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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第三章

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04.瞬間解決

 瑞希のファン達に別れを告げて、車に乗り込んだ。
 彼女は真っ先に助手席に乗ったので、俺は仕方なく後部座席に乗り込んだ。

「出します」

 前にも会った事のある、正と呼ばれる本物の瑞希のマネージャーが短くそう言って、車を発進させた。

「これからどこに行くんだ?」
「ホテルに。そこにマリアンナ王女が私の熱烈なファンを連れてくるから」
「さっき以上に?」
「さっき以上に」

 瑞希がはっきりと頷いて、俺はちょっとだけぞっとした。
 さっき人達もかなり熱烈だったと思うが、それ以上となるともう相当のもんだよな。

 まだ会っていないけど、それこそ信者といっても差し支えないレベルだろう。

 とは言え、会うけどな。
 読心を使わなくても、「熱烈なファン」とやらがただのファンであるわけがない事が分かる。
 今回の事に関係する役人か、政治家か、あるいは商人あたりか?
 そういう人間を連れてくるんだろうなってのが流れではっきりと分かる。

「つまり、そこがあなたがとまってるホテルでもあるってことか」
「そうね」

 そう頷く瑞希たちに連れてこられたのは、南国に微妙に溶け込んでいない、超豪華なグランドホテルだった。
 これが周りが砂漠ならオイルマネーだなって納得もするんだけど、ここはヤシの木と灼熱の太陽が支配するトロピカルな南国だ。
 俺のイメージでは高層ビルとはあまりにも似合わない。

 車がホテル正面にとまって、瑞希と一緒に降りて、中に入る。
 そのままエレベータに乗り込んで、最上階にやってきた。

「へえ」

 思わず声がもれた。

 この世界に戻ってきた直後に一泊百万円のスイートルームに泊まったことがあるけど、それを遥かに上回るスイートルームだ。
 その豪華さたるや王宮のような感じだ。

「ここ、一泊どれくらいするんだ?」

 思わずそんな下世話な質問を瑞希にしてしまう。

「ただよ」
「いやあなたが泊まればただなのは想像がつく。そうじゃなくて、普通に泊まったらいくらなのかって意味だ」
「普通は泊まれないわね。ここは私の部屋だから」
「……え?」
「ここのオーナーのご厚意でね、この部屋は私のためだけに作られたの」
「このグランドホテルの最上階がか?」
「ええ」
「……それは予想外だ」

 俺はまだまだ瑞希の人気を甘く見ていたらしい。
 多分、そのオーナーとやらもものすごい熱烈な信者なんだろうな。

「そういう事もあって、ここは王宮よりも安全な場所。盗聴も盗撮も気にしなくてすむのよ」
「だからここで会うのか」

 頷く瑞希。
 そうはいってもやっぱり盗聴する人が出てくるだろ? って思ったけどいい加減分かってきた。
 多分だめだ。

 瑞希はこの国じゃ「神」なんだ。
 その瑞希を盗聴か盗撮しようとする人間なんて、ばれたら法律じゃなくて、国民のリンチに遭う可能性が高い。
 俺だったら怖くてやれない、そのオーナーの立場だったら神に安らげる場所を全力で提供する。

 ここは、多分世界一安全で隠密な場所なんだ。

 しばらくして部屋の中をうろうろしていると、瑞希は着信が入ったスマホを取った。
 彼女のマネージャー、正からの電話らしく、瑞希は「お通しして」と言った。

 しばらくすると、マリアンナ王女と見知らぬ男が入って来た。
 30台の青年で、メガネを掛けてるインテリ風の男だ。

 青年はこっちにまっすぐ向かってきて、手を出して握手を求めてきた。

「初めまして、アルベルトと申します」
「ん? 日本語、か?」
「はい、日本語で結構でございます」
「すごく流暢だな。ネイティブに聞こえるぞ」

 感心してると、アルベルトはメガネをグイッ! と上げた。

「勉強しました、瑞希様のフレーズをより理解するために」

 メガネがキラッ! と光ったような気がした。
 さらりと言ってのけたその姿は心なしかちょっと格好いい。

 まさに信者だ。
 街中で集まってきた住民達もかなりしゃべれたけど、このアルベルトという男はそれ以上だ。
 瑞希の歌を聴くために日本語をネイティブ並に勉強するなんて……すごいな。

「……」

 ん?
 なんか……睨んできてないか?

 握手をしたアルベルトに睨まれてる様な気がした。
 いや、気のせいじゃない、はっきり睨まれてる。

 その証拠に、握手もやたら力が入ってる気がする。
 どういう事だ?

 理由が気になって、握手を交わしたまま、スキル・読心を使った。

『瑞希様にわざわざご足労いただくなど……何様のつもりだこの男は』

 心の声を聞いて納得した。
 なるほど、瑞希が俺を迎えに行ったことに腹を立ててるんだな。

 信者らしい反応だ。
 街中の住民達とは違うが、瑞希経由の反応としては理解できるものだ。

 同時に、信用出来る男だと思った。
 読心で一通り読む限り、腹がたつが瑞希が信用するのなら、という考え方で一貫している。

 完全に近藤瑞希の信奉者、瑞希の事は何があっても絶対に裏切らないって信頼感がすごい。

「さっそくだけど話を聞かせてくれ」
「分かりました、ではまず――」
「なんですって!?」

 話に入る前に、瑞希が声を張り上げた。
 見ると彼女はまた電話をしていて、誰かと話をしている。

「どうしたんだ?」
「正から連絡。このホテルに爆弾がしかけられてるって連絡が入ったの」
「ホテルに爆弾だと?」
「例のハイジャック犯からの自供。どうやら地上に仲間がいたらしいの。一定時間内に俺たちの要求をのまないと爆発させるって」
「むっ……」

 部屋の中に緊張が走った。
 この部屋は瑞希の事もあって絶対安全だったが、ホテルそのものが危険だというのは予想出来なかった。

「どこにどれくらいしかけられてるかわかるか」
「それを喋らないらしいの」

 当然だな。仕掛けの効果を最大化するには「謎」のままにしたほうがいい。
 それと同時に。

「一個くらい爆発させられるかも知れないな」
「ブラフではないと証明するために」

 すぐに理解するアルベルト、俺はゆっくり頷いた。
 ホテルのどこか、それほど損害のない所で一回爆発を起こしてその後の主導権を握る、なんてのは常套手段だ。

 そこまでは大丈夫だが、そこから先はどう転ぶか分からない。
 いや、それにしたって「最小限」ってだけで、被害がまったく出ないって訳じゃない。
 それも出来れば止めたい。

「……ハイジャック犯はどこにいる? すぐに会えるか」
「どうするの?」
「吐かせる」
「……分かった。マリアンナ王女、お願いします」

 マリアンナ王女もそれなりに日本語が分かるらしく、自分のスマホでどこかに連絡を取り始めた。

 俺はドアに向かった。

「どこに行くの?」
「そいつと会うまで探せるだけ探してみる。何か分かったら連絡してくれ」
「分かったわ」

 俺はドアを出て、エレベータを使って下の階に向かった。
 一回ずつ降りていきながら、スキル・読心でかたっぱしから相手の心をよんだ。

 このホテル内に実行犯がいる可能性がある、そいつを捜し出せば早めの阻止が出来る。
 そう思って、降りて、読んで、降りて、読んでのくり返しだ。

 下の階に行くに連れて客が多くなって、聖徳太子状態になった。
 既に避難が始まっているが、事情は知らせられて無いらしく、大半が不満だらだらって感じだ。

 それでも読む、一人ずつ、しっかり読んで内容を切り分ける。

『もう遅い、今からこいつで出口を塞ぐ』

 ふとそんな声が聞こえた。
 レストランの中、周りが言われた通り避難する中、悠然と座ってる男が一人。
 そいつはにやりと口角をゆがめて、スマホに触れようとした。

 パチン!

 迷わず指を鳴らして、そいつのスマホを叩き落とした。
 スマホを取り落とした男。手が滑ったと思ったのかそれを拾って、もう一回操作しようとする。

 その間に読心で更に深く読んだ。
 どうやら……こいつ一人らしい。

 俺はそいつに近づいていく。
 真横に立ったことで影がそいつを覆った、そいつは眉をひそめて顔を上げた。

『なんだお前は』
『爆弾を止めにきた』
『――っ!』

 驚く男、慌ててスマホ――多分起爆装置になってるそれを押そうとするが、この距離でさせるはずがない。

 手首に手刀でスマホを叩き落としてから、全身の関節を外して動けなくする。

『これで起爆するんだな? 外すにはどうすればいい』
『なっ……なっ……』

 驚きのあまり絶句する男。
 が、喋れなくても問題はない。

 そいつを動けなくしてから、スキル・読心で必要な情報を一通り引き出した。

     ☆

 ホテルの最上階に戻ってきた。
 引き出した情報を瑞希経由で警察に渡して、一段落ついた。

「多分もうないけど、そいつが情報の一部しか知らない可能性もある。明日あたりにもう一度ハイジャック犯に会わせてくれ。本当にもうないのか吐かせる」
「わかったわ」

 瑞希はそれをマリアンナ王女に伝えて、王女が関係部署に命令をするという流れだ。
 それを尻目に、しばらくくつろいだ。

 ふと、見られている事に気づいた。
 視線の方を向くと、一瞬だけアルベルトと目があって、向こうが慌ててめをそらした。

「どうしたんだ?」
「な、なんでもない」

 慌てるアルベルト、何でもないって顔や反応じゃない。
 とはいえ聞いても喋りそうになかったから、読心で読んでみた。

『この短期間でまったく被害を出さずに解決しただと……この男……もしかしてすごいヤツなのか……?』

 なるほどそういうことか。
 含みがあるって訳じゃなさそうだから読心はそこまでにしておいた。
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