祭りの後で。
屋敷に戻ると、エルロンドはシエーナを探しにいった。
今日中に土産を渡したいらしい。
仲が良いのは助かるが、どうも対等の友達関係っぽいのが気になる。
気にしたところで、俺がどうこうできる事ではないのだが。
俺は自室に戻り、のんびり酒を飲んで寝るつもりだ。
独りきりの酒だが、ワインを一本ほど空ければ、隣にエリーゼがいるような気がしてくるのだ。
普段、中々思い出せないような、くだらない会話も思い出せる。
二本目を空けたあたりで、潰れて眠る。
余程、疲れていないと、最近はそうしない限り眠れない。
ワイン二本を持って、自室のドアを開ける。
シエーナが俺のベッドで寝ていた。
近寄ってみると、思いっきり口が開いていて、よだれが垂れている。
普段、何も言わずに立っていれば貴婦人といった感がする中々の美人だが、素のシエーナは色々と酷い。
「こら。」
額をぺちりと叩く。
「ん?」
ん、じゃねえよ。このやろう。
「なにをしてる。涎が枕についてるじゃないか。」
「え、あ、ホント。」
「なにをしてる?」
「え?」
だから、え、じゃない。
ここは俺の部屋だ。自分の巣に帰れ。
「お祭り、楽しかった?」
「そりゃ楽しかったが、そうじゃなくて。」
「あ、それ私が狙ってたワインじゃない。」
狙ってたって…。
こいつ、まさか俺の秘蔵コレクションに手を出してたのか?
たまに仕入れといた筈のモノがなかったりするから、どうもおかしいとは思ってたが。
「今から飲むんだよ。一人でな。」
言うと、シエーナは唇を尖らせ、眉間に皺を寄せた。
「私も飲みたい。」
「ダメだ。帰れ。」
「良いじゃない。一杯だけ。」
「駄々をこねるな。子供じゃあるまいし。」
なんか、こいつ最近わがままになってないか?
フィリップの躾はどうなってんだ。
「わーたーしーもーのーみーたーいー。」
ダメだこいつ。早くなんとかしないと。
「放り出すぞ。」
「今下着しか着てないよ?」
マジですか。
掛け布団をめくると、艶かしい肢体のシエーナが露わになった。
こいつ、確信犯だ。
「興奮する?」
やかましいわ。
「さっさと服を着ろ。」
「えー。」
「えー、じゃない。一杯飲んだら、帰れよ。」
「やった。勝った。」
勝ったってなんだよ。
シエーナが身繕いしている間、グラスにワインを注いで、ソファーで待つ。
昨日、シエーナが持ってきたグラスが、そのまま置いてあった。
何故か、彼女が昨日持って来てたワインだけがない。
ラベルをきちんと見ていなかったが、俺のワインだったのかも知れない。
今度誰かにコレクションをチェックさせたほうが良いな。
「お待たせ。」
「一杯だけだからな。」
言うと、シエーナはにっこり笑って、俺の隣に座った。
素早くグラスを手にしている。
「さ、どうでしょうね。」
あ、このやろ。
てか、なんだこの掌で転がされてる感は。
ここのところ、急速に知恵をつけ始めたシエーナに、どうも違和感がある。
何かと積極的にアタックしてくるし、いつもビクビクしていた筈のシエーナが、最近は妙に大胆だ。
フィリップに一度聞いてみたほうが良いかもしれない。
あ、二杯目注いでる。
てか、ペース早いな。
結局、この夜もシエーナと寝た。