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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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見えない光。

新年会以来、俺は部屋に引き篭もった。


仕事は、やっている。

一日に一度、フィリップが自室に運んでくれる。

年末までと比べると量は少なくなっていた。

きっと、フィリップや他の家臣達が、肩代わりしてくれているのだろう。

申し訳ない気持ちはあるが、その分もやる、とはどうしても言い出せなかった。


量が減った分、暗くなる前に書類の束がなくなるようになった。

それが、逆に俺の心を締め付ける。

夜になっても机に向かっている家臣達に、申し訳ない。


そして、何をしたら良いのか、わからない。


こちらに来てから、俺は朝から晩まで領地の事にかかりきりだった。

前世の頃からこれと言った趣味がなかった上、娯楽が少ない世界である。

多過ぎる時間を、俺はただ持て余した。


十日ほど、そんな生活を続けて、俺は空いた時間に酒を飲むようになった。

日に日に、量が増えていく。

食事の前にワインをグラスで二杯だったのが、一本に。

一月も経つ頃には、酩酊して夕食の場に行く事も珍しくなくなった。

逆に、食事の量は、かなり減った。


フィリップは、何も言わない。

哀しんでいるのは、わかる。

もしかしたら、自分を責めているのかも知れない。


シエーナは、書類を片付けると、俺の部屋に現れるようになった。

彼女も、何も言わない。

時折、俺の酒の相手をしながら、どうでも良い話しをする事はあったが。


アイラには、新年会以来会っていない。

新年会で、挨拶に来ただけだ。

特にこれといった言葉も交わさなかった。

いや、交わせなかった。

声が、言葉にならなかったのだ。


エルロンドが、俺をどう見ているのかは、わからない。

エルロンドはいつも通り、俺に接していた。

ただ、俺が余り喋らなくなっただけだ。

それでも、エルロンドは一生懸命、俺に色んな事を話す。


俺は、抜け殻になった気分だった。

酒量が増えてから、特にそれが強くなってきた。

考えるのが、酷く億劫で、俺はただ目の前にある事を淡々と片付ける毎日だ。


奴隷の頃に、似ている。


ある晩、酔いの中でまどろみながら、ふとそう思った。

毎日毎日、何も考えずに穴を掘っては埋める日々。

飢えに耐え切れず、地面に這いつくばって草や木を探す日々。

大人達に、寄ってたかって蹴られ続ける日々。


あまり、思い出に恐怖はない。

もう、終わった事だ。

よほどの事がない限り、俺があそこに戻る事はないだろう。

それでも、俺の全身に鳥肌が立っている。

本能のどこかに、奴隷だった過去を恐れる何かが残っているのかも知れない。


俺が、震えているのに気付くまで、しばらくかかった。

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