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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第二章

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19.有能記者

 車をエグゼクティブ1の車庫に入れて、かなりかさばる紙袋を持って、キャビンに入る。

「お帰りなさい風間さん……その袋は?」
「志穂の服だ」
「私の服……まさかまた!?」
「そのまさかだ」

 紙袋を彼女の前に置く。

「オーダーメイドのメイド服、今度は違うブランドに頼んでみた」
「ま、また一着二十万……ですか?」
「いや」
「ほっ……」

 志穂は胸をなで下ろした。
 そんな反応を見ると、もっともっと着て(、、)もらいたくなる。

「涼介に紹介してもらったブランドだ。今度は一着40万で作ってもらった」
「よん――」

 目が見開き、言葉を失う志穂。
 その表情を見れただけでも値段分の価値はあるが、仕入れてきた以上やっぱり着てもらわなきゃだよな。

「10着ある、どれでもいいから、着替えてみてくれるか」
「で、でも、四十万ですよ……前の倍ですよ……」
「四十万の服なんて安いもんだろ」
「そんな訳ないですよ!」
「いやいや、世の中には一着十億円の服もあるんだぜ?」
「そんな適当な……えっ? 本当ですか?」

 読心なんてスキルは無いはずだが、志穂は否定しかけて途中でとまった。
 俺の顔を見て、本気で言ってるんだって察したようだ。

「ああ本当だ」
「どんな服ですか……なんか想像しただけでも恐ろしい」

 一着10億円、ハイテクの粋を集めた宇宙服だって事は言わないでおこう。

「それよりも新しいの着てみてくれ。志穂に似合うように作らせたんだ、着てもらわないと甲斐がない」
「わ、私に似合うように……?」
「ああ」

 頬を赤く染める志穂に向かって頷く。
 こっちは本当の事だ。
 前と同じように、顔写真とか、スリーサイズとか性格とか、そういうのを伝えた上で作ってもらったんだ。

 言葉通り志穂のためにオーダーメイドした服だ。

「わかりました……着替えてきます」
「ああ」

 頷いて、志穂を送り出す。
 彼女はキャンピングカーの奥の部屋にいって着替えをはじめた。

 少しして、志穂が戻ってきた。

「おお」

 新しいメイド服はよく似合っていた。
 ベースはやはりヴィクトリアなメイド、上品かつ清楚、それでいて有能さを最大限引き立てるスタイル。

「うん、完璧だ」
「あ、ありがとうございます」

 はじらって顔を染める志穂、そんなところもよく似合っている。
 少しして、落ち着いた彼女は自分のメイド姿を見て、感心した様子で言った。

「今回のもすごいです。メイド服と言うよりドレスみたいな着心地だし、布地は多いけどものすごく動きやすい……多分裸よりも動きやすいかもしれません」
「そういう風に作らせたからな。メイド服は作業着、動きやすさは最重要だ。ちなみにそのエプロン、大抵の汚れは弾く」
「そうなんですか?」
「ちょっと待ってな」

 俺は車内のキッチンに向かい、醤油差しを取ってきた。
 それを一粒垂らして、指パッチンで水滴――油滴(、、)を志穂に飛ばす。

「ひゃっ! ああ、エプロンに醤油が……あれ? しみてない」

 驚く志穂、目は床に、大理石の床に向けられた。
 彼女のエプロンに当たってしたたり落ちた醤油は大理石の床で粒状になっている。

「見ての通り汚れを弾くようになってる。返り血もつかないから色々便利だぞ」
「か、返り血がつくような事はしません!」

 慌てる志穂、直後にメイド服に感心する。
 コロコロと変わる表情が愛らしい。

 しばらくして、視線が残った紙袋に向けられた。
 他のメイド服にも興味をもったようだ。

 俺は遠回しに、そっと促す。

「また新しいブランド紹介してもらうから、それまでに全部着て見せてくれ」
「はい!」

 志穂とのプチファッションショーが終わり、俺はキャビンのソファーに座り、100インチのテレビをつけた。
 昼のワイドショーはみんなして例の新聞社を叩いていた。

 さすがに会社にはキャッシュがあり、すぐにどうにかなるものじゃないが。
 スポンサーのほとんどが引き上げてて、銀行・政府とかも遠回しに「何かがあっても支援しない」と表明した。

 中堅社員の半分を外国人で埋め尽くされた新聞社は、もはや助かる手立てはなかった。

「こんにちは!」
「裕子か」

 テレビの横、キャビンの出入り口から裕子が姿を現わした。
 例の新聞社に勤めていた記者、今回の事件の遠因になった女だ。

 彼女は地球が温暖化しそうな熱いノリのまま入って来て、俺の横に座った。

「元気だったか? というか、お前は大丈夫なのか? 会社が大変なんだろ」
「その事なんですけど! はい!」

 裕子はそう言って、新聞を差し出した。
 受け取って目を通す、裕子の所とはライバル関係にある社の新聞だ。

「どうしたんだこれ」
「これ、私の記事です!」
「なに?」

 驚いで新聞を開く。
 一面にでかでかと載っているのは俺がバトってる時の写真、パンドラの写真だ。
 記事内容も実に裕子らしい、パンドラを英雄視して褒め称えてるものだ。

「なんかデジャブを感じるんだが」
「前の所は結局シンジさん……パンドラの活躍してる記事を書かせてくれなかったから、やめました!」
「いまもなのか」
「意地になってるみたいです!」
「ヘイト値が限界を超えて破れかぶれになったか」
「で、写真をここに持ち込んだら書かせてくれました!」
「今日はその挨拶に来ました! これからも追いかけますので宜しくです!」
「お手柔らかにな」
「頑張ります!」

 裕子はいつものハイテンションで頷き、新聞を置いて立ち去った。

 残った俺が新聞を何となく眺めていると。

「ご主人様」

 スリープになっていたスマホがついて、画面から電子ウサギのシロが浮かび上がった。

「どうしたシロ」
「その新聞に関する面白い情報がございました」
「……むぅ」

 裕子が出て行った出入り口を思わずみた。
 また何かがおきる? 裕子が利用されてるのか?

 裕子のは歓声しかないからしなかったが、ちょっとでも読心で呼んどいた方が良かったか……なんて思っていると。

「契約数が急増しているようでございます」
「契約数?」
「はい。本日、各地の営業所の電話やFAXが鳴り止まず。パンドラをポジティブに掲載した記事の影響のようです。現時点で既に過去五年最高の契約数となっております」
「すごいな、裕子」
「いいえ」

 シロはゆっくり首を振った。

「本当にすごいのはご主人様でございます。その証拠に」

 シロはいったん引っ込み、プラズマテレビの画面に画像を表示させた。
 スマホをコントロールしてつなげたみたいだ。

「これは……夕刊?」
「本日の夕刊です。各社競うようにご主人様の記事を載せております……が」
「写真が全部ピンボケになってるな」

 テレビの中の夕刊と、裕子が持ってきた朝刊を見比べる。
 あきらかに裕子の写真だけちゃんととれていた。

「というか他も撮ってたのか」
「今どき人間がいれば必ずカメラがございますので」
「スマホ一人一台の時代だもんな」
「まともに撮れたのは彼女のみでございます。それもあって他はなかなか部数が伸びていないようでございます」
「へえ」

 何となくスマホを取って、ネットを見る。
 パンドラを英雄視する声の中に、各社で一人だけちゃんとした、バトってる格好いい写真をとれた関裕子の事をほめる声が出始めているのだった。
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