることは決まりだな」
「おう、次に備えてレベルアップだな!」

 ガクリ、と瞬の言葉に全員がコケる。
 いや、不思議そうに見んな。それも大事だが、今までの流れでもっと大事な事があるだろ!?

「仲間探しだよ。和奈や高峰が却下したようなヤツらじゃなくて、まともに戦ってくれそうな仲間を探す事だ」
「おお、勧誘か? けどよ、目ぼしいヤツには和奈ちゃん達がREGAIN HEROESのディスクを配って発掘したんじゃなかったか?」
「いえ、REGAIN HEROESの仕様上、ある程度ゲームに精通しているか興味がないとどうしようもないのでテストプレイヤーを募集するという形で配布しましたので、まだわたし達の知らない素質を持つ方がいる可能性は高いです」
「それにゲームをプレイしていても、私達の組織の作品をプレイしていたとは限らないしね」

 ああ、そっか。忘れていたがREGAIN HEROESは一応開発段階のテストロム、β版と呼ぶ前の段階だったんだっけ建前上は。
 つまり、まだまだ仲間になってくれるかもしれない人物の可能性がゼロではないという事か。

「現状のテストプレイヤーさんの中で、志と素質の両方が備わっている方はもういらっしゃらないので……後は地道に足で探すしかないと考えておりましたし、沢木さん達にも協力を頼んでもよろしいでしょうか?」
「おっ、もしかすると素質のあるヤツが分かるレーダーとかがあるとか?」

 ちょっとだけワクワクする俺。

「ええ、ありますよ。と言っても物ではなくてスマホのアプリですが。アプリ側にわたし達の『技術』が使われておりますので、お二人のスマホにインストールするだけで使えますよー」
「そっか……」
「あれっ、何故にそんなガッカリなさってるのでしょうかっ?」

 いや、やっぱこう秘密道具的なものの存在をね?
 男の子ならちょっとだけそういうものに期待してしまうものでありまして。
 とはいえ、ここでそんなロマンを語っても理解してもらえるとは思わないので、なんでもないと曖昧に笑って誤魔化しておく。
 その後も幾つか話し合ったが、戦闘そのものはやや危ない局面もあったものの三人での連携はしっかりと出来ていた、という意見は一致した。役に立たないと思った俺のスキルも一応使えない事もないという事もわかったしな。

「問題は山積みですが……それでも確かな希望が見えた一戦だったとわたしは思います。どうか気負わずに次に繋げていきましょう」
「それ、和奈が言うのか?」
「一番気負ってるの和奈ちゃんだもんなあ」
「この二人は責任感はあっても背負い込むほど殊勝な性格してないわよ? むしろ和奈は心配される側じゃないかしら」
「さ、三人ともこんな時まで連携しなくていいんですよぅーっ!?」

 うーうーと叫びながら高峰を手でポコポコと叩いて抗議する和奈。
 うん、和むわ。和奈は癒し系ロリ巨乳だな。

「つーことで、いい感じに気も緩んだし例の計画を始めるとするか、瞬」
「よっしゃ、待ってたぜ!」
「本当に計画立ててたのね貴方たち……」
「計画? 何のことですか?」

 そりゃ勿論決まっている。

 この小さなお姫様を囲んでの祝勝会さ。
息抜きも必要ですよね。

読者の皆様もよいお年を。
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