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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第三章

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03.カーストの頂点

 飛行機は無事にI国の空港に着陸した。

 ドアが開くと、警察だか特殊部隊だかの、そういう格好をした連中が機内になだれ込んできた。
 回復した機長から既に地上に連絡が行ってたから、CAはそいつらを先導して拘束しているハイジャック犯の元に連れていった。

 大半はハイジャック犯の元に行ったが、一人CAと一緒にこっちに向かってくるのがいた。
 俺はスキル・透明人間を使った。

 姿を消して、すれ違って飛行機からでる。

 飛行機の中という最上級の密室でやむにやまれず巻き込まれたが、これ以上巻き込まれると面倒になる。

 透明になって一人で飛行機を降りて、全速力でその場から離れた。

 C国の国際空港は市内にあるタイプで、空港から外に出るとそこは南国だった。

 綺麗青空、肌が灼けるほどの太陽に、熱帯の植物たち。
 気温こそ高いが、幸い湿度はそれほどじゃないので、不快感はあまりなかった。

 透明人間がとけた俺は街中を適当に歩いた。
 まずは聞き込みだな。

 この国の人間が高速鉄道についてどう思っているのかを知っておきたい。

 C国の邪魔をするのはもう決定事項だが、その先どうするのか、判断するために一般人の声を聞いておきたい。

 つまりは情報集め。
 そして情報集めと言えば酒場。
 二十年前にはじめて異世界に行ったときも真っ先に酒場を探したもんだ。

「夜まで時間をつぶすしかないか」

 つぶやきつつ、空を見上げた。
 太陽が未だ頭上高く、ほぼ真上に鎮座している。
 日没までだいぶ時間がありそうだ。

『あんた、ニッポン人か』
『うん?』

 振り向く、個人経営の雑貨店――昔ながらのたばこ屋の様な店のカウンターから、小柄な男が顔をのぞかせて現地の言葉で聞いてきた。

『今のは日本語だよな。あんたニッポン人か。こっちの言葉分かるか?』
『ああ。今日ここに来たところだ』

 別に日本人である事は隠す必要がないから素直に答えた――が。
 男は急に目をキラキラさせだした。

『やっぱりニッポン人か。なあ、ミズキ知ってるか』
『みずき?』
『ミズキ・コンドーだよ! ニッポン人なら知ってるだろ?』
『あ、ああ』

 男の熱量にたじろぎつつ、とりあえず頷いた。
 別に日本人だから知ってるわけじゃないが、向こうからしたらそういう事らしい。

『やっぱりな! なあ、これ見てくれよ』

 男は俺を店の中に引きずり込んだ。
 壁に掛けられた一枚の写真の前に連れてこられた。
 引き延ばしたポスターの様な写真だ。

『これ、五年前にミズキがうちの店の前を通り過ぎたときの写真だ。うちの家宝なんだ』
『通り過ぎたって言うか……』

 写真に写っているのは確かに瑞希だった。
 ただし店の前を通り過ぎのたか、と言われるとそういう事ではないと思う。

 写真の中の瑞希はオープンカーに乗っていた。
 公道の両横に通行人がびっしりと並んで、オープンカーの前後に装甲車がはっきりと「警護」している。
 よく見れば歩兵らしき者の姿も見える。

 通り過ぎたっていうか、パレードでの途中というか、そんな写真だ。

 それが逆に、この国での瑞希の人気をより強く再認識させてくれる事となった。

 日本語を喋る日本人と聞けばハイテンションで声を掛けて瑞希の事を知ってるかと聞き、パレードで店の前を通り過ぎた一瞬の写真を撮って家宝だと言って店に飾る。

 それだけではなかった。

『なに? ニッポン人? ミズキの事しってるか?』
『なあなあ、ミズキのポスターとか無い? 今年の新しいのが欲しいんだ』
『ニッポン人はいいよな、ミズキのコンサート気軽に行けるんだから』

 ニッポン人が現われたことを聞きつけた近所の人々が集まってきて、口々に瑞希の事を語り出した。
 ここまで来るとちょっとした宗教だと思った。

 いつも国賓待遇だ、と聞いてすごいとは思ったけど、現地での人気っぷりは俺の想像を遥かに上回っていた。

 俺はスマホを取り出した。
 何か瑞希のものがないかな。
 写真とか、会話を録音したヤツとか。

 こんなに人が集まっているのなら情報収集に丁度いい、そのためにまずはエサをまこう。
 そう思って探したが……なかった。

 志穂が持ってないかな。同じ瑞希ファンだし何かしらもってそうだ。

 そう思い、志穂に連絡を取ってみようとした、その時。

 店の外に一台の車が止まった。
 そこから颯爽と降りてくるサングラスを掛けた女。運転席に乗ったままの男。
 両方とも見覚えがある。

 近藤瑞希。運転してるのは彼女に正と呼ばれていたマネージャー。

 颯爽とこっちに歩いてくる彼女に、俺は「時間が止まったようだ」という空気を体感した。

 周りの人間は瑞希を見て止まった。
 文字通り、会話どころか動きさえも完全に止まってしまい、憧れの近藤瑞希に注目した。

 そんな中、瑞希は迷うことなく一直線に俺の前にやってきた。

「迎えに来たわ。大変だったようね」
「まあ、そうだな」

 微苦笑する俺。
 どうやら空の上での出来事に俺が絡んでるって分かられてるみたいだ。

「飛行機の中だったからな、見過ごすわけにも行かなかった」
「その事はマリアンナ王女が上手くごまかしてくれるらしいわ」
「助かる」

 さて、瑞希が迎えに来たと言ったけど、その前にやっぱり情報集めをしたいと思う。
 そのためには――って思っていたら。

「アノ、みずきサン、デスカ」

 最初に声を掛けてきた男が、思いっきり緊張した様子で瑞希に話しかけた。
 意外と日本語がうまかった、片言チックだが、はっきりと伝わる日本語だ。

「ええ」
「「「オオオオオ!」」」

 狭い店内、そしてさほど広くない周りの道。
 集まってきた住民が一斉に歓声を上げた。
 憧れのスターの登場に住民達は沸いた。

 これは……もう聞き込みどころじゃないのかも。

「コノ男、ナニモノ?」
「まねーじゃーカ?」
「ソウカ、みずきサンのまねーじゃーカ」

 一人が質問して、近くにいるおばちゃんが答えると、他のみんなが納得しかけた。
 しかし、とうの瑞希は納得――ごまかしたままにしてはくれなかった。

「マネージャーじゃないわ。私の大事な人」

 どよどよ……。

 納得しかけた空気がまた揺れる。

「すごく大事な人、恩人よ。彼がいなかったわ私はもう歌えて無かったわ」

「「「………………」」」

 本日二回目の時間が止まる。
 たっぷりと止まった後、

「えええええ!?」

 と、

「おおおおお!!」

 の声が入り乱れた。

「ちょ、ちょっと。何を言ってるんだあなたは」
「本当の事を言っただけよ。あなたは私の恩人。あの時あなたが彼をどうにかしてくれなかったら、多分結構ながい休業に追い込まれていたと思うの」
「それは……そうなのか?」

 そこまで考えた事はなかったけど、言われてみたらそうかも知れない。
 そうかもしれない、けど。

 何もこんな時にいうことじゃない。

 本人がそう言ったのが瞬く間に伝わった。
 最初の反応からして7割の人が瑞希の言葉――日本語が分かっているようだった。
 残りの3割は周りの人に通訳してもらって話を理解した。

 全員、正しく瑞希の言葉を理解した。

 瑞希の恩人。

 本人がそう言った相手である俺に、一斉に尊敬の眼差しを向けてきた。

「いやいやいや」

 周りに気を取られて気づくのが遅れたけど。

 瑞希本人も、だいぶ尊敬と感謝の目でおれを見つめていた。

 国民→瑞希→俺。

 I国到着早々、尊敬のカーストの頂点に祭り上げられた、そんな気分になった。
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