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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第二章

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02.教祖様の奇跡

 一人の少年が公園で黄昏れていた。
 木造のベンチに座り、疲れ果てた様子で肩を落とす。

 みた感じ十五・六の少年だが、疲れ果てているせいで見た目が二十――いや三十代に見えてしまう。
 そんな彼はここである人物を待っていた。

 相手の顔は知らない、年齢も見た目の特徴も知らない。
 唯一知っているのは声で(、、)男らしいという事と、「正義の使者」であるということだ。

 だから少年はまった、じっと待った。
 もはや「正義の使者」にすがるしかない状況に追い込まれた彼はじっと我慢の子で待った。

 ふと、ボールがコロコロ転がってきた。

「ボール……なのか?」

 ただの丸い塊にも見えるそれに少年が首をかしげていると――ポン!
 ボールが爆発して、あたりに煙を一気に拡散させた。

「げほっ! げほげほ! な、なんなんだ!?」

 驚く少年、屋外故に煙は急速に晴れていき、さっきまで誰もいなかった煙の中から一人の男が現われた。
 まるでマジックのような登場のの男は。

「俺を呼んだのは君か」

 地獄に垂らされた蜘蛛の糸。
 救いの神に、少年は見えたのだった。

     ☆

 薬剤を調合して作った即席煙玉に、透明人間レベル2を組み合わせた。
 少年が見えない所から透明人間を発動して一気に近づき、煙玉を転がして煙幕を作った後、透明人間の効果が切れるのを煙幕の中でまった。

 演出だ。
 俺に助けを求めてきた相手、一目で切羽詰まって、追い詰められているのがはっきりと分かった。

 まずは安心してもらうための演出だ。

 ベンチに座っていた少年がパッと立ち上がり、目を見開き驚いた。

「あ、あなたが『パンドラ』?」
「ああ。君の名前は?」
「翔太、宮本翔太っていいます」
「翔太か」

 今どきの少年らしいいい名前だ。

「本当に来てくれるなんて……」
「おいおい、助けてってコメントやメッセージをくれたのは君だろ」
「はい! でも本当に返事くれるって思ってませんでした。それに来てくれるのも……」
「で、何があった」

 翔太は俺をしばらく見つめてから、悲しそうで、やるせないような顔をして、切り出した。

「お父さんとお母さんを助けて欲しいんです」
「ご両親に何があった」
「宗教、です」
「宗教?」
「はい、いわゆる新興宗教で、お父さんとお母さんはそれにはまってしまって……昔はちゃんと働いてたのに仕事もやめちゃって。今は教祖様の石で修行をしてる毎日です」
「どんな修行だ?」

 翔太は首を振った。

「わかりません、というか聞いてもわかりませんでした。オーラとかマナとか、その石で修行したら教祖様に近づけるとかなんとか」
「なるほど」

 そりゃ「わかりません」にもなるな。
 ぶっちゃけ……99.99%の割合で詐欺師集団に引っかかってんだろ。

「その石って高いのか?」
「はい……」
「だろうな」
「石だけじゃなくて、水も」
「水?」
「はい。ガンを予防する水と糖尿病を治す水、あと酸素が多い水」
「酸素が多い水?」
「普通の水の二十倍の酸素が入ってる水だそうです」
「H20で二十倍だからH2O20とかか、ああいやHO10か」
「インチキの水素水と違って、酸素は人間の体にとってなくてはならないもの、酸素水こそ全ての力の源。46億年前の海の成分を再現した奇跡の水……らしいです」
「うわーお」

 インチキ科学すげえ、おもしれえ新学説。
 翔太からすれば笑えないけど。

「実際教祖様はその水で、年々若返ってるっていうんです」
「んな馬鹿な。そもそも十倍の酸素もあり得ないし46年前の海の成分なんて今の人間からしたら毒だ。水と火山ガスだぞ」
「はい。でも写真見たら本当に若返ってるんです。なんかあるとは思うんですけど……」
「なるほど」

 翔太って子は大丈夫か。
 両親はどっぷりはまってるけど、翔太はその状況にタネ(、、)があると思っている。
 思っている、が。

「もう、俺じゃどうしようもないんです。最近は父さんと母さん、いろんな人に酸素水を売り込んでいるし」
「典型的なパターンだ」
「お願いします!」

 翔太は腰を直角に折って、深々と頭を下げた。

「父さんと母さんを助けてください」
「分かった」
「――っ! ありがとうございます!」

     ☆

 翔太から宗教の団体名だけを聞いて、ひとまず別れた。

 団体名、地球の母。
 その名前で検索すると、いかにもなヤバイウェブサイトが出てきた。

 石と水。
 その二つがいかに素晴しくパワーを持っているかを力説したウェブサイト、正直、一分見ただけで頭が痛くなってきた。
 カルト宗教特有のトンデモ理論で得られる有益な情報は無いから、適当に流し読みして、拠点のアクセスだけを覚えて、調べるのをやめた。

 石も水も、ああいうトンデモ理論を使うって事は99.9999……いや120%ただの石っころとH2Oだろう。
 問題は教祖、年々はっきりと若返ってるっていう教祖。

 それさえばらせば……。

     ☆

 地球の母、本部。
 俺はアポなし訪問した。

 正直びっくりした。
 もっとしょぼい感じかとおもったら、グランドホテル級の超立派なビルだった。
 見た感じ建ててから数年しか経ってない新しいビル……。

「よっぽど儲かってんだな」

 俺は呆れつつビルに入った。

 天井がものすごく高い――三階建ての建物がすっぽり入ってしまいそうな広大なロビー。
 その受け付けに一直線で向かって行った。
 小細工は無用。

「教祖に会いに来た」

 スキル、自由訪問。
 アメリカ大統領だろうがローマ法王だろうがあおうと思えば絶対に会えるスキル。
 それを発動して受付嬢に聞いた。

「すみません、教祖様は今ここにおられません」
「何処に行けば会える」
「黒井クリニックで入院しておいでです」
「黒井クリニックだな、わかった」

 俺はきびすを返して、ビルから出た。
 きっと普通なら絶対に教えてくれない情報だろう。

 パワーのある石と生命の源である酸素水を再現した教祖が入院、普通なら絶対に出ない情報だが、自由訪問の力であっさりとゲットした。

 俺は外に出て、泊めてあった車に移動しつつスマホで調べた。

 黒井クリニック。
 業界最大手の整形クリニック、芸能人やセレブ御用達のところだ。

「なるほど、これで若返っていたのか」

 からくりが見えたから、さてどうしようかと頭を巡らせた。

     ☆

 俺はまず工作をした。
 金に糸目をつけないで、カメラとマイク、そして通信ユニットを組み合わせて、単独で生放送出来る端末を作った。

 いわば盗聴器みたいなものだが、遠隔操作で、単独でネットに生放送が出来る優れものだ。
 失敗もあって、試作品第一号が出来るまで100万近くかかったが、出来映えはかなりのものになった。

 それを自由訪問、そして透明人間を組み合わせて、黒井クリニックに入り、教祖の病室にサッとしかけて退散した。

 そして――。

『どうだね、オーダー通り今回は一気に5歳くらい若く見える様にした』
『さすがだ先生、いつ見ても先生の整形の腕は惚れ惚れする』
『しかし宗教の教祖様も大変だな、これ以上やると子どもになってしまうよ』
『それでも先生ならきっとなんとかしてくれるはずだ』
『患者がそれをお望みなら』

 黒井クリニックの院長と、教祖のやりとりを無修正生放送で全世界に流した。

 『パンドラの箱』
 すっかりとその名前が定着した、暴露の生放送。

 教祖の若返りが実はただの整形手術だとばれてしまい、信徒はアッという間に3分の2が離れた。
 それでも3分の1が残るという恐怖の事実だが……翔太の両親は目が醒めた3分の2に入っていた。

 目を覚まして、地球の母から離れた両親は再びまともな職について、家庭は徐々に元に戻っていき。

「本当にありがとうございます!」

 解決後、俺にあった翔太は遮断機の如く、カクッ、カクッ、と連続して腰直角で頭を下げて何度も何度もお礼を言ってきた。

 ちなみに余談だが。
 パンドラに暴露されるまで患者の秘密を守り通し、かつそのテクニックが奇跡級だと教祖の顔の変遷の検証であきらかに黒井は、ものすごく評価を上げたらしいのだった。
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