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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第三章

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02.空の上のパンドラ

『では、わたくしの専用機で――』
『いや、それはやめよう』
『ど、どうしてですか』

 驚くマリアンナ王女、ベール越しでも分かるくらい目を見開かせている。

『初っぱなから注目されるのはよくない。王女と一緒に専用機に乗って入国すればいやでも注目されるから、それで巡り巡って警戒されたとしたら色々難しくなる』

 一呼吸あけて、瑞希の方を向いた。

「彼女の専用機と一緒に向こうに渡ってくれるか? 表向き誰もが納得するマリアンナ王女が来日した理由を作りたい。あなた相手なら誰も裏があるとは思わないはずだ」

 今まで聞いた話が本当なら。
 国民の大半がファンという瑞希、コンサートの実況が視聴率93%をたたき出す、いつも国賓扱いの女。
 それがマリアンナと一緒に専用機で向かったら最高の目くらましになる。

「陽動、ってことね」
「そういうことだ」

 頷く。俺の意図を瑞希は瞬時に理解してくれた。

「うぅ……」

 一方で志穂が離れた所でむすっとした顔で唸っていた。

「どうした志穂」
「だって、瑞希さんがおとりだなんて……」
「いいのよ志穂ちゃん。I国のためなら、喜んでさせてもらうわ」
「はい……」

 まだちょっと不服そうだが、とうの瑞希に言われて納得せざるを得ない志穂である。

 俺はマリアンナ王女と向き直って、瑞希に言ったことを完全翻訳通して説明した。

『なるほど……さすがですわ』

 と、思いっきり感心された所で、話はまとまったのだった。

     ☆

 夜、エグゼクティブ1の中。
 訪ねて来た涼介が向かいに座って、複雑そうな顔をしていた。

「I国に渡るというのは本当なのか」
「耳が早いな。ああ、ちょっと野暮用でな」
「あなたの事だからC国かK国がらみの件だろうけど、どうしてもなのか」
「察しがいいな」

 推測口調であるところから見て、マリアンナ王女が来たってことまでは掴んでいないようだ。
 それでも俺の目的がC国かもしれないって推測出来てるあたり、涼介はやっぱりかなり有能な男だ。

「どうしてもなのか」
「まあ、どうしてもだ」

 この件、ちょっと見過ごせない。

 道を切り開いた者がまったく報われないのは嫌いだ。
 知った以上、介入しないとのどが小骨で蜂の巣にされたくらい気持ち悪い。

「ふう……」
「なんだ、そんなに行ってほしくないのか」
「当然だ。あなたがいない事がもし発覚したら色々と面倒だ。今はパンドラ、という存在そのものが抑止力になっている。パンドラがいない事が世間に知られた瞬間に犯罪率が%レベルで上がりそうだ」

 涼介はまっすぐ俺を見つめて。

「この国はあなたの存在が必要なのだ」
「……なるべく早く片付いてかえってくるさ」

『引き留める方法があればいいのだが。ふう、金か女しか思いつかない凡庸さが恨めしい』

 スキル・読心で読んだ涼介の心の声がいじらしかった。
 俺はある事を思いついて、涼介に聞いてみた。

「お前、戸籍を作る事って出来るか?」
「戸籍?」
「俺のオリジナルの戸籍で出かけちゃうと巡り巡って「パンドラが日本にいない」ってばれるだろ? 俺とはまったく関係のない戸籍で出国するのが望ましい」
「なるほど」

 考える涼介。

 もちろん彼に頼まなくても出来る。
 スキル・仮想空間にシロを使えば、その辺の話はもうどうとでも出来るようになった。

 それでも頼んだのは、彼の憧れを思い出したからだ。

 アルフレッド・ペニーワース。

 ヒーローの裏方に憧れる彼にあわせた頼みごとだ。

「わかった、任せてくれ。明日にはパスポートを届ける」
「ああ、頼んだ」

 俺がそう言うと、涼介は渋い顔にちょっと笑みがさして、早速動くためにエグゼクティブ1から立ち去った。

     ☆

 涼介からパスポートをもらって、ついでに手配してもらったチケットで成田空港から出国した。

 この辺はさすがというべきだった。
 涼介が用意してくれたのはエコノミークラスのチケットだった。
 時価一兆円企業の幹部、その気になればファーストクラスはおろか、マリアンナ王女と同じように自家用ジェットさえも用意出来る程の力がある涼介。

 そんな涼介が用意したのはエコノミーのチケット、しかもあらかじめ最後尾で目につかない席が割り当てられていた。

 そんな最後尾の席で窓の外、どこまでも広がる青空と地平線を眺めながら、涼介の手際の良さを思った。

『お客様に申し上げます』
「ん?」


 ふと、機内アナウンスが流れた。女性の声だ。

 それだけなら特に問題はないのだが、俺はそれに注目した。
 アナウンスのCA……声に焦りがあったからだ。

 次の瞬間、感じた事が正しいと証明された。

『お客様の中にお医者様がございましたら、近くの客室乗務員まで申し出てください。繰り返します――』

 機内がざわつく。

 お客様の中に医者はいませんか――よくネタで耳にする話だが、まさか実際に遭遇するとは思わなかった。

 すぐに医者が必要な事態、かなりの緊急事態か?
 一分くらい待った、誰も名乗り出なかった。
 医者がいないのか……仕方がない。

 俺は立ち上がって、近くにいた若いCAに話しかけた。

「君、病人はどこだ」
「お医者様ですか」
「……ああ」

 医者じゃないがとりあえずそうだと名乗っといた。
 こっそり入国したかったのだが、上空一万メートルの機内だ。
 人命がかかってるかも知れないしさすがに見過ごせない。

「「「おおお……」」」

 CAに案内される俺、周りの客は脳天気に歓声をあげた。
 まあ、普通の反応はこんなもんだろ。

 俺は案内されて、機首の方に向かって行った。
 途中で若いCAからチーフと名札がついてるものにバトンタッチされて、その人が俺を更に案内した。

 シャー、とカーテンが閉まり、俺が連れてこられたのは。

「操縦席?」
「失礼します」

 ノックして、ドアを開けるチーフの女。
 メーターやスイッチがいっぱいついてる操縦席、椅子は二人だが、椅子に座っているのは一人。

 本来あるべきもう一人は今、床に寝かせられている。

「操縦桿を握ったままで失礼します。副機長の渡辺と申します」
「……風間です。となるとこちらが機長?」
「はい。先ほど急に体調を崩して、意識不明になってしまいまして」
「なるほど。ちょっと見てみます」

 俺は機長の横にしゃがんで、まぶたを開けて瞳孔を見たり、口を開けて舌やのどの奥を見たりした。
 まねごとじゃない、ちゃんとした診察だ。

「……おいおい」
「どうですか」
「……」

 黙り込んでしまう俺、実の所信じられないでいた。

 俺はある程度の診察が出来る。
 異世界で二十年も戦っていれば、ケガなのか病気なのか、外傷なのか内臓がやられてるのかがある程度わかる。

 その二十年分の経験での診察の結果は……毒だ。
 食中毒じゃない、毒物での毒だ。

 この現代社会で、旅客機の機長が毒?

 にわかに信じられなかった。

「あのっ」

 操縦桿を握ったまま、焦りの声で更に問うてくる副機長。
 俺は少し考えて。

「食中毒のようです、伝染の可能性もあるので隔離して治療を――」

「「「きゃああああ!!」」」

 言いかけたその時、客室の方から悲鳴が聞こえてきた。
 一人や二人じゃない、大勢の人間が入り交じった悲鳴。
 パニックを起こしているのがありありと分かる悲鳴だ。

 俺は機長をひとまず置いて、客室の方に走っていった。

 さっきしめられたカーテンの向こうに駆け込むと。

「動クナ」

 片言の日本語と共に、何かが後頭部に突きつけられた。
 状況はすぐに判明した。
 背後にいるヤツだけじゃない、目の前にも何人かマシンガンを持ってる男たちがいた。

「ハイジャックか」
「ソノ通リダ、大人シク自分ノ席ニ戻レ」
「……機長の治療をしなきゃいけない」
「問題ナイ、死ヌホドノ毒ジャナイ」

 ……なるほど、こいつらが仕込んだ物ってことか。
 どうやって毒を仕込んだのか、なによりどうやってこんなに大量の銃を機内に持ち込めたのか色々聞きたいことはあるのだが、それらは全部後回しだ。

「他にも仲間はいるのか」
「黙ッテ席ニツケ!」
『機内はこれで全員だ』

 なるほどな。
 心の声で()の戦力を把握した俺は、サッとハイジャック犯たちを一瞥する。

 数は五、全員が複数の銃を所持してる。

 それが全部が見える所にある。
 ならば――。

 パチン!

 指を鳴らした。

「何ヲスル」

 パチン! パチン! パチン――

 男を無視して連続で指を鳴らした。
 遠距離攻撃、指パッチンの衝撃波を立て続けに出した。

「ソレヲヤメロ――何!?」

 後ろの男が更に銃口を突きつけてくるが、驚きの声を上げた。

 他の男達も遅れて気づき、立て続けに慌てだした。
 連中は自分達の銃――そのトリガー部分を驚愕した顔で見つめた。

 そう、指パッチンの攻撃は連中に向けたものじゃない、銃を無力化するためにやったものだ。
 銃を使われても倒せるのだが、ここは空の上、しかも他の乗客がいる。
 銃が使える状態だと万が一がある。だからそれをまず最初に無力化した。

 五人のハイジャック犯は銃を捨てて、今度はナイフを抜いて、手当たり次第近くの乗客を人質にとろうとした――が。

「ウゲェ!」

 そんな事を黙ってさせる程お人好しでも鈍くもじゃない。
 連中がナイフを抜いた瞬間にはもう俺が動き出して、ナイフを持つ手首を砕きつつ、後頭部に当て身で気絶させた。

 散らばっているハイジャック犯五人、倒すまでに10秒もいらなかった。

 ――スキルポイントを2獲得しました。
 ――スキルポイントを2獲得しました。
 ――スキルポイントを2獲得しました。
 ――スキルポイントを2獲得しました。
 ――スキルポイントを2獲得しました。

 スキルポイントのアナウンスがまとめてくる程の一瞬で全員倒した。

 そのアナウンスに更に遅れるようにして。

「「「おおおおお!!」」」

 と、観客から歓声が上がった。
 舞い散るお札(日本円)と歓声に包まれながら、俺は120ポイントの96ポイントを使って、使い捨てスキル・絶対回復(傷)で機長の毒を直した。
+注意+
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