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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第二章

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09.バカと普通

 前森電工本社ビル、その社長室。

 タダでさえ高級な作りの社長室の奥に別の部屋があった。
 その部屋の中にいる俺、読心スキルを壁の向こうに向けていた。

 壁の向こうには前森涼介がいて、その部下が次々と訪ねて来ている。
 表向きは会社の業務での呼び出しだが、その呼び出しで俺がスパイかどうかを判定するという作業だ。

 ちなみに両方を読む必要がある、なぜなら。

「スパイだとしってわざと受け入れた者もいる、そのもの達も読んでほしい」

 と言われたからだ。
 たいした手間じゃないから、俺は望み通り、新しいヤツが呼び出される度に涼介と相手の心を同時に読んだ。

『クロ』
『そろそろやめたいな。海人様と淳也様、いい加減どっちつかずなのきつくなってきたし』

 今呼んだヤツはクロっていうか、真っ黒だった。
 どうやら同時に二勢力からスパイをやらされてるみたいだ。

 この事をメモしながら、部屋の中でくつろぐ。
 しばらくして、ガチャ、とドアが開いた。

 入って来たのは涼介、彼は俺の向かいのソファーに座った。

「どうでした?」
「ほら」

 俺はメモを差し出した。

「お前の認識が違うヤツだけメモした」
「こんなにもずれがあったのか……海人と淳也の間を渡り歩いてる……? 命がいらないのか笹井は」

 涼介は呆れた様な、困った様な顔でつぶやいた。
 ちなみに涼介には心の声でスパイだったときの依頼主を言わないように言っといた。
 もういらないだろうが、一応読心の信憑性を上げるための処置だ。

「ふう……ありがとう。助かったよ」

 そのおかげあって、涼介はメモ――読心の結果を納得したようだ。

「しかしお前も大変だな、わざわざスパイって知っててそばに置かなきゃいけないとは」
「それを理解しているということは、あなたもかなりの修羅場をくぐってきた様子ですね」
「……どうだろうな」

 向こうの世界にいたときの事をちょっとだけ思い出した、軽く胸くそが悪い。

「しかし不思議ですね」
「なにが?」
「今の話、少し考えればあなたがかつてどこかの組織に属していたという間接的な、状況証拠になります」
「それがなんで不思議なんだ?」
「こういうデータがあります」

 涼介はテーブルの上にあるリモコンを取って、ボタンを押した。
 すると壁にプロジェクターが画像を映し出す。

「グラフ?」
「ええ、ここしばらくの犯罪率の推移。赤い線が過去の平均、青い線が今年の分」
「ふむ」
「あるところでがくっと下がってますよね。以前の平均と比べると」
「みたいだな」
「数字にして約一パーセント。とんでもなく下がっています。これはパンドラが現われてから、といわれています」
「へえ」
「あなたのやり方と存在が既に抑止力になっているのです。存在しているだけで犯罪率が下がるほど」
「下がるのか。俺がいなくなったら荒れるのは分かっていたんだが」
「それです」
「うん?」

 ビシッと俺を指さす涼介、俺は首をかしげて聞き返す。

「どういう事だ?」
「あなたの存在は国の犯罪率を下げる程のものです。逆にいなければあなたがいう『荒れる』状況になります。それはあなたがいた組織もわかりきっているはず。何故、あなたを手放した――いや手放せたのか。それが不思議なのです」

 ああ、そういうことか。
 俺は涼介を見た。

「俺の目から見たら、お前もかなり出来る人間だ。普通の人間よりはだいぶな」

 涼介は肯定も否定もしなかった。
 真顔のまま俺を見つめて、言葉の先を待った。

「でも、排除しようとする動きがあるんだろ? 一族の中で」
「それと同じだという事ですか?」
「似ている。帰属意思という点に関しては」
「もしそうなら」

 涼介は思いっきり鼻で笑った。

「その組織は上から下まで、おろか者揃いだと言わざるを得ませんね。ああ、だから『荒れた』のですね」

 鼻で笑った後、涼介は一人で納得した。
 おろか者揃いか。
 ああ、俺もそう思う、そう思っちゃう。
 あっちの世界でやられた事を考えたらな。

 くつろいでるときに出されたコーヒーをすすった。
 涼介が静かに考え込んでる事に気づいた。

「どうした、何か問題があるのか?」
「ますますあなたを引き込まければという気分になりましたけど、それは無理ですので」
「ので?」
「せめてこの国、日本につなぎ止める方法はないかと」
「俺が外国に行くってのか?」
「『英語が堪能とみた』」

 いきなり涼介の言葉の聞こえ方が変わった。
 俺の耳――というか脳には普通に日本語として認識するが、聞こえ方が違う、スキル・完全翻訳のフィルタを通した聞こえ方だ。

「なんで知ってる」
「さっき呼んだ部下の一人がネイティブのアメリカ人なのでしてね、日本語を喋っているときも思考は英語でしていると前に聞いたことがあります」
「なるほど、それで英語がわかると」
「はい」
「まあ、それなりにな」
「『中国語も話せるのではありませんか』」
「お前の方がペラッペラだな」
「『もしや韓国語も?』」
「何カ国語使えるんだお前は」
「『後はフランス語だけですよ』」

 涼介は次々と言語を変えてきた。
 俺にはただ「日本語と違う言葉」で聞こえるが、本人の申告通りなら彼は五カ国語を操れるマルチリンガルってことだ。

「ふう……あなたの方が底がしれませんよ。だからこそです」

 涼介は苦笑いした。

「せめて、あなたをこの国につなぎ止める方法を考えてましてね。あなたがいるだけで国益になる」

 涼介は言い切った。
 ……これを連中(、、)が言ってたらなぁ。

「心配するな。よほどの事でも無い限り日本にはいるさ」
「それは助かります、ええ、本当に」

 軽く涼介の心をのぞいた。
 本人の申告通り、自分の部下に招けないからそれを諦めて、せめて日本のためにつなぎ止めようという気持ちがわかった。

 別によそに行くつもりは今のとこ(、、、、)ないが……まあ。

 涼介がいる限り日本の味方をしててもいいんじゃないか、って思ったのだった。
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