侯爵とアイラ。
胸糞。
飛ばすなら今のうち。
夕食を自室に運んでもらい、俺は独りで飯を食い、アイラの館に足を運んだ。
シエーナのアタックに、少々辟易していたのだ。
きっと、彼女は今夜も来るだろう。
冷静に考えると、フィリップが入れ知恵している可能性もあり、他にも何人かの家臣や使用人が後押ししているような気配がある。
視察の前後から、妙に積極的だし、所々エリーゼを思い出させる言動を取る事が多い。
彼女に、そういった情報を吹き込んだ人間がいる筈だ。
そんなもの、俺は求めちゃいない。
シエーナは、どう頑張ってもエリーゼにはなれないのだから。
少なくとも、俺がエリーゼのような女性に惚れる事は二度とない。
シエーナには、シエーナの魅力がある。
それは、認める。
それに心を動かされる自分がいる事も、自覚している。
今のシエーナを哀れだと思う程度に、情はあるのだ。
アイラの館に着くと、すぐにアイラが自ら俺を笑顔で出迎えた。
俺がこちらに来るといつ知ったのか、酒肴の準備もできていた。この館に来ると、いつもこんな具合だ。
月に数回の逢瀬の度、彼女は健気に尽くしてくれる。
それが心地良いと思った事はない。
「今日は、泊まっていくよ。」
言うと、アイラは嬉しそうに笑った。
特に美人と言うこともない、平凡な容姿だが、あのマンシュタインの末娘である。
兄達に混じって、武芸の稽古や乗馬なんかもしていた時期もあったそうだ。
「あちらの方はご存知なのですか?」
「いや、特に何も言って来てないな。」
寝室に入り、用意されていたグラスにワインを注ぐ。
俺のコレクションほどではないが、この館にもそこそこ良いワインが揃っている。
アイラが、俺に合わせて自分の小遣いで買い集めたモノだ。
酒ぐらい、自分の好きなモノを飲めば良いと思うのだが、アイラは徹底していた。
だが、彼女は俺が本当はワインよりも、ウイスキーが好きだと言う事は知らない。
宴なんかでは結構な量を飲むが、本当は二杯程度をほろ酔いぐらいでゆっくり飲むのが好きな事も知らない。
しきりにワインを勧めてくるアイラを、俺は何か別のものを見ているような気分で、見つめていた。
愛など、互いに欠片もなく、ただ周囲の都合で一緒になっただけなのだ。
俺とアイラの間に男の子が生まれれば、すぐにポレスの養子になる事が決まっている。
と言うより、その為にアイラは俺の妾になったようなものだ。
新興貴族にはありがちな話しではあるが、哀れだとしか思えない。
後ろめたさが、俺にはある。
そして、それはアイラを抱く時には激しさになって、出てきてしまう。
エリーゼはもちろん、シエーナにも絶対にしないような事を、アイラにはしてしまうのだ。
アイラは、それにもただ耐える。
顔を赤らめ、必死に声を殺しながら、最後には泣くのだ。
「飲め。アイラ。」
まだ飲みきっていないグラスに、なみなみとワインを注ぐ。
「はい。」
少しだけ赤くなった顔で、アイラは微笑んだ。
彼女は決して拒まない。
そして、乱れない。
いつの間にか、俺はかなり酔ったようだ。
「俺は、何をやってるんだろうな。時々、自分でもわからなくなる。」
「旦那様は、苦労をなさっています。私は、ただそれだけが心配です。」
「なにがだ。」
「御自分を苛めてらっしゃるようにしか見えないのです。」
不意に、頭に血が昇った。
ダメだ。
酔っている。
言っては、いけない。
わかってる。
「お前に、何がわかる。」
よせ。
「わかる筈がありません。ただ、そうとしか見えないのです。前はもっと優しい方だと、思っていましたわ。」
やめろ。
「優しいだと?それは、お前がただ不満なだけだろう。悔しいか。犬のように飼われるのが。」
どうして、こんなに腹が立つ。
「何故、そんな事をおっしゃるのです。」
アイラは、毅然としている。
顔が少し赤いが、酔っているようには見えない。
結構、飲んだ筈だ。
「お前達が、哀れだからだよ。」
違う。
哀れなのは、俺だ。
「シエーナ様もですか。」
「そして、お前もだ。」
「アルマンド様、私は貴方にお仕えする事が、どういう事か、覚悟してこの館に入りました。」
「それが、どうした。」
「貴方が私をどう扱おうと、私はそれで満足なのです。」
「だから?」
「酔いに任せて、言いたくもない事を言うのは、おやめ下さい。自分を責める事を、これ以上なさらないで下さい。みんな、心を痛めているのですよ?」
酔いが、更に回る。
気がついた時には、俺は力任せにアイラの服を引き裂いていた。
そのままベッドに押し倒し、俺はアイラを犯すように、抱いた。
酔ってはいたが、心の何処かは、冷えきったままだった。




