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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第一章

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20.世界の痛み

(力が欲しいか)

 それ(、、)に触れた瞬間、新井という名の男の脳裏に人ならざる声が響いた。

「な、何者だ!?」

 男は驚愕した顔で周りを見回す。
 ここは病院、限られた人間しか入れない、下手なホテルよりも豪華な病室。

 病室の中に誰もいなかった。
 部下も秘書も全て外に出していて、部屋の一人は自分一人だけだ。

(力が欲しいか)

 それでも声が聞こえる。
 脳裏に直接響く、蠱惑的(、、、)な声。

「ち、力だと。何をふざけたことを」
(もし力を欲するのならば――)

 新井の目の前に黒い何かが現われた。

 黒い何か、彼の常識ではそうとしか表現できない。
 色は漆黒、ガス状の塊が彼の目の前に浮かんでいる。

(――これを手にするがいい)
「……」

 新井は迷う。
 幻想……幻聴?

 そんな言葉が脳裏に浮かんで警戒心を高まらせたが、結局誘惑に負けた。
 新井の様な人種には絶大な魅力を持つタイプの声だ。

 あえて言うのなら――悪魔のささやき。

 そんな声の魅力に抗うことが出来ず、新井は黒い何かに手を伸ばした。

 途端、「ペイン」という名前と、溢れんばかりの力が新井の体に充満する。
 産まれてはじめて感じる、原初的な力。

 権力よりも遥かに直截的な暴力。

 それが体の中で膨らみ上がっているのが新井に分かった。

 新井は手を無造作に振った、部屋の反対側――十メートル以上離れている所に置かれた花瓶が粉々に砕け散った。

「すばらしい! この力が、この力さえあればあの男を」

 新井の目はもとより濁っていたが、それが更に加速度的に濁っていった。

 負の感情がそれに呼応して、新井の中で膨らみ上がる。

 そこにコンコン、と部屋がノックされた。

「なんだ」
「お休みの所すみません、先生。先生にお会いしたいという女性が」
「誰もあうつもりはないと言っただろ」
「すみません。ですが彼女は『sinji』の事でお話があると」
「――っ!」

 sinji。

 新井今の状況に追い込んだ男。
 客観的に見れば新井の悪事を暴いただけで、新井の自業自得なのだが、それは新井には関係ない。
 むしろ本人からすれば、半生をかけて築き上げたものを一瞬で崩したにっくき仇敵になるのは当然の流れだ。

 新井の中で憎しみが更に膨らみ上がった。
 憎しみはどんどん膨らみ上がって、やがてある瞬間から急速にしぼんでいく。
 いや、取り込まれていく。

 心に、いや魂に。
 憎しみは、新井の魂の一番深いところまで入り込んだ。

「通せ」
「はい」

 新井はにやりと笑った。
 手をかざし、手のひらを上にする。
 そこから浮かび上がるのは――新たなペイン。

 現地の宿主を得て、新たに産み出されたペイン、全くの新しいペイン。
 それを作り出した新井は、凶悪な笑みで口角をゆがめた。

     ☆

 夜、エグゼクティブ1の屋上テラス。

 満月の下、子犬からエルフの姿に戻ったスレイを見て、志穂は目を丸くしていた。

「ほ、本当に人になりました」
「人って言うか、エルフだな」
「本当ですね、耳が尖ってます……綺麗……」

 幻想的な美しさのエルフ。
 俺が向こうの世界にいって、はじめて目にしたときもこんな反応だったな。

「初めましてシホ殿、私はスレイ」
「あっ、佐山志穂って言います」

 向かい合う二人、一応初対面になるからか、互いによそよそしい挨拶になった。

「あの……耳、触らせてもらってもいいですか?」
「な、何故でしょう」
「エルフなんてこっちにはないからな。耳が本物なのか気になるんだよ」
「なるほど」
「俺もそうだった。とはいえ他人にいきなり触られるのも嫌だろ。自分でつけ耳じゃないって事を証明できるくらい引っ張ってみてくれないか」
「わかりました」

 スレイは俺に言われた通り、エルフの特徴である尖った耳を引っ張ったりひねたりした。
 傍から見ているだけでも付け耳じゃない、体の一部なのが疑う余地のない、思い切った引っ張り方だ。

「これでいいでしょう」
「ごめんなさい、変な事をお願いしちゃって……。本当にエルフなんだ……」
「ああ、これで俺が異世界に行ってたことを信じてもらえたか?」
「ず、ずっと信じてました! 風間さんの言うことはずっと! でもやっぱり……本当に本当だ……って感じです」
「まあ分からんでもない」

 目の前で犬がエルフに戻って、その耳が本物だって証明されたらこうもなる。

「すごいなぁ……異世界にいっただけじゃなくて、向こうの世界を救ってたなんて」
「シンジ様は我々にとって救世主になるお方だ。事績は聞いている、こっちのでも世界規模の危機になれば救世主になるのは間違いない」
「うん、それ分かる。風間さんすごいし……心もつよいですもん」

 女二人が口々に俺を持ち上げてくる、ちょっと持ち上げすぎな感がして、口を挟めずにいた。
 キャンピングカーの屋上ラウンジで満月を眺め、酒で唇を湿らせていると、俺のスマホがなりだした。

 手に取る、山下美海からの電話だ。

「もしもし」
『シンジさんですか? 美海です』
「ああ。どうかしたのか?」
『あの……明日遊びにいってもいいですか?』
「遊びに? それは構わないけど」

 何でまた……と思ったが聞く間もなく。

『本当ですか! ありがとうございます! 私すっごい美味しいケーキの焼き方を教えてもらったんです。是非シンジさんに食べてもらいです』
「うん? ああ分かった、楽しみにしてる」
『はい! それじゃ明日』

 テンションの高いまま、美海は電話を切った。
 電話を切った後、志穂が複雑そうな表情をしているのが見えた。

「アイドルの手作りケーキ……威力強そう……。対抗できるもの持ってないかも……」

 更になんかぶつぶつ言っていた。
 威力とか言ってたけど、志穂戦闘でもするのか?

 それを聞こうと口を開きかけると、またスマホに電話がかかってきた。
 美海が何かいいわすれたのか? って思ってスマホをとったら。

「……非通知?」
「どうしたんですか風間さん」
「非通知の電話がかかってきた」
「非通知? どういう事ですか?」
「シンジ様の敵……と言うことでしょうか」

 スレイの方が反応が早かった、俺もそう思った。
 わざわざ非通知でかけてくるにはそれなりの理由があるからだ、そして最近俺がやってきた事を考えれば、九割方敵にと呼ぶような人間からかかってきたものだろう。

 それは大当たりだった。

「もしもし」
『ふっふっふ……』
「だれだあんたは?」
『私の声を忘れたのかね』
「残念だがむさい男の声を覚える様な脳みその余裕はない」
『ふっふっふ……そうか。まずはこれをみたまえ』

 通話中のスマホがなった。メールの着信音だ。
 俺は眉をひそめて、通話にしたままメールを開いた。

 ネットサイトのURLだった、やたらと長い、しかし見た事のあるドメイン。
 動画サイトのアドレスだ。

 俺はそれをクリックすると、流れ出す動画に更に眉をひそめた。

 俺がかつてやったのと同じ、ネット生中継の動画だ。

 動画の中は何処なのか分からない暗い部屋、そこで一人の少女が拘束されていた。
 拘束衣を着せられ、目隠しに猿ぐつわを噛まされている。

 見覚えるがある少女だ。

「大使……令嬢……」
「え?」
「む?」

 驚き戸惑う二人の女をよそに、俺は動画を閉じて再びスマホを耳に押し当てた。

「何のつもりだ、なんで大使令嬢を拘束している!」
「この娘は私の所を訪ねた、お前の居場所を聞きに」
「なに……?」
「お前に苦汁を飲まされた私の所に聞きに来たのだ。空気を読まない馬鹿な娘だ」
「……お前、新井か」

 電話の向こうでまた笑い声が聞こえてきた。
 ようやく思い出した。

 聞き覚えのある声、それを「お前に苦汁を飲まされた」から心あたりを絞ったらようやく思い出した。

 不法密入国の一件でやっつけた、国会議員の新井だ。

「お前正気か? 大使の娘さんだぞ。それを監禁するなんて……元国会議員がやったらテロリストの立てこもりどころじゃない大騒ぎになるぞ」
『ふふふ、ふはははは……私の所までこい』
「……」
『お前をこの手で八つ裂きにする、それでようやく――いやそうしないと私の気が済まないッッッ』
「会話になってないぞ、正気かお前」
『ふふふ、ふははははは……』

 新井は笑い声をこだまさせて、電話を切ってしまった。

「どうしたんですか風間さん?」
「何がおこっているんですか」
「それが――」

 二人に説明をしようとしたその時、ドカーン! とものすごい音がした。
 屋上ラウンジが揺れた――いやエグゼクティブ1そのものが揺れた。
 よく見ると、車体に体当たりで突っ込んできた車があった。

 突っ込んできたのは一台、ほかに三台。

 車からぞろぞろと人が降りて、姿を見せた。

「敵意……シンジ様の敵の手下か」
「そうみたいだけど……様子がおかしいな」
「え?」
「あれ、ペイン取り憑かれている」
「なに!?」

 驚愕するスレイ、ぱっと襲撃者の方を見る。
 襲ってきたのは強面で屈強な男達だが、その強面が不自然に無表情になっている。

 目がうつろで、そのくせ口元は凶悪に開いている。

「確かに、ペインに取り憑かれている人間の特徴だ」
「俺がやる、二人は中に入ってろ」
「は、はい!」
「ご武運を」

 二人が階段から車内――一階に降りていったのを確認して、俺はラウンジの縁から地面に飛び降りた。
 するとペインに取り憑かれた男達がわらわらと向かってくる。

「ころ、す……殺す……」

 まずはチェック。
 ペインに取り憑かれてるヤツに向かって「読心」を使った。

「殺す……sinji……殺す……」
『苦しい……痛い……誰かたすけ、て……』

 全員を一通り読んで回った、すると十人全員、口に出してる声と心の声が違っていた。

「ならまた間に合うな」

 俺は息を吸って、カッと目を見開いた。
 そのまま一番近い男に肉薄して、拳を腹に突き刺す。
 くの字に折れ曲がった体、瞠目し血反吐を吐く。
 次の瞬間、頭のてっぺんから何かが抜けていった。

 黒いもや――ペイン。

 パッチン!

 指を鳴らして、衝撃波でペインを消し飛ばす。
 取り憑いたペインがなくなったことで、男は白目を剥き、崩れ落ちるように倒れた。

 襲ってきた別の男の攻撃を避け、カウンターでボディブロー、痛撃を与えてでてきたペインを指パッチンで消し飛ばす。

 痛撃でペインを引き剥がして、そのまま指パッチンで消す。

 十人全員、作業に近いやり方で仕留めた。
 ちなみにポイントは一人10、ペインのポイントだ。

 ペインは人に取り憑く、取り憑いた人間の心の闇を養分に育ち、力を与える。
 取り憑いた初期の段階ならこんな風に無理矢理引き剥がす事も出来る。

「――っ!」

 瞬間、巨大な殺気を感じた。
 体が無意識で回避行動をとるような殺気。

 鼻先を鋭い刃が通り過ぎていった。

 ひとまず距離を取る――見た事のある顔だ。
 上半身が裸で、虎の入れ墨を背中に彫ってある大男。

 金井興業の組長だ。

「ころす……絶対……殺す」

 そいつも目がうつろで、うわごとのように殺意を繰り返した。

「――むっ!」

 金井の突進、猛烈な踏み込みから繰り出される日本刀の斬撃はするどかった。
 避けた俺の背後に連中が乗ってきた車があって、その車は金井に一刀両断された。
 車体は綺麗に真っ二つ、ガラスが粉々に砕ける。

 いかにヤクザとは言えここまで斬撃は出せない。
 ペインに支配され、正気をなくし更に力を与えられているからできる芸当だ。

 それにしてもさすが組長、ほかのザコとは違うな。
 そいつは更に飛び込んでくる。

「答えろ、お前はまだ間に合うか」
「首……はねて……やる……」
『ううぅ……誰か……誰かたすけ、て……』

 読心を使った、どうやらまだ間に合うみたいだ。

 突進して来る金井、俺は砕けたガラスを一欠片ひろって、指で弾いた。

 回避+カウンター+遠距離攻撃レベル4。

 銃弾よりも高速で弾かれたガラスは金井の持つ日本刀にあたり、それをへし折った。
 すかさず突進、金井の横っ面を思いっきり張り倒してペインを出して、今まで通り指パッチンで消し飛ばした。

 転がっている金井や組員達を見下ろす、スマホを取り出して中継されている、拘束された大使令嬢を見る。

 早く助けに行かないと。

     ☆

 車を降りる。
 新井から送られてきた場所は、海沿いの埋め立て地、その一角にある倉庫だった。

 数年後のオリンピックに向かって開発を進めているそこはまともに人が住んでいない。
 満月の夜の都心だが、まるで山奥かのように人気が無かった。
 倉庫のシャッターを開けて中に入ると、カメラと大使令嬢がいた。

「むぐっ!」

 シャッターの音――人が入って来た音を聞いて、反応してもがく令嬢。
 見た目は確かにあの立てこもり事件の時のお嬢様だが……。

「待たせてすまない、すぐに助け出してあげるから」
「ムグッッッ!」
『sinjiさんですわ! あのときと同じ声ですわ!』

 偽物かとも思ったが、読心で確認した本物のようだ。

 それにしても、なるほど声か。
 だから新井と繋がったんだな、俺の声なら新井の事を暴露したネット中継、そしてその後増殖した動画で聞ける。
 おそらく俺をさがしてて、今大人気の動画で声を聞いて、新井に聞きに来た――そんなところだろう。

 状況をあらかた把握すると、真横からぬっ、と新井が姿を現わした。

「どうも」
「見つけた、見つけたぞぉ……」
「親切な人だな、本物の居場所を教えてくれるなんて」
「貴様のせいで私は、わたしはあああ」
「……聞こう、お前はまだ間に合うか」
「貴様のせいでえええええ!」

 新井がもう突進をしてきた。
 見た目五十台の小太りおっさん――が100メートル五秒を切るような超スピードで突進してきた。

 金井よりも更に速い、しかも武器を持っていないのに。

 ――ブォォォン!

 鼻先をかすめていくタダのパンチがものすごい音をしていて、当たったら木っ端微塵に消し飛びそうな威力だ。
 当たればタダじゃすまない、その威力の源は。

『殺す、貴様は絶対に殺す!!』

 完全にペインと同化している、故に引き出せた威力だ。

「新井、今すぐやめろ」
「うるさぁい! 死ねええええ!」
『うるさぁい! 死ねええええ!』

 口に出してる言葉と、心の声がまったく一緒だった。
 それはもう、新井は手遅れという証拠だった。

 なら……もう。

 せめて苦しまない様に、と、俺はたまったポイントでスキルを取った。
 攻撃力アップ(回避)のレベル5、そしてレベル6。

 それを一気に取って、ペインの怨念を纏って突進してくる新井の攻撃をぎりぎりで避けて、カウンターのパンチ。

 近接戦闘レベル7、攻撃力アップ(回避)レベル6、カウンター。
 三つの乗算で高めた攻撃を叩き込んだ。

 カウンターをしたたかに喰らって、吹っ飛ぶ新井。
 異変は――いや当たり前(、、、、、)の出来事がおきた。

 普通なら肉片がばらばらになって吹っ飛ぶ程の威力で殴られた新井は、肉片ではなく怨念をまき散らした。
 黒いもや、体をペインに変えて、それがばらばらになっていく。

「きさまあああああああぁぁぁ…………」

 断末魔の残響を残して、空中分解でペインになって行きながら、消滅する新井。
 そのペインも指パッチンで徹底的に消し飛ばした。

 ポイントは100、今までで一番でっかいポイントだった。

 しばしまつ、新手は現われない。
 もうペインはいないようだが。

「見てるんだろ。黙ってないで声くらいだせ」

 俺は自分でもびっくりする位の低い声で言った。
 久しぶりに、はっきりと不機嫌さが滲み出る声。

 瞬間、目の前の景色が代わった。
 大使令嬢が拘束されている空間から、女神のいるあの場所になった。

 目の前にスゥと現われた顔見知り、女神。

「やっぱりお前が絡んでいたか」
「すみません、こうするしか……」

 スキル取得、先制攻撃。

 あらゆる相手に一回だけ、最初の攻撃だけ二倍の威力を出すスキル。
 スタスタと近づき、女神の横っ面を思いっきり殴り飛ばした。

 トラックに吹っ飛ばされたかのような勢いで吹っ飛ぶ女神。

 数十メートル吹っ飛んだあと、ようやく勢いが止まって、手をついて起き上がる。
 こっちを向いた女神は文句一つ言うことなく、申し訳なさそうな顔をしていた。

「やっぱりお前か、ペインをこっちにまき散らしのは」
「いい訳を、許してもらえるのなら」
「言ってみろ」
「導いたのは事実です。本当ならスレイ通して出せればよかったのですが、彼女があまりにも実直なため、ペインの出現は悪意の強い――つまりほかの所に引き寄せられてしまったのです」
「だから新井の所か」
「はい」
「わかった、それで納得してやる」

 ペインの性質は俺もしってる、悪意により強く引き寄せられるのは理にかなってる。

「だが何故ペインをこっちに送る」
「スレイのため」

 女神は申し訳なさそうな顔をしまい、真顔で俺をまっすぐ見つめた。

「ペインを倒すと別途ポイントがたまる、それはスレイが戻ったときの引き継ぎポイントになります」
「……なるほど。俺がスレイを預かって、その間ペインを倒してポイントを溜めさせて、しかるべき時にあっちの世界に引き継ぎさせて戻す、と」
「はい」
「それを先に言え」
「すみませんでした。上手くいっていれば言う必要がありませんでしたので」
「なら失敗した瞬間にいえ」
「本当にすみませんでした」
「……」

 女神は更にまっすぐ俺を見つめて。

「これからも……お願いします。どうか……あっちの世界のために……」
「ならせめて範囲を絞れ、俺の手が届かないところにペインがでたんじゃどうしようもない」
「はい。よろしくおねがいします」

 女神が深々と頭を下げた後、俺の視界はまばゆい白い光に包まれていった。

     ☆

 朝、エグゼクティブ1の中。

 俺はモーニングコーヒーをすすりながら、朝のワイドショーを眺めていた。
 ニュースの一つに、「『パンドラ』、議員補選に介入?」ってあった。

 ネット上だけじゃなく、テレビにまで進出した俺の異名、パンドラ。
 そのパンドラ()が新井辞職後の議員選挙で、候補者の不正を次々に暴いたというニュースだ。

「全員っていってます……」

 俺の横で志穂がつぶやく、唇を尖らせて不満そうにした。
 彼女がそうした理由は――。

「一人暴けるものがないのがいたんだけどなあ」
「ですよね。風間さんがわざわざそうしたのに、テレビはまたいつもの偏向報道をしちゃうんですね」
「わざわざそうはしてない、あくまでその候補に暴けるものがなかっただけだ。そりゃ彼も聖人君子ってわけじゃないが、唯一売国しないヤツだっただけだ」
「あっ、そうでしたね、すみません。でもやっぱりそれを報道しないのは不公平ですよ」
「かまわんさ、だってほら」

 俺はスマホをつきだす。
 ネットを表示しているそれは、テレビの偏向報道に対する不満の声で溢れている。
 大半が『パンドラ』の行動を支持していて、マスコミの偏向っぷりを糾弾している。

「こんなことを続けてたんじゃマスコミも長くないさ」
「そうですね、風間さんが今のままの事を続けて、その都度こんなことをしたらいずれ勝手に信用がゼロになりますもんね」
「その通りだ」

「ねえ、風間様」

 今度は真横から声が聞こえてきた。
 スキル「通訳」を通して言葉を理解する外国人、あの大使館令嬢。
 俺を探すために新井の所までいった彼女は、あの事件以降念願の俺と会えたことで、こうして度々エグゼクティブ1――キャンピングカーに押しかけるようになった。

「風間様は表にはでないのですか? もしそのおつもりがあるのなら我が国がバックアップ――」
「興味ないな」

 俺はすっぱり言い切った。俺を表舞台に出したい――スポットライトを当てたいと思ってる彼女はちょっと落ち込んだ。
 彼女に悪いが、表に出るつもりはない。
 表にふさわしい人間がほかにいる、望んでる人間がほかにもいる。

「わるいな」
「いいえ、風間様が謝ることなんてありませんわ」

 謝る彼女、ほんの少し後ろ髪を引かれる思いをしている様に見えるのは、やっぱり俺を表舞台に出したい重いが強いからなんだろうなと思った。

 それを意識して見過ごしていると、窓の外をペインがよぎった。
 俺は窓をあげて、指パッチンでペインを10ポイントと一万円札に替えた。

 こっちの世界にでてきたペイン、女神の意図もあるが、それ以上に。

「向こうの世界はますます混乱してってるようだな」
「風間さんを無下にしたばつです」
「いい気味ですわ」

 俺はにっこりと、向こうをくさす二人に微笑んだ。
 ますます混沌としていく向こうの世界、こっちにも少なからず影響が出ているが。

 それは気にしないことにした。
 あっちを見捨ててこっちに戻ってきた俺は、気ままに生きることにしたからだ。

 今日もまた、スキルを稼いだり、大金を思いっきり使ったり。
 なんかに巻き込まれたり見過ごせない悪者を成敗したり。

 そんな一日が始まる――。
これで第一章終了です。
ここまでの内容を画面下部から評価していただけるとすごく嬉しいです。
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