表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
98/164

距離。

それから、長い沈黙が流れた。

俺は、どうすれば良いのか、まったくわからなかった。フィリップの眼をジッと見つめたまま、動けない。


フィリップに、死ね、と命じる。


そんな事が、俺にできる訳が無い。

俺の、父親代りだ。

渦巻くように巡る他の何よりも、その思いは強い。


「なぁ、フィリップ。」


いつの間にか渇いた喉で、無理矢理声を出す。


「何故、こうなった?四年前、俺は此処で夢を追おうと思った。道は逸れていなかった筈だ。なのに、何故だ。」


フィリップは、一度目を閉じた。

目を閉じると、フィリップが更に老けたように見える。

目が、老いを隠すなどと言う事があるんだろうか。


「ナヴァレが申しておりましたな。アルマンド様の夢には、中身がない、と。」


「あぁ。」


「今はまさしく、その中身が欠けております。」


毅然と胸を張り、フィリップは言い切った。

今の今までとは、別人のように眼の奥に炎が燃えている。


「中身、か。」


「重ね重ねの無礼」


「謝るな。」


「しかし」


「俺は、それほどに遠いのか。」


声が、震えた。


言ってしまっていた。


俺が前世で読んだ本の中で、心が震えるようなセリフがあった。


君と私の間には、たかだか一歩か二歩程度の距離しかないじゃないか。私から、離れないでくれ。


今、この立場に立って、わかるモノがある。

あの時は、ただ心が震えただけだったが、今は違う。

その孤独は、気付かれないように忍び寄って来る。

そして、恐ろしい程に心を蝕む。


俺は、気づけなかった。

孤独に、一度は負けた。


だが、まだやれる事はある筈だ。

負けを取り返す、何かがまだある筈だ。


フィリップは、俺を見つめたまま、何も言わない。

眼の奥に、炎と悲しみがある。


「死ぬ事は許さん。」


俺は、このままでは潰れてしまう。

恐怖の根源が、見えた。

フィリップの眼が、何故か俺にそれを気付かせた。


フィリップでさえ、こんなにも遠いのだ。

俺は、きっと、もうそれに耐えらない。

だが、ただ孤独に耐えられないなど、俺には許されない。

俺は、どうするべきか。


頭をめまぐるしく回転させる。


結論は、最初からわかっていた。


俺は、いなくなるべきなのだと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ