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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第二章

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07.スパイ

「風間さん風間さん、大変です」

 エグゼクティブ1の中、キングサイズのベッドで惰眠をむさぼっていると、志穂が慌てて寝室部分に駆け込んできた。

 目を擦ってまぶたを開ける、今日も20万のメイド服が輝いて見えるな、なんて思っていると。

「風間さんにお客さんです」
「客?」
「はい、す、すごい人です」

 志穂はそう言って、名刺を両手で俺に差し出してきた。

前森(さきもり)電工取締役社長、前森涼介……前森?」
「名前でググってみたらすっごい大企業です」
「ああ、なんか知ってるかも。確か日本に数少ない、株式時価総額一兆円を超えたグループ企業だっけ」
「はい!」
「へえ……」

 俺は名刺を表に裏に眺めた。
 そんな人がなんて俺に?
 いや、問題はそこじゃない。

 なんてここに? だ。

 頭が一気にシャキンとなった、気を引き締めた。

「キャビンに通して。俺は着替えたらでるから」
「はい!」

 志穂はバタバタと走って行った。
 遠くから靴音がして、志穂じゃない誰かが車に乗り込んできたのを気配で感じた。

 俺は警戒しつつ、着替えてキャビンに出た。

     ☆

 キャビンのソファーで向き合って座っているのは四十代の男。
 一目で分かる上質なスーツ、吊しじゃないスーツを着ている雰囲気のある男。

 男の後ろに若い女が立っている。
 メガネを掛けていて、スーツ姿のこれまた出来る女って感じの女だ。
 秘書なんだろうな。

 一方、俺の後ろにも志穂がたっている。
 着ているのは有名ブランドにオーダーメイドで作らせた一着20万のメイド服だけど、彼女はあたふたしていた。

「あらためて、前森涼介と申します」
「風間シンジだ。早速で悪いが、俺になんの用だ?」
「動画を拝見致しました」
「――っ!」

 後ろで志穂が息を飲んだのが背中越しでも分かった。
 彼女が反応してしまった以上駆け引きは無理だろうな。

「よくそれが俺だと分かったな」
「その気になれば調べられるものです。あなたは電子面で隠蔽工作をまったくしていませんでしたから、ダミーかとも思いましたが」
「なるほど」

 確かに電子――つまりコンピューターとかネット関係は何も手をつけてない。
 普通にスマホを使って普通に動画サイトで生中継を流してるだけ。
 探そうと思えば探せる状況ではある。

「で、動画を見てなんだ?」
「スカウトをしようかと思いまして」
「スカウト」
「あなたの動画を拝見しました。失礼ですが、人を超越した力の持ち主のようだ」
「それはつまり種とか仕掛けがあるって意味なんじゃないのか?」
「前代未聞、という言葉をどう思いますかな」
「確かに中国人にそのまま使ったら通じなかったはずだ」

 質問の意図が分からなかったから、とりあえずはぐらかすことにした。
 涼介は微かに微笑んだ、機嫌を損なうでもなく、何事もなかったかのように話を進める。

「前代未聞というのは前例がないだけで、そこに確かに存在する、あるいは起こりうる事象の事だと捉えています」
「史上初も同じだな」
「そういうことです」

 常識に囚われない男、油断ならない相手のようだな。

「で、俺が超人だったらなんだ?」
「スカウトをしようと思いまして」
「スカウト?」
「はい、もちろんただとはもうしません」

 涼介は手をあげた、後ろに控えている女が何かを取り出して彼に渡した。
 それを受け取って涼介はテーブルの上に置いて、俺に差し出す。

 横長い紙の束、それに万年筆だ。

「小切手です、どうぞ好きな金額を書いてください」
「えええええ!? え、映画みたい!」

 志穂が大声を上げた。確かに映画みたいだな。

 俺は涼介を見た、向こうからも見つめられた。
 しばらくの間、互いに見つめ合った。

 見つめ合う男二人、アワアワする志穂、困惑顔の秘書の女。

 しばらくして、涼介は「ふぅ……」とため息をついた。

「どうやら……あなたをまだ(、、)見くびっていたようですね」
「そうか?」
「これでまったく動じないとは予想外でした」
「金には困ってないんだ」
「そう話す人間でも、空白の小切手にまったく反応しないというのは基本あり得ないものでしてね」
「それはあんたの経験か?」
「ええ」

 涼介はそういい、更に肩をすくめた。

「どうやら他の方法を考えなければならないようです」
「俺の様な人間を動かす方法も知ってるんだろ?」
「可能性の一つなら」

 またしばらく見つめ合ったあとに、涼介が口を開いた。

「パンドラは今や正義の使者。しかし気まぐれすぎる」

 まあ、そうだな。

「傘下に招き入れて、正義の刃の振るう先を誘導しようと考えましてね」
「なるほど」

 俺は頷いて、こっそり読心を使った。
 表面上はまったく同じように振る舞って、涼介の心を読んでみた。

『他に何かなかったか? この手の人間は腹を割ってみせるのが一番だ、下手に隠し事なんて残したら全てがパーだ』

 心の声、戦略的な素直さではあるが、本心を語っている事には間違いないようだ。
 だから俺は話を先に進めた。

「なんであんたがそれを? 前森グループの本業に関係ないだろ? 言い方は悪いが、あんたんとこにもやばいネタの一つや二つはあるはずだ」
「アルフレッド・ペニーワースをしっているか?」
「いや?」
「ギャリソン時田は?」
「しらない」
「どっちも物語の中の、正義のヒーローの執事だ。私はそれに憧れていてね」
「なるほど。あんた、人に夢を預けるタイプか」
「そうとらえてもらって構わない」

 もう一度心を読んだ、どうやらさっき上げられた二人はバッドマンとダイターン3という作品のキャラのようだ。
 どっちも作品としては知ってるけど、キャラまでは知らなかった。

 そして、涼介がそれに本気で憧れているのも本当だとわかった。

「あんたならバッドマンの主役の立場だろうに」
「人は自分にないものをもとめるものだ。今日あなたとあってますますそう思ったよ」
「うん?」
「私の予想、想像よりも遥かに上を行く存在のようだ。是が非でも口説き落としたくなった」
「……ふーん」

 俺はソファーに背を深くもたれて、天井を仰いだ。
 そこまで買われるのは初めてだ。
 悪い気はしない、がよく分からない。

 そこまで買われるのは初めてだ……二度言ってしまった。
 悪い気はしないが……正直よく分からない。

 分からないから、とりあえずは。

「俺は好きな様にやらせてもらう」
「そうですか、わかりました」

 涼介はあっさり立ち上がった。

「あっさり引き下がるんだな」
「誠意を見せるために、最低でも後二回は来ます」
「俺は諸葛孔明か」
「それくらい本気ですよ。ああ、いらないとは思いますが、小切手はおいていきます」
「本気でいらない、そっちの本気度は分かったらから持って帰れ」

 そう言ってまっすぐ涼介を見た。
 向こうは心なんて読めないが、気持ちはつたわるはずだ。

「分かりました」

 涼介が手をあげると、秘書の女が小切手帳と万年筆を回収した。

 そういえばこの女、秘書は涼介の事をどう思ってるんだろう。
 他人からみた涼介の事が気になったので、読心してみた。

『前森涼介、パンドラを口説き落とせなかった。後で報告しなければ』

 ……。

「どうかしましたか?」

 首をかしげる涼介、俺は更に女の心を読む。

『急いではいけない、ちゃんと慎重に、今まで通りばれない様に海人(かいと)様連絡を』

「なあ」
「はい、なんでしょうか」
「海人って男……あんたの敵かなんかか?」

 言った瞬間涼介と秘書の女の顔色が変わった。

「敵か。その女、そいつが送り込んだスパイらしいぞ」

『馬鹿な! どうしてばれたの。……いやおちつくのよ、ばれるはずがない。私と海人様が繋がる証拠なんて何もない。名前から経歴まで、全て完璧に作りあげているもの』

「偽名にと偽の経歴か。ご苦労なこったな」
「――っ!」

 女は顔色を変えて、だっとの如く逃げ出そうとした。
 当然逃がさない、パチン、と指を鳴らして足を引っかける。

 キャビンですっころんだ女、尻餅状態で後ずさりつつ俺を見る。

『馬鹿な……どうして……どうしてばれるはずのないそれが?』

 女は、怯えきっていて。

「さすがですね……いや、私が間抜け過ぎますね……」
『はあ……自己嫌悪だなこれは』

 涼介は複雑そうだった。
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