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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第二章

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12.信じ合う心

「舐めてんじゃねえぞオラァ!」

 ダァーン!

 銃声が鳴り響いた。
 逆上した男が俺に銃口を向けてトリガーを引いた。

 パチン!

 指がトリガーにかかった時から備えが出来ていた。
 指パッチンの衝撃波で飛んで来た銃弾を弾く。
 二つの力がぶつかり合って山なりにノロノロ飛んでくる銃弾をキャッチして、指で弾いて打ち出す。

「ぐわっ!」

 弾いた銃弾を男の肩に打ち込んだ、男は肩を押さえてよろめいた。
 そのままひとっ飛びで肉薄、大ぶりのパンチで横っ面を殴り飛ばす。

 ――スキルポイントを6獲得しました。

 それなりのポイントをゲット、そして周りを見る。
 この一帯をしきっているヤクザの下っ端が五人、全員俺に殴り飛ばされて気絶している。

 念の為に読心、全員に意識がないことを確認した。

「すごいよ! さすがシンジさんだよ!」

 戦闘が終わるや、物陰からカメラを構えた裕子が現われた。

「いたのか」
「もちろん! シンジさんが活躍するところなら何処でも参上するもん!」
「すごいな」

 冗談とか、皮肉とかそう言うのとかじゃなくて、本当にそうなりそうだって思った。
 裕子が思う俺の活躍、つまり悪人をしばいてる現場には何処でも現われるに違いない。
 例え地球の裏側でマフィアを相手にしてもきっと現われる。

 ここ数日、裕子との付き合いでそう思うようになった。
 そう思わせる裕子、恐るべしだ。

「で、写真は撮れたのか?」
「うん! 一枚だけ。でも一番かっこいいのがとれた!」
「記事になりそうか」
「もちろんだよ! ちゃんとシンジさんのかっこいいところを世界中に広めなきゃだよ」
「そうか、まあ頑張れ」
「うん!」

 カメラで今し方撮った写真をチェックする裕子。
 そんな彼女を眺めながら、読心する。

 歓声が聞こえてきた。
 何回も読んでだいぶ慣れてきたからすこし分かってきた。
 裕子の心から聞こえてる歓声には波がある。

 俺が「活躍」してる時は歓声が大きくなって、そうじゃない時は少し小さくなる。
 小さくなったときにだけ、裕子の心の声が聞こえる。

『今からなら明日の朝刊間に合うよね! 早く戻ってシンジさんの活躍を文章にまとめなきゃ!』

 ちょっとだけ暑苦しいけど、裏表のない裕子の心には好意がもてた。

     ☆

 夜、新聞社の中。
 原稿と写真を提出した裕子は直属の上司に呼び出された。

「どうしたんですかキャップ」
「これダメだ、書き直せ」
「だめってどうして、()……パンドラのスクープ写真ですよ」
「写真はいい、内容がダメだっていってるんだ。これじゃ善玉だ」
「善玉って……当たり前じゃないですか! パンドラは今や国民の6割が支持する正義のヒーローなんですよ」
「そんなの関係ない。いいか関、我が社の方針がきまったんだ」
「方針?」
「そうだ。パンドラとやらは反体制のテロリストだ、そういう方向性で行く」
「テロ――ッ! そんなのおかしいです し――パンドラはテロリストなんかじゃありません!」
「社の方針だ、とにかく書き直せ」
「……いやです」
「だったらもういい、俺が書く」

 男がそう言ったが、裕子は身を乗り出して男のパソコンに手を伸ばした。

「何をする! って、写真を削除しやがった」
「そんな事のためにあの人の写真を使わせません」
「お前何をしてるのか分かってんのか。おまえのカメラにデータ残ってるだろ、それをだせ」
「いやです! 失礼します!」
「おい関! 待て、これは命令だぞ!」

 男が大声で裕子を呼びとめようとするが、裕子はまったく振り返らず、一直線に自分の席に戻っていった。

 大声でわめく上司、無視する裕子。
 そのやりとりは、社内の注目を集めていて。
 何人かが、ヘビのような目で裕子を見ていた。

     ☆

 船のエンジン音がやかましくこだまする、運河沿いの倉庫。

 裕子は後ろ手を縛られて、倉庫の中に連れてこられた。

「きゃっ!」

 彼女をさらってきた男に突き飛ばされて、コンクリートの地面に倒れ込んでしまう。

「だ、なにするのよ!」

 顔を上げる裕子はぎょっとした。
 倉庫の中にいる人間、どう見ても堅気ではないのだ。

 裕子は新聞記者だ、他の職業の人間に比べて裏社会の人間を目にする機会が多い。
 その裕子の経験がいっている、目の前の男達は全員、暴力と非合法を日常にしてる裏の人間だ。

「お前、関裕子か」

 男の一人が聞いてきた、言葉は通じるが、イントネーションが怪しい。
 間違いなく外国人だ。

「だ、だったらなんなの?」
「パンドラの正体をしってるか」
「し、知らないわよ!」

 裕子は直情的で、盲目的でもあるが、バカではない。
 短いやりとりで、男達がパンドラの記事を書いたことのある自分をさらってパンドラの事を聞き出そうとしてるのだろうと推測が出来た。

 それはしかし、はずだった。

「し、の先を教えろ」
「え……?」

 なんで知ってる? って裕子は驚いた。
 風間シンジ、裕子は本人の事をシンジさんと呼ぶ。
 そのシンジのし、なぜ相手がそこまで掴んでいるのかとおどろいた。

 が。

「し、しらないっていってるでしょ!」
「……おい」

 男は裕子の前にやってきて、しゃがみ込んで、あごを掴んで顔を上げさせた。

「喋るなら早いほうがいい。その方が痛い目を見なくてすむ」
「だから知らないっていってるでしょ」
「そうか」

 男は裕子から手を話して、立ち上がった。

 彼が振り向くと、他の男が話しかけた。

『やれ、何があっても聞き出せ』
『ついでに楽しんでもいいですかい?』
『殺さなきゃいんですよね』
『ああ』

 男は裕子を振り向いてチラ見して、冷笑を浮かべた。

『馬鹿な女だ。喋れば楽に死なせてやれたのに』

 といった。
 違う国の言葉、裕子には内容はまったく分からなかった。

 分かったことは二つ。
 男の冷笑と、多分部下である周りの人間のゲスな笑いの意味。
 そして、内容は分からないけど、文字にしたら漢字だらけになる言葉であると。

 それらの事を理解した。

 リーダーの男が離れていき、部下の男達が迫ってくる。

 なんとかして逃げなきゃ。

 裕子は手を縛られたまま立ち上がって、倉庫の入り口――下ろされたシャッターに向かって駆け出した。

『おっと、逃がさねえよ』
『大人しくしてろ、すぐにすむからよ』

 男達に回り込まれた、裕子はとまるどころか更に加速してツッコミ、男達を一瞬はねのけて更に進んだ――が。
 男女の体力差、そして拘束されている事もあって、裕子はあっさりとつかまった。

 羽交い締めにされ、完全に拘束される。

「離して! 離してよ!」

 裕子はジタバタした、必死に逃げようとした。
 しかし男女の体力・体格差はいかんともしがたく、裕子はガッチリ捕まれて、まったく身動きが取れなかった。

『俺が一番手でいいな』
『しゃあねえな、そのかわり最後は外にしろよ』
『わかってる、一巡するまで、だろ』

 男達が一斉に笑い出した、下卑た笑いだ。

 それに裕子はぞわっと鳥肌立った。

 手が伸びてくる、目をきつく閉じて、歯を食いしばる。
 何があっても話さない、せめて口だけは貝のように。
 堪えてさえいれば――。

 そう思って目をきつく閉ざした裕子。

 ドゴーン!

 次の瞬間、爆発にも似た音が鳴り響いた。
 驚く裕子、何事かと目をあけると、倉庫がまるまる、半分吹っ飛ばされた光景がみえた。

 ふっとんだ砂煙の中から一人の男が現われる。

 シンジだった。

 砂煙の中からザッ、ザッと歩いて姿を現わした彼は、ぐったりと気を失っている裕子の上司の首根っこを捕まえて、引きずって現われた。

 瞬間、裕子の耳元に声がなった。
 はっきりとした歓声、耳をつんざくほどの群衆の大歓声。

 裕子は信じていた、堪えてさえいれば、きっとシンジが助けに来てくれることを。
 いつも聞こえているこの大歓声はヒーローへのものだから。

 裕子は、このシチュエーションならシンジがいつかならず助けに来ると信じていたが。

「早い……やっぱりすごい……」

 タイミングは、彼女の予想より遥かに早く。
 ますます、裕子はシンジに心酔する様になった。
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