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REGAIN HEROES ―本当に世界を救うRPG― 作者:本堂ゆうき

AREA 1 今、そこにある危機

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stage 10 決戦を前に

 時折発生する小さな侵攻や、擬似的な訓練フィールドでの戦闘を重ね、出来る限りの装備の強化とスキルアップを終えた俺たちは、いよいよ本格的な侵攻が起こるという日の前日を迎えていた。
 小さなものはいざ知らず、侵略者(インベーダー)のボス格の侵攻は向こうが攻め込むのも、こちらから攻め込むのも時期的なタイミングが限られるらしい。
 一度攻め込んだら相手を倒すかこちらが死ぬか――というほど切迫した状況には陥らないようだが、普段の前座のモンスター達の侵攻と比べて侵入するのはともかくソウルフォームを離脱させるのは時間がかかるらしく、即時撤退とはいかないらしい。相手の侵攻が世界を侵食するまでの時間があるならば再戦は可能なようだが、それも撤退出来ればの話。常に一発勝負のつもりで覚悟を決めておけ、とは高峰の言葉だ。厳しいようだが俺もそう思う。

「やり直し出来る、なんて心のどっかで考えてると油断が生まれるからな……」

 やむを得ず撤退を選択する場面もあるだろうが、まず撤退できる、という前提を捨ててかかった方がいいだろう。
 猶予があるのに命を捨てる気には到底なれないが、だからといって安易に逃げ出す事を考慮していては勝てる戦いも勝てない。心構え一つでどうにかなるような規模の話ではないが、だからこそ心構えこそが重要だと俺は思うのだ。
 今日の訓練を終えたがレベルは13止まり。もうちょっと時間があれば上がっただろうが、こればっかりは仕方がない。日に日にソウルフォームで活動できる時間は延びているが、長くなればなるほど現実の肉体にも疲労が残る。無理を重ねたところで、翌日の活動時間が減るだけなので制限時間はきっちり守る方が効率がいいのだ。身体を苛め抜いて限界まで耐えてこそのトレーニングとは別なのである。
 夕食も風呂も宿題も(これが重要。学業を疎かにすると組織の怖い方々の指導が入るらしい)終えて、後は寝るだけという夜の余暇の時間、俺が何をしているかと言われれば。

『何とか……何とか補助魔法マスタリーを4に上げるだけのポイントを……!』
『ホントにギリギリまでやる気なんだもんなー、タケ。でも、ぶっちゃけ無理じゃね?』
『各種魔法を使用時に入る熟練度ポイントと、振り分け可能なポイントを稼いだ分全部つぎ込めばワンチャンある……はず』

 REGAIN HEROESのチャットでそう返すも、俺もまず無理だろうなあとは思っている。
 何せ現時点でレベルアップまでのポイントの量が半分だ。雑魚と戦いながらTPの許す限り魔法を使い続けてはまた回復させての繰り返しを時間一杯続けたとしても恐らく届かない。
 それでも、何かしてなければ落ち着かないのだ。明日の結果次第で色々決まるとなれば尚更である。
 悪あがきも同然の行為でありながらも、続けていなければ平静さを保てないのは眠気すら吹き飛ばすほどのこの緊張のせいだ。
 ああ、笑いたくば笑え。数日前、余裕綽々で和奈の申し出を引き受けておきながら、俺は明日の生死のかかった戦いを前にガッチガチに緊張している。普段通りの生活を「意識して」やらなければ出来ないほどに。

 明日の戦いの時は、普段の訓練時に行っている「時間圧縮」を行わないそうだ。

 その為、コネクトを行う場所は人目につかない場所や人の来ない場所が望ましいと。
 これは、サポートやバックアップの為にリソースを確保する意味合いが大きい。時間圧縮のプロセスにシステムの容量を割き過ぎていて、万が一を避けられる可能性を下げてしまうのは和奈の本意ではないようだ。
 だが、それ以上に――そこまでしてバックアップ体制を万全に整えてなお、和奈は生命の危機があると断じたのだ。離脱や撤退が可能としながらも、ゲームのような安全が確約できる訳ではないと。

 命を削りあう死闘。
 眼前に迫る恐怖。
 本物の肉を裂き、骨を断つ感触。

 恐らく生涯知ることはなかっただろう未知の感覚に、俺の能天気な精神は何処まで耐えられるのか。
 想像することでしか知りえなかった「リアルな死闘」が、眠りにつき目が覚めた時には目前に迫っているという事実が、殊更俺に「普通であれ」という装いを強要させる。

 普段通りでなくなった瞬間に、恐怖から叫びだしてしまいそうだからだ。

『あんまり緊張して怖がるなよー? オレもビビってるし、高峰や和奈ちゃんもきっとそうだからよー』

 だというのに――この男はあっさりと俺の行動の裏を見抜いてこんなチャットを飛ばしてきた。

『ここはビビってねーし! って返したいところなんだけどな。無理だわ』

 だから俺は素直に認めた。学業は最悪だが、そういう意味以外では頭の悪くない瞬はこうした機微にも聡い。ただ、良くも悪くも直球ゆえに何らかの行動に「バカ」が修飾語としてくっついてしまうのが難点というだけだ。
 熱血バカ、とかバカヒーローとかそういう類の。

『それが普通だろ。二人も言ってたじゃねーか、予備知識はあるけど初陣なのは変わんないって。オレだって口では何とでも言えるけどさ、ゲームしながら訓練してたからさ、死ぬって感覚に敏感にはどうしたってなるだろ』
『そりゃ、まあな』

 刃物の痛みを知った。
 鈍器で殴られる痛みを知った。
 血を流すという感触を知った。
 そして――それらを与えるという事のなんとも言えぬ感覚はいつしか忘れた。

 痛みには敏感になっても、痛みを与える事には鈍くなる。
 これは戦士として正しい成長なのか。迷わない、躊躇わない、という意味では正しいだろう。だが、一歩間違えればそれは己の力の重さを理解できなくなる人として何かを間違ってしまう事でもあるのではと。
 だから、死に対して僅かでも恐怖を感じる事を俺は間違いではないと、そう、思いたい。

『オレは死にたくないから戦うぜ。それくらい単純でいいんだよ。そもそも、オレらそこまでご大層な理由で戦ってないだろ? なーに今更カッコつけようとしてんだよ。そういうのは、高峰や和奈ちゃんがいる時だけにしとけばいいんだって』
『お前のその単純明快な頭が羨ましいよ』
『んー、そんなもんだと思うけどな、オレは。大体、お前この件を引き受けたのだって、オレに乗せられた見たいな言い方したけどよ、結局は可愛い女の子の前でかっこ悪いところ見せたくなかった、それだけじゃね?』
『やめろ、俺の風評被害をばら撒くのはやめろ!』
『や、オレは半分くらいはそんなもんだけど、お前は違うの? 逃げるのマジかっこ悪い、みたいな』
『否定はしない』

 だって、あの時の和奈、すげーガチ泣きしそうなくらい懇願してたもん。
 そして断れるほど真っ当な理由も目標も俺には無かったし。何となく高校生になって、これから先どうしたらいいかなあって考えるくらいふわふわしたような人生しかないんだから、ここらで意地の一つを張ってもいいだろうとか思っちゃうのは、悪いことじゃない、筈だ。うん。

『やっぱりタケはあれこれ考えすぎるのがよくないよなー。ほら、手止まってんぞ、そろそろTP切れるから何か殴りに行こうぜ』
『お前が考えなさすぎなんだよ、そしてそれでいつも上手く行くのが納得行かないんだよ』
『タケだって、時間はかかるけど大体正解を選ぶじゃん。悩んだまま答えを出さない後回し、とかってオレが知る限りじゃやったことねーよな』
『人の倍以上に悩む事もあるけどな』

 時には無駄に考えるよりも思いついたままに答えを決めた事もあるが、瞬の言うとおり迫られた選択に対して何も選ばなかった、という事はしてこなかった。
 だからこそ苦い結果を味わった事もあるが、中途半端な事はしていない。その事実にだけは自信を持てる。

『心配すんな、何とかなるって。いや違うか、なんとかしよーぜ? 今年こそは彼女作るぞーって初詣で祈ってたじゃん。死んでも困るし、世界が終わるのも困る。んじゃー、頑張るしかないじゃん』
『そんな理由を天秤にかけて戦うヒーローとか、今日日ギャグ漫画にもいないだろ』
『むしろ最近の流行だとハーレムとかが目標だっけ?』
『現代日本は一夫多妻制じゃないから非現実的だな』

 異世界の侵略者と戦うって時点で現実もクソもないけど。
 操作しているアバターが雑魚をチマチマ殴りつつじわじわとSPのゲージを回復させていくのを見ながらも、俺は瞬の言わんとする事を理解する。
 そう、最初に和奈に答えたとおりだ。知ってしまった以上は見て見ぬ振りは出来ない。いや、知らなかった事にする事も出来たのに、それを拒否して彼女の願いを受け入れたのは他ならぬ俺自身。

 恐れるな、とは間違っても言えない。俺はそこまで出来た人間じゃない。
 けれども失敗したらどうしよう、とも考えない。俺はそこまで世界に責任を持てない。

 やれる事はただ一つ。この手に得た力を精一杯に振るう事。がむしゃらに、ひたむきに、諦めたくは無い、投げ出したくは無いとガキなりの意地をただ張り通す。

『うん、あれだな。瞬の単純バカのお陰で気づいた。今、やるべき事って簡単だな』
『お、ようやく分かったか?』
『ああ、ちょっとニヒルに笑いながら、やるしかないな、って呟く事だった』
『おお、確かにそれは定番だな』
『ボケたんだよ! 突っ込めよ!』
『え? オレは割と本気でそう思ってた』

 やめろよ、無駄にイケメンのお前がやると無駄にカッコイイだろ。
 あ、TPゲージ満タンになった。それじゃまたアクセラレーションを連発するか。

『タケ、補助魔法マスタリーを上げるのにどの魔法使ってんの?』
『アクセラレーション。なんだかんだで攻撃は喰らわないのが一番だろ?』

 アクセラレーションは全体の行動の機敏化だから利便性が高い。
 攻撃の回数が増えるし、強化魔法や付与魔法を味方にかけ直すにしても素早く駆けつけられる。囮役を引き受けたときも相手より行動速度が速ければ当然安全面は増す。
 魔法自体の効果が大きくなる事を踏まえてどれか一つを伸ばすならこの魔法だと俺は最初から決めていたのだ。お陰で、アクセラレーションのレベルは3に届くだろう。

『防御力アップ魔法のディフェンサーはどーすんのよ?』
『斬られたり殴られたりした時の痛みが減るくらいの実感はあるだろうけど、どう考えても保険以上の意味がないからなあ』

 もうちょっと補助魔法マスタリーのレベルが上がった先に、一回で消えるけど攻撃完全無効化バリアみたいな魔法の類があればそっちの方が絶対有用なので、攻撃が当たる前提の魔法にはまだポイントを振る余裕は無いと判断して習得を見送っているのだ。
 TPは減ったところで多少の疲労感で済むが、HPはあくまでゲームの中だけの仕様。これだけ防御力が上がってれば後一発は耐えられる、なんて計算は命取りだ。怪我すればポーションを飲んだりするしかないのだし、その判断が重要な今の状況では防御力を上げたりする魔法は頼るべきではない。

『代わりに敵の防御力ダウンのアーマーレスの魔法は取ったぞ。魔法自体のレベルと補助魔法マスタリーのレベルが低いから結構敵に近づかないといけないくらい射程距離短いけど』
『ならその魔法を使う隙を作るのはオレに任せろ。ガンガン、盾で吹っ飛ばしてやるぜ』
『色々とおかしい発言なのに頼もしく感じるのは瞬だからだろうなー』
『おうよ!』

 いや、褒めたようで褒めてないんだけど。
 瞬のアバターはガッツポーズのジェスチャーをしており、アイツの気合の入っている様がよく分かるのだが……本人が喜んでるならいいか。

『こうして改めて確認するとやっぱ魔法職系のビルドで育ててる仲間がいないのって、ゲームならともかくリアルで戦闘するとなると不安が伴うな……』
『てか、完全後衛が一人もいねーもんな。弓使いとかそういうの』
『……この戦いを乗り切ったら仲間探しも考えないといけないのかもな』
『んー、でもオレらみてーな変わりもんがそうそういるとは思えねー。和奈ちゃんも言ってたじゃん、結構な数のディスクは配ったみたいだけど、能力と人格の両方が揃ってたのは殆どいなかったって』
『そうだな、けど、このままじゃ絶対にジリ貧になるから色々やらないとならないだろ。だからこそ、明日は絶対に乗り切るぞ。でないと先の話も何もあったもんじゃない』
『お、やっと、タケらしく気合入ったんじゃねーの』
『お蔭さんでね。結構眠くなってきたしぐっすり寝られそうだ。これなら明日は万全の態勢で迎えられるだろうよ』

 結局補助魔法マスタリーの経験値を示すバーはゼロから半分くらいまでだ。
 だが、明日が来る事が今は怖くは無かった。
やはり相棒ポジというのはなんやかやで
主人公を支えてこそ輝くと思うのだ(個人的意見
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