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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第二章

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15.飼い犬に手を噛まれる(物理)

 ヤクザの事務所の中、殴り込みをかけた俺は一気に最奥まですすんで、目当ての男をボコボコにした。

 名前は山口、俺を倉庫に誘い出した男の親分だ。
 そいつを気絶しない程度にボコって、襟を掴んで問い詰める。

「さて、聞かせてもらおうか。お前何処まで絡んでる?」
「てめえ……こんなことしてタダですむと思うなよ。これがばれたらてめえ、死んだも当然――がはっ!」

 山口を締め上げたまま腹パン。
 目玉が飛び出るくらい目が見開き、苦悶に呻く。

「言え、何処まで絡んでる」
「く、くそが……がはっ!」

 もう一発腹パン。

 こんなアナログというか非効率な手段をとっているのには訳がある。
 何かを聞くとき、読心を使えばいいんだが、ごく稀に読心が効かない人間がいる。

 いや、きかないのとは少し違うな。

『アレと絡んでるなんて、アレがアレしても話せるはずねえだろ』

 心の声はアレとか、これとか。
 とにかく要領の得ない代名詞が多いんだ。

 説明が下手な人間の心バージョン、心で思っている事は、そのまま言語化しても他人には理解できないもの。

 本物の天才か馬鹿にこういうのが多くて、読心はあまり役に立たない。

 実力行使で聞き出さないとダメなパターンだ。

 山口を締め上げて話を聞きだそうとしていたら、ふと、気配を感じた。
 山口をゆっくり下ろした、背後から現われる気配に振り向いた。

 ボディガードらしき黒服が二人、それを従えてる老人が一人。

 ただの老人じゃない、メチャクチャ老人だ。
 100歳は有るんじゃ無いのかって感じの老人は、メチャクチャ存在感があった。

「げほっ……げほっ……き、北大路さん……」

 苦悶しながら名前をよぶ山口。
 北大路……まさか。

 改めて老人を見た、記憶を引っ張り出して照合する。
 間違いない、俺は、この老人を知っている。

「メチャクチャ大物が現われたな……まさか元総理が出てくるとは」

 老人は特に反応することなく、杖をついてたったまま俺を見た。

 北大路信介、元総理大臣だ。
 俺がこどもの頃から既にじいさんで、多分実際に100歳近い妖怪ジジイだ。

「あんたが黒幕なのか?」
「山口君」
「は、はい!」
「すこし彼と話したい。私が呼ぶまで外で待ってもらえないだろうか」
「わ、わかった!」

 山口は怯えた様に「気を付け!」をした後、俺をちらちら見ながら部屋からでた。
 より上の人間、元凶の可能性がより高い人間をつり出せたので、山口はすんなりと見逃した。

 山口が外に出てドアを閉めた後、ボディガードの一人が椅子を引いて、北大路を座らせた。
 自然体にそれに座って、両手を杖の上にかけて俺を見つめる。

 不思議な感じだ、やろうと思えば一瞬で倒せそうなのに、妙に威圧感を感じる。

「君がパンドラかね」
「単刀直入にきくな。それなら俺の質問にも答えてくれ」
「君を襲わせたことかね?」
「そっちはどうでもいい。もっと根っこだ。マスコミに外国人を送り込んでるのはお前か」
「外国人、か。今の若い者はそう思うのだな」
「?」
「彼らは日本人だよ」
「帰化したってことか?」
「いいや。彼らの父母からして日本人だ。民族は違うが、れっきとした帝国臣民なのだ」
「……」

 俺は眉をひそめた。なんというか、どこかで聞いたような話だと思った。
 少し考えて、心当たりに行き着く。

 テレビ局の、美海を手籠めにしようとしたあの老人だ。

「戦時中の話だ」
「うむ。私が総理の時、向こうの大統領が誰か知っているか? 只木高雄だ」
「日本人っぽい名前だな」
「彼は私の部下だった、戦中、私は陸軍大尉で、彼は少尉だった。その後色々あって、民族の名前に戻して、国に戻った」
「……」
「今どきの若者は色々騒いでいるけど、彼も、彼らも、元は日本人なのだよ。同じ日本人同士、少し便宜を図るのはあたりまえじゃないのかね」

 例の老人がいった話とまったく一緒だ。
 世界大戦の時、いくつかの国を併合した日本。
 併合した先の話を根拠に、そこの人間も日本人だと北大路は言う。
 同じ日本人だから、助けてやるのは当たり前っていう。

「お前の話に反論するつもりはない」
「ほう?」
「それが正しいと思ってるのなら国民にいえ。表に出さないで、中間管理職ばっかり浸食させるのはやめろ」
「法は守らなきゃいけないよ、君」
「ヤクザを使ってる人間が何を言う」
「私は彼らを使ってはいない。少しばかり困っているから、彼らが勝手に助けてくれるだけだ」
「よくいう……」

 呆れながら、読心で北大路の心の声を読んだ。
 ほとんど今口にした事と変わらないようだ。

 本気で同じ釜のメシを食った国民だから、救いの手を差し伸べなきゃって思っている。

 いわば悪意のない悪、余計にたちが悪い。

「君の話を色々きかせてもらった。なぜそんな事をしている」
「気に入らないからだ」
「ほう?」
「お前のようなやり口が気にくわない。だから関わったそばからナントカ(、、、、)してる。ただそれだけの話だ」
「正義の使者気取りかね?」
「そんなつもりはない。懲悪はやってるかもしれないが、勧善をした覚えは一度もない」
「ということは何があってもそれをやめない、と?」
「そういうことだな」

 交渉決裂……いや交渉らしき交渉じゃなかったけど、とにかく決裂だ。

 北大路。
 元総理であり、影響力を駆使して外国人の浸透を手引きしている男。
 こいつの悪事をどうやって暴くか、俺は頭を回転させた。

「うぎゃああああ!」

 ふと、部屋の外から悲鳴が聞こえてきた。
 それとほぼ同時に、何かがドアを突き破って飛び込んできた。

 飛び込んできたのは男、さっき倒したこの組の若い構成員だ。
 そいつは脇腹を何かに食われたような大きな穴を作ってて、目をひんむいて、びくりとも動かない。

 俺はパッとドアの方を向いた、すると山口がいた。
 そいつの様子がおかしかった、顔色がドス黒く、目の焦点があってなく妙にけいれんしている。

 更に体から何かが漏れ出している。

 ――ペイン。

 ペインに取り憑かれていると、一目で分かった。

「やけになってクスリかね」

 ペインを知らない北大路は異なる、常識の範疇内での判断をした。いやクスリもそこまで常識の範疇内でもないけど。

「ぐおおおおおおおおおおお!!」

 山口は北大路に飛びかかった、ボディガードが同時に二人の間に割って入った。

 屈強なボディガードだが、何の役にもたたなかった。
 山口は二人を吹っ飛ばして、更に北大路に迫る。

「うおおおおお!」

 悲鳴、怒号。
 100歳近い北大路はそんな声を上げて、椅子から転げ落ちた。

 山口は北大路を「噛んだ」。
 何かの比喩ではない、文字通りかんだ。

 ちらっと飛び込んできた構成員の腹を見た、それも噛まれたのか。

 北大路は自分の右手を押さえた。
 血がどくどく出ていて、その先の手首がない。

 ペインに取り憑かれた山口は、口の周りが血でべっとりだ。

 子分の腹、そして北大路の手首。
 それでもまだ足りない山口は獣の様な声を上げながら更に北大路に飛びつく。

 パチーン!

 指を鳴らして、衝撃波で山口を止めた。
 横からの衝撃に吹っ飛ばされる山口。

 壁に突っ込んでもすぐに立ち上がる、それどころかペインを体から出して、自分に似た分身体を作った。

「なじみすぎだな」

 ペインに取り憑かれた人間がそういう力を使えるのは知ってる。
 いわゆる「悪人」がそうなる事が多くて、ペイントの親和性の高さからそういう力を使えてしまう。

 俺は地面を蹴って突進、分身体二体の攻撃をかわしつつ、それぞれにカウンターのパンチを叩きこんだ。

 馴染んでいるようだが、ペインに取り憑かれた時間はまだ浅い。
 速攻で、更に馴染んで力を増す前に倒すことにした。

 突っ込みつつ、山口の攻撃を誘発。
 近接戦闘、回避、カウンター。
 諸々の乗算を乗せた一発を山口の鼻っ面に叩き込む。

 山口は吹っ飛ばされた。
 コンクリートの壁を突き破ってぶっ飛んでいく。
 飛びかうお札、舞い散る砂煙、そして霧散していくペイン。
 山口はびくりとも動かないが、ペインはもうそのからだから消え去っている。

 その山口を放置して、北大路に向き直る。

 尻餅をついて、脂汗を浮かべて後ずさって。

「あぅ……な、なんだ……それは」

 飼い犬に手首ごと噛みちぎられた北大路は、見ていて哀れになるくらい怯えていた。
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