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REGAIN HEROES ―本当に世界を救うRPG― 作者:本堂ゆうき

AREA 1 今、そこにある危機

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Opening stage Hello another world?


※ 三話まで同時公開しています。閲覧順にご注意ください。



 黄昏せまる世界の果て、絶望の終わりたる黎明をその手に抱け――古き英傑にも等しき力にて。





































 眠い。
 平日の月曜日とはなんと眠いものなのか。
 まだ四月に入り、進級してから二週間だというのに、俺――沢木(さわき)武彦(たけひこ)は不真面目極まりない思考で、お経の様に聞こえる歴史の授業を眠気に耐えながら受講していた。
 かろうじてノートはしっかり取っているし、熊のような外見で有名な歴史の先生の「ここはテストに出すからなー」という忠告だけは聞き逃さない程度には集中している。
 必死に耐えに耐えて授業の終わりとホームルームを終えて放課後を迎える頃には、俺は力尽きて机に突っ伏していた。ああ、このまま眠りこけてしまいたい、ガチで。

「よお、タケ。そろそろ帰ろうぜ……って何死んでんだよお前」
「悪い、瞬。俺は今から遠い世界に旅立とうと思う。そう……平日なんてない世界にな……」
「馬鹿言ってねーでとっとと帰ろうぜ。今日はバイトないんだろ? だったらアレ、プレイし放題じゃん」
「……そうだった、俺には世界を救うという使命があった」
「オレにもあるけどな。ていうかそれ言ったら救わないといけない世界、プレイヤーの数だけあるじゃんか」
「それを言うな、友よ。あーあっ、しゃーない、気合入れて帰るとしますか」

 ハハハ、と朗らからに笑うスポーツマン系イケメンのコイツは中学時代からの友人柏谷(かしわだに)(しゅん)。容姿と運動能力は抜群、成績は赤点スレスレでちょいとお馬鹿な発言もあるが根本的に頭が悪いわけではないためか、異性から告白された回数は二桁を余裕で凌ぐというナイスガイ。我ながら、フツメン、成績は中の上と俺みたいな普通のヤツがつるむにはハードルが高い男だ。
 高校に入ったらてっきり部活に入るのかと思ったら、俺と同じように短期アルバイトをハシゴする高校生活を送っている。俺は色んな仕事をやってみたいという半分趣味のようなところがあるが、コイツも似たようなものらしい。二人とも、趣味の一つにゲームがあるので金が欲しいという切実な理由も大きいのだが。

 202X年。
 当たり前の様に存在していた俺らには実感が湧かないことだが、ゲーム機の歴史も結構長い。
 俺達が生まれる前、誕生したての頃のゲームの内容もインターネットで知ることが出来るがその進歩の度合いと来たら驚くばかりだ。人間、娯楽のためならばここまで技術を高められるものなのかと驚くほどである。
 俺達がメインで使っているゲームハードであるService Presents5、通称「SP5」の初代機と五代目の性能を比べればその差たるや恐ろしいものがある。VRモニターも随分と普及しつつあるが、いずれフィクションでは当たり前に存在する五感没入型のフルダイブなゲームも夢物語とは言えなくなるような時代だな。

「そういや、レベル10になったら解禁されるメインクエストがあったよな、regain heroes」
「おい、外で大っぴらにその名前出すなよ、瞬。一応テスターには守秘義務があるんだぜ? まだ正式タイトルも発表してないからいいけどさ」
「おっと、ワリー、そういやそうだった」
「俺達ちゃんと誓約書にサインしてるんだからな……しっかり守ろうぜ」

 regain heroesとは、俺達――一部のテストプレイヤーの手にしかない開発中のRPGだ。
 豊富な育成方針と細かなアクションを用いて探索やボスを撃破したりするRPGなのだが、その舞台設定が中々に変わっている。
 今から数十年後に起こった異変によって崩壊した現代日本が舞台で、そこでは僅かに生き残った人々と秘密組織が抱える「リターナー」と呼ばれる異能を持った戦士が人類存亡を賭けて戦っているという世界なのだ。
 世界崩壊系の舞台設定に反し、使える能力や設定がファンタジー寄りというアンバランスさも中々大胆な切り口で、アクションRPGなのだがかなり骨太な難易度である為、俺も瞬も手応えを感じつつ日々意見を開発会社の送信フォームに書き込んでいる。
 まだ各種雑誌や情報媒体にすら流れていないソフトのテストを何故俺達がしているのか。
 それはこの会社の過去作品をプレイした際に送られたアンケート葉書を参考に、今回のテストプレイヤーを選出しているとの事だった。誓約書にサインを書き、了承を得られればテスト用のディスクを送るという内容に俺は喜び勇んでサインした。勿論内容はきちんと隅から隅まで読んだ。手の込んだ詐欺という可能性も当然あったが、内容は至極真っ当で仮に悪戯であっても特に被害は無さそうだったからだ。
 そして数日後、送られてきたディスクは紛れも無い本物であり、俺は喜んでプレイしていたのだが。

「けど、あのソフトもちょっと抜けてるよな。まさかハードでフレンド登録してあるプレイヤー同士なら簡単にネットプレイが出来るなんて」
「まあ、テストプレイヤー同士が繋がるだけなら何も問題ないと思ったんだろ」

 そう、始めて数日後、本来であれば発売後に使うであろう他プレイヤーとの交流用のフレンドシステムに、普通ならば並ぶはずのない他プレイヤーの名前があって驚いたのだ。
 しかしもっと驚いたのは、

『人違いだったらすいません。もしかしてタケか? 俺だよ俺』

 という、使い古された詐欺のようなメッセージが届いた事である。
 俺は殆どのゲームでプレイヤーキャラの名前には共通した名前をつけているので、それを見て思い立ったらしい瞬は試しにメッセージを送ってみたそうだ。
 それを見てすぐさま、スマホで話すこと数分。瞬が同じくテストプレイヤーであったのを知ったのはその日のことだった。

「開発側も、世間は狭いですねって、でしたら丁度良いのでそのまま協力プレイのテストもお願いします、って緩さだったからな、対応」
「お陰でレベルアップは効率的になったし、オレらは楽っちゃ楽だけどな」

 人数分でキャラクターに入る経験値は割られてしまうが、それでも俺も瞬もそこそこのゲーマーである。特にregain heroesはプレイヤー側の選択肢が多いこともあり、色々試せば少々の強敵でも倒せてしまうのが中々に快感だ。
 残念なのは情報規制の問題もあるので、ネット上の掲示板などに新発見! 的に書き込んだり出来ない事だが。正式リリースを待って欲しい同志たちよ、と思う一方で他にも似たようなケースがあちこちで発生してるんじゃないかなとか思ったりもするけど。

「けどさ、タケ。お前もなんつーか、その欲張りなプレイスタイルは昔っから変わんねーよな。自由に育成できる系のゲームだとあれもこれも取りたがるっつーか」
「うーん、性格なんだろうなー。なんというか手札を沢山持ってたいというか、相乗効果がでかかったときにこそ達成感を感じるというか……」
「ま、regain heroesのキャラメイクのシステムだとそれも仕方ねえか。作成の段階である程度方向性が狭められてるのかと思いきや、プレイ次第で思わぬ方向に拡張できるんだし」
「そうそう、色んなプレイを試してたらスキル増えてました、とかあれがいいんだよ。お陰でついついいろいろ試してみたくなる」

 regain heroesでキャラクターを強化する方法は主に二つ。
 まずはレベルを上げること。これは主にキャラクターの能力面に直結していて、作成した時に選んだ「クラス」と呼ばれる職業分類のようなものに従って能力が成長するのに加えて、幾つかのボーナスポイントが貰えある程度成長の方向性を左右できる。
 もう一つは、スキルだ。これまたRPGじゃすっかりおなじみで古参だろうが新参だろうがゲーマーならば殆どの人が馴染み深いシステムだろう。regain heroesではこれを習得するのにあたって制限が殆どない。完全に戦士系のクラスで初期MPが0で、レベルアップでも成長しないクラスであっても、魔法スキルを習得すれば、スキルのレベルによって入るステータスの補正によってMPの最大値が伸びる、という徹底した自由ぶりだ。もっとも、レベルアップで成長しないのはそのままなので、戦士系のクラスを選んで魔法スキルを成長させるのは茨の道もいいところだろうが。
 しかもこのスキルの数がまた膨大なのだ。オマケに一部のスキル同士は影響し合い別のスキルを生み出したりもするのだから半端じゃない。一体開発はどれだけのデータを詰め込んでいるのだろうか。レベルを上げるのもスキルをあげたり探すのも楽しくて、お陰で俺は瞬に比べてレベル10に到達するまで随分と時間がかかったのだ。

「そういえばスキルで思い出した。瞬さ、なんかやたらと盾のスキルばっかり使ってるけど、武器スキル取ってないの?」
「おう、実は片手斧スキルがレベル1なだけだ。他は盾しか伸ばしてないな」
「……何でそんなプレイを?」
「いやー、なんつーか、他のゲームに比べて盾スキルもすげぇ豊富なんだよ。ガード系だけじゃなくてバッシュ系とかさ。しかも盾のサイズに応じて使えるスキルが細かく違うの。ありゃ、盾スキルも武器スキル系の一種だぜ。そういう変り種ってあんまり使いたがらないだろ?」

 そう、そうなのだ。瞬は、割と尖ったプレイを好む。特にこういうプレイヤーの性格や嗜好がモロに反映され、なおかつ工夫次第でどうとでもなる、というゲームにおいては特に。
 昨日の協力プレイでも、右手に持ってる斧はほどほどに、大盾を構えてタックルしその後武器チェンジでカイトシールドに持ち替えたと思ったら今度はそれで思い切り殴るという戦いを見て、こいつの斧は飾りか、と呆れたものである。

「そういうお前だって、武器は片手剣スキルだけじゃねーか。似たようなゲームだったら状況に応じて使い分けるって言って、三種くらい取ってなかったか?」
「ふっふっふ、実は昨日あれからついに攻撃魔法マスタリーがレベル2になったので攻撃系魔法を取得した。遂にヒーロークラスの名に恥じないスペルナイトになりましたよ、ふふふ」
「あー……お前魔法剣士とかって響き好きだもんなあ。器用貧乏の代名詞」
「このゲームなら時間はかかるけど万能型に育てられるからな! まあお陰でレベルアップは遅くなったんだけどさ」

 そう、俺のキャラは作成時に少し他のクラスを選ぶよりもステータスの高くなる「適性」が高いクラスとして選ばれた中に、そのスペルナイトがあったのだ。
 ご丁寧に、物理攻撃力など肉体が関わる能力は戦士系としては平凡、魔力などの魔法系としても平凡というお約束に洩れないステータス配分だったのだが、適性と得られるボーナスの多さから、迷わずこれを選んだ。そして後にこのゲームの育成システムを知って歓喜したものである。

「今の俺は回復系以外の殆どのスペルは習得可能だ。まあどれもレベル低いけど」
「なんで回復系は取らなかった?」
「今だけでも、攻撃、付与、補助と随分ロースペルのスキルにポイント割いてるからさ。これ以上欲張るとますます時間が……それに俺のキャラ回復魔法のカテゴリーのスキルには適性がない、というかむしろマイナス補正喰らってるし」
「あー、スキルの適性のバランスもなんつーか凄いよな。適性の高いのはレベル上げ楽だけど、低いのは他のスキルの何倍もポイントいるもんな」

 スキルの成長に必要なポイントはそれこそ剣を振ったり、歩いたりと何かをするだけで溜まるし、クエストを達成する、敵を倒すなどでも手に入るのだが、それでも足りないくらいとにかくスキルが多い。
 それに直接的なアクションや魔法に関わるスキル以外にも自動発動するパッシブ系スキルも成長させないと全体的にキャラクターは強くならない。レベルアップ自体はあまり早くない経験値テーブルに設定されてるのもあって、力不足を感じたらスキルで補うというのがこのゲームの根幹らしいので、あまり広く浅くでスキルを取りまくっても時間がかかるだけだろうとある程度は見切りをつけたのだ。

「時間をかければ最強……とはいかなくても自分好みのキャラクターに育てられるのは良いよな。それにこのスマホに作ったキャラのアバターをアプリとして登録しておけば、万歩計のシステムに連動してちょっとだけスキルポイントが入ってくるってのも地味に嬉しいし」
「昔はこういうオマケみたいなシステムって結構あったらしいしな」
「発売されたら俺らより上の年代にもウケそうだよな。その為にもバグとかはしっかり見つけないとな」

 そろそろ帰宅する学生もまばらになった交差点が見えてきた。
 コイツはここからバスに乗って学生寮に帰るので、このまま歩けば家に着く俺とはここでお別れだ。

「じゃあな、また後で――」

 regain heroesで会おう、とそんな言葉を続けようと思ったその時だ。

虚界接続(コネクト)

 耳慣れない機会音声が何処からか聞こえたかと思ったら――世界が一変した。
 風景は変わらない。見覚えのある学校の近くの交差点。
 だが、それは俺の見慣れたものとはあまりに違っている。
 夕焼けよりも不安を誘う赤い空は所々が黒雲に覆われ不気味で。
 周囲の建物はどれもほぼ半壊か全壊。まるで災害か何かにでも遭ったかの様に周囲は荒れ果てて。
 ひび割れだらけのアスファルト、人気の無い廃墟と化した見慣れた風景の中の見慣れない異物。

 そして俺達の目の前に――怪物がいた。

 両刃の大斧を構え、筋肉質の上半身の身体にくっ付く頭部は牛の物。
 どう表現してもミノタウロスとかと呼ばれるモンスターにそっくりな、いや、違う。これは、この怪物は――

「お、おい、あれって昨日regain heroesで倒したボスモンスターじゃね!?」

 瞬の言うとおり、昨日、俺達が苦労して倒したゲームの中のボスの姿そのままだったのだ。


 
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