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虐げられた救世主の俺は異世界を見捨てて元の世界で気ままに生きることにした 作者:三木なずな

第一章

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16.読心と潜入

 朝、エグゼクティブ1の中。
 キャビンのソファーで、俺は「読心」スキルを発動させていた。

「ふーんふんふふふーん♪」
『うん、今日のお味噌汁の出来もバッチリ。風間さん喜んでくれるかな』

 キッチンで料理をしている志穂の後ろ姿を眺めて、心を読んだ。
 当たり障りのない内容だが、声が聞こえる距離でのこの内容、多分心の声で間違いない。

 そういえば……。

「スレイはどうなんだ?」
「バウ?」
『今日もシンジ様かっこいい……。救世の勇者シンジ様。向こうの世界に戻るまで一回くらい想い出に抱いて欲しいな』

 こっちはものすごく生々しい心の声だった。
 間違いなく読心が効いてる、心の声が聞こえてると判断する。

 さて、これをどうしようか。

     ☆

 六本木、テレビ夕日本社ビル。
 俺は普通に入って、受け付けに言った。

「社長に会いに来た」

 この瞬間、「自由訪問」スキルが発動する。

「はい、おつなぎします」
「いや、自分でいくからいい」
「かしこまりました」

 向こうが繋ぐのをとめて、つかつかと中に入る。
 完全に部外者、どこからどう見ても業界人ではない俺がテレビ局の中を闊歩するが、誰にも呼び止められる事はなかった。

 自由訪問の裏技。
 どんな相手でも、アメリカ大統領だろうがローマ法王だろうがあえてしまうスキルは、相手の領域内で発動して、その相手と実際にあうまで「正式な訪問者」と認識される。
 スキルの効果は「会うまで」だが、実際に会うまではスキルの効果が続くのを逆手にとった使い方だ。

 俺は社長に会えて会いに行かず、テレビ局の中を適当にぶらぶらして回った。
 何かネタはないか、といろんな人の心を読んでみるが、特に収穫はない。

 大半が仕事で忙しいか、上司への愚痴。
 一部は会社の金をつかって豪遊するとか、上司に取り入るとか愚痴系もある。

 だけど、たいした情報は無い。

「当てもなくぶらついてもダメか」
「風間さん?」
「ん?」

 急に名前を呼ばれたから振り向いた。
 そこに一人の男がいた。歳は三十の前半、どこかで見た顔だ――そうだ、近藤瑞希の運転手だ。

「確か……正だったっけ?」

 下の名前は知らない、近藤瑞希がそう呼んでたのを聞いてただけだ。

「反町正です。どうしたんですか風間さん?」

 反町はそう言ってから、声を押し殺して神妙な顔で俺に近づいてきた。

「ここに来て大丈夫なんですか?」
「……そんなにテレビ局は俺の事を目の敵にしてるのか」
「絶対に見つけ出して叩きつぶす、って上の方が息巻いてますよ」
「なるほどな」

 俺は笑った、口角を軽く持ち上げる――多分皮肉っぽい笑み。
 新井のこと、金田の事。
 それで大分嫌われたとはうすうす思っていたが、そこまでだったとはな。

「大丈夫だ、問題ない」
「そうですか……あっ、今時間ありますか?」
「うん?」
「近藤が一度あってお礼をしたいって言ってました」
「いるのか? 局に」
「番組の収録で、今は控え室で出番待ちです」
「そうか。案内してくれ」

 応じる反町についていき、近藤瑞希の控え室に来た。
 控え室に入ると、椅子に座って、難しい顔で手元のスマホを見ている瑞希の姿がみえた。
 瑞希は顔を上げると、難しい顔から一変、驚きの表情になった。

「お疲れ様正……あら、風間さん。どうしてここに?」
「テレビ局に用があってな。そこの廊下で偶然彼につかまって」
「そうですか」

 瑞希はスマホを置いて立ち上がって、俺にまっすぐ向いて、深々と頭を下げた。

「あの節は本当にありがとうございました」
「たいした事はしてない。それで助かったというのならこっちも嬉しい」
「本当にありがとうございます」
「それはいいんだけど、何かあったのか」
「いえ、何もありませんよ」
『こんなことを相談しても……ただでさえテレビ局が今風間さんの事を血眼になって探してるのに』

 反町と同じように、瑞希も俺の事を案じていた。
 いい人なんだろうな、二人とも。

 だが、それは無用な心配ってヤツだ。

「俺はテレビ局程度でどうにかなることはない」
「え? どうして……」

 さてどう説明するか、と思った時。

「あっ、すみません瑞希さん。さっき俺が話したんです」

 反町が後ろからフォローしてくれた。それで瑞希は納得した。俺がテレビ局云々の事をしっていることに。
 予定外だが、まあいい。この流れに乗ってしまおう。

「だから教えてくれ。その顔は何か困ってるときの顔だろ」
「……」
『本当に相談してもいいのかしら。でもこのままだとあの子、今夜にも枕をやらされてしまう……でも……』

 読心を続けてるとある程度の事情が分かった。
 なるほど、それは難しい顔にもなる。

「……俺は」
「え?」

 まっすぐ瑞希を見つめて、真顔で言ったから、彼女はぎょっとした感じで戸惑った。

「厄介事に首を突っ込むのが大好きだ」
「……ありがとうございます」

 真顔でおどけた台詞。
 それが効いたのか、瑞希は困っている事。
 スマホに届いた後輩の悩み相談、ほとんど助けを求めている悩み相談を俺に打ち明けてきた。

     ☆

 六本木、タワーマンションの一室。
 フロア丸ごとが一人の所有者になっている、マンションでありながらほとんど戸建てのような贅を尽くした空間。

 そのリビングに一組の男女がいた。

 男は老人と言っても差し支えがない年齢、歳を取っているが、肥満体で目がギラギラしていて、悪い意味で若々しく見える。

 もう一人はまだ十代の少女だ。
 美しい少女だが、あか抜けていない感が強い。

 その少女は羞恥にまみれ、下着姿になっている。
 顔を背け、手で下着の上下を隠そうとしている。

 シチュエーションを考えたら普通は怒るところだが、老人はむしろニコニコして、気分上々って感じで少女を見ていた。

「いいですよ、手をどいて下さい」
「で、でも……」

 少女は手で隠しながらちらっと横を見た。
 二人の横、そこには三脚に立てられたビデオカメラがある。
 電源のLEDはついている、間違いなく録画中だ。

 少女はそれを気にしていた。

「あれの事はきにしないで、ないものだと思って脱ぎなさい」
「でも……」
「ぬげ」

 老人は眼を細めて、冷たい声で言い放った。
 少女はビクッとした、すくみ上がった。

 老人の権力と地位、そしてそもそも少女がここに来させられた(、、、、、、)理由を考えれば、逆らえる材料など一つも無い。
 少女は駆け出しのアイドル、そして老人はテレビ局の重役。

 枕。少女は自分の肉体を引き換えに、今後の仕事を斡旋してもらうタメにここに来ている。

 少女は下唇を噛んだ。
 死ぬほど悔しそうな顔をするが――どうにもならない。
 彼女は観念して、残った最後の砦、下着に手をかける。

 助けは来ない、そう観念したのだが。

「はいそこまで」

 目の前に忽然と、一人の男がどこからともなく姿を現わした。

     ☆

 自由訪問と透明人間を使ってここまで来た。
 このタワーマンションはロビーとエレベータで二重にセキュリティがかけられてて、住民が応じるか、それともロビーとエレベータで二回、それぞれ違うパスワードを入力しないと入れないタイプ。

 管理人も複数常駐していて、セキュリティとしては万全の類だが――自由訪問の前には無力だ。
 俺はすんなりとここまできて、そして胸くそのわるい光景を見せつけられた。

 瑞希から聞いた話、枕を強要されてる後輩。
 それを助けに来たのだが。

「ビデオまで回してるとはな」
「だ、誰だお前は!?」

 目の前のじいさんが俺に誰何(すいか)する。
 当然、名乗るつもりはない。

「まっ、正義の使者とでも言っておこうか。最近すっかりそれだし」
「――っ!」

 老人は慌てて身を翻して、奥の部屋に飛び込んだ。

「にがさん」

 俺は老人を追って中に入ると、書斎らしきそこで、老人は引き出しから何かを取り出して。

 ターン!

 と、躊躇なく俺に銃を撃った。

 いきなり飛んできた銃弾、サッと避けた。

「なにっ!」
「えっ……すごい……」

 驚く老人、そして背後で驚嘆する少女。

「おいおい、日本はいつから銃社会になったんだ」
「お前――私をどうするつもりだ」
「うーん、そうだな」
「言っておくが私は何もやましいことはないぞ、新井先生や金田とは違う」

 ああ、そういうこと。
 まったく躊躇なしに発砲してきた理由が分かった。
 こいつは俺の事をしってる、いや正体はしらないが、新井と金田をつぶした人間としてしってる。
 だから先手を打ったのだ。

「の割りにはあっさり打ったな。これも中継されてるかもしれんぜ?」
「何を言ってるのかわからないが、このマンションに侵入してくるものなんで凶悪な犯罪者に決まっている」
「なるほど」

 それは一理ある、というか理屈が通る。
 これだけのセキュリティ、まともな方法じゃ侵入は不可能だ。

「さあ出て行け、今ならまだ通報はしないでおいてやる」

 老人は俺にそういう……が、俺は見逃さなかった。
 老人の手がゆっくりと書斎の机の上を滑り、置かれているノートパソコンに向かって行くのを見逃さなかった。

 手をあげて、デコピンの要領で弾く。
 指弾、ハチを倒せる程度の、パンチ程度の威力の空気の塊が老人の腕を弾く。

「ぐはっ」

 更に指弾を連射、老人の関節を正確に狙い撃って、行動の自由を奪う。
 そのままノートに近づき、パソコンをつける。
 ログイン画面でパスワードを要求された。

「パスワードは?」
「……」
『sexhunterだなんて絶対に言わないぞ』
「セックスハンターか、趣味悪いなあんた」
「なっ!」

 驚愕する老人、残念だが読心の前にその程度の秘密は秘密にならん。
 文字が必要なパスワードも、美少女ゲームのようにでてる窓と文字で丸わかりだ。

 俺はパスワードを入力してノートを使えるようにした……吐き気がした。
 ヤツのノートパソコンに山ほどの動画ファイルが入っていた。

 サムネイルでわかる、ほとんどがこのマンションで取られたものだ。
 ファイル名は女の人名、中には俺がしってるような芸能人も何人かいる。

 さらに腹正しい事に、「和姦」と「強姦」のフォルダが作られている。
 吐き気がした、ものすごく吐き気がした。

 この男を破滅させたいが……この動画を使うのはだめだろう。
 特に「強姦」に入ってるのは確実に使えない、彼女達も被害者だ。

 いや「和姦」でも被害者だけど、割り切った被害者ってだけだ。

 これを使うのは骨を断たせて肉を切る的な話だ、しかも俺の骨や肉じゃない。
 うん、使えないな。

 むしろここは……ファイルの完全消去を狙おう。

「おいお前、これのコピーはあるか?」

 読心があって良かった、コピーがあるかどうかが分かる、確実に全部消せる。
 そう思った俺、だが、読心で聞こえたのは予想外の事だった。

『コピー……そうだな、コピーをエサにしよう。これを差し出して、あれから目をそらさせよう。動画はともかく、アレが明るみに出たら本当におしまいだからな』
「へえ……あれ」
「え?」
「あれって、なんだ?」
「な、なんの事だ?」

 老人は狼狽した、すっとぼけようとした。
 が、無意味だ、読心の前にはすっとぼけることに意味はない。

『まずいぞ、何をしってる。まさか我が局があの国と繋がっている確証を探しに来たのか』

 ほっほー。
 あの国と繋がってる確証、身の破滅。

「それはいいことを聞いたな」
「なっ!」

 愕然とする老人。
 俺は、自分でも分かるくらい。
 凶悪に口角を持ち上げて笑ったのだった。
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