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私に世界は救えません!【改稿版】  作者:星影

第一章 はじまりは夕闇とともに

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定められた運命

★☆大切なお知らせ☆★

現在、原本(?)の『私に世界は救えません!』と併用しています。

もともと改稿が追いついたところでこちらを検索除外にする予定だったのですが、今回ありがたいことに原本のほうが、ネット小説大賞の一次選考を通過させていただきました。
そのため、少しでも自信のあるもので次の選考を勝負したいと思い、改稿したこちらの内容に差し替えようと思っています。

あと六話(第三十四話)で話の数が追いつくため、六話ぶんをこちらとあちらの両方で更新し、こちらのほうは検索除外にする予定です。
(そうしないと更新の連絡がされず、読者さんにご迷惑をおかけしてしまうので)

もしもお気に入り登録をこちらのみにされている方は、付け替えをお願いいたします。
六話分更新以降、こちらは更新されなくなります。

ちなみにNコードは→N3363DN
URLは→http://ncode.syosetu.com/n3363dn/  です。
 絶望へと続く扉は、案外すぐそばに転がっている。
 それに気付くのは大抵、扉へ片足を突っ込み、戻れなくなった瞬間だ。

 港町として栄えるミディ町にも、今まさにその状況に陥っている娘がいた。
 彼女の名はリディア・ハーシェル。
 生まれながらにして、祈りの巫女という理不尽な使命を抱えた娘だった。

――・――・――・――・――・――

「どうして……」
 かすれた声が小さな庭へとこぼれ落ちる。
 べたつく風が吹き付けて言葉をさらい、ひまわりだけが空返事をするかのように揺れている。

 長い亜麻色の髪をもつ娘リディアは、顔に貼りついてきた横髪をのけて、大きく息を吸いこみ、仕切り直しとばかりに、郵便受けの中を覗き込んだ。
 ”それ”がなくなっていることを期待したのだ。


「まぁ、そりゃそうだよね……」
 呟くようにリディアは言う。
 見えた景色はもちろん、何一つ変わることはなかった。

 願うだけで不都合が消えるなんてことは、普通に考えればありえない。
 だが、そんな簡単なことさえわからなくなるほどに、リディアは混乱していたのだ。


 しばし放心したように立ち尽くしていたリディアだったが、ようやく事実を受け入れたのだろう。
 恐る恐る郵便受けの中へと手を伸ばし、”それ”を取り出した。
 彼女が手にしたのは、金色に輝く封筒だった。

 色が派手というだけで何の変哲もないが、それを見るリディアの顔は強張り、ほほからは一切の赤みが消失している。
 さらに、滑らかな肌は病的なほどに白さを増し、大きな翡翠ひすい色の瞳に至っては、焦点さえ合っていない。

 一見すると血の通わない人形のようだが、小刻みに震えるその手だけが、人形ではない“心”を強く主張していた。


「あと一年あると思ってたのに……」
 今にも泣き出してしまいそうな声がこぼれて消える。
 リディアは上半身を丸めて縮まり、祈るように瞳を閉じた。  

 だぼっとした上着に、地味なロングスカートというあか抜けない服装のせいか、ひどく幼く見えるが、彼女は明日、十八回目の誕生日を迎える。

 十七歳最後の日である今日、彼女を管理するネラ教会から届いた金色の封筒。
 それは、祈りの巫女であるリディアにとって死の宣告にも似た意味を持っていた。

「うぅッ」
 突如込み上げて来た吐き気を、リディアは条件反射的に抑えていく。
 そして、そのまま慌てた様子で家の中へと戻っていったのだった。


――・――・――・――・――・――

 黄昏たそがれ色と闇が混じり合う部屋の中、リディアはホットミルクが入ったカップを手に、ゆったりと椅子に腰かけた。
 まだ幼い頃、辛いことがあった時には、決まって母親がホットミルクを作り、慰めてくれたことを彼女は覚えていたのだ。

 昨日までは熱い飲み物など飲みたくないと思っていたのに、とリディアは呆れたように笑う。
 両手でカップを包んで、ミルクを口にする。
 その温かさと甘みが、恐れで冷えた身体を柔らかく解きほぐしてくれた。


 冷静さをわずかに取り戻したリディアは、小さく息をついて顔を上げる。
 リディアの指先は懐かしい温もりから名残惜しそうに離れていき、宛名が書かれた封筒のほうへと向かった。

「これ、私の名前かな。はじめて名前の字を見たのが、使命の連絡(これ)、か」
 リディアは自嘲気味に笑う。

 町に行けば、そこかしこに文字は溢れているのに、彼女はこの歳にして一つも字を読めずにいた。
 決して勉強が出来ないわけでも、やる気がないわけでもない。

 むしろ本を読みたいと願っていたのに、ネラ教会が文字を教えることを制限してきていたのだ。

 そのせいで純粋な知的好奇心は町民からも突っぱねられ、満たされることは一度たりともなかった。
 結果、文字すら読めないままリディアは大人になってしまっていた、というわけだ。


 ナイフを手に取り、丁寧に封を切っていくと、中には真っ白な紙が一枚だけ入っている。
 かさりと音をたてて開くと、十行ほどに渡る文章が書かれていた。

 字の勉強を禁じてきたくせに、連絡を手紙でするなんて、さすがにひどすぎる――
 そんな、誰にも伝えようのない文句の代わりに、リディアは口をへの字に曲げて、深いため息をついた。


 文字を知らぬ者に、手紙など読めるはずがない。
 それなのに、リディアは書かれている内容の半分近くを理解できていた。
 幸か不幸か、幼い頃、母親や教会の者から手紙の意味を知らされていたのだ。


 十八歳の誕生日前日に届く、金色の封筒。
 それは『祈りの巫女』と呼ばれる者が、一番目の使命を果たすのに必要な年齢に至ったことを伝える意味を持っている。

 つまり、手紙の内容は『婚約者の元へ、明日嫁げ』ということになるのだ。


「どうして私なんかが、祈りの巫女なの……?」

 机の上に突っ伏し、迫り来る深い闇を見つめながらぐしゃりと手紙を握りしめる。
 そんなリディアの姿は、溺れる者が何かをつかもうとするしぐさにひどくよく似ていた。
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