距離。
それから、長い沈黙が流れた。
俺は、どうすれば良いのか、まったくわからなかった。フィリップの眼をジッと見つめたまま、動けない。
フィリップに、死ね、と命じる。
そんな事が、俺にできる訳が無い。
俺の、父親代りだ。
渦巻くように巡る他の何よりも、その思いは強い。
「なぁ、フィリップ。」
いつの間にか渇いた喉で、無理矢理声を出す。
「何故、こうなった?四年前、俺は此処で夢を追おうと思った。道は逸れていなかった筈だ。なのに、何故だ。」
フィリップは、一度目を閉じた。
目を閉じると、フィリップが更に老けたように見える。
目が、老いを隠すなどと言う事があるんだろうか。
「ナヴァレが申しておりましたな。アルマンド様の夢には、中身がない、と。」
「あぁ。」
「今はまさしく、その中身が欠けております。」
毅然と胸を張り、フィリップは言い切った。
今の今までとは、別人のように眼の奥に炎が燃えている。
「中身、か。」
「重ね重ねの無礼」
「謝るな。」
「しかし」
「俺は、それほどに遠いのか。」
声が、震えた。
言ってしまっていた。
俺が前世で読んだ本の中で、心が震えるようなセリフがあった。
君と私の間には、たかだか一歩か二歩程度の距離しかないじゃないか。私から、離れないでくれ。
今、この立場に立って、わかるモノがある。
あの時は、ただ心が震えただけだったが、今は違う。
その孤独は、気付かれないように忍び寄って来る。
そして、恐ろしい程に心を蝕む。
俺は、気づけなかった。
孤独に、一度は負けた。
だが、まだやれる事はある筈だ。
負けを取り返す、何かがまだある筈だ。
フィリップは、俺を見つめたまま、何も言わない。
眼の奥に、炎と悲しみがある。
「死ぬ事は許さん。」
俺は、このままでは潰れてしまう。
恐怖の根源が、見えた。
フィリップの眼が、何故か俺にそれを気付かせた。
フィリップでさえ、こんなにも遠いのだ。
俺は、きっと、もうそれに耐えらない。
だが、ただ孤独に耐えられないなど、俺には許されない。
俺は、どうするべきか。
頭をめまぐるしく回転させる。
結論は、最初からわかっていた。
俺は、いなくなるべきなのだと。