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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第一章

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03.エグゼクティブ1

 次の日、ホテルを出て、俺は昔住んでいたアパートに戻ってきた。
 異世界で二十年経ったが、このあたりの事はまるで昨日の事の様に覚えてる。

 駅を出て、商店街を抜けて、住宅街の面倒臭い上り坂を登ったあと。
 あるはずのアパートがなかった。

 不可思議に消えたとかそう言うのじゃない、むしろ自然で一目見たら何がどうなったのかわかる。
 アパートがあったそこは、真新しいアスファルトの駐車場になっていた。

 解体されて駐車場になったのか。

 アパートに戻ってきたのは、自分の身分を証明できるものがあればいいなって思ったからだ。
 免許証の一枚、保険証の一枚でもあれば後はどうとでもなる。
 そう思ったんだけど。

「そう上手く事は運ばないか」

 苦笑いしつつ、来た道を引き返した。
 駅前に戻るまでの間、何人もの歩きスマホとすれ違った。

 それだけならいつもの光景だが、全員が同じゲームをプレイしてるので気になった。

 様々な二足歩行の動物がいて、箱庭の中でおつかいをしたりローンを返済する有名なゲームだ。俺も昔やった。

「あれスマホになったのか」

 こっちの世界にもどってきた時、日付を確認した。
 異世界で二十年の人生を過ごしたが、こっちの世界では二年程度しか経っていない。
 その二年の間にあのゲームがスマホゲームになったのは正直びっくりだ。

「ん?」

 何回もすれ違ってるとある事が分かった。
 ゲームのローンの対象。
 昔は家だったのが、車になっている。
 もっと言えばキャンピングカーという、家の構造を車に乗せたものだ。

 ……ふむ。
 昔見たあるものが頭に浮かんだ。

 俺はすぐさま動いた。
 駅前の電気屋でスマホを買ってネットを使えるようにして(観光客が使うものだと身分証明いらなかった)、そのスマホで調べた。

 俺が昔見たもの、それが今も存在しているのかを。

     ☆

 ビルの中、エレベータを降りた俺は、受付嬢の前に立った。

「いらっしゃいませ」
「社長、もしくは一番上の責任者に会いたい」
「アポイントメントはございますでしょうか」

 俺は答えず、持ってきたアタッシュケースを受付嬢の前のカウンターに乗っけて、パカッと開いた。

 そこにあるのはお金、アタッシュケースいっぱいに詰め込んだ札束だ。
 ざっくり一億円、それを受付嬢に見せつつ、横にも同じ型のケースを置く。

「買いたいものがある」
「しょ、少々お待ちください」

 職務に忠実だった受付嬢だが、この状況は彼女の権限を遥かに超えている。
 彼女はどうすべきか、慌てて内線電話を取った。

     ☆

 案内された会社の応接室の中、しばらく待っていると、一人の男が入って来た。
 四十代の男、上質なブランド物のスーツを着こなしている。

 男は俺の横に置かれたケースを一瞥だけして、俺の前に立った。

「弊社代表、前田修也と申します」

 前田と名乗る男は名刺を差し出した。
 受け取った俺、そのままソファーの前のテーブルに置く。

「悪いけど名刺は持ってない。風間シンジとでも呼んでくれ」
「風間様ですね」

 前田は平然とした顔で俺の向かいに座った。
 さすが社長クラス、受付嬢と違って落ち着いている。

「それで、本日はどのようなご用件で」
「これ」

 俺は買ったばかりのスマホを差し出した。
 画面に写真を表示して、前田に見せる。

「これは弊社の……」
「これを買いたい」
「……お言葉ですが、これはあくまで展示用でございます。それに日本ではあまり便利だとは――」

 ドン!
 俺はアタッシュケースをテーブルの上に並べた。
 一億円のアタッシュケース、それを合計五個。
 クリアボーナスで引き継いだ、異世界で稼いだ資金の5%、五億。

 それを見た前田の眉がびくっとした。


「現金ニコニコ一括払いだ。売ってくれ」

 前田は眉をひそめたまま、少し考えた。

     ☆

 会社から離れた港にある倉庫、俺はここに案内された。
 巨大な倉庫のシャッターを開けると、中に一台のトレーラーがあった。

 幅は約三メートル、長さは十メートルはある。
 そんな超巨大なトレーラーだ。

「弊社が数年前、展示用に輸入した超巨大キャンピングカー。ハリウッドスターが特注で作らせたものを似せて、更にカスタマイズしたもの。名前は大統領専用機の『エアフォース1』になぞらえた、民間最高のコート『エグゼクティブ1』と名付けました」

 前田に説明されながら、俺はトレーラーに近づいていく。
 近づいて見ると、ますますでかさが分かる。
 長距離トラック、いわゆるデコトラよりも更に一回り大きいサイズ。
 横に立っていると自分が小人になったような気がした。

 前田がリモコンで操縦して、ドアが開いてタラップが降りる。
 中に入ると、まずは内装に驚いた。

「これは?」
「大理石です、床は全て大理石の作りになっております」
「それは知らなかった」

 この『エグゼクティブ1』を知ったのはネットのニュース、スーパーセレブのキャンピングカーって記事だ。
 その記事は色々書いてたけど、床の事は記憶にない。

 俺はタラップを登って、大理石張りの車中に入る。

 中はネットで見たもの、記憶の中にあるものと同じだった。

 入るとまずはリビング……というかバーのラウンジの様な空間だった。

 L字ソファーは軽く十人以上乗れる作りで、天井からはシャンテリアがぶら下げられている。
 ラウンジの向こうは運転席だが、正直車の運転席じゃない。
 作りといい、見える外の光景の高さと言い。

 飛行機、もしくは宇宙船のコクピットって感じの運転席だ。

 今度は後ろの方に向かう、途中にトイレが二つがって、でっかい風呂もある。
 びっくりしたことに洗濯機と乾燥機までついてて、こっちは予想の上をいった。

 そこを抜けると今度は寝室だ。
 キングサイズ――いやそれよりも更に一回りでっかいベッドがある寝室で、ベッドの正面に100インチのプラズマテレビがある。

 更にそれだけではなかった。
 上に続く階段があって、それを登ると天井のデッキラウンジに出る。

 昨日泊まったホテルのスイートルームと同じ感じの、ちょっとだけコンパクトにしただけの部屋。
 これが、車。

 そう車だ。
 車なのに――。

「車庫は何処だっけ?」
「こちらでございます」

 前田は答えつつリモコンで操作した。
 彼の先導について車をいったん降りると、車体の中央がパカッと開いていた。
 そこにでっかいスペースがある。
 この『エグゼクティブ1』の最大の特色、車庫だ。

 車の中に車を乗せる。
 車体が巨大過ぎて小回りがきかないから、そのフォローのタメに小回りのきく通常の自動車を乗せてしまおうという発想。
 馬鹿げた発想だが、実際に実現したのがここだ。

「通常のスポーツカー程度なら収納できます」
「このサイズならそうだな」

 一通り見て回った。
 記憶の中にあるものそのままだ。

 昨夜は家を買おうと思った。
 異世界に飛んだ直後、最初にしたでっかい買い物が家――屋敷だ。

 それと同じ発想で今回も家を買おうとしたけど、異世界の時、次第に一箇所に落ち着かなくなって、屋敷になかなか戻れなかった。

 だから動ける家――動物のゲームを見たときこれを思い出したんだ。

 世界最高級のキャンピングカー、『エグゼクティブ1』。

 正直自家用ジェッドでもいいんだけど、あっちはもっと日常用に適さないからな。

「本当にこれをお買い求めに……?」
「ああ」
「分かりました。では手続きを――」
「五億あった」

 俺は前田の言葉を遮った。

「あれで払う」
「そこまでの値段ではありませんが」
「買ったのは俺じゃない、って事で処理してほしい」
「……かしこまりました」

 一瞬驚いたが、すぐに頷いた前田。

 こいつの値段は約3億だと覚えてる、それに俺は五億をだした。
 余分の二億、それは色々「便宜を図ってくれ」という手間賃だ。
 何処の世界にも裏道はある、ただのディーラーでさえ、金を積めば車の納期とかいかようにもしてくれる。
 ましてや億単位の買い物、セレブの世界。

 そういうのがきっと出来る、戸籍がなくてもやってくれる。
 そう思って、二億積んだ。

 金は強い。スキルポイントで最初に500ポイント使ったのと同じように、俺はクリアボーナスで引き継いだ資金をドンと使った。
 悪く言えば札束で顔を殴った。

 それはよく効いて。
 俺は世界最高のキャンピングカー。
 『エグゼクティブ1』を手に入れたのだった。
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